• 著者: Sung BH, Zhu X, Kaverina I, Weaver AM
  • Corresponding author: Alissa M. Weaver (Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN)
  • 雑誌: Current Biology
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-08-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21856159

背景

コルタクチン (CTTN) は、細胞骨格タンパク質であるアクチンの重合を制御する重要な分子であり、特にArp2/3複合体のコファクターとして分枝型アクチンネットワークの形成を促進することが知られている。この機能を通じて、コルタクチンは細胞の先端に形成されるラメリポディアのダイナミクスを制御し、細胞運動を促進すると広く認識されてきた (Weaver 2008)。実際に、コルタクチンは多くの浸潤性がんにおいて遺伝子増幅が認められる癌遺伝子であり、その機能は腫瘍の浸潤・転移との関連で注目されてきた (Kirkbride et al. 2011)。しかし、近年の研究では、ラメリポディアが細胞運動に必ずしも必須ではないことが示唆されており (Gupton et al. 2005)、コルタクチンが細胞運動を制御する主要なメカニズムについて再評価の必要性が生じていた。例えば、高濃度のフィブロネクチン (FN) コーティング上で実験を行った場合、コルタクチン欠損細胞の運動性表現型が消失することが報告されており (Tanaka et al. 2009)、コルタクチンの細胞運動制御における一次的なメカニズムがラメリポディアの直接的な制御ではない可能性が示唆されていた。このことは、コルタクチンが細胞運動を制御するメカニズムについて、これまでの理解に知識ギャップがあることを示している。

コルタクチンは、アクチン細胞骨格の制御に加えて、膜輸送やエンドサイトーシスの調節にも関与することが知られている (Kirkbride et al. 2011)。このことから、コルタクチン欠損細胞で観察される細胞運動性や接着斑形成の異常が、細胞外マトリックス (ECM) の分泌異常やインテグリンの輸送異常に起因する可能性が提起されていた。特に、細胞が自ら産生・分泌するECMは、細胞の接着、増殖、移動に不可欠な微小環境を形成するため、その分泌経路の異常は細胞運動に大きな影響を与えると考えられる。しかし、コルタクチンがECM分泌を介して細胞運動を制御するという直接的なメカニズムは、これまで十分に解明されていなかった。本研究では、この未解明な点を埋めることを目指し、コルタクチンが後期エンドソーム/リソソーム区画からのECM分泌を調節することで細胞運動を制御するという新規メカニズムを検証する必要があった。特に、血清由来のフィブロネクチンが細胞内に取り込まれ、後期エンドソーム/リソソーム経路を経て再分泌されるというサイクルが、コルタクチンによってどのように制御されるのかは未開拓な点であった。本研究は、コルタクチンが細胞運動を促進する上で、取り込まれたECMを後期エンドソーム/リソソームから処理し再分泌する経路を調節するというモデルを提唱する。

目的

本研究の目的は、コルタクチン (CTTN) が細胞運動を制御する主要なメカニズムとして、細胞外マトリックス (ECM) 分泌の調節が関与するという仮説を検証することである。具体的には、後期エンドソーム/リソソーム区画からのフィブロネクチン (FN) 分泌に対するコルタクチンの役割を詳細に解析する。コルタクチンノックダウン (KD) 細胞で観察される運動性およびラメリポディアダイナミクスの欠損を回復させるために必要なコルタクチンの分子的相互作用、特にArp2/3複合体、F-アクチン、およびSH3ドメインとの結合の重要性を特定する。さらに、後期エンドソームからの分泌経路がコルタクチン依存的であることの独立した証拠として、リソソーム融合調節因子であるSynaptotagmin-7 (Syt7) のノックダウン (KD) が同様の表現型を再現するかどうかを評価する。これらの解析を通じて、コルタクチンが細胞運動を制御する新規メカニズムを解明し、既存の知見との整合性を図ることを目指す。

結果

外因性ECMおよび自己分泌ECMによる運動欠損の完全救済: コルタクチンノックダウン (KD) HT1080細胞は、フィブロネクチン (FN) コーティング非存在下で対照細胞 (Sc) と比較して有意に低い移動速度 (Sc: 約0.47 µm/min vs KD: 約0.30 µm/min, p<0.001) を示した (Figure 1A)。しかし、10 µg/mLのFNコーティング上では、KD細胞の移動速度は対照レベル (約0.47 µm/min) に完全に回復した。同様の救済効果はコラーゲンIコーティング上でも確認された (Figure 1C)。ラメリポディアの永続性欠損も、10 µg/mL FNによって完全に回復した (Figure 1F)。さらに、対照細胞由来の自己分泌ECM (NH4OH法で調製) 上ではKD細胞の運動性が完全に救済されたが、KD細胞自身の産生するECM上では救済されなかった (Figure 3A)。この結果はMDA-MB-231乳がん細胞でも再現された (Figure 3B)。これらのデータは、コルタクチンKD細胞の主要な欠陥がECM分泌障害にあることを強く示唆する。この実験にはn > 50 cellsが使用された。

フィブロネクチン分泌の約4倍低下: TIRF顕微鏡を用いた基底面FN沈着の定量解析では、KD細胞のFN沈着は対照細胞と比較して有意に低下していた (p<0.001) (Figure 3E, 3F)。DyLight 550標識FNを用いたライブTIRFイメージングにより、対照細胞のFN蓄積速度 (回帰直線のslope係数 27.96) に対して、KD細胞ではslope係数が6.56と約4倍低下していることが明らかになった (p<0.001, MatLab共分散分析, R2 > 0.9) (Figure 5E, 5F)。TIRF画像では、KD細胞において新たなFN構造 (線状・円形) の出現頻度が対照細胞よりも著明に減少しており、FN含有分泌小胞の形質膜への融合頻度の低下を示唆した。ビオチン化FNを用いたパルス-チェース実験では、FNの細胞内取り込み量 (1時間パルス後) はKD細胞と対照細胞間で同等であったが、24時間後の条件培地中への分泌FN量はKD細胞で対照の約50%に低下した (p<0.05) (Figure 4F, 4G)。FN mRNA量および総細胞FNタンパク量 (ウェスタンブロット) にはKD細胞と対照細胞間で有意な差がなく (Figure 4A, 4B)、FNの合成ではなく分泌トラフィッキングが障害されていることが示された。MDA-MB-231細胞由来の細胞フリーECMのFN免疫蛍光定量でも、KD細胞産生ECMのFN量は対照の約50%以下であった (p<0.05) (Figure 3C, 3D)。マウス胎児線維芽細胞 (MEF) 系でも同様に、KD細胞の細胞フリーECM中のFN量が減少していた (Figure S3)。これらの実験にはn=3 replicatesが使用された。

後期エンドソーム/リソソームへのFN蓄積: コルタクチンKD細胞では、細胞内に大型のFN含有puncta (直径 ≥2 µm) が著明に増加した (Figure 4C, 4D)。共焦点顕微鏡による解析では、Rab7 (後期エンドソームマーカー) 陽性区画へのFN共局在が対照細胞と比較して約2倍増加した (p<0.001) (Figure 5A, 5B)。また、LAMP1 (リソソームマーカー) 陽性区画でのFN蓄積も増加し、Rab7陽性区画のサイズも有意に増大した (p<0.05) (Figure 5C)。FN枯渇血清 (FN-depleted BGS) での培養では、KD細胞における細胞内FN蓄積が消失し、運動欠損も増幅されたことから (Figure 4C, 4D, 4E)、蓄積FNの大部分が外来性 (血清由来) FNであることが確認された。これらの結果は、コルタクチンKD細胞において後期エンドソームからのFN分泌が障害されていることを強く示唆する。この解析にはn > 200 cellsが用いられた。

Syt7 KDによる表現型の再現: 後期エンドソーム-形質膜融合を調節するシナプトタグミン-7 (Syt7) をshRNAでノックダウンした細胞では、コルタクチンKD細胞と同様の表現型が再現された。Syt7 KD HT1080細胞は、対照shGFP細胞と比較して基底面FN沈着の低下 (Figure 6C, 6D) および運動性低下 (shGFP対照比で相対運動量 0.5 → 0.2, p<0.001) を示した (Figure 6B)。10 µg/mLのFNコーティング上では、Syt7 KD細胞の運動性も正常化した。この結果は、後期エンドソームからの分泌経路がコルタクチン依存的であることの独立した証拠を提供する。この実験にはn > 45 cellsが使用された。

コルタクチン構造的要件: コルタクチンのArp2/3複合体結合欠損変異体 (W22A) およびF-アクチン結合欠損変異体 (Δ4RP) を再発現させたKD細胞では、細胞運動性、FN沈着、および細胞内FN蓄積のいずれの欠損も救済されなかった (p<0.05) (Figure 7B, 7C, 7D)。一方、SH3ドメイン欠損変異体 (W525K) およびSrcリン酸化部位変異体 (3Y) は、細胞運動性およびFN沈着の欠損を救済した (Figure 7B, 7C)。Erkリン酸化部位変異体 (S405A/S418A) は細胞内FN蓄積アッセイでのみKD欠損を救済したが、細胞運動性アッセイでは救済できなかった (Figure 7B, 7D)。これらの結果から、コルタクチンのFN分泌および細胞運動性制御において不可欠な機能は、Arp2/3-F-アクチンを介する分枝型アクチンネットワーク形成であり、SH3ドメイン結合パートナーは必須ではないことが示された。この解析にはn > 25 imagesが使用された。

考察/結論

本研究は、コルタクチン (CTTN) が細胞運動を制御するメカニズムとして、直接的なラメリポディアの制御ではなく、後期エンドソーム/リソソーム区画からの細胞外マトリックス (ECM)、特にフィブロネクチン (FN) の再分泌を促進するという全く新規のメカニズムを解明した。この知見は、これまでのコルタクチンに関する矛盾する報告を統一的に説明できる。例えば、先行研究でコルタクチンKDの運動性表現型が見られなかった場合 (Tanaka et al. 2009; 10 µg/mL FNコーティング上で実験) は、外因性の高濃度FNがECM分泌欠陥を補ったためと合理的に説明できる。これはこれまでのモデルが細胞固有のラメリポディア機能に焦点を当てていたと異なり、外因性のECM再分泌メカニズムが重要であることを示唆する。

本研究の新規性は、第一に、コルタクチンの細胞運動制御を「細胞固有のラメリポディア機能」から「外因性のECM再分泌メカニズム」へと再定義した点にある。第二に、血清由来の外来性FNが細胞内に取り込まれ、後期エンドソーム/リソソームでプロセッシングされた後、基底面へ再分泌されるという内吸収-再分泌サイクルを実証した点である。第三に、膜融合調節因子であるSynaptotagmin-7 (Syt7) とコルタクチンが、同一の後期エンドソーム分泌経路で機能的に連携することを示した点もこれまで報告されていない新規な発見である。部分的に分解されたFNフラグメントは接着活性が増大することが知られており (Valenick et al. 2005)、リソソーム経路でのFNプロセッシングが運動基質の質的改善にも寄与する可能性が示唆される。

コルタクチンの機能解析から、Arp2/3複合体およびF-アクチンとの結合がFN分泌と細胞運動に必須であることが明らかになった。これは、コルタクチンが分枝型アクチンネットワークの形成を介して、後期エンドソームからの分泌小胞の形成、ドッキング、または融合を制御していることを示唆する。SH3ドメイン結合パートナーは必須ではないという結果はやや意外であったが、安定したアクチンネットワークが膜結合型シグナル因子と協調して必要な多タンパク質輸送複合体を構築するのに十分である可能性が考えられる。

臨床的意義として、コルタクチンは多くの浸潤性がん細胞で高発現しており (特に腺癌・扁平上皮癌)、本研究で解明されたECM分泌経路の制御が、invadopodia機能や腫瘍浸潤・転移に寄与する可能性が示唆される。Arp2/3阻害薬 (例: smifh2) によるコルタクチン-分枝型アクチン軸の遮断は、腫瘍浸潤抑制の潜在的な臨床応用治療戦略として注目される。

残された課題としては、(a) 分枝型アクチンネットワークが後期エンドソームの成熟、ドッキング、分泌小胞形成のどの段階に作用するのかを詳細に解明すること、(b) α5β1インテグリンがFNと共に同一小胞で輸送されるかどうかの詳細な検証、(c) in vivoのがん浸潤・転移における本ECM再分泌経路の定量的寄与の評価が挙げられる。また、コルタクチンがエンドサイトーシスを阻害しないという本研究の所見は、多くの研究がクロストリン依存性エンドサイトーシスを検討しているのに対し、β1インテグリンがクロストリン非依存性経路で輸送されるという報告 (Shi and Sottile 2008) とも関連しており、今後の研究でさらに詳細なメカニズムの解明が期待される。

方法

本研究では、ヒト線維肉腫細胞株HT1080およびヒト乳がん細胞株MDA-MB-231を主要な細胞モデルとして使用した。コルタクチン (CTTN) 発現を操作するため、レンチウイルスshRNAを用いてコルタクチンノックダウン (KD) 細胞、対照スクランブルオリゴ発現 (Sc) 細胞、shRNA耐性マウスコルタクチンを再発現させたレスキュー (Res) 細胞、およびコルタクチン過発現 (OE) 細胞株を樹立した。

細胞運動性の評価には、タイムラプス顕微鏡を用いた単一細胞運動解析を実施し、細胞の移動速度 (µm/min) を定量した。ラメリポディアのダイナミクスは、キモグラフィー解析により、永続性、突出距離、突出速度、および後退速度を定量的に評価した。

自己分泌ECMの調製には、細胞を48時間培養後、20 mM水酸化アンモニウム (NH4OH) 溶液で細胞を除去し、細胞フリーのECMを調製した。このECM上での細胞運動性を評価することで、自己分泌ECMの機能的役割を直接的に検証した。基底面へのFN沈着の定量には、全反射蛍光 (TIRF) 顕微鏡を使用し、固定・免疫染色した細胞下のFNシグナル強度および面積を測定した。

FNのエンドサイトーシスと分泌経路を解析するため、20 µg/mLのビオチン化FNを用いたパルス-チェース実験を実施した。細胞を1時間パルス後、24時間チェースし、細胞内FNおよび条件培地中の分泌FN量をウェスタンブロットで定量した。また、DyLight 550標識FNを用いたライブTIRFイメージングにより、基底面へのFN蓄積速度をリアルタイムで追跡した。蓄積速度はMatLabの共分散分析を用いて回帰直線の傾き係数を比較することで定量し、R2 > 0.9で線形フィットの良好性を確認した。

細胞内FNの局在を特定するため、Rab7 (後期エンドソームマーカー) およびLAMP1 (リソソームマーカー) との三重免疫染色を行い、共焦点顕微鏡でFN含有小胞の細胞内分布および共局在を評価した。特に、大型のFN含有puncta (直径 ≥2 µm) の出現頻度と、Rab7陽性区画のサイズを定量した。FN枯渇血清 (FN-depleted BGS) を用いた培養実験により、細胞内蓄積FNの主要な供給源が外来性FNであることを確認した。

後期エンドソーム-形質膜融合経路の関与を検証するため、shRNAを用いてSynaptotagmin-7 (Syt7) をKDした細胞株 (2クローン) を作製し、コルタクチンKD細胞と同様の運動性およびFN分泌表現型が再現されるかを評価した。

コルタクチンの機能に必要な分子的相互作用を特定するため、コルタクチン構造変異体を用いたレスキュー実験を実施した。具体的には、Arp2/3複合体結合欠損変異体 (W22A)、F-アクチン結合欠損変異体 (Δ4RP)、SH3ドメイン欠損変異体 (W525K)、Srcリン酸化部位変異体 (3Y)、およびErkリン酸化部位変異体 (S405A/S418A) をコルタクチンKD細胞に再発現させ、細胞運動性、FN沈着、および細胞内FN蓄積に対する影響を評価した。

統計解析は、特に記載がない限りStudent’s t検定を用いてMicrosoft Excelソフトウェアで実施した。ライブTIRFイメージングデータについてはMatLabを用いて共分散分析を行った。