• 著者: Garitaonaindia
  • Corresponding author: Provencio (Hospital Universitario Puerta de Hierro, Madrid, Spain)
  • 雑誌: Nat Rev Clin Oncol
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-01-01
  • Article種別: Review
  • PMID: 38167890

背景

切除可能な非小細胞肺癌(NSCLC)の周術期管理において、抗PD-(L)1抗体とプラチナ併用化学療法からなる術前化学免疫療法、あるいは術後抗PD-(L)1療法を追加した周術期レジメンが標準治療となっている。このアプローチは、病理学的奏効率の大幅な向上と、全生存期間(OS)を含む長期転帰の改善を示してきた (Sorin et al. 2024)。しかし、これらの進歩は、生物学的に不均一な腫瘍に対して均一な治療を適用することで達成されてきた側面がある。そのため、現代の周術期管理における中心的な課題は、術後に治療の強化または減量が必要な患者、および不必要な治療を安全に回避できる患者をどのように特定するかである。

病理学的完全奏効(pCR)は、術前化学免疫療法後のNSCLC患者における持続的な利益の堅固で臨床的に意味のあるサロゲートとして、その重要性が増している。以前は術前化学療法後のNSCLC患者でpCRが認められるのは5%未満であったが (Hellmann et al. 2014)、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の導入により、その発生率は大幅に増加した。CheckMate 816試験では、術前ニボルマブと化学療法の併用により、化学療法単独と比較してpCR率が有意に向上し、pCRを達成した患者の5年OSが95%を超えることが示された (Forde et al. 2025)。この結果は、pCRが長期的な疾患制御と強く関連していることを示唆している。

しかし、pCRの評価には課題も存在する。病理学的評価の標準化は、特にメラノーマやNSCLCにおいて依然として困難であり、残存腫瘍細胞(RVT)の評価と報告に関するコンセンサス形成に向けた努力が続けられている (Deutsch et al. 2026)。また、pCRの再現性も重要な課題であり、専門の胸部病理医がいる施設ではpCRの二値判定における施設間一致率が高いものの、RVTを連続変数として評価する際には一致率が低下する (Dacic et al. 2023)。このような背景から、pCR率をさらに向上させ、治療を個別化するための戦略が求められているが、その方法は未解明な点が多く、さらなる研究が不足している。

ベースラインのバイオマーカー(ゲノムプロファイリング、免疫プロファイリング)や動的バイオマーカー(循環腫瘍DNA [ctDNA]、ラジオミクス、代謝イメージング)を統合することで、患者選択を洗練し、周術期戦略を動的に適応させる可能性が示唆されている。特に、高リスク集団における治療強化戦略は、pCR率の向上と疾患制御の改善に貢献する可能性がある。しかし、これらの補完的なツールをどのように統合し、治療の個別化に繋げるかについては、まだ未解明な点が多く、さらなる研究が不足している。本レビューは、これらの課題に対処し、切除可能なNSCLCにおける術前・周術期治療の最適化に向けた枠組みを提示することを目的としている。

目的

本レビューの目的は、切除可能な非小細胞肺癌(NSCLC)における術前・周術期治療の最適化に向けた包括的な枠組みを提示することである。具体的には、以下の3つの主要な側面を探求する。

第一に、術前化学免疫療法後の病理学的完全奏効(pCR)が、NSCLC患者における長期的な利益の信頼できるサロゲートエンドポイントとして、その生物学的および臨床的意義を評価する。pCRがどのようにして持続的な免疫制御を反映し、生存転帰と関連しているかを詳細に検討する。CheckMate 816試験の5年OSデータ (Forde et al. 2025) を含む既存のエビデンスを分析し、pCRの再現性と標準化における課題も考察する。

第二に、治療の個別化と周術期戦略の動的な適応を可能にするための補完的なツールとして、ベースラインのバイオマーカー(ゲノムプロファイリング、免疫プロファイリング)および動的バイオマーカー(循環腫瘍DNA [ctDNA]、ラジオミクス、代謝イメージング)の統合方法を考察する。これらのバイオマーカーが、患者選択の洗練と治療強化または減量戦略の決定にどのように貢献しうるかを分析する。特に、ctDNAクリアランスが治療減量戦略を導く上での限界と、他のバイオマーカーとの組み合わせの可能性を評価する。

第三に、生物学的に高リスクな集団における周術期治療を強化するための潜在的な治療戦略を記述する。これには、pCRの可能性を高め、不十分な病理学的奏効を示した患者における疾患制御を改善するという二重の目的がある。具体的には、新規の免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体(ADC)、および放射線療法などのアプローチを検討し、それぞれのpCR率向上への貢献と安全性プロファイルを評価する。

最終的に、これらのバイオマーカーに基づいた枠組みが、外科的切除の役割を含む局所治療戦略を再構築し、応答適応型周術期治療パラダイムへと移行する可能性についても考察する。

結果

病理学的完全奏効(pCR)の臨床的意義とサロゲートとしての役割: 術前化学免疫療法後のpCRは、切除可能な非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、長期的な利益の堅固なサロゲートエンドポイントとして確立されている (Fig 2)。CheckMate 816試験の5年追跡データでは、pCRを達成した患者の全生存率(OS)が95%を超え、肺癌関連死亡が認められなかったことが報告された (Forde et al. 2025)。これは、pCRが効果的かつ持続的な免疫制御の状態を反映していることを強く示唆している。さらに、病理学的奏効とイベントフリー生存期間(EFS)の間には、残存腫瘍細胞(RVT)が多いほど再発リスクが高いという強力な相関関係が認められた (Deutsch et al. 2024)。このパターンは、他のNSCLC試験 (Deutsch et al. 2025; Jones et al. 2024) や複数の腫瘍タイプ (Blank et al. 2024; Pusztai et al. 2024) でも観察されており、RVTが二値的な結果ではなく、リスクの連続体として生物学的および臨床的意義を持つことを強調している。術前化学免疫療法は、化学療法単独と比較して一貫して高いpCR率を示しており、ランダム化試験全体で17.2%から40.7%の範囲であった (Wakelee et al. 2023; Provencio et al. 2023; Forde et al. 2022; Cascone et al. 2024; Heymach et al. 2023; Lu et al. 2024; Yue et al. 2025)。

ベースラインバイオマーカーによる周術期戦略の最適化: ベースラインの臨床的、ゲノム的、分子学的、および免疫学的プロファイリングは、標準的な化学免疫療法ではpCRが期待できない患者を早期に特定し、適応的リスクガイド周術期治療戦略の第一層を確立する上で重要である (Table 1)。ゲノムプロファイリングでは、EGFR変異やALK再構成を有するNSCLC患者は、化学免疫療法からの恩恵が限定的である可能性が示唆されている。例えば、KEYNOTE-671試験では、EGFR変異サブグループにおける化学免疫療法と化学療法単独のEFSハザード比は数値的に有利であったが、AEGEAN試験ではより不確実な結果であった (Wakelee et al. 2023; Heymach et al. 2023)。これらのサブグループのpCR率は一般に低く、PD-L1陰性腫瘍患者と同様に、利益の大きさが減弱する傾向がある。一方、KRASまたはBRAF変異を有する腫瘍患者は、化学免疫療法に感受性を示す可能性が高い (Arbour et al. 2021; Di Federico et al. 2025)。免疫プロファイリングでは、PD-L1腫瘍細胞陽性率(TPS)がpCRの確率と線形に関連しており、PD-L1 TPSが50%以上の患者ではpCR率が一般に40%に近づく(研究全体で23%から60%超)のに対し、PD-L1陰性(PD-L1 TPS <1%)腫瘍患者では5%から15%であった (Wakelee et al. 2023; Provencio et al. 2023; Cascone et al. 2024; Heymach et al. 2023)。しかし、PD-L1発現は空間的・時間的異質性が大きく、単独では治療の強化・減量戦略を導くには不十分である。

動的バイオマーカーによる周術期治療のガイダンス: ラジオミクス、代謝イメージング、および循環バイオマーカーは、腫瘍とその周囲の非悪性組織間の動的な相互作用を捉え、適応的周術期腫瘍学パラダイムを可能にする。特に、循環腫瘍DNA(ctDNA)は、臨床的検証の点で最も成熟したバイオマーカーの一つである。診断時にctDNAレベルが高い患者は、低い患者と比較して一貫して予後不良であり、早期の治療強化から恩恵を受ける可能性がある (Provencio et al. 2022)。術前治療中のctDNAクリアランスは、EFSの改善と関連し、術後の病理学的奏効と相関することが示されている (Reck et al. 2024)。しかし、ctDNAクリアランスとpCRは完全に相関するわけではなく、ctDNAクリアランスを達成した患者のpCR率は約40%から60%の範囲であり、pCRはctDNAクリアランス内でさらなるリスク層別化を独立して提供する (Forde et al. 2022; Cascone et al. 2024; Provencio et al. 2020)。ctDNAクリアランス単独では、pCRを予測するための識別能力は限定的であり、ラジオミクスや機能的イメージングなどの他のアプローチと比較してわずかな改善しか示さない (Heymach et al. 2025)。したがって、ctDNAの主要な臨床的貢献は、pCRを達成しなかった患者におけるリスク層別化の洗練にある可能性があり、ctDNAクリアランスは残存疾患が存在するにもかかわらず、より良好な予後を示すサブグループを示唆する (Cascone et al. 2025; Provencio et al. 2026)。

周術期治療における転帰改善のための戦略: pCR率を向上させるためのいくつかの戦略が現在調査中である (Fig 3)。抗体薬物複合体(ADC)は、特にTROP2を標的とするものが有望である。Datopotamab deruxtecanと化学免疫療法の併用は、高いpCR率(35.2%)と主要病理学的奏効(MPR)率(63.0%)を示し、PD-L1ステータスに大きく依存しない活性が認められた (Cascone et al. 2025)。これは、免疫チェックポイント阻害薬単独では不十分な患者に対する治療強化の可能性を示唆している。また、新規の免疫チェックポイント阻害薬の併用も検討されている。抗CTLA4抗体の追加は、CheckMate 816試験でpCR率を向上させたが、EFSやOSの有意な改善は認められず、免疫関連毒性の増加が見られた (Awad et al. 2025)。しかし、PD-L1陰性や免疫浸潤が乏しい腫瘍、KEAP1またはSTK11変異を有する患者では、抗CTLA4抗体の追加が有益である可能性が示唆されている (Skoulidis et al. 2024)。放射線療法も、免疫調節効果を持つことが示されており、免疫感作線量を投与する新しいアプローチが、早期病期患者においてpCR率の向上とICIに対する一次耐性の克服に有望な結果を示している (Altorki et al. 2023)。

病理学的完全奏効を達成しなかった患者への戦略: pCRを達成しなかった患者は、アンメットニーズが高い集団であり、標準的な術後抗PD-(L)1抗体治療を受けても転帰が最適ではない場合がある (Deutsch et al. 2025; Jones et al. 2024)。この高リスク集団の転帰を改善するため、新規の治療戦略が術後治療の強化または適応の機会として位置づけられている。mRNAベースの癌ワクチンは、周術期において抗腫瘍免疫を強化する潜在的な戦略として浮上しており、切除されたメラノーマ患者の術後補助療法で有効性が示されている (Weber et al. 2024)。NSCLC患者においても、残存腫瘍細胞(RVT)を有する患者を対象に評価が進められている (Cascone et al. 2025)。ADCベースのレスキューストラテジーも検討されており、術前治療後にpCRを達成しなかったNSCLC患者を対象に、サシツズマブ ゴビテカンと抗PD-1抗体ジンベレリマブを併用する第III相ARIAN試験(NCT06431636)が進行中である。このアプローチは、免疫編集によって形成された腫瘍において、ICIに対する耐性が生じた場合でも、非MHC依存的な腫瘍細胞排除メカニズムを提供することで、微小転移性疾患のクリアランスを可能にする可能性がある (Tsuchikama et al. 2024)。

考察/結論

切除可能な非小細胞肺癌(NSCLC)の周術期管理は、術前化学免疫療法の導入により大きく進歩した。病理学的完全奏効(pCR)は、長期的な利益の堅固なサロゲートエンドポイントとして確立され、その重要性が増している。本レビューは、pCR率の向上と治療の個別化のため、動的バイオマーカーや治療強化戦略を統合する枠組みを提示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、術前化学免疫療法の有効性が均一な治療適用によって達成されてきた側面が強調されてきた。しかし、本レビューは、生物学的に不均一な腫瘍に対する個別化されたアプローチの必要性を強調し、ベースラインおよび治療中の動的バイオマーカーを統合することで、治療の強化または減量を動的に適応させるという点で、これまでの枠組みと異なる。特に、pCRを単なる手続き的なエンドポイントではなく、生物学的に根拠のあるアンカーとして位置づけることで、より洗練された治療意思決定を可能にする。

新規性: 本研究で初めて、循環腫瘍DNA(ctDNA)、ラジオミクス、代謝イメージング、およびベースラインの分子・免疫バイオマーカーといった補完的ツールを統合し、治療の個別化と動的な周術期戦略への適応を可能にする具体的な枠組みを提示した (Fig 4)。特に、TROP2 ADCや新規免疫チェックポイント阻害薬などの治療強化戦略が、高リスク集団におけるpCR率向上と疾患制御改善に貢献する可能性を新規に示唆した。

臨床応用: 本知見は、NSCLC患者の周術期治療における臨床応用に直結する。pCRを達成した患者における術後補助療法の減量や、pCRを達成しなかった患者における治療強化の必要性を特定するためのバイオマーカー駆動型アプローチは、患者の転帰を改善し、不必要な毒性を最小限に抑える上で臨床的意義が大きい。例えば、ctDNAクリアランスは、pCRを達成しなかった患者のリスク層別化を洗練し、より良好な予後を示すサブグループを特定するのに役立つ可能性がある。また、TROP2 ADCのような新規薬剤は、PD-L1発現に依存しない活性を示し、幅広い患者集団に利益をもたらす可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、提示されたバイオマーカー駆動型枠組みのプロスペクティブな検証が残されている。特に、ctDNAクリアランスが治療減量戦略を導くのに十分な堅牢性を持つか、また、異なる程度の残存腫瘍細胞(RVT)が異なる再発パターンと関連するかどうかは、さらなる研究が必要である。また、新規の治療強化戦略(例:ADC、ビスペシフィック抗体、ワクチン)の最適な臨床的ニッチを定義するためには、バイオマーカーで層別化された臨床試験デザインが不可欠である。さらに、局所治療戦略(外科的切除の範囲など)を動的バイオマーカーに基づいて適応させる可能性についても、非侵襲的なpCR確認ツールの開発を含め、さらなる検証が求められる。最終的に、周術期治療の個別化は、多分野にわたる専門家チームによる統合的な意思決定と、バイオマーカー検査およびモニタリングのためのリソースの増加を必要とする。

方法

本レビューは、切除可能な非小細胞肺癌(NSCLC)における術前・周術期治療の進歩と課題を包括的に評価することを目的とした。文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「non-small-cell lung cancer」、「neoadjuvant therapy」、「perioperative therapy」、「pathological complete response」、「biomarkers」、「circulating tumor DNA」、「radiomics」、「metabolic imaging」、「treatment intensification」、「de-escalation」などが含まれた。

レビューの対象とした文献は、主に2018年から2025年にかけて発表された英語の原著論文、レビュー記事、および主要な国際会議で発表されたアブストラクトとした。特に、術前化学免疫療法(chemoimmunotherapy)の有効性、病理学的奏効の臨床的意義、およびバイオマーカーの予測的・予後的価値に関するランダム化比較試験、メタアナリシス、および大規模な観察研究に焦点を当てた。

病理学的完全奏効(pCR)の評価基準については、国際肺癌学会(IASLC)の推奨ガイドライン (Travis et al. 2020) に基づく標準化された評価法を採用している研究を優先的に検討した。残存腫瘍細胞(RVT: residual viable tumor)の定量化における施設間差や再現性に関する課題も考慮し、デジタル病理学や人工知能(AI)支援病理学的評価ツールの進展についても言及した。

バイオマーカーの評価においては、ベースラインのゲノムプロファイリング(EGFR、ALK、KRAS、BRAFなどのドライバー変異)、免疫プロファイリング(PD-L1発現、腫瘍変異負荷 [TMB]、腫瘍浸潤リンパ球 [TIL])、および動的バイオマーカー(循環腫瘍DNA [ctDNA]、ラジオミクス、代謝イメージング)に関するエビデンスを収集した。ctDNAの検出方法については、腫瘍情報型アッセイと腫瘍非情報型アッセイの両方からのデータを検討し、それぞれの臨床的有用性と限界を評価した。

治療強化戦略については、新規の免疫チェックポイント阻害薬(例:抗CTLA4抗体、LAG3阻害薬)、抗体薬物複合体(ADC: antibody-drug conjugate、特にTROP2標的ADC)、ビスペシフィック抗体、および免疫感作放射線療法に関する臨床試験の結果を分析した。これらの戦略がpCR率の向上および疾患制御の改善に与える影響を評価した。

治療減量戦略に関しては、pCRを達成した患者における術後補助療法の必要性、およびctDNAクリアランスが治療減量戦略を導く可能性について、既存の臨床試験データと進行中の試験(例:ADOPT [NCT06284317]、INSIGHT [NCT06498635])の情報を統合して考察した。統計解析手法としては、主に既存研究のハザード比(HR)やp値、95%信頼区間(CI)などの報告値を参照し、エビデンスの統合と解釈を行った。

本レビューは、特定の統計解析手法を用いるのではなく、既存の文献から得られた知見を統合し、切除可能なNSCLCにおける周術期治療の最適化に向けた概念的枠組みを構築することを目的とした。