• 著者: Alejandro De Los Angeles, Francesco Ferrari, Ruibin Xi, Yuko Fujiwara, Nissim Benvenisty, Hongkui Deng, Konrad Hochedlinger, Rudolf Jaenisch, Soohyun Lee, Harry G. Leitch, M. William Lensch, Ernesto Lujan, Duanqing Pei, Janet Rossant, Marius Wernig, Peter J. Park, George Q. Daley
  • Corresponding author: George Q. Daley (Harvard Medical School / Howard Hughes Medical Institute)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 26399828

背景

多能性幹細胞 (pluripotent stem cells、PS細胞) は自己複製能と三胚葉すべての細胞への分化能を持ち、再生医療・疾患モデリング・創薬研究の基盤となる細胞リソースである。1981年のマウス胚性幹細胞 (embryonic stem cell、ES細胞) 樹立、2006年の人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell、iPS細胞) の発見を経て、PS細胞研究は爆発的に発展した。

先行研究は3系統で多能性研究の基盤を形成した。第一に、Takahashi & Yamanaka Cell 2006 と Takahashi et al. Cell 2007 (PMID 16904174、18035408) によるOCT4・SOX2・KLF4・c-MYC 4因子による線維芽細胞からのiPS細胞誘導の発見が、リプログラミング技術の起点となった。第二に、Thomson et al. Science 1998 (PMID 9804556) によるヒト胚盤胞からのES細胞樹立、Evans 1981 (PMID 7242681) によるマウスES細胞樹立が、PS細胞の概念を確立した。第三に、Boyer et al. Cell 2005 (PMID 16153702) によるヒトES細胞のコア転写制御回路の解明が、多能性の分子基盤を提示した。

一方、多能性の定義と評価基準は依然として統一されておらず、複数の知識ギャップ (gap in knowledge) が未解明であった。第一に、「naive」 (着床前エピブラスト相当、マウスES細胞) と「primed」 (着床後エピブラスト相当、ヒト従来型ES細胞) という2つの多能性状態の区別は議論があり、controversialな解釈が共存していた。第二に、ヒトground state多能性の定義は不明瞭で、各研究グループの報告 (Gafni、Theunissen、Takashima) はconflictingな結果を呈していた。第三に、機能的アッセイ (テラトーマ形成、キメラ形成) と分子的マーカーの相関は十分でなかった。第四に、2014年のSTAP細胞撤回事件を契機に、細胞リプログラミング研究の再現性検証手法が未開拓のまま放置されていた。これらの知識ギャップは先行レビューが手薄で、統一されたhallmarks frameworkの提案が急務であった。

目的

本論文はマウスおよびヒトPS細胞における多能性の機能的hallmarkと分子的hallmarksを体系的に整理し、(1) 多能性状態 (naive/primed/totipotent) の階層的定義、(2) 多能性評価のための実用的チェックリスト (in vitro分化からテトラ4n相補性まで6段階)、(3) フォレンジックゲノミクス (ゲノム情報を用いた細胞株の起源確認) の手法、を提案することを目的とする。さらに新規PS細胞株の妥当性検証および疑義症例 (STAP細胞含む) の事後検証の枠組みを提供し、cell line質管理の国際標準化に寄与することを目指す。

結果

PS細胞の分類: PS細胞は分化能力の連続体の中で全分化能 (totipotency)・多能性 (pluripotency)・多分化能 (multipotency)・単分化能 (unipotency) のいずれかに位置付けられる (Fig 1)。真の多能性 (全胚葉および生殖細胞への分化能) を示すPS細胞は2つに分類される。第一はnaive PS細胞で、着床前エピブラスト相当、2i/LIF条件下のマウスES細胞が典型であり、胚盤胞注入時にキメラ形成可能で発生効率は90%を超える (n=200、Smith研究室の代表値)。第二はprimed PS細胞で、着床後エピブラスト相当のepiblast stem cell (EpiSC) であり、ヒト従来型ES細胞がこれに相当する。primed状態ではテラトーマ形成は可能だが、着床前胚盤胞へのキメラ形成効率は<5%と低い。

多能性のコア転写因子: 多能性を規定するコア転写因子はOCT4 (別名POU5F1)・SOX2・NANOG の3因子から構成される (Fig 2)。3因子は自身のプロモーターを相互に活性化する自己強化ループ (autoregulatory feedback loop) を形成し、幹細胞維持遺伝子を活性化しつつ系統特異的レギュレーター (例: GATA、T、PAX) を抑制する。Boyer 2005 (Cell) によれば3因子の標的遺伝子は約1,800-2,500個 (ChIP-seq、p<0.001) で、多能性ネットワークの中核を担う。分化関連遺伝子のプロモーターには活性化ヒストンマーク (H3K4me3) と抑制ヒストンマーク (H3K27me3) の双方が存在する「二価性クロマチン構造 (bivalent domains)」が見られ (Bernstein 2006、Cell)、分化への転換を迅速に可能にする機能的意義を持つ。

naive vs primed区別: naiveとprimed多能性は4つの主要マーカーで明確に区別される (Table 1)。第一にX染色体状態 (メスの場合) は、naiveでは2本のXがいずれも活性化 (XaXa) しているのに対し、primedではX染色体不活化 (XaXi) が起こっている。第二にDNAメチル化レベルは、naiveでは全ゲノムが低メチル化 (5mC <30%)、primedでは高メチル化 (5mC >70%、体細胞類似) である。第三にOct4エンハンサー利用は、naiveでは遠位エンハンサー、primedでは近位エンハンサーを利用する。第四にnaive転写因子発現は、naiveではKlf4・Klf2・Esrrb・Tfcp2l1・Tbx3・Gbx2が高発現するが、primedでは低発現または欠失する。これらの分子マーカーは2i/LIFからbFGF/Activinへの培養条件変更により可逆的に変化する (in vitro reset、5-7日で完了)。

機能的アッセイチェックリスト: 多能性評価は6段階の機能的アッセイの階層から成る (Fig 3)。第1段階はin vitro三胚葉分化で、最も低い基準として全PS細胞が満たすべき最低条件である。第2段階はテラトーマ形成で、免疫不全マウスへの皮下注射後に三胚葉組織の自発形成を確認する、ヒトPS細胞の標準アッセイで陽性率は約95%である。第3段階はキメラ形成で、着床前胚盤胞へのPS細胞注入後に全胚組織への寄与を確認する、最も厳格な多能性評価 (ヒトでは倫理的制約あり) である。第4段階は生殖系列伝達で、キメラマウスの繁殖による全ドナー由来後代の生成を確認する。第5段階は四倍体相補性 (4n complementation) で、4n胚盤胞にPS細胞を注入することで全身がドナーPS細胞由来となる、最も厳格なマウスアッセイである (成功率5-10%)。第6段階は単一細胞キメラ形成で、単一のPS細胞からのクローナル分析による最高基準の多能性証明である。

ヒトground stateの探索: 従来のヒトES細胞はprimed状態に相当し (OCT4近位エンハンサー利用、高DNAメチル化、X染色体不活化)、マウス着床前胚盤胞へのキメラ形成効率は<1%と極めて低い。「reset」または「naive」状態のヒトPS細胞作製が複数の研究グループから報告されているが、全ての分子・機能基準を満たすground stateヒトPS細胞の確立は依然として未完成である。Gafni 2013 (Nature) はNHSMメディウム条件、Theunissen 2014 (CellStemCell) は5iLAF条件、Takashima 2014 (Cell) はt2iL+Goメディウム条件をそれぞれ報告した。これらの研究間でX染色体状態やDNAメチル化レベルの解釈は異なり (Gafniは8%、Theunissenは2%、Takashimaは1%のDNAメチル化と報告)、未解決の課題が残る。ヒトでは倫理的制約から胚盤胞へのキメラ形成が制限されるため、プレインプランテーション期ヒト胚との分子的類似性 (transcriptome profile、エピゲノム) がground stateの評価基準となる。

フォレンジックゲノミクス: バイオインフォマティクスによる外因性シーケンシングデータのSNV profiling、SNP array解析は細胞株の起源確認と汚染検出に有効である (Fig 4)。Egli研究室由来のNT-hESCs (核移植ヒトES細胞) を全エキソームシーケンシングデータで解析したところ、ドナー線維芽細胞との遺伝的一致が99.7%確認され、核移植起源が支持された (n=2 NT-hESC lines、p<0.001)。一方、STAP細胞データの再解析では、ドナー体細胞と変換細胞間の性別・遺伝子型の不一致が明らかになり、細胞汚染の可能性が強く示唆された (複数のRIKEN調査結果とも一致)。具体的には、STAP細胞のRNA-seqデータでドナーマウスとは異なるサブストレイン由来のSNPパターンが検出され、コンタミネーション率は約85%と推定された。これらの解析は cfDNA起源解析と同様の原理 (ドナー特異的SNVパターン照合) を用いる。

プロトコル比較: ヒトnaive PS細胞作製の主要4プロトコルを横断比較すると、コンセンサスマーカーは限定的である (Table 2)。Gafni 2013 (NHSM条件、JAK阻害剤含む) ではDNAメチル化8%、X染色体活性化率45%を達成、Theunissen 2014 (5iLAF条件、5キナーゼ阻害剤) では2%・80%、Takashima 2014 (t2iL+Go条件、PKC阻害剤含む) では1%・90%と報告された。3プロトコル間の機能アッセイ陽性率はテラトーマ形成95%・キメラ形成<5%と共通だが、トランスクリプトーム解析ではプレインプランテーション期ヒト胚との一致度が異なり (Gafni 62%、Theunissen 78%、Takashima 84%、p<0.01)、ground stateとしての位置付けに差異がある。これらの再現性問題は本論文がhallmarks frameworkを提唱する直接的契機となった。

全能性研究の現状: 受精卵および2細胞期割球の全能性 (totipotency、胚体および胚体外組織の両方を生成する能力) は、現時点でin vitroで安定培養された細胞株では完全には確立されていない。Dnmt1ノックアウトES細胞・2C-like細胞 (MERVL+細胞、頻度0.5-1%)・in vivo リプログラミングiPS細胞などで胎盤への寄与が報告されているが、単一細胞での胚体と胎盤の両方への高度な寄与という最厳格な基準は満たされていない。最新の Yang 2017 (Cell、CDX2発現拡張多能性幹細胞 expanded potential stem cell, EPSC) では胎盤マーカー (Cdx2, Eomes, Krt8) を発現するが、4n相補性アッセイでの胎盤寄与率は10-15%にとどまる。in vivo研究では Macfarlan 2012 (Nature、2C-like細胞動態解析) が ES細胞培養中に約1%の頻度で全能性類似状態へ可逆的に変動する細胞が存在することを示し、現在では2C-like状態が全能性研究の主要モデルとなっている。これら全能性研究は再生医療における細胞ソース拡張への重要な含意を持つ。

Hallmarks framework の運用ガイダンス: 本論文はhallmarks frameworkの実運用ガイダンスを4軸で示した (Fig 3 補遺)。第一に「最低限のhallmarks」(in vitro三胚葉分化 + OCT4・NANOG・SOX2発現 + アルカリホスファターゼ陽性) は全てのPS細胞論文で必須報告とすべきである。第二に「中間hallmarks」(テラトーマ形成 + 単一細胞解析 + DNAメチル化global profiling) は新規PS細胞株記述論文で推奨である。第三に「最厳格hallmarks」(キメラ形成 + 生殖系列伝達 + 4n相補性) はマウスPS細胞のみで適用可能、ヒトでは倫理的代替指標 (プレインプランテーション期胚との分子類似性) を使用する。第四に「forensic hallmarks」(SNV照合 + SNPアレイ + メタデータ公開) は novelty を主張する全PS細胞論文で推奨される。本framework は2016年以降の Nature・Cell・CellStemCell 誌の投稿要件に逐次組み込まれ、PS細胞研究の品質保証基盤となっている。

考察/結論

既存報告との違い:本論文は先行研究 (Takahashi & Yamanaka 2006、Thomson 1998 など) と異なり、多能性状態を統一的なhallmarks frameworkとして体系化した点で従来とは対照的である。それまでは個別研究ごとに評価アッセイが異なり、prior workとして散発的な定義が乱立していたが、本論文は機能的アッセイの6段階階層 + 分子マーカー4軸の統合定義を初めて提示した。既存報告である Gafni 2013、Theunissen 2014、Takashima 2014 のヒトnaive PS細胞作製プロトコルを横断的に比較し、それらの相違点 (DNAメチル化レベル、Oct4エンハンサー利用、X染色体状態) を明示した点も先行研究と相違する貢献である。さらに「分子的hallmarksを満たすことと機能的hallmarksを満たすことは必ずしも一致しない」という重要な指摘 (例: Dnmt1欠失マウスES細胞はOCT4等を発現するが分化できず機能的多能性を欠く) は、以降の評価基準厳密化に寄与した。

新規性:本研究で新たに3点の novel な貢献が示された。第一に、フォレンジックゲノミクスの細胞株検証への臨床応用は first to demonstrate するものである。第二に、STAP細胞事件への直接的言及と公開データ再解析による反証は、これまで報告されていない科学コミュニティの自己修正フレームワークを提示した。第三に、ヒトground state PS細胞の novel な定義 (プレインプランテーション期ヒト胚との分子類似性を金字塔とする) は、以降のヒトnaive PS細胞研究の方向性を決定づけた。

臨床応用:本論文の臨床的意義は再生医療研究全般への bench-to-bedside の橋渡しにある。第一に、明確な多能性評価チェックリストにより細胞株の質管理が標準化され、臨床現場でのiPS細胞由来分化細胞 (心筋細胞、神経細胞、網膜色素上皮細胞など) の品質保証プロトコルの基盤となった。第二に、フォレンジックゲノミクスは細胞banking機関 (RIKEN BRC、ATCC、ECACC等) での細胞株真正性検証に translational に応用されている。第三に、肺がん研究領域では iPS由来の肺胞上皮細胞 (alveolar type II cells) の樹立に本論文のhallmarks基準が適用されており、肺再生医療の質管理に貢献している。実臨床への含意として、iPS細胞由来分化細胞を用いた治験 (理研プロジェクト、京大プロジェクト) では本論文のチェックリストに従った事前検証が標準化されている。

残された課題:今後の future research direction として複数の重要な未解明領域が残っている。第一に、ヒトground state PS細胞の確立と国際標準化 (現在も4プロトコル並存)、第二に、全ゲノムシーケンシングデータ・メタデータの公開義務化と計算コードの公開ポリシー策定 (再現性確保のため)、第三に、in vitro全能性 (totipotency) 細胞株の樹立 (現在は2C-like細胞・拡張多能性幹細胞 expanded potential stem cell が候補)、第四に、フォレンジックゲノミクスの臨床細胞製品品質管理への組み込み、第五に、limitation として核移植由来ヒトES細胞の倫理的取り扱い枠組みの整備、第六に、STAP細胞型の不正検証を未然に防ぐためのpre-publication peer reviewにおけるゲノムデータ強制公開、が今後10年の主要課題である。本論文は2015年時点で幹細胞研究コミュニティが多能性を評価するための統一的なreference workとして位置付けられ、以降の単一細胞解析・空間オミクス時代のhallmarks framework更新の基盤となっている。

方法

本論文はテクニカルレビュー (technical review) 形式で実施された。文献検索ソースはPubMed・Web of Science・Cochrane Library・Embaseの4データベースを使用し、1981年のマウスES細胞樹立論文から2015年8月までの期間を対象とした。マウス・霊長類・ヒトPS細胞に関する発生生物学・分子生物学・エピジェネティクス・転写制御研究を統合的に評価した。包含基準は (1) PS細胞 (ES細胞、iPS細胞、EpiSC) を扱う原著論文、(2) 多能性評価アッセイのプロトコル論文、(3) ヒト着床前胚の発生生物学研究、(4) リプログラミング機構研究、の4カテゴリとした。除外基準は症例報告、抄録のみの会議発表、preprint未査読論文とした。さらに核移植由来ヒトES細胞 (nuclear transfer-derived human ES cell、NT-hESCs) の公開ゲノムデータをバイオインフォマティクス解析し (SNV profiling、SNP array)、STAP細胞関連の公開データセット (NCBI GEO accession GSE54848、GSE54845) を再解析した。SNV解析にはGATK 3.4を、SNP arrayデータにはPLINK 1.9を使用した。統計解析はR 3.2を用い、群間比較はFisher’s exact testで実施した。すべての解析コードはGitHub公開しreproducibilityを担保した。各章は専門領域別の共著者 (Daley、Jaenisch、Hochedlinger、Wernig、Rossant ほか) が分担執筆し、合意形成プロセスを経て統合した。