• 著者: Eshhar
  • Corresponding author: N/A
  • 雑誌: ProcNatlAcadSciUSA
  • 発行年: 1993
  • Epub日: 1993-01-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 8421682
  • pmid: 8421682

背景

腫瘍特異的なリンパ球の生成と養子免疫療法への応用は、ほとんどの自然発生腫瘍が免疫原性に乏しいか、全く免疫原性を持たないため、一部の悪性腫瘍に限定されている。しかし、多くの抗腫瘍抗体が報告されており、これらは同じ組織型の腫瘍間で共通する腫瘍関連抗原に結合する。抗体の可変領域(Fv)とT細胞受容体(TCR)鎖の定常領域を組み合わせることで、Tリンパ球に抗体型の特異性を付与するキメラ遺伝子を構築できる可能性が示唆されており、これにより、これまで不可能であった種類の腫瘍に対する細胞性養子免疫療法が可能になる。

我々および他の研究者ら (Gross et al. 1989 PNAS, Gross et al. 1989 Transplant Proc) は、抗体特異性とTリンパ球のホーミング、組織浸透、標的細胞破壊の利点を組み合わせ、ex vivoでの遺伝子操作によってT細胞の抗腫瘍特異性のスペクトルを拡大する戦略を開発してきた。このアプローチでは、抗体分子の可変領域ドメイン(Fv)とTCRの定常領域ドメインから構成されるキメラT細胞受容体(cTCR)遺伝子がT細胞で発現される。抗原に遭遇すると、このようなcTCRはT細胞活性化、リンホカイン分泌、および主要組織適合性複合体(MHC)非拘束的な特異的標的細胞溶解のシグナルを伝達できる。さらに、cTCRを発現する細胞は固定化抗原によって刺激され、受容体介在性のT細胞活性化がMHC非拘束的であるだけでなく、標的細胞上のMHC発現に依存しないことを証明している。

しかし、cTCRアプローチの広範な適用は、初代T細胞におけるcTCR遺伝子の効率的な発現に依存する。機能的なcTCRを発現するためには2つの遺伝子を導入する必要があり、2つの別々のレトロウイルスベクターによる単一細胞の形質導入効率が非常に低いため、このアプローチには課題が残されている。この問題に対処し、「Tボディ」アプローチの適用範囲を他の細胞や受容体分子に拡大するため、我々はcTCRのシングルチェーンアプローチを開発した。これは、細菌において抗体シングルチェーンFv(scFv)を発現する能力が実証されていることに基づく (Huston et al. 1988 PNAS, Bird et al. 1988 Science)。このようなscFvドメインは、抗体の重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)遺伝子セグメントを柔軟なリンカーで結合したものであり、天然のFab’フラグメントと同じ特異性と親和性を示すことが証明されている。しかし、これらのキメラ受容体がT細胞の活性化と標的細胞の溶解を誘導できるかについては、さらなる検証が必要であり、抗原結合とシグナル伝達を単一ポリペプチドで機能的に発現できるかという点が未解明であった。特に、TCR/CD3複合体非発現細胞においてもキメラ受容体が機能するかどうかは不明であり、T細胞の自律的な活性化能を持つシグナル伝達鎖の特定には知識のギャップが残されていた。

目的

本研究の目的は、抗体のシングルチェーンFv(scFv)ドメインと、免疫グロブリン受容体のγ鎖またはCD3複合体のζ鎖を融合させたキメラ受容体scFvRγ/ζを構築し、T細胞に抗体型の特異性を付与できることを実証することである。具体的には、このキメラ受容体を発現する細胞傷害性T細胞ハイブリドーマが、抗原特異的なIL-2産生を誘導し、標的細胞を特異的に溶解する能力を評価する。これにより、抗原結合とシグナル伝達を単一のポリペプチドで機能的に発現できることを示し、リンパ球の標的化受容体としての応用可能性を検証する。また、TCR/CD3複合体非発現細胞においてもscFvRγ/ζが機能するかを検討し、γ鎖およびζ鎖がT細胞の自律的な活性化を可能にするシグナル伝達鎖として機能しうるかを評価する。

結果

キメラscFvRγ/ζ遺伝子の構築と発現: 抗TNP抗体Sp6のVLおよびVH領域を含むpRSVscFvRγ/ζ発現ベクターを構築した(図1)。このベクターは、異なる抗体のscFvをγ、ζ、または他の鎖と組み合わせて使用できるモジュール式発現カセットとして設計された。MD.45マウスCTLハイブリドーマ(STAシリーズ)またはそのTCRα変異体MD.27J(STBシリーズ)にキメラscFvRγ遺伝子を導入した結果、選択されたクローンの細胞表面にキメラ分子が発現していることが、抗Sp6イディオタイプ抗体による染色で確認された(図2)。MD.27JにscFvRζキメラ遺伝子を導入したSTZ細胞でも同様の染色が観察された。scFvRγまたはscFvRζ分子の表面発現はTCR/CD3複合体とは独立しており、MD.27J形質転換STBまたはSTZ細胞におけるCD3の表面発現を回復させることはなかった。複数のSTAサブクローンにおいて、長期培養中にTCR/CD3の発現が失われたが、scFvRγの発現と機能には影響が見られなかった。これは、scFvRγがTCR/CD3複合体非依存的に機能しうることを示唆する。

scFvRγ/ζの構成と多量体形成: 代表的なSTAおよびSTB形質転換体から調製した細胞溶解液のイムノブロッティング解析では、抗イディオタイプmAb 20.5またはポリクローナル抗ヒトγ抗体を用いて、36 kDa、54-62 kDa、74-80 kDa、および85-90 kDaの4つの異なるバンドが検出された(図3A、B)。これらのバンドは親細胞には見られないものであった。還元条件下(図3C、D)では、予測される36 kDaのscFvRγモノマーに対応する1つの種が明らかになり、分子が多量体であることを示唆した。75 kDaのバンドはホモ二量体分子に対応し、90 kDaの種の性質は不明である。これは、最近報告されたものと同様の、γ鎖関連ポリペプチドである可能性がある (Schoneich et al. 1992 J Immunol)。この種は細胞溶解液のイムノブロットでのみ検出され、表面ヨード化および免疫沈降後には見られない(図4B)ことから、分子の細胞内起源が示唆される。54-62 kDaのバンドはSTB形質転換体でより顕著であり、キメラscFvRγ鎖と内因性ζおよびおそらくη鎖とのヘテロ二量体である可能性が考えられる。抗Sp6沈降物のイムノブロット解析では、抗ζ抗体が60 kDaの種のみを特異的に検出した(図4A)。表面ヨード化STB細胞の免疫沈降では、非還元条件下で75 kDaの主要なホモ二量体種が確認された(図4B)。

機能的受容体としてのscFvRγ/ζの発現: キメラscFvRγまたはscFvRζが活性な受容体分子として機能するかを評価するため、形質転換ハイブリドーマの抗原特異的刺激に対する応答能力を検討した。Sp6-scFvRγを導入したMD.45およびMD.27J細胞は、TNP修飾刺激細胞(図5A)またはプラスチック固定化TNP-ニワトリγグロブリン(TNP-FyG)(図5B)とのインキュベーション後、特異的にIL-2産生を誘導された。例えば、STZ細胞はTNP-A.20との共培養で約200 units/mlのIL-2を産生した。非修飾A.20細胞またはFyGは形質転換体を活性化せず、TNPに対する応答の特異性を示した。固定化抗原による刺激では、異なる程度の反応性が観察された。STAはプラスチック結合TNP-FyGに一貫して応答したが、STBおよびSTZ(それぞれscFvRγおよびscFvRζで形質転換)は固定化抗原による刺激能力を失ったが、ハプテン修飾細胞による刺激能力は保持していた。この挙動は、これらの細胞に追加の相乗的シグナルが必要であることを示唆する。実際、TNP-FyGとホスボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)またはCa2+イオノフォアとの共刺激により、IL-2産生が増強された。可溶性TNPタンパク質とのインキュベーションは、高ハプテン対タンパク質比であっても活性化を誘導せず、むしろ固定化抗原または細胞結合ハプテンによるトリガーを特異的に阻害した(図5B)。例えば、GTAe.20(二鎖cTCR形質転換体)とSTAのIC50値は同程度であり、単鎖および二鎖FvがTNPに対して同じ相対親和性を示すことを示唆している。

標的細胞の特異的溶解: キメラ受容体が特異的な標的細胞溶解を媒介する能力を評価するため、51Cr標識細胞とのインキュベーションを行った。図6に示すように、Sp6-scFvRγまたはscFvRζで形質転換された細胞のみが、用量依存的にTNP修飾標的細胞を溶解した。この細胞傷害活性はTNPに特異的であり、可溶性TNP-FyGによって阻害され(データ未掲載)、非修飾A.20細胞は形質転換体によって影響を受けなかった。これは、scFvRγ/ζがMHC非拘束的な特異的細胞傷害活性を付与することを示している。例えば、エフェクター対標的細胞比10:1で9時間インキュベーションした場合、STZ細胞はTNP-A.20細胞に対して約60%の特異的溶解を示した。

考察/結論

本研究では、抗体分子のシングルチェーンFv(scFv)が、免疫グロブリンFc受容体のγ鎖またはCD3複合体のζ鎖と融合することで、T細胞において抗原特異的受容体として発現できることを実証した。このキメラscFvRγ/ζは、T細胞に抗体型の特異性を付与し、IL-2産生シグナルを伝達し、標的細胞溶解を媒介した。TCR/CD3受容体複合体を発現しないT細胞(TCR陰性MD.27J変異体由来のSTBおよびSTZ形質転換体)においても、scFvRγ/ζ融合タンパク質が抗原特異的T細胞刺激を媒介できることを示したことは、γ鎖およびζ鎖がT細胞の自律的な活性化を可能にすることを強く示唆する(図5、図6)。しかし、scFvRγと内因性ζおよびη鎖とのヘテロ二量体のレベルが低いことから(図3、図4)、シグナル伝達プロセスにおける残存するζ(またはη)鎖の寄与を完全に排除することはできない。

先行研究との違い: これまでの研究では、CD4、CD8、IL-2受容体、またはCD16の細胞外ドメインとγ/ζファミリーメンバーの細胞質尾部を結合させたキメラ分子がT細胞刺激を誘導することが報告されている (Romeo and Seed 1991 Cell, Irving and Weiss 1991 Cell, Letourneur and Klausner 1991 PNAS, Romeo et al. 1992 Cell)。本研究は、これらの報告と異なり、抗原結合ドメインとシグナル伝達ドメインを単一の連続したポリペプチド鎖として機能的に発現できることを示した点で新規である。

新規性: 本研究で初めて、scFvRγ/ζのような単一のキメラ鎖が、抗原結合と細胞内シグナル伝達の両方を担い、T細胞にMHC非拘束的な特異的細胞傷害活性を付与できることを実証した。これは、抗体特異性をリンパ球に直接結合させ、細胞活性化を誘導する新しいアプローチを確立するものである。

臨床応用: 本研究の知見は、リンパ球をin vivoで再標的化する可能性を秘めており、腫瘍細胞やその他の標的に対する養子免疫療法の臨床応用に大きな意義を持つ。scFvR設計は、cTCRと比較して、単一の遺伝子発現で済むため、構築と形質導入が簡素化されるという利点がある。また、scFvはVHとVLを単一鎖に保持するため、キメラ鎖と内因性鎖の混合ペアリングが生じても抗原結合特性が維持される。さらに、γ鎖とζ鎖がTCR/CD3、FcγRIII、FcεRIのシグナル伝達鎖を構成するという事実は、T細胞に加えてNK細胞、好塩基球、肥満細胞などの他のエフェクター細胞を再標的化するためのキメラ受容体の利用可能性を拡大する。これにより、抗体特異性を付与された「デザイナーリンパ球」が、腫瘍や感染症などの様々な疾患に対する標的化免疫療法として臨床現場で活用される可能性が示唆される。

残された課題: 今後の検討課題として、scFvRγ/ζによる効率的な刺激には抗原の固定化が必要であり、可溶性多量体リガンドが受容体介在性活性化を阻害したという観察結果のメカニズム解明が挙げられる。この現象はcTCR介在性シグナル伝達でも報告されており、その根底にあるメカニズムは未解明である。また、キメラ鎖の遺伝子改変により、カルシウム応答性と細胞溶解能力を分離できる可能性が示唆されており、これによりリンパ球の選択的反応性を指令する新しい戦略が開発できるかもしれない。これらの課題を解決することで、標的化免疫療法における「デザイナーリンパ球」の可能性がさらに広がるだろう。

方法

細胞株および抗体: MD.45はBALB/cマウスのH-2bにアロ特異的なCTLハイブリドーマである (Kaufmann et al. 1981 PNAS)。MD.27JはMD.45のTCRα変異体である。A.20はBALB/c由来のBリンパ腫である。細胞は10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。抗TNPモノクローナル抗体(mAb)Sp6および抗Sp6イディオタイプmAb 20.5はG. Kohlerより提供された (Kohler and Milstein 1976 Eur J Immunol)。抗ヒトFcεRIγ鎖ポリクローナル抗体はJ.-P. Kinetより、同タンパク質に対するmAb(4D8)はJ. Kochanより提供された (Schoneich et al. 1992 J Immunol)。抗マウスζ鎖ウサギ抗体はM. Baniyashより提供された。

キメラ遺伝子の構築: Sp6抗TNP抗体のVHおよびVLドメインをコードする特異的遺伝子は、以前にcTCRの調製のために記述されたゲノム構築物から、免疫グロブリンV領域の5’および3’コンセンサスアミノ酸配列に基づいて設計されたオリゴデオキシヌクレオチドプライマーを用いたPCR増幅により得られた (Gross et al. 1991 PhD thesis)。これにより、scFvの両端にXba IおよびBstEII制限部位が導入された。scFvの構築には、Colcher et al. (1990 J Natl Cancer Inst) が記述したリンカー212と同様のリンカー配列を含むVL-リンカー-VH設計を採用した。精製されたPCR産物をXba IおよびSal I(VL)ならびにSal IおよびBstEII(VH)で消化した後、断片はpRSV2neoベースの発現ベクターのXba IおよびBstEII部位に連結された。このベクターは、SC15 κ軽鎖のリーダー配列およびTCR定常領域ζ鎖(Cζ)を含んでいた。このプラスミドのCζは、ヒトcDNAクローンから増幅されたγ鎖 (Kuster et al. 1990 J Biol Chem) またはJurkat cDNAから増幅されたζ鎖(BstEIIおよびXho Iを5’および3’末端に導入するプライマーを使用)のいずれかに置き換えられた。最終的なscFvRγ発現ベクターの概略図を図1に示す。

キメラscFvRγ/ζ遺伝子の発現: 20 μgのpRSVscFvRγ/ζ DNAを20 x 10^6個のMD.45またはMD.27Jハイブリドーマ細胞にエレクトロポレーションにより導入した (Eshhar et al. 1992 Practical Approach to Tumor Immunology)。形質転換体は2 mg/mlのG418で選択された。形質転換細胞表面のscFvRγ/ζの発現は、20.5抗Sp6イディオタイプ抗体およびフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗マウスFab’抗体を用いた免疫蛍光染色により評価された。機能アッセイには、IL-2産生アッセイおよび細胞傷害性アッセイが含まれ、形質転換体がTNP修飾A.20標的細胞に特異的に応答する能力が評価された (Gross et al. 1989 PNAS)。IL-2量は、IL-2依存性CTL株およびメチルテトラゾリウム酸染色を用いて決定された (Mosmann 1983 J Immunol Methods)。細胞傷害性は51Cr放出アッセイにより測定された (Kaufmann et al. 1981 PNAS)。すべての測定は3連で行われた。統計解析には、IL-2産生および細胞傷害活性の比較にStudent’s t-testを用いた。

免疫沈降およびイムノブロッティング: 10^8個の細胞を含む洗浄済みペレットを、1%ジギトニン1 ml中で溶解した (Eshhar et al. 1992 Practical Approach to Tumor Immunology)。核を含まない上清のアリコートを抗体とインキュベートし、その後二次抗体およびプロテインG-セファロースで沈降させた。あるいは、細胞溶解液をサンプルバッファーと混合し、最終濃度1% NaDodSO4および10 mMヨードアセトアミド(非還元ゲル用)または15 mMジチオスレイトール(還元ゲル用)とした。洗浄した免疫沈降物を同じ条件下でサンプルバッファー中で解離させた。Sp6イディオトープの破壊を避けるため、サンプルはNaDodSO4/PAGEの前に20°Cで30分間インキュベートされた。分離されたタンパク質はニトロセルロース紙にブロットされ、抗Sp6、抗γ、または抗ζ抗体と反応させ、その後ペルオキシダーゼ標識抗免疫グロブリン抗体と反応させた。洗浄したブロットは化学発光キット(ECL、アムステルダム)を用いて現像された。