- 著者: Moe Iwai, Miniwan Tulafu, Shinsaku Togo, Hideya Kawaji, Kotaro Kadoya, Yukiko Namba, Jin Jin, Junko Watanabe, Takahiro Okabe, Moulid Hidayat, Issei Sumiyoshi, Masayoshi Itoh, Yu Koyama, Yasuhiko Ito, Akira Orimo, Kazuya Takamochi, Shiaki Oh, Kenji Suzuki, Yoshihide Hayashizaki, Koji Yoshida, Kazuhisa Takahashi
- Corresponding author: Shinsaku Togo (Division of Respiratory Medicine, Juntendo University Faculty of Medicine & Graduate School of Medicine, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Molecular Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-03-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 33682233
背景
癌関連線維芽細胞 (CAF) は固形がんの腫瘍微小環境 (TME) において最も重要な間質細胞集団の一つであり、細胞外マトリックス (ECM) のリモデリング、がん細胞との直接接触、液性因子の分泌を通じてがんの発生、増殖、浸潤、転移を促進することが知られている Kalluri Nat Rev Cancer 2016。CAFは正常線維芽細胞 (NF) から転換し、α平滑筋アクチン (α-SMA)、線維芽細胞特異的タンパク (FSP1)、線維芽細胞活性化タンパク (FAP) などのマーカーを発現する活性化表現型を獲得する。非小細胞肺がん (NSCLC) の間質における高密度な線維化は予後不良と関連することが臨床的に知られているが、CAF特異的な転写プログラムとシグナル経路の詳細は未解明な点が多かった。
インテグリンは細胞とECMの間の接着・シグナル伝達を媒介するαサブユニットとβサブユニットからなるヘテロ二量体の膜貫通受容体である Hynes Cell 2002。ITGA11 (インテグリンα11) はコラーゲンI型を主なリガンドとする線維芽細胞特異的なインテグリンとして知られており、肝星状細胞や肺線維芽細胞の筋線維芽細胞分化・コラーゲン整理を促進することが報告されていた Carracedo J Biol Chem 2010。先行研究によりITGA11とCOL11A1 (コラーゲンXI型α1鎖) がNSCLCを含む複数のがん種でCAFを同定するサロゲートバイオマーカーとなりうることが示唆されていたが Chong Oncol Rep 2006、NSCLC患者由来CAFにおけるITGA11の機能的役割と発現制御機序は体系的に検討されていなかった。
COL11A1は膵臓がん・乳がん・卵巣がんなど多くのがん種でCAFの予後不良バイオマーカーとして確認されていた García-Pravia PLoS One 2013。ITGA11とCOL11A1は共にTGFβ1/SMADシグナルにより誘導されると報告されていたが Zhang Cancers 2018、SMAD非依存経路の関与は未検討であった。本研究グループは以前から肺線維芽細胞の線維化応答にERK5経路が関与することを報告しており Kadoya Cell Physiol Biochem 2019、ERK1/2とCAFの機能的関連も注目されていた。これらの背景から、NSCLCにおけるCAFの特異的な分子メカニズム、特にECMとの相互作用を介した遊走能の調節機構に関する知識が不足しており、新たな治療標的の同定が課題であった。
目的
本研究の目的は、NSCLC患者由来の癌関連線維芽細胞 (CAF) のゲノムワイドプロモーター活性プロファイルを、対応する正常肺線維芽細胞 (NF) とCAGE (cap analysis of gene expression) 解析を用いて比較し、CAF特異的に高発現する遺伝子を同定することである。特に、同定された遺伝子の中からITGA11 (インテグリンα11) に着目し、その発現制御機序、CAFの機能 (特に遊走能) への影響、およびNSCLC患者の臨床転帰との関連を詳細に解明することを目的とする。さらに、がん細胞とCAF間の相互作用がITGA11の発現とCAFの悪性表現型にどのように寄与するかを明らかにすることも目指す。これらの解析を通じて、NSCLCにおける新たな治療標的としてのITGA11の可能性を評価する。
結果
CAGEトランスクリプトーム解析によるCAF特異的発現遺伝子の同定: 16ペアのCAFとNFの比較において、FDR<1%を満たす有意な差異発現プロモーターが390個 (上方制御) および121個 (下方制御) 同定された。ヒートマップ解析では、3つの異なる表現型クラスターが識別された (Fig. 1B)。CAFで高発現する遺伝子として、既知のCAFマーカーであるPOSTNおよびPDPNに加え、COL11A1、ITGA11、およびその主要リガンドであるCOL1A1が同定された (Fig. 1A)。COL11A1とITGA11はそれぞれ4つのアイソタイププロモーターを、COL1A1は9つのプロモーターを活性化していた。Gene Ontology (GO) 解析では、ECM organization (COL11A1、ITGA11、COL1A1を含む) とcell adhesion (ITGA11、COL1A1を含む) の2つの主要なGO termがCAFで濃縮されており、ITGA11を介したECMとの相互作用がCAFのバイオ活性を促進する機序が示唆された。
NSCLC組織におけるITGA11・COL11A1発現と臨床的意義: 免疫組織化学 (IHC) 染色により、癌間質および癌上皮におけるITGA11およびCOL11A1のH-scoreは、正常肺組織と比較して有意に増加していた (P<0.0001) (Fig. 2B, C)。特に、癌間質におけるITGA11発現とCOL11A1発現の間には有意な正の相関が認められた (Spearman r=0.511、P=0.0006) が、癌上皮では相関は認められなかった (Table 1)。術後再発した患者群 (n=5 patients) の癌間質ITGA11 H-scoreは、非再発群と比較して有意に高かった (Mann-Whitney、P<0.05) (Fig. 2D)。一方、癌上皮でのITGA11発現は再発との相関を示さなかった (Fig. 2E)。病期別解析では、Stage 2B症例の癌間質ITGA11 H-scoreがStage 1A症例よりも有意に高値であり (一元配置ANOVA、P<0.05)、病期進行に伴う間質ITGA11の増加が確認された (Fig. 2F)。COL11A1のH-scoreは再発や病期との有意な相関を示さなかった。これらの結果は、CAFを含む癌間質におけるITGA11発現レベルが、癌上皮における発現よりも重要な予後バイオマーカーとして機能することを示唆している。
CAFとNFのタンパク質発現差異と遊走能: 16ペアのウェスタンブロット解析により、CAFにおけるITGA11タンパク質発現はNFと比較して有意に高かった (Wilcoxon、P=0.0002) (Fig. 3B)。COL11A1も同様にCAFで有意に高発現していた (P=0.0002) (Fig. 3C)。一方、フィブロネクチン受容体であるインテグリンα5およびインテグリンβ1の発現は、CAFとNF間で差がなかった (P=0.1167、P=0.9399) (Fig. 3D, E)。Boydenチャンバーアッセイでは、フィブロネクチン (20 μg/mL) へのCAFの遊走能はNF (471.2±121.7 cells/5HPF) に比べて有意に高かった (608.5±131.2 cells/5HPF、Mann-Whitney P=0.005、Wilcoxon paired P=0.0013) (Fig. 3F, G)。CAFの遊走能とITGA11タンパク質発現量の間には有意な正の相関が認められた (Spearman r=0.562、P=0.026) (Fig. 3H)。しかし、COL11A1発現と遊走能の相関は有意でなく (r=0.127、P=0.641)、組換えCOL11A1タンパク質の直接添加はHFL-1のフィブロネクチンへの遊走を促進しなかった。ITGA11の主要リガンドであるコラーゲンI (1 μg/mL) への遊走も、CAF (474.4±120.4 cells/5HPF) がNF (244.6±51.4 cells/5HPF) に比べて有意に高かった (P<0.001) (Fig. 3J)。
フィブロネクチン・コラーゲンIによるITGA11誘導とERK1/2シグナル: HFL-1細胞へのTGFβ1 (10 pM以上) 刺激は、24時間後からITGA11発現を有意に増加させた (Fig. 4C)。フィブロネクチン刺激 (20 μg/mL) は8時間後からITGA11発現を迅速に誘導した (Fig. 4D)。コラーゲンI (1 μg/mL) も48時間後から用量依存的にITGA11発現を増加させたが (Fig. 5B)、インテグリンα5・β1発現には影響しなかった (Fig. 5C, D)。ERK1/2阻害剤CAS 1049738-54-6 (10 μM) の処理は、TGFβ1誘導性のITGA11、COL11A1、フィブロネクチン発現を有意に抑制し (Fig. 6E-G)、HFL-1のフィブロネクチンおよびコラーゲンIへの遊走も用量依存的に抑制した (Fig. 6C, D)。一方、SMAD阻害薬 (SB431542) によるTGFβ1/SMAD3シグナル遮断はITGA11発現抑制に有効でなく、SMAD非依存のERK1/2経路がITGA11誘導の主経路であることが示された。CAFではNFに比べてp-ERK1/2タンパク質発現が有意に高く (Wilcoxon、P<0.05) (Fig. 6B)、ERK1/2シグナルがCAFで恒常的に活性化していることが示された。
ITGA11遺伝子修飾実験: siRNAによるITGA11ノックダウンはHFL-1のERK1/2リン酸化を有意に抑制し (Fig. 8H)、フィブロネクチンおよびコラーゲンIへの遊走を有意に低下させた (Fig. 8J, K)。一方、SMAD3リン酸化、COL11A1、インテグリンα5、β1、フィブロネクチン、α-SMA発現には影響しなかった (Fig. 8C-G, I)。NIH 3T3マウス胚線維芽細胞へのITGA11過剰発現は、α-SMA発現増加とフィブロネクチンへの遊走増強を誘導した (Fig. 8L, M)。
がん細胞-CAF相互作用によるITGA11誘導: 肺腺癌A549細胞培養液は、BEAS-2B (正常気道上皮) やHFL-1培養液と比較して、HFL-1細胞のITGA11発現を72時間後に有意に増加させた (P=0.007) (Fig. 7A)。COL11A1も48時間および72時間後に有意に増加した (48時間; P=0.007、72時間; P=0.0317) (Fig. 7B)。インテグリンα5・β1発現はA549条件培地で変化しなかった (Fig. 7C, D)。逆に、CAFの培養上清はNF培養上清と比較してA549遊走を有意に促進した (P=0.0313) (Fig. 7E)。これらの結果は、がん細胞-CAF双方向の相互作用がITGA11+/COL11A1+ CAF表現型を維持するフィードバック回路を形成することを示している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究はNSCLCに焦点を当て、ゲノムワイドCAGE解析という高感度プロモーター活性測定法を用いてCAFとNFの包括的転写差異を初めて体系的に明示した点で、これまでの研究とは異なる。これまでの研究では、TGFβ1がSMAD経路を介してITGA11とCOL11A1を誘導すると報告されていたが、本研究ではSMAD非依存的なERK1/2経路がITGA11誘導の主経路であることが示された点で、これまでの知見と異なっている。また、CAFの遊走能とITGA11発現が正の相関を示し、COL11A1は直接的な走化性因子ではないことが明らかになった点も、COL11A1がCAFのバイオマーカーとして注目されてきた先行研究とは異なる詳細な機能的役割を示している。
新規性: ITGA11のCAF特異的高発現と遊走能への機能的寄与は以下の点で新規性が高い。第一に、CAFの遊走促進がフィブロネクチン受容体であるインテグリンα5β1を介するのではなく、主にITGA11を介していることが示された点である。先行研究でα5β1中和抗体はTGFβ1刺激線維芽細胞のフィブロネクチンへの遊走を部分的にしか抑制しないことが知られていたが、その残存遊走をITGA11が担う可能性が本研究で初めて示された。第二に、ITGA11誘導がTGFβ1/SMAD3ではなくERK1/2を介することが示された点である。これは、SMAD阻害薬によるCAF制御に限界がある臨床状況において、ERK1/2-ITGA11軸が代替的な介入点となりうることを意味する。
臨床応用: 「ITGA11+/COL11A1+ CAF」というサブタイプがNSCLCの腫瘍促進性CAF集団の特異的マーカーとして機能する可能性は、CAFの機能的不均一性の理解を深める。間質ITGA11高発現が術後再発と病期進行に相関するという臨床データは、ITGA11がECM豊富なTMEでCAFの遊走を増強し腫瘍間質のECMバリアを再構築することで、がん細胞浸潤を促進することと整合する。この知見は、ITGA11+/COL11A1+ CAFを標的とすることで、NSCLCの進行を抑制する新規抗腫瘍戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、ITGA11+/COL11A1+ CAFが免疫細胞の浸潤・排除に与える影響、免疫チェックポイント阻害療法への影響、in vivoでのITGA11阻害の腫瘍抑制効果検証などが挙げられる。本研究は外科切除検体由来の原代CAFを使用しており、治療歴のない早期〜中期NSCLCが対象であった点 (Stage I 11/16例) は、進行期症例や化学療法後の症例への一般化には注意が必要であるというlimitationがある。CAFが予後に与える影響が研究によって異なることも踏まえ、ITGA11+/COL11A1+ CAFの臨床的意義をより大規模なコホートで検証することが今後の課題である。
方法
患者検体と細胞培養: 順天堂大学医学部附属病院胸部外科でNSCLC切除術を受けた患者16例から、腫瘍組織中心部よりCAFを、できる限り遠位の肺実質組織より対応するNF (対照) を単離した。患者は年齢44〜79歳 (平均63.9±9.6歳)、男性13例、女性3例。病理病期はStage I 11例・Stage II 2例・Stage III 2例・Stage IV 1例。腺癌11例・扁平上皮癌5例。原代線維芽細胞の第4〜6継代を実験に使用した。HFL-1ヒト胎児肺線維芽細胞 (CCL-153) とA549肺腺癌細胞株 (CCL-185) はATCCから購入し、NIH 3T3マウス胚線維芽細胞 (EC93061524-F0) とBEAS-2Bヒト正常気管支上皮細胞 (EC95102433) はECACCから購入した。細胞は10% FCSと抗生物質を添加したDMEMで培養した。
CAGEトランスクリプトーム解析: 16ペアのCAF・NF試料からCAGEライブラリーを作製し、Illumina HiSeq2500でシークエンスした。FANTOM5プロジェクトの転写開始点参照セットを基準としてゲノム全域のプロモーター活性を定量した。リード数を相対対数発現 (RLE) 法で正規化し、Robinson et al. Bioinformatics 2010で差異発現解析を実施 (FDR<1%を有意差基準)。Gene Ontology (GO) 解析はHuang et al. NatProtoc 2009を用いた。リードのアライメントにはLi et al. Bioinformatics 2009を使用した。
免疫組織化学 (IHC): 41例のNSCLC組織切片にITGA11 (Ab198826、Abcam、1:100)・COL11A1 (Ab64883、Abcam、1:100) 一次抗体で免疫染色を行った。染色強度 (I: 0〜+3) と陽性面積 (PC: 0〜3) の積でH-scoreを算出 (0〜9点)。2名の観察者が盲検評価した。癌間質・癌上皮・正常肺でのH-scoreを比較した。術後再発群 (n=25 patients) と非再発群、および病期別での間質ITGA11発現を解析した。Spearman相関でITGA11・COL11A1発現の相関を評価した。
機能実験:
- 遊走アッセイ: Boyden盲膜チャンバー (8 μm孔) を用いた線維芽細胞遊走アッセイを実施した。フィブロネクチン (20 μg/mL) またはコラーゲンI (1 μg/mL) を誘引物質として使用した。CAF遊走能とITGA11発現の相関をSpearman検定で評価した。
- 刺激実験: TGFβ1 (10 pM)、フィブロネクチン、コラーゲンIによる刺激後のITGA11、COL11A1、α-SMA、フィブロネクチン発現変化をウェスタンブロット (WB) で評価した。
- シグナル経路解析: ERK阻害剤CAS 1049738-54-6 (10 μM) およびALK5阻害剤SB431542を用いて、TGFβ1誘導性のITGA11、COL11A1、フィブロネクチン発現と遊走能への影響を評価した。
- 遺伝子ノックダウン: siRNA (3種) でITGA11をノックダウンし、その後の遊走能、ERK1/2活性化、SMAD3活性化を評価した。
- 遺伝子過剰発現: レトロウイルスベクターを用いてNIH 3T3マウス胚線維芽細胞にITGA11を過剰発現させ、α-SMA発現と遊走能を評価した。
- がん細胞-線維芽細胞相互作用: A549肺腺癌細胞の条件培地刺激によるHFL-1でのITGA11・COL11A1発現変化を評価した。また、CAFの培養上清がA549細胞の遊走に与える影響も評価した。
統計解析: CAF・NF間のペア解析はWilcoxon検定を用いた。非対応2群比較はMann-Whitney U検定またはStudent’s t検定を用いた。複数群比較にはBonferroni補正またはDunnett検定を用いた。CAGE発現はedgeRでFDR<1%を有意差基準とした。P<0.05を有意差基準とし、PRISM 7ソフトウェア (GraphPad Inc.) を使用して解析した。