• 著者: Yano T, Yokoyama H, Inoue T, Asoh H, Tayama K, Takai E, Ichinose Y
  • Corresponding author: Tokujiro Yano (Department of Chest Surgery, National Kyushu Cancer Center, Fukuoka, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery
  • 発行年: 1994
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 7934102

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) において、外科的完全切除は長期生存を期待しうる最も有効な治療手段であるが、術後に高頻度で発生する再発が予後を規定する主要因である。切除後の再発パターン、とりわけ初回再発部位の臓器分布を正確に把握することは、術後サーベイランスプロトコルの最適化および再発後の治療戦略立案において臨床的に重要な課題である。

NSCLCは完全切除後であっても脳・肺・骨・肝臓・副腎などの遠隔臓器に血行性転移を来すことが広く知られている。Kotlyarov & Rukosuyev (1991) はラジカル手術後の肺癌長期成績において遠隔再発が主たる再発形式であることを示した。Feld et al. (1984) は切除Stage I NSCLC症例の初回再発部位を詳細に検討し、脳・骨・肺が主要な遠隔転移臓器であることを報告している (J Clin Oncol 1984)。Ludwig Lung Cancer Study Group (1987) はStage I・II NSCLC切除後の再発パターンを多施設データで解析し、再発形式と病期との関連を検討した (Ann Surg 1987)。Immerman et al. (1981) もStage I・II NSCLC切除治癒例における再発部位を記述し、術後サーベイランスの重要性を強調している (Ann Thorac Surg 1981)。

しかし、これらの先行研究の多くは主にpN0疾患とpN1疾患の比較にとどまっており、縦隔リンパ節転移を有するpN2疾患を対象としてpN0疾患と直接対比した詳細な検討は極めて不足していた。解剖学的観点から、pN0疾患ではリンパ節転移がないため腫瘍細胞は肺静脈から体循環に直接流入し、脳をはじめとする全身臓器へ転移しやすいと考えられる。これに対しpN2疾患では、縦隔N2リンパ節に到達した腫瘍細胞がリンパ管から上大静脈 (SVC) を経由して肺循環(右心系)へ流入するという追加的な排液経路が存在し、血行性肺転移の頻度が相対的に上昇するとの解剖学的仮説が提唱されていたが、これを裏付ける系統的な臨床データは存在せず、リンパ節病期が転移臓器選択性に与える影響に関する知識のギャップが残されており、pN2疾患においてなぜ特定の臓器への転移が優勢となるかというメカニズムは未解明であった。

目的

完全切除が施行されたNSCLC患者において、病理学的リンパ節病期がpN0の症例とpN2の症例における術後初回再発部位の頻度およびパターンを比較検討すること。特に、pN2疾患に特有の縦隔N2リンパ節から上大静脈を介して肺循環に至る解剖学的排液経路が術後の血行性肺転移頻度上昇に寄与するという仮説を臨床データで検証し、病期に応じた個別化術後サーベイランス策定に資するエビデンスを提供する。

結果

術後再発率と再発様式の全体像: pN0群 n=231 例のうち術後再発が確認されたのは n=72 例 (31.2%) であった。一方、pN2群 n=63 例のうち再発を来したのは n=52 例 (82.5%) であり、pN2群において再発率が顕著に高かった。初回再発の診断時に2つの異なる部位への同時再発が確認された症例は、pN0群では n=72 例中2例 (2.8%)、pN2群では n=52 例中4例 (7.7%) に認められた。これらの重複症例を含めると、再発が確認された計124例の患者において合計130箇所の初回再発部位が同定され、以下の詳細解析の対象とした。

再発様式(遠隔転移 vs. 局所再発)の分布を群間で比較すると、pN0群では74箇所の再発のうち遠隔転移が52箇所 (70.3%)、局所再発が22箇所 (29.7%) であった。pN2群では56箇所の再発のうち遠隔転移が40箇所 (71.4%)、局所再発が16箇所 (28.6%) であり、両群間で再発様式の比率に統計学的な有意差は認められなかった (Table 1)。この結果は、リンパ節病期にかかわらず完全切除後NSCLCにおける再発の約70%が遠隔転移として発現することを示しており、局所再発と遠隔転移の比率はpN病期によって変化しないことが明らかとなった。完全郭清を施行した症例のみを対象としたことで、術式の不完全さに由来する局所再発バイアスが排除されており、この点が本研究の結果の信頼性を高めている。

初回遠隔転移部位における病期依存性の臓器選択性 — p=0.044: 初回遠隔転移を来したpN0群52例とpN2群40例の転移部位分布を詳細に比較したところ、両群間で有意な差が認められた (p=0.044) (Table 2)。pN0群においては脳転移が20例 (38.5%) で最多の初回遠隔転移部位となり、次いで骨転移12例 (23.1%)、肺転移10例 (19.2%)、その他8例 (15.4%)、肝転移2例 (3.8%) と続いた。これに対しpN2群では、肺転移が12例 (30.0%) で骨転移12例 (30.0%) と並んで最多となり、脳転移は6例 (15.0%) にとどまった。その他7例 (17.5%)、肝転移3例 (7.5%) が続いた。すなわち、pN0群で脳転移 (38.5%) が突出した最頻転移臓器であるのに対し、pN2群では脳転移の割合が15.0%へと大幅に低下し、代わって肺転移が30.0%と相対的に上昇して最頻転移臓器となった。この転移臓器選択性の有意差 (p=0.044) は本研究の最も重要な発見であり、リンパ節病期が転移臓器の選択を規定するという仮説の直接的証拠となっている (Table 2)。

pT1サブグループでの解剖学的仮説の鮮明な裏付け: 腫瘍径が小さく早期に相当するpT1症例に限定したサブグループ解析において、リンパ節病期による転移部位の差異が最も顕著に現れた。pT1N2症例では初回遠隔転移部位の55.6%以上が肺転移であった一方、pT1N0症例における初回遠隔転移部位に占める肺転移の割合は10%未満にとどまった(詳細データは本文中に記載)。この対比は注目に値する。pT1という腫瘍径の小さい早期症例においても、縦隔N2転移 (pN2) が存在するだけで肺転移の頻度が著明に上昇するという結果は、腫瘍の局所的な大きさや進展とは独立して、N2リンパ節転移という因子そのものが排液経路を規定し、転移臓器を決定するという解剖学的メカニズムの強力な支持証拠となっている。換言すれば、たとえ原発腫瘍が小さくても縦隔リンパ節転移が存在する場合には、肺転移に対する術後監視を優先すべきであることを示唆している。なお、このpT1サブグループ解析結果は全体解析 (Table 2) と整合しており、大きな偏りによるものではないと考えられる。

組織型を超えて一貫するpN2での肺転移優位パターン: 扁平上皮癌 (squamous cell carcinoma) と非扁平上皮癌(腺癌54例・腺扁平上皮癌5例・大細胞癌5例を含む)に分けた解析においても、リンパ節病期に伴う転移パターンの傾向は一貫して維持された (Table 3)。非扁平上皮癌では、pN0群 (n=33) において脳転移が48.5% (16例) と最多であったのに対し、pN2群 (n=31) では脳転移が19.4% (6例) に低下し、肺転移が25.8% (8例)・骨転移が32.2% (10例) と増加した。扁平上皮癌でも同様に、pN0群 (n=19) では脳転移21.0% (4例)、骨転移21.0% (4例)、肺転移26.3% (5例) であったのに対し、pN2群 (n=9) では脳転移が0% (0例) と消失する一方で肺転移が44.4% (4例) と著明に増加した。組織型を問わず、pN2の条件下では肺転移が相対的に増加し脳転移が相対的に減少するというパターンが一貫して観察されたことは (Table 3)、この転移臓器選択性がNSCLCの組織型よりもリンパ節病期という解剖学的因子に依存することを示している。組織型の多様性を超えてこの傾向が維持されたことで、解剖学的排液経路という仮説はより普遍的な裏付けを得ている。

考察/結論

本研究の主要な知見は、NSCLC完全切除後における初回遠隔転移部位のパターンが、病理学的リンパ節病期 (pN0 vs. pN2) によって統計学的に有意に異なることである (p=0.044) (Table 2)。pN0疾患では脳転移が最多 (38.5%) であるのに対し、pN2疾患では肺転移 (30.0%) が脳転移 (15.0%) を上回り、この差は組織型を問わず一貫していた (Table 3)。また、pT1という早期例に限定したサブグループでも、N2転移の有無のみで肺転移割合が55.6%以上対10%未満という顕著な対比が生じており、腫瘍のサイズより病期が転移臓器選択性を規定することを示している。

これまでの研究 (Feld et al. 1984, Immerman et al. 1981, Ludwig Lung Cancer Study Group 1987) と異なり、本研究はpN0疾患とpN2疾患を直接対比する設計を採用した。先行研究では術後の同側・対側肺内病変を「胸腔内局所制御不全」として一括分類する手法が多く用いられていたが、本研究では病態生理学的解析の精度を高めるため、手術断端以外の肺内病変を血行性遠隔転移と厳格に再定義し分類した点が対照的である。また、全領域リンパ節郭清を伴う肺葉切除または全肺切除のみを対象とすることで、術式の不完全さに起因する局所再発バイアスを排除した。同グループは併せて、N1疾患においても肺門性N1 (Nos. 10・11) の再発パターンはN2疾患に類似し、葉性N1 (Nos. 12・13) はN0疾患に類似するという知見を報告しており (Yano et al. 1994, J Thorac Cardiovasc Surg)、リンパ節転移の解剖学的位置が転移臓器選択性の規定因子であることをさらに裏付けている。

新規性の観点から、本研究はpN2疾患における術後肺転移の相対的増加が、縦隔N2リンパ節から上大静脈 (SVC) を経由して肺循環(右心系)に至る解剖学的排液経路という特定の解剖学的要因に起因する可能性を、実臨床コホートデータに基づいて初めて系統的に提示したものである。これまで報告されていない新規な知見として、この解剖学的仮説が組織型・腫瘍径を超えた普遍性を持つことを実証した点は特筆される。pN0ではリンパ節転移がないため腫瘍細胞が肺静脈から体循環に直接流入して脳・骨などへ到達しやすいのに対し、pN2ではN2リンパ節からSVCへの追加経路が生じることで右心・肺循環を経た肺実質への播種が優勢となるというメカニズムは、本研究の定量的な結果と一致している。

臨床的意義として、本知見はNSCLC切除後の術後サーベイランス戦略の個別化に直結する。pN0患者では脳転移の頻度が高いため、定期的な頭部画像診断(MRIまたはCT)の優先度が高く、症状がなくとも脳転移スクリーニングを積極的に検討すべきである。一方、pN2患者では肺転移の頻度が高いため、術後に新規肺結節が出現した際には二次原発癌よりも転移性病変を優先的に疑うことが臨床現場における適切な判断となる。このように病期に応じた臓器特異的サーベイランスを設計することで、より効率的な再発の早期発見が可能となり、病期依存的なフォローアップ計画の構築に資する臨床的意義は大きい。

残された課題として、本研究にはいくつかのlimitationが存在する。単施設後ろ向き研究であること、pN2群が n=63 例と比較的小規模であること、再発診断時の画像検索プロトコルが症例間で均一化されていない点(症状依存型の追加検査アプローチが多数を占めた)が挙げられる。また、肺転移の診断を多発性肺結節に限定した保守的定義の採用により、孤立性肺転移例の一部が過小評価されている可能性がある。本研究グループは本研究の結果を確認するため、全身CTと骨シンチグラフィを6ヶ月ごとに定期実施する前向きコホートによる検証を進めており、多施設共同研究での大規模な再現検証が今後の検討課題として残されている。

方法

1980年から1990年までに国立九州がんセンター呼吸器外科においてNSCLCに対して完全切除が施行された348例を対象とした単施設後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study) である。完全切除は、肺葉切除または一側全肺切除に加えて同側の肺門・縦隔リンパ節の全領域郭清が施行され、かつ病理組織学的に切除断端陰性(R0切除)が確認された症例と定義した。楔状切除・区域切除など限局手術例は対象から除外している。病期分類は当時の国際肺癌病期分類システム (Mountain CF, Chest 1986) に準拠した。

n=348 例のうち病理学的リンパ節病期がpN0であった n=231 例とpN2であった n=63 例を抽出して比較解析を行った。術後フォローアップは術後2年間は2ヶ月ごと、以降は3〜4ヶ月ごとに外来受診を実施した。ルーチン評価として身体診察・胸部X線・血算・血清生化学を施行し、一部症例では年1回の胸腹部CTスキャン・骨シンチグラフィ・気管支鏡検査を定期実施したが、多数の症例では再発関連症状が出現した時点で画像検査を追加した。ただしいずれかの部位で再発が確認された全例に対しては、無症状転移の網羅的検索のため全身CTおよび骨シンチグラフィを直ちに実施する厳格なプロトコルを適用した。

局所再発 (locoregional recurrence) の定義は、同側胸腔内(同側肺内病変を除く)、同側鎖骨上窩リンパ節、または縦隔における再発とした。同側肺内病変については手術断端(切除ライン)に直接接する病変のみを局所再発と判定し、それ以外の肺内病変はすべて遠隔転移とみなした。肺転移(血行性遠隔転移)の診断は、二次原発肺癌との厳格な鑑別のため、画像上で多発性肺結節として確認された症例のみに限定した。統計解析には病理学的リンパ節病期 (pN0 vs. pN2) と初回再発部位との関連を評価するために chi-square test (χ2検定) を使用し、両側 p=0.05 未満を有意差ありと判定した。