- 著者: Vanessa Königs, Camila de Oliveira Freitas Machado, Benjamin Arnold, Nicole Blümel, Anfisa Solovyeva, Sinah Löbbert, Michal Schafranek, Igor Ruiz De Los Mozos, Ilka Wittig, Francois McNicoll, Marcel H. Schulz, Michaela Müller-McNicoll
- Corresponding author: Michaela Müller-McNicoll (mueller-mcnicoll@bio.uni-frankfurt.de, Institute of Cell Biology and Neuroscience, Goethe University Frankfurt, Germany); Francois McNicoll (mcnicoll@bio.uni-frankfurt.de)
- 雑誌: Nature Structural & Molecular Biology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-03-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 32123389
背景
SR (serine/arginine-rich) タンパク質は真核生物に必須のRNA結合タンパク質 (RBP) ファミリーであり、12のメンバー (SRSF1-SRSF12) から構成される。各メンバーはN末端側に1〜2個のRNA認識モチーフ (RRM) とC末端側にRS (serine-arginine反復) ドメインを持ち、スプライシング促進・mRNA輸出・翻訳制御・mRNA安定性に多機能的に関与する。RSドメインはU2AF65・U170K・PRP8等のスプライソソーム成分と相互作用してスプライソソームをリクルートする機能を担う。SRSF7 (別名SRp38/9G8) はSRファミリーの中でも特異的にジンクナックル (Zn) ドメインをRRMに付加して持ち、選択的スプライシング (FAS exon 6等の疾患関連イベント) ・選択的ポリアデニル化・mRNA輸出・ウイルスRNA翻訳促進に機能する多機能RBPである。さらにSRSF7は結腸がん・肺がんでの発現過剰とがん進行促進機能 (oncogenic function) を持つことが実証されており、治療標的としての関心も高い (Fu & Wang 2018, Park et al. 2016, Saijo et al. 2016)。
RNA結合タンパク質 (RBP) の発現量制御においては、多くのSRファミリーメンバーが選択的スプライシングを介した自己調節 (autoregulatory) フィードバックループを持つことが知られていた (Müller-McNicoll et al. 2019)。SRSF7においても、ポイズンカセットエクソン (PCE; ultraconserved alternative exon) 包含が転写産物に終止前コドン (PTC) を導入してNMD (nonsense-mediated mRNA decay) を誘導することで過剰発現を抑制する経路が提唱されていた (Lareau et al. 2007, Pervouchine et al. 2019)。しかしNMDだけではSRSF7のホメオスタシス維持には不十分であることが示唆されていた。特に、SRSF7転写産物を8-fold過剰発現させても、タンパク質量の増加は3.4-foldにとどまり (内在性タンパク質は8-fold減少)、NMDとは独立した強力な調節機構の存在を強く示唆していた。また、NMDはウイルス感染・腫瘍微小環境・小胞体ストレス等によって全体的に不活化されることがあり (Balistreri et al. 2017, Fiorini et al. 2018, Gardner 2008, Li et al. 2017, Wang et al. 2011)、そのような状況下でのRBPホメオスタシスを担う機構の存在が予想されていたが、その全容は未解明であった。NMD非依存的なRBPの自己調節機構に関する知識ギャップが残されており、SRSF7の多層的な制御メカニズムの解明が不足していた。
目的
本研究の目的は、マウスP19細胞 (多能性胚性がん細胞) におけるSRSF7タンパク質ホメオスタシス維持の全分子機構を解明することである。具体的には、(1) SRSF7の自己転写産物への結合特異性とPCE選択的スプライシング制御の詳細なメカニズムをiCLIP (individual-nucleotide resolution UV crosslinking and immunoprecipitation) によりマッピングし、(2) NMD耐性アイソフォームからのSplit-ORFペプチドの産生とその機能的役割を質量分析およびRibo-seq (ribosome profiling) により検証する。さらに、(3) イントロン保持転写産物による核内arcRNA (architectural RNA) 核内ボディ形成の機序をRNA-FISH (RNA fluorescence in situ hybridization)、1,6-ヘキサンジオール処理、およびin vitroビーズ凝集アッセイにより統合的に解明する。加えて、(4) この自己調節機構がヒトおよびマウスのNMDターゲット、特にRNA結合タンパク質 (RBP) においてゲノムワイドに普遍的に存在するかを探索し、Split-ORFの網羅的同定を通じてその広範な生物学的意義を明らかにすることを目指す。
結果
SRSF7過剰発現による自己調節とNMD感受性/耐性アイソフォームの生成: SRSF7-GFPを8-fold過剰発現 (OE) させた細胞では、内在性SRSF7タンパク質が8-fold減少した一方、転写産物はわずか2-foldの減少にとどまり、翻訳・タンパク質安定性レベルでの調節機構の存在が示唆された (Fig. 1b,c)。iCLIP解析では、SRSF7がSRSF7転写産物に自己結合する事例がSRSF3の約50倍豊富であり、自己転写産物への高い親和性が示された (Supplementary Table 1)。RNA-seqとRT-PCR解析により、SRSF7 OEによって4種のアイソフォームが出現することが明らかになった (Fig. 1e,f)。これらは、①SRSF7-PCE (完全PCE 460 nt包含、NMD耐性)、②SRSF7-PCE1/4 (部分PCE 107 nt包含、NMD感受性)、③SRSF7-I3a+b (PCE + 隣接イントロン3a・3b保持、核内保持)、④SRSF7-I3b (PCE + イントロン3b保持、核内保持) であった。CHX処理によりSRSF7-PCE1/4はNMD阻害によって蓄積したが、SRSF7-PCEはOE細胞でCHX無感受性であり、NMD経路を回避していることが確認された (Fig. 1g)。細胞分画によりSRSF7-PCEが細胞質に輸送されることが示され、翻訳される前提条件が成立した (Fig. 1h)。
NMD耐性SRSF7-PCE転写産物からのSplit-ORF産生: NMD耐性SRSF7-PCE転写産物が実際に翻訳されるかを検証した。ウエスタンブロットにより、SRSF7_RRM (約16 kDa、RRM+Znドメイン + ユニークC末端、RSドメイン欠失) がOE細胞に蓄積し、UPF1 KDでも蓄積することを確認した (Fig. 2a)。α-SRSF7 IP後のIP-MS/MS (FDR < 0.05) でSRSF7_RRMのRRMドメインおよびユニークC末端に対応するペプチドが直接検出された (Fig. 2b-d)。Ribo-seqにより、エクソン3-PCE接合部にリボソーム保護断片が検出され、SRSF7-PCEの翻訳が直接裏付けられた (Fig. 2e)。また、Ribo-seqリードがPCE全体に分布し、PCE内のin-frame AUGから翻訳が再開始するSRSF7_RS (RSドメイン + 11残基N末端ペプチド) の存在も示した。SRSF7_RSはα-GFPおよびmAb104 (リン酸化RS認識) 抗体で検出され、IP-MS/MSでRS-GFP接合部ペプチドが確認された。このPCE内in-frame AUGはヒトとマウスの間で99%の超高度保存性を示した。piCLIP解析では、SRSF7がSRSF7_RSのAUG上流に2つの主要な結合ピークを持つことが示され、SRSF7結合がSplit-ORF2の翻訳を促進し、NMDから転写産物を保護する可能性が示唆された (Fig. 2f)。
SRSF7_RRMの優性抑制機能とイントロン保持促進: SRSF7_RRMはRRMを保持しRSドメインを欠くため、スプライソソーム成分U2AF65・U170K・PRP8との相互作用がRNaseA処理下co-IPで著しく低下しており、スプライソソームリクルートが障害されていた (Fig. 3e)。iCLIPではSRSF7_RRMが全長SRSF7と同一のコンセンサス結合モチーフ (GAYGAY) を持ち、SRSF7転写産物への結合分布も類似していた。ただしSRSF7_RRMはイントロン3a 3’スプライス部位への強い結合ピーク (PCE包含促進に必要) を持たず、その代わりにイントロン3・5の5’スプライス部位に集中した (Fig. 3d)。一過性SRSF7_RRM-mCherry過剰発現でPCE包含が抑制されイントロン3a・3b保持が促進されたことで (Fig. 3f)、SRSF7_RRMがPCE包含 (全長SRSF7の効果) に拮抗してイントロン保持へとシフトさせる優性抑制因子であることが確認された。SRSF7_RRMはSRSF7と同じRNAに結合 (RNaseA非処理下co-IP) するが、RSドメイン依存的なSRSF7オリゴマー化 (RNaseA処理下co-IP) には参加できなかった。
arcRNA核内ボディ形成によるmRNA隔離: RNA-FISHにより、イントロン3・5特異的プローブが核内に1〜3個の大型フォーカスを検出し、これらはSRSF7-GFP蓄積と共局在した (Fig. 4a,b)。アクチノマイシンD処理 (転写阻害) でSRSF7ボディが完全に消失し、転写部位への集積 (転写依存性) が確認された (Fig. 4c)。oligo(dT) RNA-FISHでポリアデニル化転写産物がボディ内に含まれ、完全スプライス済みmRNAも隔離されることが示唆された (Fig. 4d)。10% 1,6-ヘキサンジオール処理 (弱い疎水性相互作用の破壊剤) でSRSF7ボディが多数の小フォーカスに分散し (Fig. 4e)、相分離コンデンセートとしての性質が示された。in vitroビーズ凝集アッセイでは、SRSF7-GFP被覆ビーズはSRSF7-PCE RNA添加時に大型スーパーアグリゲートを形成したが、SRSF7_RRM-GFP被覆ビーズは形成しなかった (Fig. 5b,c)。SRSF7_mutZn変異体 (RNA結合変異) ではボディ形成が著しく減少し、SRSF7_Δ27aa変異体 (オリゴマー化変異) ではボディサイズが縮小したことで、RNA配列特異的結合とオリゴマー化の両方がボディ形成に必須であることが確認された (Fig. 6d-f)。SRSF7_ΔAUG変異体 (Split-ORF2 AUGノックアウト) ではSRSF7_RRMおよびSRSF7_RS-GFPの蓄積が著しく低下し、ボディ形成が障害された (Fig. 6i-k)。これはSplit-ORF2翻訳がSRSF7_RRM産生とボディ形成に連鎖的に必要であるという役割を実証した。
ゲノムワイドなSplit-ORFの普遍性: 計算パイプラインによってヒト2,723遺伝子 (NMDアイソフォーム4,473種) ・マウス1,423遺伝子 (NMDアイソフォーム1,859種) にSplit-ORFをコードするNMDターゲットが同定された (Fig. 7a,b)。475個の転写産物はヒト・マウス双方で保存されていた (Fig. 7c)。Split-ORFを持つ遺伝子のGO解析で「RNA結合」「mRNAプロセシング」が顕著に濃縮され、ZnフィンガーやRRMドメインを持つ多くのRNA結合タンパク質 (RBP) がSplit-ORFを産生しうることが示された (Fig. 7d)。SRSF5・SRSF6の過剰発現細胞でSplit-ORF産物に相当するバンドがウエスタンで観察され (Fig. 7e)、自己調節の普遍性が示唆された。公開Ribo-seqデータ (マウス心臓・コロナウイルス感染細胞・ヒト心筋細胞・A549細胞) で、マウス29種・ヒト19種のRBP転写産物のSplit-ORFコードNMDエクソン内にリボソーム保護断片が検出された (Fig. 7g)。特にSRSF5・SRSF6・SRSF7・BCLAF1・HNRNPL・PRPF39・TIAL1は両種で確認された。
考察/結論
先行研究との違い: これまで、SRSF7の自己調節はNMD経路のみに依存すると考えられていたが、本研究はNMD非感受性のSplit-ORF翻訳と核内ボディ形成という、NMDとは対照的な追加の調節層が存在することを明らかにした。これは、NMDが不活化される状況下でのRNA結合タンパク質 (RBP) ホメオスタシス維持機構に関する知識ギャップを埋めるものである。
新規性: 本研究の最大の発見はSplit-ORFという概念の確立と生物学的機能の実証である。PCEがタンパク質コード領域のRNA結合モジュール (RRM+Zn) とタンパク質相互作用プラットフォーム (RSドメイン) の境界に正確に挿入されているという遺伝子構造の保存性は、Split-ORF産生が偶発的ではなく機能的に選択されてきた進化的設計であることを示唆する。SR蛋白質ファミリーにおけるSRSF5・SRSF6での類似した遺伝子配置は、この自己調節原理が一般的原則であることを支持する。また、NMDとは独立したarcRNA核内ボディによるmRNA隔離機構は、「lncRNA特有」とされてきたarcRNA機能をタンパク質コード転写産物にまで拡張した点で概念的に重要であり、本研究で初めて示された。
臨床応用: NMDが不活化されるウイルス感染 (コロナウイルス感染細胞でのSRSF7 Ribo-seqリードの検出) やがん化 (A549等のSRSF7過剰発現がん細胞でのイントロン3・5保持検出) においても本機構が作動する証拠が提示された。これはSRSF7の発現制御機構がウイルス感染時の抗ウイルス応答にも寄与する可能性を示唆し (ウイルスによるNMD不活化→SRSF7_RRM産生→ウイルスRNA処理の阻害)、基礎生物学を超えた病態生理学的意義を持つ。これらの知見は、がんやウイルス感染症に対する新たな治療戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、Split-ORFを産生する他のRNA結合タンパク質 (RBP) の機能解析、核内ボディから機能的mRNAが放出される条件の同定 (可逆的隔離機構の制御因子の解明)、Split-ORF産物の治療標的としての可能性評価、およびがん・ウイルス感染における本機構の異常の病態寄与の解明が挙げられる。特に、SRSF7_RRMが他のRBPの機能に与える影響や、核内ボディの形成・解消の分子メカニズムの詳細は今後の研究で明らかにする必要がある。
方法
細胞系および遺伝的ツール: マウスP19細胞 (ECACC 95102107) を用い、BAC (bacterial artificial chromosome) 上に全遺伝子調節エレメントを保持したC末端GFPタグ付きSRSF7 (またはSRSF3コントロール) を安定組み込み、FACS選別により8-fold過剰発現 (OE) クローンを取得した。BAC組換え (Wang et al. 2014) により以下の変異体を作成した: RNA結合変異体 (SRSF7_mutZn: Cys106Ala・Cys109Ala)、重合能欠損変異体 (SRSF7_Δ27aa: RSドメインのRSRSXSXR繰り返し3/4欠失)、Split-ORF2開始コドンノックアウト変異体 (SRSF7_ΔAUG)。細胞はマイコプラズマ検査を定期的に実施した。
RNA解析: 個別ヌクレオチド分解能UV-CLIPであるiCLIPをSRSF7・SRSF3・SRSF7_RRM・SRSF7_mutZnに対して実施し、RNA結合部位の全転写体規模マッピングを行った (Huppertz et al. 2014, König et al. 2010, Yeo et al. 2009)。piCLIP (polysome fractionation-iCLIP) でポリソーム画分でのSRSF7結合を解析した (Botti et al. 2017)。RNA-seq (WT・OE比較) でスプライシングアイソフォームを定量し、Dobin et al. Bioinformatics 2013 を用いてマッピングした。RT-PCR・qPCR・ノーザンブロット・3’RACEでアイソフォームを検証した。シクロヘキシミド (CHX) 処理でNMD感受性を確認した。核-細胞質分画でアイソフォームの局在を決定した。
タンパク質解析: ウエスタンブロット (α-SRSF7・mAb104抗リン酸化RS・α-GFP・各種スプライソソーム因子抗体) を実施した。厳密なIP-MS/MS (タンデム質量分析、FDR<0.05) によりSRSF7_RRMペプチドを直接同定した。Ribo-seq (Ingolia et al. 2012) によりSRSF7-PCE転写産物からの翻訳開始を確認した。RNaseA処理下および非処理下でのco-IP実験によりSRSF7オリゴマー化を検証した。in vitroビーズ凝集アッセイ (蛍光磁性ビーズ + α-GFP IP + SRSF7-PCE RNAまたはSRSF3-PCE RNAの添加) によりin vitro高次集合解析を行った。
イメージング: RNA-FISH (イントロン3・5特異的プローブ + polyA oligo(dT)プローブ + GFP蛍光) で核内ボディを可視化・定量 (100細胞/群) した。1,6-ヘキサンジオール (相分離破壊) vs 2,5-ヘキサンジオール (コントロール) 処理を行った。アクチノマイシンD処理 (転写阻害) で核内ボディの転写依存性を確認した。画像解析にはSchindelin et al. NatMethods 2012 を用いた。
バイオインフォマティクス: ヒト・マウスのアノテーションNMDターゲット転写産物からのSplit-ORF計算パイプラインを設計・実行した。BlastP (Camacho et al. 2009) を用いてペプチドをアラインメントし、PFAMドメイン (Finn et al. 2016) を解析した。公開Ribo-seqデータセット (マウス心臓・コロナウイルス感染17Cl-1細胞・ヒト心筋細胞・デング感染A549細胞・HEK293細胞) での翻訳証拠を確認した。ゲノムアラインメントにはLangmead et al. NatMethods 2012 とDobin et al. Bioinformatics 2013 を使用し、Quinlan et al. Bioinformatics 2010 でゲノム領域を解析した。統計解析にはFisher’s Exact testとFDR (false discovery rate) 補正を用いた。