• 著者: Yadav et al.
  • Corresponding author: Lelia Delamarre (Genentech), Jennie R. Lill (Genentech)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-11-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25428507

背景

腫瘍細胞は通常、多数の体細胞変異を有することが報告されている (Lawrence et al. 2013)。これらの変異が主要組織適合性複合体クラスI分子 (MHCI) 上に提示される場合、変異を含むペプチドは、適応免疫系によって「非自己」ネオ抗原として認識されるため、免疫原性を持つ可能性がある。近年、変異ペプチドがT細胞エピトープとして機能することが確認されている (Matsushita et al. 2012; Gros et al. 2014)。しかし、これまでに同定された変異エピトープはごく少数であり、その発見には、腫瘍エクソームシーケンス後に構築された抗原ライブラリーを認識する患者の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) をスクリーニングするという骨の折れる作業が必要であった。このプロセスは非常に時間と労力を要するため、ネオ抗原の効率的な同定方法が不足していた。

CD8 T細胞は腫瘍細胞を認識し、免疫療法後に腫瘍退縮を媒介する可能性があるが、効果的な抗腫瘍CD8 T細胞応答を駆動する抗原は依然として大部分が未解明である。腫瘍抗原は、腫瘍関連自己抗原と腫瘍特異的変異タンパク質由来抗原の2種類に分類される。胸腺における自己抗原の提示は高親和性T細胞の排除につながる可能性があるため、変異ネオ抗原の方がより免疫原性が高いと考えられる。しかし、これらの抗原の同定は困難であることが判明しており、患者特異的変異を含まない公開プロテオミクスデータベースを用いた配列解明に通常依存する質量分析 (MS) では同定が困難であった。逆に、変異同定のためにトランスクリプトームまたはエクソームシーケンス解析に依存し、MHCI結合予測アルゴリズムを用いると、評価が容易ではないほど多くの候補変異ペプチドが生成される。これらの強力で確立された2つの分析ツールを組み合わせることで、MHCI上に提示される腫瘍関連変異ペプチドを同定するアプローチの必要性が認識されているが、その具体的な戦略は不足しており、効率的なネオエピトープ同定のための知識ギャップが残されている。

目的

本研究の目的は、免疫原性変異ペプチドの一般的な特性を明らかにすることで、その発見を簡素化することである。具体的には、全エクソームシーケンスおよびトランスクリプトームシーケンス解析と質量分析 (MS) を組み合わせたアプローチを開発し、MC-38およびTRAMP-C1の2つの広く用いられているマウス腫瘍モデルにおいてネオエピトープを同定することを目的とした。さらに、構造予測アルゴリズムを用いて、MHCIに結合した変異ペプチドの構造をモデル化し、T細胞抗原受容体 (TCR) へのアクセス可能性に基づいて免疫原性を予測する基準を確立することを目指した。最終的に、この予測アプローチのin vivoでの有効性を検証し、個別化がんワクチン開発およびT細胞応答の薬力学的モニタリングへの応用可能性を評価する。本研究は、ネオエピトープの同定から機能検証までを一貫して行うことで、個別化免疫療法開発の基盤を確立することを目指す。

結果

ネオエピトープの同定とMHCI提示の確認: MC-38およびTRAMP-C1マウス腫瘍細胞株の全エクソームシーケンスを実施し、腫瘍特異的点変異を同定した。MC-38では4,285個、TRAMP-C1では949個の非同義変異が同定された。RNA-seqデータとエクソームデータとの重複により、MC-38では1,290個、TRAMP-C1では67個の発現変異が選択された。NETMHC-3.4アルゴリズムを用いて、MC-38では170個、TRAMP-C1では6個の予測ネオエピトープが同定された (Figure 1b)。質量分析によりMHCI提示ペプチドを解析した結果、MC-38では2,332個のH-2K[b]エピトープと3,907個のH-2D[b]エピトープ、TRAMP-C1では1,651個のH-2K[b]エピトープと1,980個のH-2D[b]エピトープが同定された。MC-38およびTRAMP-C1における合計1,357個のアミノ酸変異のうち、質量分析によりMHCI上に提示されていることが確認されたのは7個(MC-38で7個、TRAMP-C1で0個)であった (Table 1)。これらのネオエピトープのうち1つを除くすべてがMHCIに結合すると予測された (IC50 500 nM)。MC-38細胞株では、H-2K[b]およびH-2D[b]に提示されるペプチドが、TRAMP-C1細胞株と比較して有意に多く検出された。

免疫原性予測と構造モデリング: 同定されたネオエピトープの免疫原性を予測するため、MHCIへのペプチド結合親和性と、変異アミノ酸とTCRとの相互作用の可能性を評価した。7つのネオエピトープのうち5つは高い結合親和性予測を示した (IC50 50 nM)。H-2D[b]およびH-2K[b]の既知の結晶構造とRosettaベースのアルゴリズムを用いて、各変異ペプチドとMHCIの複合体をモデル化した (Figure 2)。TCR認識はペプチド残基3から7との相互作用によって媒介されることが知られている。高い結合スコアを持つペプチドのうち、Reps1とAdpgkのペプチドのみがこの範囲に変異を有していた。構造モデリングにより、これらの変異残基は溶媒に露出しており、TCRにアクセス可能であると予測され、免疫原性が高いと判断された (Table 1, Figure 2)。一方、Irgq、Aatf、Dpagt1ネオエピトープの変異はペプチドのC末端付近に位置しており、TCR結合領域外である可能性が高く、MHCIへの結合親和性予測が増加したにもかかわらず、免疫原性は低いと示唆された。

in vivoでの免疫原性検証: C57BL/6マウスに、変異エピトープをコードするペプチドとアジュバントを組み合わせて免疫し、ペプチド-MHCIデキストラマーを用いてCD8 T細胞応答を測定した。予測された免疫原性ペプチドのうち、Reps1とAdpgkは強力なCD8 T細胞応答を誘導した (Figure 3a)。非免疫原性と予測された4つのペプチドのうち、Dpagt1のみが弱いCD8 T細胞応答を誘導した。Reps1およびAdpgkの対応する野生型ペプチドは免疫原性を示さなかった。MC-38腫瘍を移植したC57BL/6マウス (n=9 mice) において、TILを解析した結果、Reps1、Adpgk、Dpagt1特異的CD8 T細胞が腫瘍床に濃縮されていることが確認された (Figure 3b)。特にAdpgk特異的CD8 T細胞が最も豊富であり、これはMC-38腫瘍に特異的であった。Adpgk特異的CD8 TILsではPD-1およびTIM-3の共発現が76.9 ± 7.1% (s.e.m.) で認められ、T細胞疲弊状態を示唆した (Figure 3c)。

個別化ワクチンとしての治療効果: 健康なC57BL/6マウス (n=15 mice) に変異ペプチド (Adpgk、Reps1、Dpagt1) を免疫し、その後MC-38腫瘍細胞を接種した。ワクチン接種群のほとんどの動物で腫瘍増殖が完全に抑制された (Figure 4b)。ワクチン群で有意な腫瘍増殖を示した2匹の動物は、腫瘍接種前の血液中のAdpgk反応性CD8 T細胞の頻度が最も低く、変異ペプチド特異的CD8 T細胞応答が防御効果をもたらすことを強く支持した (Figure 4c)。さらに、腫瘍担持マウス (n=10 mice) において、免疫後にAdpgk反応性CD8 T細胞の頻度が脾臓で著しく増加し、腫瘍内のAdpgk反応性CD8 TILの蓄積も約3倍増加した (Figure 4e)。ペプチドワクチン接種は、腫瘍内のCD45+細胞およびCD8+ T細胞の全体的な浸潤も増加させ、ネオエピトープ特異的CD8 T細胞の頻度を約20倍増加させた (Figure 4f)。ワクチン接種後、Adpgk特異的CD8 TILにおけるPD-1およびTIM-3の発現頻度と表面発現レベルが低下し、T細胞の疲弊状態が改善されたことが示唆された (Figure 4g, h)。治療的設定においても、変異ペプチドでワクチン接種した腫瘍担持マウスは、未治療対照群またはアジュバント単独群と比較して、腫瘍増殖の顕著かつ持続的な抑制を示した (Figure 4j)。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの研究では、腫瘍エクソームシーケンス後の抗原ライブラリースクリーニングによるネオエピトープの同定が主流であったが、本研究は質量分析 (MS) とエクソームシーケンス、さらに構造予測アルゴリズムを組み合わせることで、より効率的かつ特異的に免疫原性ネオエピトープを同定する新しい戦略を提示した点で、これまでのアプローチと大きく異なる。特に、MHCI結合親和性だけでなく、変異残基のTCRへのアクセス可能性を構造的に予測する点が新規である。

新規性: 本研究は、質量分析とエクソームシーケンスを統合し、さらに構造予測アルゴリズムを用いることで、免疫原性ネオエピトープを同定する戦略を開発したことを新規に示した。MC-38およびTRAMP-C1マウス腫瘍モデルにおいて、1,300以上のアミノ酸変異のうち、MHCIに結合すると予測された13%のペプチドから、質量分析により7つのネオエピトープが確認された。これらのネオエピトープはT細胞抗原受容体へのアクセス可能性に基づいて免疫原性が予測され、ワクチン接種により治療効果のあるT細胞応答を誘導することがin vivoで確認された (p<0.01)。

臨床応用: 本研究で開発されたアプローチは、個別化がんワクチン開発に直接的な臨床的意義を持つ。患者特異的な腫瘍変異から免疫原性ネオエピトープを効率的に同定できるため、患者ごとに最適化されたワクチンを設計することが可能となる。また、ペプチド-MHCIデキストラマーを用いた腫瘍特異的T細胞のモニタリングは、ワクチン接種前後のT細胞応答の薬力学的評価や、がん患者の予後予測に極めて有用であると考えられる。これにより、免疫療法の効果を客観的に評価し、治療戦略を最適化するための基盤が提供される。

残された課題: 今後の検討課題として、本アプローチの臨床での実用性を高めるために、質量分析に完全に依存せず、計算予測のみでペプチド結合を予測する手法のさらなる簡素化が必要である。MHCIハプロタイプ特異的構造予測を含む純粋な計算アプローチは、患者の腫瘍の全エクソーム/トランスクリプトームシーケンスのみを必要とするため、ルーチン検査として確立されつつある。また、より大規模なペプチドデータセットを用いたさらなる解析により、本手法の統計的有用性をより明確に評価する必要がある。さらに、TRAMP-C1腫瘍モデルでネオエピトープが同定されなかった原因の解明や、ヒト腫瘍における本アプローチの検証も重要な課題である。

方法

MHCIペプチドの単離と質量分析: H-2[b]バックグラウンドのマウス細胞株であるTRAMP-C1およびMC-38のH-2K[b]およびH-2D[b]「リガンドーム」について、MHCIペプチドプロファイリングを実施した。各細胞株から1 x 10^8個の細胞を溶解し、CNBr活性化セファロース樹脂に結合させた2種類の抗体を用いてMHCI分子を免疫沈降させた。ペプチドは酸処理により抗体樹脂から溶出され、質量分析前に限外ろ過により精製された。ペプチドは逆相クロマトグラフィーにより分離され、LTQ-Orbitrap Velosハイブリッド質量分析計でデータ依存型取得 (DDA) により分析された。合成ペプチドは、LTQ-Orbitrap Elite質量分析計で分析され、配列の検証が行われた。

シーケンス解析: MC-38およびTRAMP-C1がん細胞株から1 µgの全RNAを用いてRNA-seqライブラリーを調製し、HiSeq 2000でシーケンスした。エクソームキャプチャーはSureSelectXTマウスエクソンキットを用いて実施され、HiSeq 2000でシーケンスされた。リードはGSNAPを用いてマウスゲノム (NCBI build 37またはmm9) にマッピングされた。

バリアントコールとリファレンスデータベースの作成: エクソームシーケンスデータに基づくバリアントはGATKを用いてコールされ、バリアントエフェクター予測ツールを用いてトランスクリプトへの影響がアノテーションされた。RNA-seqデータに基づくバリアントは、バリアントアレルが少なくとも2リードで支持され、バリアントアレル頻度が4%以上であり、かつストランドバイアスがないという基準でコールされた。各アミノ酸変異について、バリアント全タンパク質配列が生成され、LC-MSスペクトル検索用のリファレンスデータベースとして使用された。

質量分析データ解析: タンデム質量スペクトル結果は、Mascotアルゴリズムver2.3.02を用いて、連結されたターゲットデコイデータベース (Uniprot ver 2011_12またはトランスクリプトーム生成FASTAデータベース) に対して検索された。検索結果は、線形判別アルゴリズム (LDA) を用いて、推定ペプチド偽陽性率 (FDR) 5%にフィルタリングされた。データはさらにペプチド長8-11アミノ酸でフィルタリングされた。

変異ペプチド-MHCI複合体のモデリング: 初期モデルの生成には、変異ペプチドとモデル構造中のペプチドとの配列類似性に基づいてPDBからペプチド-MHC複合体構造が選択された。各変異ペプチドモデルについて、Reps1には2ZOL、Adpgkには1HOC、Dpagt1には3P9L、Cpne1には1JUF、Irgqには1FFN、Aatfには1BZ9のPDBコードが使用された。Med12ペプチドは、合理的な開始モデルとして使用できる10量体ペプチドとの複合体における公開されたH-2K[b]結晶構造が不足していたため、モデリングされなかった。ペプチドはCOOTを用いて変異型に修正され、Rosetta FlexPepDockウェブサーバーを用いて最適化された。

マウスの免疫と腫瘍浸潤リンパ球の解析: C57BL/6マウスに、アジュバント (抗CD40抗体とポリ(I:C)) と組み合わせて、各50 µgの長鎖ペプチドを腹腔内注射した。ペプチド特異的T細胞を同定するため、細胞はPE標識ペプチド-MHCIデキストラマーと細胞表面マーカー (CD3, CD4, B220, CD8) で染色された。腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) は、MC-38腫瘍細胞を皮下移植したC57BL/6マウスから単離され、コラゲナーゼとDNaseで消化された。TILはペプチド-MHCIデキストラマーと抗体 (CD45, CD4, CD8, Thy1.2, PD-1, TIM-3) で染色された。

腫瘍担持マウスの免疫と腫瘍増殖の評価: C57BL/6マウスにMC-38腫瘍細胞を皮下接種した。予防的研究では、腫瘍接種の3週間前にアジュバント単独またはペプチドとアジュバントを組み合わせて免疫し、2週間後にブースト免疫を行った。腫瘍担持マウスへのワクチン接種では、腫瘍接種10日後にアジュバント単独またはペプチドとアジュバントを組み合わせて注射した。腫瘍測定と体重は週2回盲検下で収集された。統計解析は、不均一分散を仮定した両側不対Studentのt検定を用いて行われた (p < 0.05)。