- 著者: Riquelme E, Suraokar MB, Rodriguez J, Mino B, Lin HY, Rice DC, Tsao A, Wistuba II
- Corresponding author: Wistuba II (MD Anderson Cancer Center, Department of Translational Molecular Pathology)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-07-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 24926545
背景
悪性胸膜中皮腫 (MPM: malignant pleural mesothelioma) は、主に石綿 (アスベスト) 曝露を原因とする極めて予後不良な胸膜の悪性腫瘍である。Tsao et al. (2009) の報告によると、MPMは診断時の中央生存期間が9〜17ヵ月と極めて短く、2年生存率は約20%にとどまる。Carbone et al. (2002) などの先行研究により、MPMの発生にはBAP1変異、NF2/Merlin欠損、CDKN2A (p16) 欠失といった主要ながん抑制遺伝子の異常が深く関与していることが明らかにされてきた。しかしながら、ゲノムコピー数増加 (CNG: copy number gain) を伴う癌遺伝子の増幅や、それらが腫瘍進展に果たす具体的な役割についての研究は不十分であり、治療標的としての探索は不足していた。このように、MPMのゲノム異常に関する理解には依然として大きなギャップが存在していた。
染色体8q24領域は、多くの固形がんにおいて高頻度に増幅される領域として知られている。Beroukhim et al. (2010) は、がんゲノムのコピー数異常解析においてこの領域の重要性を示している。8q24領域には、強力な転写因子をコードする癌遺伝子C-MYCと、それに隣接する長鎖ノンコーディングRNA (lncRNA: long non-coding RNA) 遺伝子であるPVT1 (plasmacytoma variant translocation 1) が存在する。C-MYCは細胞増殖、分化、アポトーシス (細胞死) などの多様なプロセスを制御するが、MPMにおける詳細な動態は未解明であった。また、PVT1は複数のスプライシングアイソフォームを持ち、複数のマイクロRNA (miRNA: microRNA) のホスト遺伝子としても機能するが、MPMにおけるC-MYCとの共増幅や協調作用に関する知見は圧倒的に不足していた。このように、8q24領域の遺伝子増幅がMPMの病態や化学療法抵抗性にどのように寄与しているかは未解明であり、詳細な機能解析が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、MPMの細胞株および臨床腫瘍検体における染色体8q24領域のC-MYCおよびPVT1のコピー数増加 (CNG) の頻度を系統的に明らかにすることである。さらに、短鎖干渉RNA (siRNA: small interfering RNA) を用いたノックダウン実験により、C-MYCとPVT1がMPM細胞の増殖促進、アポトーシス抑制、およびシスプラチン (cisplatin) に対する感受性に与える影響を個別に、かつ協調的な観点から解明することを目指す。また、PVT1領域内に存在するmiRNAファミリー (特にmiR-1204) の発現状況を評価し、それらがMPMの悪性形質やアポトーシス関連遺伝子の発現制御にどのように関与しているかを分子生物学的に特定することを目的とする。
結果
MPM細胞株における8q24領域の共増幅と発現上昇: Affymetrix SNP 6.0アレイ解析およびFISH解析の結果、n=12 cell linesのMPM細胞株のうち6株 (50%) において、C-MYCおよびPVT1を含む染色体8q24.21領域のコピー数増加 (CNG) が同定された (Fig. 1)。qPCR解析では、n=12 cell lines中5株 (42%) でC-MYCおよびPVT1の共増幅 (4コピー以上) が確認され、両遺伝子は常に同一の細胞株で同時に増幅していた。特にMSTO-211HおよびHP10の2株では、15コピー以上の顕著な高レベル増幅が認められた。mRNA発現解析では、C-MYCは5株で4-fold以上の発現上昇を示したが、PVT1の有意な高発現 (4-fold以上) は高コピー数増幅を持つMSTO-211H株のみで観察された。また、C-MYCをノックダウンするとPVT1の発現レベルが低下することから、C-MYCがPVT1の転写を一部制御している可能性が示された。これらのデータは、8q24領域におけるこれら2つの癌遺伝子の物理的な共増幅が、MPM細胞における発現調節機構と密接に関連していることを裏付けている。さらに、PVT1領域内のmiRNA発現をスクリーニングしたところ、miR-1204、miR-1205、miR-1207-5p、およびmiR-1208が検出され、特にPVT1のCNGを持つMSTO-211H細胞ではmiR-1204が4-fold以上の高発現を示していた。
C-MYCおよびPVT1ノックダウンによる細胞増殖抑制とシスプラチン感受性の増強: 8q24増幅を有するMSTO-211H細胞において、siRNAを用いたC-MYCまたはPVT1のノックダウンは、細胞増殖を有意に抑制した (p<0.01) (Fig. 2)。さらに、シスプラチンに対する感受性試験において、コントロール群と比較して、C-MYCノックダウン群ではシスプラチンのIC50値が1.9-fold低下し (p<0.05)、PVT1ノックダウン群では1.7-fold低下した (p<0.05)。これに対し、8q24増幅を持たないH28細胞 (n=3 replicates) では、C-MYCおよびPVT1をノックダウンしても、細胞増殖の抑制やシスプラチン感受性の増強 (IC50値の有意な変化) は認められなかった。この結果は、8q24領域の共増幅がMPM細胞の増殖維持およびシスプラチン耐性の獲得に直接寄与していることを示しており、増幅株特異的な治療標的としての可能性を示唆している。また、siRNAによるノックダウン効率はqRT-PCRおよびウエスタンブロット法により、タンパク質およびmRNAレベルでそれぞれ80%以上の抑制が確認されており、実験の信頼性が担保されている。
C-MYCとPVT1によるアポトーシス関連遺伝子の機能的分業制御: ウエスタンブロット解析において、PVT1のノックダウンはMSTO-211H細胞でアポトーシスの指標である切断型PARPおよび切断型Caspase 3の発現を著明に増加させたが、C-MYCのノックダウンではこれらの増加はみられなかった (Fig. 2)。TaqMan Human Apoptosis Arrayを用いた93遺伝子の解析により、C-MYCノックダウンはプロアポトーシス遺伝子 (LTB: 17.56-fold) とアンチアポトーシス遺伝子 (BIRC7: 9.96-fold) の両方を上昇させ、細胞内のアポトーシスバランスを維持する傾向を示した (Table 1)。一方、PVT1ノックダウンは、プロアポトーシス遺伝子 (LTB: 7.31-fold, BCL2L14: 4.35-fold) を上昇させる一方で、アンチアポトーシス遺伝子 (BCL2: -2.13-fold, BIRC8: -42.69-fold) を著しく低下させ、アポトーシスを強力に誘導するプロファイルを示した。なお、PVT1領域内のmiR-1204をantimiR-1204で抑制しても、増殖やシスプラチン感受性に有意な変化はみられず、PVT1の機能は主にlncRNA本体を介していることが示された。さらに、HP10細胞株を用いた検証でも同様の傾向が確認され、PVT1がアポトーシス経路の主要な抑制因子として機能していることが実証された。
臨床検体におけるC-MYC/PVT1のコピー数増加と予後解析: n=75のMPM臨床検体をFISH法で解析した結果、C-MYC遺伝子座のCNG (4コピー以上) は11例 (15%)、トリソミー (3コピー) は11例 (15%) に認められ、全体の30%にコピー数増加が確認された (Fig. 3)。組織型別では、CNGは二相型で23% (6/26例)、上皮型で13% (5/37例) に検出されたが、肉腫型 (0/12例) では検出されなかった。qPCRによる検証でも、FISHでCNG陽性と判定された群は陰性群と比較して有意なコピー数増加を示した (p<0.0001)。生存解析において、C-MYCのCNG陽性患者と陰性患者の間で、全体生存期間 (OS) および無再発生存期間に有意な差は認められなかった (p>0.75)。しかし、mRNA発現解析では、55例のMPM腫瘍組織は41例の正常組織と比較して、C-MYCおよびPVT1の発現が有意に高値であった (p<0.01)。この臨床データは、8q24領域の異常がMPMの初期病態形成において広範に関与していることを示している。また、多変量解析においても、年齢、腫瘍サイズ、進行期、および術後補助療法の有無で調整した後も、C-MYCのCNGは独立した予後因子としては検出されなかった。
考察/結論
本研究は、悪性胸膜中皮腫 (MPM) における染色体8q24領域のC-MYCおよびPVT1の共増幅とその機能的協調作用を包括的に解析した極めて重要な報告である。
先行研究との違い: これまでのMPM研究においては、BAP1やNF2、CDKN2Aといったがん抑制遺伝子の欠失や変異に焦点が当てられており、ゲノムコピー数増加を伴う癌遺伝子の増幅やその役割については十分に解析されていなかった。本研究は、これまでの遺伝子欠失中心の病態理解と異なり、8q24領域のC-MYCとPVT1の共増幅がMPMの約15%から30%という高頻度で発生していることを臨床検体および細胞株において明確に示した。
新規性: 本研究で初めて、C-MYCとPVT1がMPMにおいて単に共増幅しているだけでなく、機能的な「二役分担 (分業)」を通じて腫瘍形成を強力に促進していることが新規に解明された。C-MYCは主に細胞周期 of the cell の進行を介して細胞増殖を刺激するのに対し、隣接するlncRNAであるPVT1は、BCL2やBIRC8などの抗アポトーシス遺伝子の発現維持を介してアポトーシスを強力に抑制している。この協調作用の発見は、単一の癌遺伝子のみを標的とする従来の治療戦略に一石を投じるものである。
臨床応用: 本知見の臨床的意義として、8q24領域のC-MYC/PVT1共増幅が、MPMにおけるシスプラチン耐性の重要なバイオマーカーとなり得ることが挙げられる。臨床現場において、この増幅パターンを事前に検出することにより、シスプラチンベースの化学療法の効果予測や、より個別化された治療戦略の選択が可能となる。将来的には、C-MYCの転写を間接的に阻害するBETブロモドメイン阻害薬や、PVT1 lncRNAを直接標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド (ASO) などの新規治療薬の導入が期待される。
残された課題: 今後の残された課題として、本研究における多変量解析ではC-MYCのCNGと患者の全体生存期間 (OS) との間に有意な相関が認められなかった点が挙げられる。これはMPM自体の極めて高い悪性度や、臨床データの追跡期間の制限に起因する可能性があり、より大規模なコホートを用いた前向きな検証が必要である。また、PVT1が抗アポトーシス遺伝子群の発現を維持する詳細なエピジェネティックな分子メカズムや、miR-1204以外のPVT1内包miRNAの役割についても、今後の検討課題として残されている。
方法
本研究では、MD Anderson Cancer Centerの組織バンクから取得した、外科的切除を受けたMPM患者75例の臨床検体 (上皮型37例、二相型26例、肉腫型12例) を対象とした後方視的コホート (retrospective cohort) 解析を実施した。主要評価項目 (primary endpoint) は全生存期間 (OS: overall survival) とした。
ゲノムコピー数解析として、5種のMPM細胞株 (H28 [NCI-H28], MSTO-211H, H2052, H2452, および対照としての正常中皮細胞株 HCC-4012) を用いて、Affymetrix SNP 6.0 チップによる全ゲノム単一塩基多型 (SNP) アレイ解析を実施した。さらに、12種のMPM細胞株において、C-MYC遺伝子座を標的とした蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH: fluorescence in situ hybridization) およびリアルタイム定量PCR (qPCR: quantitative polymerase chain reaction) を行い、コピー数を定量した。コピー数4以上をCNGと定義した。
遺伝子発現解析には、55例 of the MPM腫瘍組織と41例の正常組織から抽出した全RNAを用い、Affymetrix U133 Plus 2.0 遺伝子発現マイクロアレイを用いてC-MYCおよびPVT1のmRNA発現量を測定した。
機能解析として、C-MYCおよびPVT1に対する特異的siRNAを、Lipofectamine RNAiMAX (Lipofectamine RNAi transfection reagent) を用いてMSTO-211H (8q24増幅株) およびH28 (8q24非増幅株) に導入した。ノックダウン効率はqRT-PCRおよびウエスタンブロット法で確認した。細胞増殖は、MTS (3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium, inner salt) アッセイを用いて測定し、シスプラチンに対する感受性は、0〜30 μMの濃度範囲で処理した後の半数生存阻害濃度 (IC50: half-maximal inhibitory concentration) を算出することで評価した。アポトーシスの評価は、切断型ポリADPリボースポリメラーゼ (PARP: poly(ADP-ribose) polymerase) および切断型Caspase 3の抗体を用いたウエスタンブロット解析により行った。
アポトーシス関連遺伝子の網羅的解析には、93種のアポトーシス関連遺伝子を搭載したTaqMan Human Apoptosis Arrayを使用し、MSTO-211HおよびHP10細胞株におけるノックダウン後の発現変動を解析した。また、PVT1領域内の6種のmiRNA (miR-1204, -1205, -1206, -1207-3p, -1207-5p, -1208) の発現をqRT-PCRで定量し、antimiR-1204を用いた阻害実験を行った。
統計解析には、生存期間の推定にカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、群間比較にはログランク (log-rank) 検定を適用した。また、臨床病理学的因子との関連性の多変量解析にはコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards regression) を用いた。