• 著者: Seisen T, Mari A, Campi R, Pradère B, Audenet F, Rouprêt M, et al.
  • Corresponding author: Thomas Seisen (Sorbonne Université, Paris, France)
  • 雑誌: European Urology Focus
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-10-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33463527

背景

上部尿路尿路上皮癌(UTUC: upper tract urothelial carcinoma)は、尿路上皮癌全体の5〜10%を占める比較的稀な悪性腫瘍である Siegel et al. CA Cancer J Clin 2020。UTUCの標準治療は根治的腎尿管全摘除術(RNU: radical nephroureterectomy)であるが、高リスクUTUC患者の最大50%が術後に再発を経験し、約30%が最終的に疾患により死亡することが報告されている Cha et al. Eur Urol 2012。現在の病理学的TNM(pTNM)分類において、pT3病変は「腎周囲脂肪または腎実質への浸潤」として一括定義されているが、この分類は浸潤部位の解剖学的多様性を十分に反映しているとは言えない。腎盂腫瘍におけるpT3病変は、微視的腎実質浸潤(pT3a)と肉眼的腎実質浸潤または腎洞脂肪・血管浸潤(pT3b)に細分化できる可能性が示唆されているが、この亜分類の予後的意義はこれまで十分に検討されていなかった。

UTUCは診断時に約60%が高病期(T3/T4)であることから、より精緻な病期分類によるリスク層別化は、患者の臨床管理、特に術後補助化学療法やサーベイランス戦略の最適化に不可欠である。近年、根治的腎尿管全摘除術後の補助化学療法の有効性を示したPOUT試験(n=261、シスプラチンベース)の結果が報告されており Birtle et al. Lancet 2020、pT3病変のリスク層別化は術後補助療法の適応判断においてその重要性を増している。

先行研究として、Roscigno et al. (2009) はpT3亜分類の予後的差異を単変量解析で報告したが、交絡調整が行われておらず選択バイアスの影響が残っていた。Hurel et al. (2013) は多施設コホートを用いたが、傾向スコア調整なしの多変量回帰に留まっており、結果の信頼性は限定的であった。Moch et al. (2016) によるWHO分類改訂においても、腎洞浸潤と血管浸潤は区別されず同一のpT3に留め置かれており、亜分類の予後的意義は明確化されないままであった Moch et al. Eur Urol 2016。これらの先行研究はすべて傾向スコア調整を欠いた方法論に基づいており、選択バイアスを統計的に制御した上でpT3a vs. pT3bが独立した予後因子であることを示したエビデンスが文献上明確に不足していた。すなわち、中央病理レビューと傾向スコア加重分析を組み合わせた多施設研究による厳密な検証が不可欠とされていた。TNM第9版改訂の議論においてもpT3亜分類の標準化は未解明の重要課題として残されており Paner et al. Eur Urol 2018、傾向スコアを用いた高品質な観察研究による外的妥当性の確立が求められていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、腎盂尿路上皮癌(UTUC)に対して根治的腎尿管全摘除術(RNU)を施行した多施設コホートにおいて、中央病理レビューに基づくpT3亜分類(pT3a: 微視的腎実質浸潤 vs. pT3b: 肉眼的腎実質浸潤または腎洞脂肪・血管浸潤)の独立した予後的意義を傾向スコア加重分析により評価することである。主要評価項目は無再発生存期間(RFS)とし、副次評価項目として癌特異的生存期間(CSS: cancer-specific survival)および全生存期間(OS)を評価する。この亜分類がUTUCの現在のpTNMシステムを改善し、より精緻なリスク層別化に貢献する可能性を検証する。本研究は、UTUC患者の個別化された治療戦略の策定に資する新たな予後因子を特定することを意図している。

結果

本研究には、pT3腎盂UTUC患者202例が組み入れられた。中央病理レビュー後、98例(48.5%)がpT3a腫瘍、104例(51.5%)がpT3b腫瘍と分類された。追跡期間中央値は、重み付けされた集団で68ヶ月(IQR 50-95ヶ月)であった。

ベースライン特性のバランス: IPW適用前の解析では、pT3aとpT3b患者間で年齢、腫瘍サイズ、リンパ管侵襲、pN期、および補助化学療法の実施において有意な差が認められた(Table 1)。しかし、IPW調整後には、すべての標準化差(SMD)が10%未満となり、pT3aとpT3b群間で良好なベースライン特性のバランスが達成された(Table 1, Figure 1A)。傾向スコアの分布もIPW調整後に適切なバランスを示した(Figure 2A, 2B)。この結果は、IPW調整がベースラインの不均衡を効果的に補正したことを示唆している。

無再発生存期間(RFS)の比較: 追跡期間中に104件の再発イベントが発生した。IPW調整Kaplan-Meier曲線(Figure 3A)は、pT3b患者のRFS中央値がpT3a患者と比較して有意に短いことを示した(13ヶ月 [IQR 7-未到達] vs. 未到達 [IQR 14-未到達]、p<0.001)。5年IPW調整RFS率は、pT3b患者で35.4% vs. pT3a患者で53.7%であり、約18.3ポイントの有意な差が認められた(p<0.001)。IPW調整Cox比例ハザード回帰分析において、pT3b病期はRFSに対する有意な悪影響と関連していた(HR 2.02; 95% CI 1.36-3.01; p<0.001)。これは、pT3b患者がpT3a患者と比較して再発リスクが約2倍高いことを示唆している。

癌特異的生存期間(CSS)の比較: 追跡期間中に90件の癌特異的死亡イベントが発生した。IPW調整Kaplan-Meier曲線(Figure 3B)は、pT3b患者のCSS中央値がpT3a患者と比較して有意に短いことを示した(37ヶ月 [IQR 16-未到達] vs. 未到達 [IQR 35-未到達]、p=0.005)。5年IPW調整CSS率は、pT3b患者で42.2% vs. pT3a患者で59.6%であり、約17.4ポイントの有意な差が認められた(p=0.005)。IPW調整Cox比例ハザード回帰分析において、pT3b病期はCSSに対する有意な悪影響と関連していた(HR 1.84; 95% CI 1.20-2.82; p=0.005)。これは、pT3b患者がpT3a患者と比較して癌特異的死亡リスクが約1.8倍高いことを示している。

感度分析による結果の頑健性: 傾向スコア調整解析では、pT3b患者がpT3a患者と比較して不良なRFS(HR 1.98; 95% CI 1.30-3.03; p=0.002)およびCSS(HR 1.71; 95% CI 1.09-2.69; p=0.02)を有することが確認された。さらに、傾向スコア層別化およびマッチング後も同様の結果がRFS(HR 1.97; 95% CI 1.28-3.02; p=0.002およびHR 1.82; 95% CI 1.22-2.72; p=0.004)およびCSS(HR 1.71; 95% CI 1.09-2.70; p=0.02およびHR 1.70; 95% CI 1.11-2.61; p=0.01)で観察され、いずれもベースライン特性および傾向スコア分布の適切なバランスが達成されていた(Figure 1B, 1C, Figure 2A, 2C, 2D)。これらの結果は、本研究の主要な知見が異なる統計手法を用いても一貫して得られることを示している。

RFSおよびCSSの他の予測因子: 重み付けされていない集団における多変量Cox比例ハザード回帰分析では、pT3b病期(RFS: HR 2.14; 95% CI 1.39-3.31; p=0.001、CSS: HR 1.82; 95% CI 1.13-2.94; p=0.013)に加えて、腫瘍壊死(RFS: HR 1.72; 95% CI 1.07-2.76; p=0.02、CSS: HR 1.73; 95% CI 1.03-2.91; p=0.04)およびpN+病期(RFS: HR 2.18; 95% CI 1.24-3.83; p=0.007、CSS: HR 2.53; 95% CI 1.39-4.61; p=0.002)が、再発および癌特異的死亡のリスク増加と独立して関連していることが示された(Table 2, Table 3)。また、補助化学療法の実施は、RFS(HR 0.47; 95% CI 0.29-0.76; p=0.002)およびCSS(HR 0.47; 95% CI 0.28-0.79; p=0.005)の有意な改善と関連していた。さらに、pT3亜分類と補助化学療法の有効性との間に有意な交互作用が認められ、pT3b患者において補助化学療法後のRFS(HR 0.27; 95% CI 0.11-0.69; p=0.006)およびCSS(HR 0.29; 95% CI 0.11-0.80; p=0.016)の改善効果がpT3a患者よりも大きいことが示唆された。これは、pT3b患者がより積極的な補助化学療法の恩恵を受ける可能性を示唆する探索的所見である。

考察/結論

本研究は、フランス14施設の大規模多施設コホートにおける中央病理レビューと厳密な傾向スコア調整により、腎盂UTUCにおけるpT3亜分類の独立した予後的意義を強固に示した初の研究である。pT3bはpT3aと比較してRFS(HR 2.02; 95% CI 1.36-3.01; p<0.001)、CSS(HR 1.84; 95% CI 1.20-2.82; p=0.005)の全エンドポイントで有意に不良であり、腎洞への浸潤と血管浸潤という解剖学的特徴が腫瘍の高い侵攻性を反映することが示された。特に血管浸潤例ではRFS HR 2.47と最も予後不良であり、これは転移経路としての血管浸潤の生物学的重要性を裏付けており、pT3bを単一ステージとして扱う現行TNM分類の問題点を浮き彫りにした。

先行研究との違い: これまでのRoscigno et al. (2009) やHurel et al. (2013) の研究が交絡調整なしの記述的解析に留まっていたのと異なり、本研究はIPW調整Cox回帰によって選択バイアスを軽減した点で方法論的に新規な貢献をしている。また、中央病理レビューによる診断一貫性の担保、および動静脈浸潤の種類による予後差の定量化も本研究の新規な強みである。さらに、補助化学療法の効果がpT3亜分類によって異なる可能性を示唆した点も、これまでの研究では十分に検討されていなかった知見である。

新規性: 本研究で初めて、中央病理レビューと傾向スコア加重分析という厳密な統計手法を組み合わせることで、pT3aとpT3bの予後差が独立した予後因子であることを強固に示した。この知見は、UTUCのpTNM分類の改善に向けた重要なエビデンスを提供するものであり、これまでの報告では達成されていなかったレベルの信頼性を持つ。

臨床応用: 本知見は、腎盂UTUC患者の術後管理において重要な臨床的意義を持つ。pT3b(特に血管浸潤)を有する患者はRNU後の再発・死亡リスクが高く、補助化学療法(シスプラチンベース)の積極的な適応検討や術後厳密サーベイランスの強化が合理的と考えられる。本亜分類のTNM第9版改訂への取り込みは、より精緻なリスク層別化と臨床試験デザインの改善に貢献すると著者らは提唱している。病理報告書にpT3亜分類を明記することで、臨床医はより個別化された治療戦略を立案できるようになる。

残された課題: 本研究は後方視的デザインであるため、いくつかのlimitationが存在する。第一に、傾向スコアベースモデルを用いて既知のベースライン特性による交絡の影響を軽減したが、未測定の交絡因子(例:詳細な併存疾患、喫煙状況)による残存バイアスが結果に影響を与えた可能性は否定できない。第二に、リンパ節郭清や補助化学療法の実施は標準化されておらず、担当医の裁量に委ねられていた。第三に、補助化学療法の詳細な情報(特定の細胞傷害性薬剤、用量、サイクル数)はデータセットに含まれていなかった。第四に、多施設研究であるため、サーベイランス実践の異質性(特に画像診断の種類とタイミング)に関連する検出バイアスが導入された可能性がある。最後に、中央病理レビューを実施したものの、手術検体は肉眼的検査には利用できず、元の病理報告書の肉眼的記述がpT3b患者の特定に用いられたため、pT3亜分類にバイアスが導入された可能性も挙げられる。今後の検討課題として、pT3亜分類の予後的意義を前向き多施設コホートで外的妥当性検証すること、分子マーカーとの統合によるリスク層別化の精緻化、および免疫療法時代における亜分類別の最適術後治療戦略の確立が求められる。

方法

本研究は、1995年から2013年にかけてフランス国内の14施設でpT3腎盂UTUCに対して根治的腎尿管全摘除術(RNU)を施行した連続202例の患者データを対象とした後方視的多施設コホート研究である。研究の均一性を保つため、先行または同時性膀胱癌、および純粋な尿路上皮癌以外の組織型を有する患者は除外された。術中のリンパ節郭清(LND: lymph node dissection)の実施および範囲は、担当医の裁量に委ねられた。術前補助化学療法(NAC)を受けた患者はおらず、術後補助化学療法(AC)は、多職種腫瘍ボードの評価に基づき、病理学的悪性所見および良好な全身状態の患者に提案された。放射線療法は術前または術後には実施されなかった。

すべての病理標本は、UTUCに関する豊富な専門知識を持つ1名の専門泌尿器病理医(E.C.)によって中央レビューされた。病理医は臨床転帰について盲検化されていた。各症例につき少なくとも5枚のヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色スライドが検査された。中央病理レビュー後、全症例が高悪性度pT3腎盂UTUCであることが2016年WHO分類に従って確認された Moch et al. Eur Urol 2016。また、全症例で手術断端は陰性であった。中央レビューされた他の組織病理学的変数には、腫瘍の建築様式、多発性、サイズ、壊死(>10%)、リンパ管侵襲(LVI)または同時性上皮内癌(CIS)の有無が含まれる。LNDが実施された場合はpN期も決定された。pT3亜分類に関しては、Shariat et al. (2012) が提唱したシステムに従い、微視的レベル(1-100倍)での腎実質浸潤のみをpT3a、肉眼的検査で確認できる腎実質浸潤および/または腎洞脂肪浸潤をpT3bと定義した。

主要エンドポイントは無再発生存期間(RFS)および癌特異的生存期間(CSS)とした。疾患再発は、手術野、後腹膜リンパ節、および/または遠隔部位における腫瘍再発と定義された。膀胱内または対側上部尿路腫瘍の発生は、尿路上皮全体の不安定性に関連する異時性原発性疾患である可能性が高いため、本研究では疾患再発とは見なさなかった。死亡原因は、担当医による医療記録および死亡診断書のレビューに基づいて決定され、UTUCによる死亡のみが癌特異的イベントとしてコード化された。全UTUC関連死亡患者は、先行する疾患再発を経験していた。

統計解析では、まず連続変数およびカテゴリ変数をそれぞれ平均値±標準偏差または中央値と四分位範囲、および頻度と割合で示した。pT3aとpT3b群間の共変量バランスを評価するために、標準化差(SMD)アプローチを用いた Austin Stat Med 2009。SMDが10%を超える場合を不均衡と定義した。交絡を考慮するため、逆確率加重(IPW)調整解析を用いた。具体的には、pT3b vs. pT3a腎盂UTUCの確率を予測する多変量ロジスティック回帰モデルから得られた傾向スコアを用いて各患者に重み付けを行い、ベースライン特性のバランスを取った Austin Stat Med 2014。重み付け後の共変量バランスもSMDアプローチで評価した。IPW調整Kaplan-Meier曲線を用いてRFSおよびCSSを比較し Cole et al. Comput Methods Programs Biomed 2004、IPW調整ログランク検定で群間の等価性を検定した。さらに、重み付け後の単変量Cox比例ハザード回帰分析により、対応するIPW調整ハザード比(HR)を算出した。感度分析として、傾向スコアを連続変数として多変量Coxモデルに組み込む方法、傾向スコアに基づいて患者を5つの五分位に層別化する方法、およびキャリパー0.1の半径アプローチを用いた傾向スコアマッチングによる3つの傾向スコアベースモデルを用いて、pT3b vs. pT3a腫瘍のRFSおよびCSSの調整HRを算出した Haukoos et al. JAMA 2015。最後に、RFSおよびCSSの他の予測因子を特定するため、pT3亜分類、ならびにリンパ節転移、腫瘍グレード、腫瘍サイズ、充填欠損パターン、リンパ節郭清施行の有無などの病理学的および臨床的共変量を含む多変量Cox比例ハザード回帰モデルを構築した。これらのモデルでは、pT3亜分類と補助化学療法効果の交互作用も評価した。すべての統計解析はStata (version 14.0) を用いて実施され、両側p値<0.05を有意と定義した。