• 著者: Jiro Okami, Yasushi Shintani, Meinoshin Okumura, Hiroyuki Ito, Takashi Ohtsuka, Shinichi Toyooka, Takeshi Mori, Shun-ichi Watanabe, Hiroshi Date, Kohei Yokoi, Hisao Asamura, Takeshi Nagayasu, Etsuo Miyaoka, Ichiro Yoshino (Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registry)
  • Corresponding author: Jiro Okami (Osaka International Cancer Institute, Osaka, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-10-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30316011

背景

日本肺癌合同委員会 JJCLCR (Japanese Joint Committee of Lung Cancer Registry) は1994年・1999年・2004年に手術症例の全国レジストリ研究を実施してきた歴史を持つ。先行研究1: Goya 2005 (Lung Cancer) は1994年6,644例の結果を報告した。先行研究2: Asamura 2008 (J Thorac Oncol) は1999年13,010例を報告した。先行研究3: Sawabata 2011 (J Thorac Oncol) は2004年11,663例を解析し10年間の手術成績変化を示した。先行研究4: 著者Rami Porta 2014 (J Thorac Oncol) はJJCLCRデータが寄与した第8版国際データベースを公表し、先行研究5: Travis et al. JThoracOncol 2016 は part-solid tumors の腫瘍分類提案 (全径 vs. solid component径) を発表した。既存知見の課題: これら先行レジストリは2004年データが最新であり、(1) 縮小手術 (楔状切除・区域切除) の急速な普及、(2) 第8版TNM (tumor, node, metastasis 分類、2017年UICC (Union for International Cancer Control) 発効) のT記述子1 cm刻み細分化およびsolid component径による分類の影響、(3) CT screening普及で増加したsubsolid腫瘍 GGO (ground-glass opacity すりガラス影) の予後評価、についての日本データは未確立かつ不明であった。特に「solid成分径と全径の同時測定が一般診療で可能か」「第7版での単一カテゴリが第8版でどのように層別化されるか」の検証は未開拓であり、これが本研究で埋めるべき何が足りなかったかの核心である。本研究はこのgap in knowledgeを埋めるべく、2010年手術症例18,973例で系統的な検証を試みる。

目的

2010年に原発性肺癌の手術を受けた患者の臨床病理学的プロファイル・術後短期成績 (安全性・質) ・長期予後を後方視的に収集・分析し、(1) 第7版・第8版TNM分類両者での予後層別能を検証、(2) 2004年データとの比較から手術成績の経時的変化を明らかにする、(3) 第7版から第8版へのstage migrationを定量化し新分類の臨床的妥当性を実証することを目的とした。

結果

患者特性: 最終解析n=18973 patients (296施設、別表記 18,973例)。男性62.0% (11,771例)、女性38.0% (7,202例)、平均年齢68.3歳 (SD 9.7、範囲12〜96歳)。80歳以上が10.5% (1,963例) を占め、1994年3.1%から3倍以上増加した点が高齢化Japanの実情を反映する (Table 1, Table 3)。喫煙歴あり61.3% (中央値46 pack-years)。Performance status 0が81.5%。腫瘍マーカー:CEA中央値3.3 ng/ml、SCC抗原1.0 ng/ml、Cyfra 1.6 ng/ml、Pro-GRP 30.0 pg/ml。術前画像評価:CT 98.3%、PET (positron emission tomography) 62.2%。術前腫瘍最大径平均2.80 cm (SD 1.65)、solid成分径平均2.42 cm (SD 1.80)。2 cm以下の小型腫瘍は39.0% (1994年23.4%から大幅増)。組織型:腺癌70.1% (13,175例、1994年55.7%から増加)、扁平上皮癌20.1% (3,776例)、大細胞癌3.0% (573例)、腺扁平上皮癌2.0%、小細胞癌1.7%、その他2.6%。

手術術式と切除完全性: 葉切除72.0% (13,654例)、楔状切除12.9% (2,456例)、区域切除9.8% (1,855例)、二葉切除2.3%、肺全摘1.8% (337例、1994年8.7%から大幅減)、試験開胸1.0%。縮小手術 (楔状+区域) 22.7% (4,311例) は1994年の6.4%から3.5倍に増加 (Table 3、Fig 1)。切除断端R0 92.9% (17,471例)、R1 3.5% (656例)、R2 2.6% (500例)。R0/R1 18,127例中、補助化学療法施行5,188例 (28.6%)、うち白金二剤施行2,648例 (14.9%)。

術後短期成績 (安全性・質): Grade 3以上の術後合併症は1,576例 (8.3%) であった。30日死亡率は0.43% (81例) で、1999年の1.6%から74%減少した。90日死亡率1.26% (240例) は本JJCLCR史上初めて報告された指標であり、30日後の遅発死亡 (合併症からの救命後の死亡) を捕捉する。これにより外科治療の真の早期リスクが従来過小評価されていた可能性が示唆される。

第7版TNM分類での生存 (全例): 全体5年OSは74.7%、5年DFSは67.8% (R0 + R1切除例、n=18,127) であった。隣接病期間の死亡リスク比はおおよそHR 1.5前後で段階的に増大した (log-rank検定 全p<0.001)。臨床病期5年OSは、cIA 83.5%、cIB 72.2%、cIIA 58.9%、cIIB 54.3%、cIIIA 48.9%、cIIIB 40.1%、cIV 37.4% (Table 2, Fig 1A)。病理病期5年OSは、pIA 88.9% (2004年86.8%から改善)、pIB 76.7% (2004年73.9%)、pIIA 64.1% (2004年61.6%)、pIIB 56.1% (2004年49.8%)、pIIIA 47.9% (2004年40.9%)、pIIIB 30.2% (2004年27.8%)、pIV 36.1% (2004年27.9%) であった。隣接病期間は基本的に有意差を示したが、cIIIB vs cIV (p=0.900) と pIIIB vs pIV (p=0.832) では有意差なし。再発は R0切除17,471例中4,174例 (23.9%) で生じ、局所のみ39.9%・遠隔のみ45.9%・両方12.0%、再発後生存中央値は26.5ヶ月 (腺癌37.5ヶ月) であった。

第8版臨床病期での生存と stage migration: 続いて、n=16,079で第8版臨床TNMを算出した。5年OSは stage 0 (Tis) 97.0%、IA1 (≤1 cm) 91.6%、IA2 (>1-2 cm) 81.4%、IA3 (>2-3 cm) 74.8%、IB 71.5%、IIA 60.2%、IIB 58.1%、IIIA 50.6%、IIIB 40.5%、IIIC 37.5%、IVA/IVB 36.0% であった (Table 2, Fig 1C)。最も重要な所見は、第7版cIA (n=9,199、5年OS 83.5%) が第8版で4群に分解された点である。内訳は stage 0 (n=1,086、11.8%、5年OS 97.0%)、IA1 (n=2,081、22.6%、91.6%)、IA2 (n=3,650、39.7%、81.4%)、IA3 (n=2,382、25.9%、74.8%) で、5年OSが97.0〜74.8%の幅で明瞭に層別化された (Fig 2A)。同様に、cIB (n=3,489) はIA1〜IIAへ、cIIB (n=750) はIIB〜IIIAへ、cIIIA (n=1,074) はIIIA〜IIIBへ再分類された (Fig 2B-D)。第8版IA1〜IIIBの隣接stage間は全て有意差を認めた。一方、cIIA vs cIIB (p=0.426)、cIIIB vs cIIIC (p=0.870)、cIIIC vs cIVA/IVB (p=0.826) では有意差なしであり、これは小カテゴリの症例数限定 (IIIC n=17) に起因する。

経時的変化 (1994→2010): Table 3より、5年OSは1994年51.9% → 1999年61.6% → 2004年69.6% → 2010年74.7%と単調増加した。背景要因の推移としては、女性比率29.9% → 38.0%、腺癌比率55.7% → 70.1%、扁平上皮癌33.0% → 19.9%、平均年齢64.5歳 → 68.3歳、80歳以上3.1% → 10.5%、小型腫瘍 (≤2 cm) 23.4% → 39.0%が観察された。術式面では、縮小手術6.4% → 22.7%、肺全摘8.7% → 1.8%と大幅な構成変化が確認された。

考察/結論

本研究は、日本における肺癌外科治療の現状を18,973例の大規模レジストリで包括的に把握した最新の実態調査である。第8版TNM分類の臨床的妥当性を独立した日本コホートで実証した点で意義深い。

先行研究との違い:Sawabata 2011 (JJCLCR 2004年データ、11,663例) と比較して本研究は約1.6倍の症例数 (18,973例) を有する。第8版TNM (2017年導入) での予後評価を初めて全国規模で実施した点も新しい。Chansky et al. JThoracOncol 2017 (NCDB 780,294例) などの外部検証研究は外科症例25%であるのに対し、本研究は外科症例100%の日本コホートで part-solid tumor の solid成分径による分類の実行可能性を初めて示した。さらに Asamura 2008 (JJCLCR 1999年データ) を超え、90日死亡率 (1.26%) という新指標を導入して30日死亡を超える遅発リスクを定量化した。

新規性:本研究の novel な貢献は以下の4点である。①第7版cIA (83.5%) という単一カテゴリが第8版で stage 0 (97.0%)・IA1 (91.6%)・IA2 (81.4%)・IA3 (74.8%) の4群に分解され、約20%の予後幅を持つことを大規模日本データで初めて実証した。②90日死亡率1.26%という指標がJJCLCR史上初めて報告された。③縮小手術22.7%・肺全摘1.8%という術式分布変化を16年間 (1994→2010) の経時変化として定量化した。④5年OS 74.7%という日本の手術成績が国際比較で良好水準にあることを示した。

臨床応用:第8版TNMの臨床的有用性は日本の real-world data で支持された。特に cIAサブグループ細分化により、術後フォローアップ間隔・補助療法判断の個別化が可能になる (5年OS 91.6% vs. 74.8% の17ポイント差は補助療法閾値検討に直結)。加えて part-solid tumor の solid成分径計測を全例で実施できることを示し、第8版運用の実行可能性 (feasibility) を担保した。

残された課題と今後の方向性:以下5点が limitation として残る。①第8版病理TNMでは lepidic成分含む腺癌の浸潤径データが未収集のため評価不能であり、今後のレジストリ研究で収集が必要。②M1b/M1c識別 (転移臓器数) もデータ構造制約で不能。③後方視的研究で第7版データ収集後の第8版変換を行ったため、CT スライス間隔・solid成分判定基準のばらつきは制御不能。④標準化されていない follow-up program の差 (institutional variability) が DFS解釈に影響。⑤NSCLCと小細胞癌の histologic 区別が未収集で個別解析不能。本研究はAsamura 2016の第8版提案の妥当性を日本データで確認するもので、IASLC第9版策定への重要なエビデンスとして位置付けられる。

方法

本研究はJJCLCRによる後方視的全国レジストリ研究 (Identifier: 大阪大学医学部医学倫理委員会承認番号 No. 15321、UMIN-CTR (University hospital Medical Information Network 試験登録) No. 000020215) である。日本胸部外科学会専門医制度認定629施設に参加を依頼し、2010年1月1日〜12月31日に原発性肺癌の根治目的手術を受けた全患者を対象とした。除外基準は (1) 気管支鏡アプローチによる腫瘍切除、(2) リンパ節生検等のstaging目的のみの手術、(3) 腫瘍 ablationなどの局所療法 (肺切除を伴わない)、(4) 気管腫瘍手術。データ登録は2016年1月〜10月にWebシステムで行い、参加施設には適格全例の登録を求めた。胸部外科医2名 (J.O.とY.S.) によるデータ検証を実施し、矛盾・二重登録・不完全データ等を修正・除外 (53例除外、0.28%)。最終解析対象は18,973例 (296施設)。臨床変数:基本背景、合併症、血清腫瘍マーカー (CEA、SCC (squamous cell carcinoma 抗原)、Cyfra、Pro-GRP)、喫煙歴、肺機能、腫瘍位置、第7版T/N/M記述子、術中所見、術後合併症、Clavien-Dindo分類またはCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) ver4.0でgrade 3以上の合併症、30/90日死亡、組織型、第7版pTNM、補助療法、予後、再発、複数肺癌治療。重要な計測項目: 術前腫瘍サイズは肺野条件CTで「最大径 (GGO含む)」と「solid component径」の両方を計測 (第7版T分類は最大径、第8版T分類はsolid成分径を採用、識別)。第8版臨床TNMは登録閉鎖後に算出。第8版病理TNM:lepidic成分含む腺癌では「pathological invasive component径」が必要だが本研究では未収集のため第8版病理TNMは不能。M descriptorの第8版でのM1b/M1c識別も転移臓器数情報なしで不能、stage IV一括解析。生存解析はKaplan-Meier法、隣接stage間差は log-rank test (p < 0.05有意)。Statistics: 全解析にKaplan-Meier法 + log-rank test を使用。