- 著者: Nicholas J. Vogelzang, James J. Rusthoven, James Symanowski, Claude Denham, E. Kaukel, Pierre Ruffie, Ulrich Gatzemeier, Michael Boyer, Salih Emri, Christian Manegold, Clet Niyikiza, Paolo Paoletti
- Corresponding author: Nicholas J. Vogelzang (University of Chicago Cancer Research Center, Chicago, IL)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2003
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase III randomized controlled trial)
- PMID: 37068377
背景
悪性胸膜中皮腫 (MPM: Malignant Pleural Mesothelioma) は、アスベスト曝露と強く関連する局所浸潤性かつ急速進行性の悪性腫瘍である。その予後は極めて不良であり、支持療法のみでの生存期間中央値は6ヶ月と報告されている (Ruffie 1991, DePangher-Manzini 1993)。また、11の多施設化学療法試験における337例のMPM患者の生存期間中央値は7ヶ月であった (Herndon et al. 1998)。外科的切除はごく少数の患者にのみ適応があり、5年生存率は15%未満にとどまる (Sugarbaker et al. 1996, Rusch et al. 1999, Boutin et al. 1998)。放射線療法も、正常肺、心臓、脊髄への毒性回避が困難であるため、その実施は限定的であり、効果も期待外れであった (Law et al. 1984, Sterman et al. 1999)。
本試験が実施された1999年から2001年当時、MPMに対する承認された標準化学療法は存在しなかった。シスプラチン単独療法やゲムシタビンとシスプラチンの併用療法など、複数の薬剤が第II相試験で評価されていたものの、奏効率は16.7%程度に留まっていた (Byrne et al. 1999, van Haarst et al. 2002)。過去に実施されたMPMの無作為化比較試験は、多くが検出力不足であり、生存期間中央値も6〜8ヶ月と改善が見られなかった (Sorensen et al. 1985, Samson et al. 1987, Chahinian et al. 1993, Vogelzang et al. 2000)。これらの結果から、MPMに対する有効な治療法の開発が喫緊の課題として認識されていたが、既存治療では十分な効果が得られておらず、新たな治療法の確立が不足していた。
ペメトレキセド (Pemetrexed) は、多標的葉酸代謝拮抗薬であり、チミジル酸シンターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼという、プリンおよびピリミジン合成に関わる3つの酵素を阻害する (Schultz et al. 1999, Mendelsohn et al. 1999)。この薬剤は、MPM細胞に対して前臨床試験および第I/II相試験で有望な活性を示していた。特に、シスプラチンとペメトレキセドの併用療法に関する第I相試験では、11例のMPM患者中5例 (45%) で部分奏効 (PR) が認められ、その奏効率は非常に高かった (Thodtmann et al. 1999)。しかし、この第I相試験ではGrade 3/4の好中球減少症や貧血が高頻度で報告されており、毒性の管理が課題として残されていた。これらの有望な初期結果と、非小細胞肺癌患者におけるペメトレキセドとシスプラチンの併用療法が良好な忍容性を示した第II相試験の結果 (Shepherd et al. 2001) に基づき、MPMに対する大規模な第III相試験の実施が計画された。これにより、MPMの治療成績を改善するための新たな標準治療が確立される可能性が期待された。しかし、ペメトレキセドの毒性管理に関する知見はまだ未解明な部分が多く、その最適化が重要な課題であった。
目的
本研究の目的は、化学療法未治療の悪性胸膜中皮腫 (MPM) 患者を対象に、ペメトレキセド (500 mg/m²) とシスプラチン (75 mg/m²) の3週ごと併用投与療法が、シスプラチン単独 (75 mg/m²) の3週ごと投与療法と比較して、全生存期間 (OS) において優越性を示すかどうかを検証することであった。主要評価項目はOSとし、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (ORR)、治療失敗までの期間、および安全性プロファイルが評価された。特に、ペメトレキセドの毒性軽減を目的とした葉酸およびビタミンB12補充の効果についても詳細に検討し、その有効性と安全性への影響を評価することも重要な目的の一つであった。本試験は、MPMに対する新たな標準治療を確立することを目指した。
結果
全生存期間 (主要エンドポイント) の有意な改善: ITT集団において、ペメトレキセド+シスプラチン群のOS中央値は12.1ヶ月 (95% CI 10.0-14.4ヶ月) であったのに対し、シスプラチン単独群では9.3ヶ月 (95% CI 7.8-10.7ヶ月) であった。この差は統計学的に有意であり、ハザード比 (HR) は0.77 (95% CI 0.61-0.96, p=0.020) であった (Table 3, Figure 1A)。1年生存率は、ペメトレキセド+シスプラチン群で50.3% (p=0.012) であり、シスプラチン単独群の38.0%と比較して有意な改善が認められた。葉酸とビタミンB12の完全補充を受けたサブグループ (FS) では、ペメトレキセド+シスプラチン群のOS中央値は13.3ヶ月、シスプラチン単独群では10.0ヶ月であり、HRは0.75 (95% CI 0.58-0.97, p=0.051) と統計的有意性に近づく結果であった (Table 3, Figure 1B)。FSと一部補充群 (PS) を合算したサブグループでは、OS中央値はペメトレキセド+シスプラチン群で13.2ヶ月、シスプラチン単独群で9.4ヶ月であり、HRは0.71 (95% CI 0.55-0.92, p=0.022) と有意な改善を示した。
無増悪生存期間 (PFS) および奏効率 (ORR) の顕著な向上: ITT集団において、ペメトレキセド+シスプラチン群のPFS中央値は5.7ヶ月 (95% CI 4.9-6.5ヶ月) であり、シスプラチン単独群の3.9ヶ月 (95% CI 2.8-4.4ヶ月) と比較して有意に長かった (HR=0.68, 95% CI 0.57-0.81, p=0.001) (Table 3, Figure 2A)。FSサブグループでも同様に、ペメトレキセド+シスプラチン群のPFS中央値は6.1ヶ月、シスプラチン単独群では3.9ヶ月であり、HRは0.64 (95% CI 0.51-0.80, p=0.008) と有意な改善が認められた (Figure 2B)。奏効率 (ORR) は、ペメトレキセド+シスプラチン群で41.3% (95% CI 34.8-48.1%) であったのに対し、シスプラチン単独群では16.7% (95% CI 12.0-22.2%) と、統計学的に極めて有意な差が認められた (Fisher’s exact p<0.0001) (Table 3)。すべての奏効は部分奏効であり、完全奏効は認められなかった。FSサブグループにおけるORRはさらに高く、ペメトレキセド+シスプラチン群で45.5%、シスプラチン単独群で19.6%であった。
治療完遂率と投与強度: ペメトレキセド+シスプラチン群の患者は、シスプラチン単独群の患者よりも多くの治療サイクルを完遂した。ペメトレキセド+シスプラチン群の中央値サイクル数は6サイクル (範囲1-12サイクル) であり、4サイクル以上を完遂した患者は71.2%、6サイクル以上を完遂した患者は53.1%であった。一方、シスプラチン単独群の中央値サイクル数は4サイクル (範囲1-9サイクル) であり、4サイクル以上を完遂した患者は55.4%、6サイクル以上を完遂した患者は40.1%であった (Table 2)。各治療群内では、ビタミン補充を受けた患者は補充を受けなかった患者よりも多くのサイクルを完遂する傾向が見られた。投与強度 (DI) は両群ともに計画されたDIの90%以上と高く、効率的な薬剤投与が実施された。ペメトレキセドの平均DIは153.4 mg/m²/週であり、シスプラチンの平均DIはペメトレキセド併用群で23.2 mg/m²/週、単独群で24.1 mg/m²/週であった。
安全性プロファイルとビタミン補充による毒性軽減効果: Grade 3/4の血液毒性として最も頻繁に報告されたのは好中球減少症と白血球減少症であった (Table 4)。ペメトレキセド+シスプラチン群全体では、Grade 3/4好中球減少症が27.9%、Grade 3/4白血球減少症が17.7%で認められた。ビタミン補充の有無による比較では、ペメトレキセド+シスプラチン群において、完全補充群 (FS) の患者ではGrade 3/4好中球減少症の発生率が23.2%であったのに対し、一部補充群 (PS) および補充なし群 (NS) を合わせた患者では41.4%と有意に高かった (p=0.011) (Table 5)。同様に、Grade 3/4白血球減少症もFS群で14.9%、PS/NS群で25.9%と、FS群で低い傾向が見られた (p=0.072)。非血液毒性では、悪心、嘔吐、疲労、下痢、脱水、口腔粘膜炎の発生率がペメトレキセド+シスプラチン群でシスプラチン単独群よりも有意に高かった (Table 4)。しかし、FSサブグループではこれらの非血液毒性も一貫して軽減されており、発熱性好中球減少症の発生率は1%未満であった。
治療関連死亡の減少: 治療期間中または最終投与後30日以内に発生した治療関連死亡は、ペメトレキセド+シスプラチン群で14例 (6.2%)、シスプラチン単独群で8例 (3.6%) であった。ペメトレキセド+シスプラチン群における治療関連と判断された死亡3例は、すべてビタミン補充が義務化される前に発生しており、補充義務化後は治療関連死亡はゼロであった。残りの死亡は疾患関連と判断された。これらの結果は、葉酸とビタミンB12の補充がペメトレキセド+シスプラチン療法の忍容性を大幅に改善し、重篤な毒性および治療関連死亡のリスクを低減することを示している。
肺機能、QoL、臨床症状の改善: 本試験では、肺機能 (努力肺活量 [FVC] および1秒量 [FEV1]) の改善、疼痛の軽減、および臨床的改善率においてもペメトレキセド+シスプラチン群がシスプラチン単独群よりも有意に優れていることが示された。特に、呼吸困難や疼痛スコアの改善を含む臨床症状改善率は、ペメトレキセド+シスプラチン群で41.3%、シスプラチン単独群で28.9%であり、生存期間の延長に加えて患者のQoL向上にも寄与することが示唆された。疾患コントロール率 (CR+PR+SD) は、ペメトレキセド+シスプラチン群で70%以上、シスプラチン単独群では約50%と推定され、疾患の安定期間の延長も確認された。
考察/結論
本第III相試験は、化学療法未治療の悪性胸膜中皮腫 (MPM) 患者において、ペメトレキセドとシスプラチンの併用療法がシスプラチン単独療法と比較して、全生存期間 (OS) を有意に改善することを世界で初めて大規模な無作為化比較試験で実証した。OS中央値は12.1ヶ月 vs 9.3ヶ月 (HR=0.77, 95% CI 0.61-0.96, p=0.020) であり、1年生存率では50.3% vs 38.0%と12.3%の絶対差が示された。この結果は、MPMの治療成績を大きく向上させる画期的なものであり、2004年の米国FDAおよび欧州EMAによるペメトレキセド+シスプラチンのMPM一次治療としての承認根拠となった。
先行研究との違い: これまでのMPMに対する化学療法試験では、生存期間の有意な改善を示すものはほとんどなく、奏効率も低かった。本研究は、過去の小規模で検出力不足の試験 (Samson et al. 1987, Vogelzang et al. 2000) と異なり、大規模な患者集団 (n=456) を対象とすることで、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある生存期間の延長を明確に示した。特に、非小細胞肺癌におけるシスプラチン含有レジメンの推奨根拠となった6週間の生存期間改善と比較して、本試験で示された2.8ヶ月のOS延長は、より大きな臨床的意義を持つ。
新規性: 本研究で初めて、葉酸とビタミンB12の補充がペメトレキセドの毒性を大幅に軽減する効果を実証したことは、極めて新規性の高い知見である。補充によりGrade 3/4の好中球減少症が41.4%から23.3%へと約半減し (p=0.011)、治療関連死亡がゼロに抑制された。この補充プロトコールは、本試験の結果に基づいて直ちに実臨床に導入され、現在もペメトレキセド投与時の標準的な管理方法として世界中で採用されている。これにより、ペメトレキセドの忍容性が向上し、より多くの患者が治療を継続できるようになった。
臨床応用: 本試験の結果は、悪性胸膜中皮腫の治療パラダイムを根本的に変革した。ペメトレキセド+シスプラチン併用療法は、約20年間にわたりMPMの唯一の承認された標準一次治療として確立され、その後のすべてのMPM臨床試験 (抗血管新生療法、免疫療法、標的療法など) の参照基準となった。本知見は、希少疾患であるMPM患者の予後を改善し、臨床現場での治療選択肢を大きく広げた点で、極めて高い臨床的有用性を持つ。
残された課題: 本試験にはいくつかのlimitationも存在する。コントロール群患者のペメトレキセドへのクロスオーバーは許可されなかったものの、二次治療はプロトコールで厳密に管理されていなかった。その結果、ペメトレキセド+シスプラチン群の37.6%に対し、シスプラチン単独群の47.3%が二次化学療法を受けていた。この二次治療の頻度の差が、コントロール群の生存期間を延長させる可能性があったにもかかわらず、ペメトレキセド+シスプラチン群の有意な治療効果は維持された。また、本試験は単盲検デザインであり、レスポンスや病勢進行までの期間といったアウトカム評価が、治療割り付けを知る治験責任医師のバイアスを受ける可能性があった。しかし、病勢進行までの期間や治療失敗までの期間といった客観的なエンドポイントも有意に改善されており、これらの結果は二次治療や盲検性の影響を受けにくいと考えられる。今後の検討課題として、長期生存患者の特性解析や、新たな治療法(例:免疫チェックポイント阻害薬)との併用療法の最適化が挙げられる。
方法
試験デザイン: 本試験は、1999年4月から2001年3月にかけて実施された多施設共同、無作為化、単盲検 (患者のみ盲検化) の第III相比較試験である。本試験は、Eli Lilly and Companyの支援を受け実施された (NCT00003923)。主要評価項目は全生存期間 (OS) とし、副次評価項目として病勢進行までの期間 (TTP)、治療失敗までの期間、腫瘍奏効率、および奏効期間が設定された。肺機能検査、肺密度解析、QoL評価は別途報告されることになっていた。
患者選択: 組織学的に悪性胸膜中皮腫と診断され、治癒的手術の適応外である患者が対象とされた。主な選択基準は以下の通りである: 18歳以上、生存期待期間12週以上、Karnofsky performance status (PS) 70以上、測定可能病変の存在、および前治療化学療法歴がないこと。除外基準には、二次原発悪性腫瘍、脳転移、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) の中断ができない患者などが含まれた。
無作為化と層別化: 適格患者は、ペメトレキセド+シスプラチン群またはシスプラチン単独群に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は以下のベースライン因子で層別化された: 治療施設、国、登録時の疼痛レベル、鎮痛剤使用状況、呼吸困難の有無、PS、病変測定可能性の程度、組織型、性別、ベースライン白血球数、およびベースライン血清ホモシステイン値。
治療プロトコール: ペメトレキセドは500 mg/m²を10分かけて静脈内投与し、その30分後にシスプラチン75 mg/m²を2時間かけて静脈内投与した。これを21日サイクルで繰り返した。シスプラチン単独群の患者には、ペメトレキセドの代わりに同量の生理食塩水が投与された。
葉酸・ビタミンB12補充の追加: 試験開始後、最初の43例中3例のペメトレキセド+シスプラチン群患者で治療関連死 (Grade 4好中球減少症および下痢) が報告された。これらの重篤な毒性が高ホモシステイン血症およびメチルマロン酸血症と関連していることが示唆されたため (Niyikiza et al. 2002)、1999年12月2日以降、すべてのペメトレキセド投与患者およびその後登録される患者に対して、葉酸350〜1,000 µg/日 (経口、化学療法開始1〜3週前から開始し治療期間中継続) とビタミンB12 1,000 µg (筋肉内注射、化学療法開始1〜3週前に初回投与し9週ごとに反復) の補充が義務化された。この変更により、補充なし群 (NS)、一部補充群 (PS)、完全補充群 (FS) の3つのサブグループが形成された。患者の盲検性を維持するため、両群の患者にビタミン補充とデキサメタゾン前投与が実施された。デキサメタゾンは、ペメトレキセド投与前日、当日、翌日に投与され、重度の皮膚発疹のリスクを軽減した。
用量調整と中止基準: 血液毒性に対する用量調整は段階的な減量スケジュールに基づき行われた。Grade 3または4の口腔粘膜炎、入院を要する下痢、またはGrade 3または4の非血液毒性もその後の用量減量の対象となった。3回の用量減量が必要な患者は試験を中止した。毒性からの回復のため、最大42日間の投与遅延が許容された。用量増量は許可されなかった。
評価項目と統計解析: OSは無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、Kaplan-Meier法を用いて評価された (Kaplan and Meier 1958)。群間比較には両側ログランク検定が用いられた。中間解析が実施されたため、主要解析の有意水準はα=0.0476に設定された。病勢進行までの期間 (TTP) は、無作為化から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。腫瘍奏効は、CTスキャン上で3つの異なるレベルで少なくとも2cm離れた3箇所の胸膜肥厚の厚さの積和を測定する独自の評価方法 (Nowak and Byrne 1999) に基づき判定された。完全奏効 (CR) は測定可能病変の完全消失、部分奏効 (PR) は測定可能病変の50%以上の縮小と定義され、奏効率 (ORR) はCRまたはPRを達成した患者の割合として算出された。奏効率の比較にはFisherの正確検定が用いられた。統計解析はintention-to-treat (ITT) 集団を対象に実施された。