• 著者: Simone Famularo, Matteo Donadon, Federica Cipriani, Felice Giuliante, Silvia Ferri, et al. (ITA.LI.CA GroupおよびHE.RC.O.LE.S. Group)
  • Corresponding author: Guido Torzilli; Franco Trevisani (N/A)
  • 雑誌: Annals of Surgery
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35081572

背景

肝細胞癌 (HCC) は世界的に主要ながん死因の一つである (Gerbes et al. 2018)。欧州肝臓学会 (EASL: European Association for the Study of the Liver) のガイドラインは、進行期 (BCLC stage C: Barcelona Clinic Liver Cancer stage C) のHCCに対してソラフェニブ (sorafenib) を標準治療として推奨している (EASL 2018)。しかし、2つのランダム化比較試験 (Llovet et al. 2008; Cheng et al. 2009) では、ソラフェニブの生存利益はプラセボと比較してわずか3ヶ月にとどまり、忍容性も不良であることが報告されている (Iavarone et al. 2011)。さらに重要な点として、これらの試験は外科的切除不能なHCC患者を対象としていたにもかかわらず、肝機能が温存された全てのBCLC C期患者に対してソラフェニブ治療を推奨するガイドラインの一般化は、実臨床との乖離がある可能性が指摘されている。一方、外科技術の進歩により、実臨床ではBCLC C期患者にも肝切除術が施行され、良好な生存期間が報告されている (Torzilli et al. 2008; Ishizawa et al. 2008; Kokudo et al. 2016)。しかし、BCLC C期は門脈浸潤や全身状態不良など多様な患者群が同一ステージに混在するため、外科切除と全身療法の直接比較は困難であり、治療選択に関するエビデンスが不足していることが課題であった。

目的

肝外転移や門脈主幹浸潤のないBCLC C期HCC患者を対象に、逆確率重み付け (IPW: inverse probability weighting) 法により交絡因子を調整した上で、肝切除術 (SURG) とソラフェニブ療法 (SOR) の全生存期間 (OS: overall survival) および無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) を比較することを目的とした。本研究は、実臨床における治療選択の最適化に資するエビデンスを提供することをprimary endpointとした。

結果

IPW調整後のOSにおける肝切除の優位性 (主要結果): IPWにより調整された疑似集団において、肝切除術群の1年、3年、5年OS率はそれぞれ83.6%、68.1%、55.9%であった。一方、ソラフェニブ群ではそれぞれ42.3%、17.8%、12.8%であり、肝切除術群で有意に良好なOSが示された (HR 4.092; 95% CI: 3.167-5.286; P < 0.001) (Figure 2B)。Cox多変量解析では、ソラフェニブ治療 (HR 4.436; 95% CI: 3.197-6.156; P < 0.001) とCharlson Comorbidity Index (HR 1.162/1点増加; 95% CI: 1.062-1.271; P = 0.010) のみが死亡の独立予測因子であった (Table 2)。ソラフェニブ群の中央OSは9ヶ月であり、これはSHARP試験 (Llovet et al. 2008) で報告された値よりも短く、Child-Pugh BやECOG-PS > 1の非適格患者が37%含まれる実臨床の状況を反映していると考えられた。

PFSにおける肝切除の優位性: IPW調整後のPFS中央値は、肝切除術群で24ヶ月 (95% CI: 19-33) であったのに対し、ソラフェニブ群では5ヶ月 (95% CI: 3-7) であり、肝切除術群で有意な延長が認められた (HR 3.568; 95% CI: 2.05-6.209; P = 0.0075)。Cox多変量解析においても、ソラフェニブ治療のみがPFS低下の独立予測因子であった (HR 4.175; 95% CI: 2.282-7.641; P = 0.006)。肝切除術群では、HCC再発時に27例 (10.7%) が再手術、24例 (9.5%) が熱凝固療法、30例 (11.9%) がTACE (transarterial chemoembolization)、60例 (23.7%) がソラフェニブ治療を受けた。一方、ソラフェニブ治療後の進行患者では、117例 (73.6%) が全身療法を継続し、18例 (11.3%) がTACEに移行した。

サブグループ解析:全サブグループで肝切除が優位: 門脈腫瘍栓 (PVT: portal vein tumor thrombus) 有りかつECOG-PS=0の患者群では、1年、3年、5年OSは肝切除術群で88.7%、73.2%、63.0%であったのに対し、ソラフェニブ群では45.8%、23.9%、20.1%であり、肝切除術群で有意に良好なOSが示された (P < 0.001) (Figure 2C)。PVT無しでECOG-PS > 0の患者群でも、肝切除術群の1年、3年、5年OSは64.9%、44.8%、29.3%であったのに対し、ソラフェニブ群では41.4%、12.5%、12.5%であり、同様に肝切除術群が有意に優れていた (P < 0.001) (Figure 2D)。さらに、PVTの局在別に層別化した場合でも、PVT3 (第一分岐) 患者群 (肝切除術群の5年OS 58.8% vs. ソラフェニブ群 8.6%; P < 0.001) (Figure 2E) およびPVT1 (第三分岐) 患者群 (肝切除術群の5年OS 73.2% vs. ソラフェニブ群 45.1%; P < 0.001) (Figure 2F) のいずれにおいても、肝切除術群で有意に優れたOSが認められた。

感度解析による結果の堅牢性: Child-Pugh B患者をソラフェニブ群から除外した感度解析でも、IPW調整後の5年OSは肝切除術群で56.3%であったのに対し、ソラフェニブ群では14.6%であり、肝切除術の優位性が一貫して維持された (HR 3.872; 95% CI: 2.28-6.55; P < 0.001)。この結果は、交絡調整の方法を変えても主要解析と同方向であり、IPWによる比較の妥当性を支持するものであった。

IPW調整前の両群間背景因子の差異: IPW調整前のベースラインでは、肝切除術群は高齢 (中央値71歳 vs. 65歳; P < 0.001) でECOG-PSが良好な患者が多く (ECOG-PS 0が78.5% vs. 32.6%; P < 0.001)、肝硬変の頻度が低かった (53.5% vs. 81.7%; P < 0.001)。一方、ソラフェニブ群はCharlson Comorbidity Indexが高く (中央値7 vs. 6; P = 0.009)、肝硬変の頻度が高く、多発腫瘍 (中央値2個 vs. 1個; P = 0.004) および広範な門脈浸潤 (PVT3が46.9% vs. 26.7%; P < 0.001) の頻度が高かった (Table 1)。これらの有意な差異は、IPW調整の必要性を示すとともに、実臨床における治療選択バイアスの大きさを浮き彫りにした。

考察/結論

本研究は、イタリア全国規模の2つのレジストリデータを用いてIPW法で交絡因子を調整することにより、実臨床における肝切除術とソラフェニブ治療の比較に関する最良水準のエビデンスを提供した。本研究の結果は、ソラフェニブ治療が死亡リスクを約4倍高めることを示しており、全てのサブグループにおいて肝切除術が有意に優れた生存期間をもたらすことを明らかにした。

先行研究との違い: BCLC C期は門脈浸潤の程度、ECOG-PS、肝外転移の有無によって予後が大きく異なる異質な集団であり、欧州ガイドライン (EASL 2018) の一律なソラフェニブ推奨は過度に単純化されている可能性がある。本研究は、肝外転移や門脈主幹浸潤のないBCLC C期患者において、交絡因子を調整した上で肝切除術がソラフェニブ治療と比較して有意に優れたOSおよびPFSをもたらすことを示した点で、これまでのランダム化比較試験の結果とは対照的な実臨床の知見を提供する。

新規性: 本研究で初めて、IPW法を用いて大規模な実臨床データから肝切除術とソラフェニブ治療の有効性を比較し、肝切除術が全てのサブグループで一貫して優位であることを新規に示した。特に、門脈腫瘍栓の局在レベル (PVT1, PVT3) 別に層別化した場合でも肝切除術の優位性が維持されたことは、これまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、肝切除術が可能なBCLC C期HCC患者に対しては、外科的介入を積極的に検討すべきであるという臨床的意義を持つ。根治切除後の再発時には、TACE、再手術、アブレーションなど複数の追加治療選択肢が残されるのに対し、ソラフェニブ治療後に進行した場合は、さらなる全身療法に限定されることが多い。したがって、治療の「段階的階層」戦略 (Vitale et al. 2020) に基づき、患者の特性に応じた個別化医療アプローチが重要である。

残された課題: 本研究は後ろ向き観察研究であるため、偶発的なバイアスや選択バイアスの影響を受ける可能性があるというlimitationがある。しかし、全国規模で前向きに収集された2つのレジストリデータを使用し、IPW法を適用することで、これらのリスクは軽減されている。また、手術適応の判断が施設ごとに異なる可能性も残された課題として挙げられるが、観察された予後差がバイアスのみによって生じたとは考えにくい。倫理的観点から、切除可能なHCC患者における根治切除と全身療法を比較するランダム化比較試験の実施は困難であるため、本研究の知見は、肝切除が可能なBCLC C期患者の治療選択において貴重な情報を提供する。今後の検討課題として、より長期的な追跡データや、新たな全身療法 (免疫チェックポイント阻害薬など) との比較研究が挙げられる。

方法

本研究は、イタリアの2つの多施設前向きレジストリデータを用いた後ろ向き観察研究 (retrospective observational study) である。外科コホートはHE.RC.O.LE.S.レジストリ (30施設、2008–2019年、NCT04053231) から、内科コホートはITA.LI.CAレジストリ (23施設、1996–2018年) から抽出された。対象患者は、肝外転移および門脈主幹浸潤のないBCLC C期HCC患者で、以下のいずれかの基準を満たすものとした。(1) 初回全身治療前であること、(2) 大血管浸潤の有無にかかわらずECOG-PS (Eastern Cooperative Oncological Group Performance Status) が任意のグレードであること、または大血管浸潤がなくECOG-PS > 0であること。最終的に、SURGコホート303例、SORコホート175例 (計478例) が登録された (Figure 1)。

両群間のベースライン特性における交絡因子 (年齢、ECOG-PS、肝硬変、Child-Pugh分類、HBV/HCV感染、AFP値、腫瘍個数、門脈浸潤部位、Charlson Comorbidity Indexなど) をIPW法で調整し、バランスの取れた疑似集団を作成した (SURG群374例、SOR群263例)。生存解析にはKaplan-Meier法とlog-rank検定を用い、Cox比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards regression model) によりハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。主要評価項目 (primary endpoint) はOS、副次評価項目 (secondary endpoint) はPFSとした。欠測データは多重代入法により処理された。統計解析はオープンソースのRソフトウェア (v3.6.0) を使用して行われ、両側検定で有意水準P < 0.05を統計的有意と判断した。