• 著者: Pamela L. Kunz
  • Corresponding author: Pamela L. Kunz (Stanford Cancer Center, Stanford, CA, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-04-27
  • Article種別: Review
  • PMID: 25918282

背景

1907年に「karzinoide」という用語が造られて以来、神経内分泌腫瘍(NET: neuroendocrine tumor)の理解と治療は著しく進歩した。NETは生物学的および臨床的に不均一な腫瘍群であり、肺、消化管、膵臓に最も多く発生する。米国におけるNETの年間発生率は10万人あたり2〜5例と報告されており、近年その発生率は増加傾向にある。NETは進行が比較的緩徐であるため、有病患者数は胃癌と膵臓癌の腺癌を合わせた数よりも多く、公衆衛生上重要な疾患群として認識されている。転移性膵NETのOS(overall survival)中央値は24ヶ月、小腸NETでは56ヶ月と、稀な腫瘍であるにもかかわらず長期生存を示すことが人口ベースの研究で示されている Yao et al。

2009年にはNCI(National Cancer Institute)のNET Taskforceが臨床試験計画会議を開催し、NET研究における主要な未解決問題と将来の優先課題を特定した Kulke et al。これには、カルチノイドと膵NETを分離した臨床試験設計、AJCC(American Joint Committee on Cancer)ステージングの標準化、バイオマーカー開発などが含まれる。この会議以降、多くの推奨事項が実施され、一部の課題は進行中の研究で対処されているものの、依然として臨床的に重要な未解明な問題が残されている。特に、NETの不均一な臨床転帰と生物学的特性が明らかになるにつれて、臨床試験の適格性や標準治療の選択において、NETを膵臓NETと非膵臓NETのサブグループに分離して検討する必要性が高まっている。また、AJCC第7版にNETのTNMステージングが組み込まれたことで、臨床試験設計の標準化が進んだ。

しかし、最適な治療シーケンスや肝動脈塞栓術の異なる手技間の比較、バイオマーカーによる患者層別化、高悪性度NETに対する新規レジメンの開発など、多くの課題が残されている。特に、患者中心のアウトカムやQOL(quality of life)に関する研究は手薄であり、十分なエビデンスが不足しているという課題が存在する。これまでの先行研究において、患者報告アウトカムや長期的なサバイバーシップに関するデータは極めて不足しており、臨床現場での意思決定を支えるためのエビデンス構築が遅れている点が大きなギャップとして指摘されていた。本総説は、これらの進歩を包括的にレビューし、最適な管理戦略を提示することを目的とする。

目的

本総説の目的は、神経内分泌腫瘍(NET)の病理学的・臨床的分類、診断、ステージング、および治療における最新の進歩を包括的にレビューし、臨床医が患者の最適な管理戦略を決定するための指針を提供することである。特に、低分化神経内分泌癌(NEC: neuroendocrine carcinoma)についても言及し、その治療戦略についても考察する。また、NETの不均一性を考慮し、腫瘍特性と治療特性の両方を慎重に検討した上で、初期およびその後の治療選択を行うことの重要性を強調する。さらに、生存期間が長く後続治療が多いNET領域において、無増悪生存期間(PFS: progression-free survival)を主要評価項目とする臨床試験デザインの妥当性を検証し、今後の研究開発の方向性を提示する。

結果

WHO分類に基づく病理学的・遺伝学的特性: NETはWHO 2004/2010分類に基づき、Grade 1(G1 NET)、Grade 2(G2 NET)、Grade 3(G3 NEC)に層別化される (Table 2)。肺NETと消化管・膵NETでは異なるWHOグレーディング基準が適用される。GEP(gastroenteropancreatic)NETではKi-67 index(<3% / 3-20% / >20%)と核分裂指数が、肺NETでは核分裂指数(<2 / 2-10 / >10 per 10 hpf)が分類の基軸となる。2010年には、病理報告の標準として、腫瘍特性、組織学、免疫組織化学マーカー(synaptophysin、chromogranin)、腫瘍グレード、有糸分裂率、Ki-67 indexを含む最小データ要素ガイドラインが示された。散発性膵NETでは、MEN-1(44%)、DAXX/ATRX(43%)、mTOR経路遺伝子(15%)が最も頻繁に変異する遺伝子として同定されている。一方、小腸NETは体細胞変異が少ないmutationally quiescentな腫瘍であるが、CDKN1B変異が同定されている。

診断およびTNMステージングの適用: 多相CT/MRIが初期評価と経過観察の標準として推奨される。ソマトスタチン受容体シンチグラフィーは、特定の臨床的疑問に限定して使用される。生化学的評価は、原発部位や関連症状に応じて実施される。AJCC第7版にNETのTNMステージングが組み込まれ、臨床試験設計が標準化された。しかし、この新ステージングシステムの予後妥当性については、単施設研究および集団ベース研究で混合した結果が得られている。

機能性NETにおけるホルモン過剰症状の管理: 機能性NETの症状管理にはSSAが主役である。Octreotide LARは月1回筋注(20-30 mg)で、Lanreotideは同様のSSTR結合親和性を持ち、月1回120 mgの深部皮下注射で投与可能である。PasireotideはSSTR1/2/3/5に高親和性を持つが、octreotide LARと同等の症状コントロール効果が第III相試験で示された。SSA全般の有害事象として高血糖、胆石症、消化器症状が挙げられ、特にpasireotideで高血糖リスクが高い。Telotristat(トリプトファン水酸化酵素阻害薬)は難治性カルチノイド症候群に対して第III相試験(TELESTAR, TELECAST)が進行中であり、早期臨床試験での成績は良好である。

ソマトスタチンアナログによる抗腫瘍効果: PROMID試験は、転移性midgut NET患者n=85例を対象とした無為化第III相試験で、octreotide LAR 30 mgとプラセボを比較した。Octreotide群でTTP(time to progression)が有意に延長され、TTP中央値は14.3 vs 6.0ヶ月、HR 0.34 (95% CI 0.20-0.59, p<0.001) であり、OSに有意差は認められなかった。この試験は、転移性midgut NETにおけるSSAの抗増殖効果を初めて実証した (Table 4)。CLARINET試験は、非機能性SSTR陽性NET患者n=205例を対象とした第III相試験で、lanreotide 120 mgとプラセボを比較した。対象はGrade 1/2(Ki-67<10%)の膵、midgut、hindgut、不明原発NETで、安定病変患者も含まれた。Lanreotide群でPFSが有意に延長され、PFS中央値は18.0ヶ月 vs 未到達、HR 0.47 (95% CI 0.30-0.73, p<0.001) であり、OSに有意差はなかった。Lanreotideは2014年12月にFDAが消化管膵NETに対して承認した。

分子標的薬による膵NETの治療効果: RADIANT-3試験は、進行性膵NET患者n=410例を対象とした第III相試験で、everolimus 10 mg/日(n=207)とプラセボ(n=203)を比較した。低・中分化度の進行性膵NETにおいて、PFS中央値はeverolimus群で11.0ヶ月 vs 4.6ヶ月、HR 0.35 (95% CI 0.27-0.45, p<0.001) と有意に延長された。ORR(objective response rate)は5% vs 2%であった。この試験に基づき、everolimusは2011年にFDA承認を取得した (Table 4)。Sunitinibは、膵NET患者n=171例を対象とした第III相試験で、sunitinib 37.5 mg/日(n=86)とプラセボ(n=85)を比較した。PFS中央値はsunitinib群で11.4ヶ月 vs 5.5ヶ月、HR 0.42 (95% CI 0.26-0.66, p<0.001) であり、ORRは9% vs 0%であった。Sunitinibも2011年にFDA承認を取得した。

細胞毒性化学療法による腫瘍増殖の制御: 膵NETには、現在のガイドラインでアルキル化剤が推奨される。Streptozocinは、streptozocin + doxorubicin vs streptozocin + fluorouracilの比較試験で、ORR 69% vs 45%、OS 26.4 vs 16.8ヶ月とstreptozocin + doxorubicinが優位であった。Temozolomideは単剤・併用で膵NETに有望なデータが蓄積されており、後ろ向き研究ではcapecitabine + temozolomideが膵NETに70%のORR、PFS中央値18ヶ月を示した。前向き試験でも36%のORR、PFS 20ヶ月超が報告された。これを受けて、ECOG 2211試験(temozolomide ± capecitabine in 膵NET、第II相、n=145)が進行中である (Table 5)。非膵NETへの化学療法は一般にORRが低く、利益は限定的である。

PRRTおよび局所療法によるアプローチ: 177Lu標識SSAを用いたPRRTは、SSTR陽性転移性NETに対する有望な治療法である。n=500例の後ろ向き解析では、177Lu-DOTATATE治療でCR 2%、PR 28%、minor response 16%を達成し、TTP中央値40ヶ月、OS中央値46ヶ月を示した。重篤な遅発毒性は少数例(腎不全2例、肝毒性3例、骨髄異形成症候群4例)であった。FDAは前向き無作為化データ不足のため未承認であった(2015年時点)。NETTER-1試験(177Lu-DOTATATE vs 高用量octreotide LAR in midgut NET、第III相、n=280)が進行中である (Table 5)。肝動脈塞栓術(bland embolization、TACE、TARE)が肝優位転移例に推奨されるが、手技間の直接比較ランダム化試験は不足している。

低分化神経内分泌癌(NEC G3)の治療成績: LCNEC・SCLCを含む肺高悪度NECおよびGEP NEC G3には、白金-エトポシド(cisplatin/carboplatin + etoposide)が一次治療として外サプライ適用されている。NORDIC NEC研究では、n=252例の後ろ向き評価で、cisplatin-etoposide(n=129)とcarboplatin-etoposide(n=67)のORRは31%、mPFS 4ヶ月、mOS 11ヶ月(両レジメン同等)であった。Ki-67<55%の症例では化学療法へのORRが低い(15% vs 42%)にもかかわらず、OSは良好(14 vs 10ヶ月)であり、高増殖性NECと異なる生物学的挙動が示唆された。Temozolomide + capecitabineがfirst-line化学療法後に進行したNECにも活性の可能性があり、NCI共同研究グループ試験EA2142(capecitabine/temozolomide vs cisplatin/etoposide in GI G3 NEC、n=112)が2015年開始予定である (Table 5)。

考察/結論

本レビューは、NETの分類、診断、治療に関する包括的な俯瞰を提供し、サブタイプ(カルチノイド vs. 膵NET vs. 高悪度NEC)ごとの最適な治療アプローチを整理している。主要メッセージとして、(1) カルチノイドと膵NETは臨床試験で分離して扱うべきであること、(2) SSAが抗増殖効果を持つことが二大試験(PROMID: HR 0.34; CLARINET: HR 0.47)で実証されたこと、(3) 膵NETにはeverolimusとsunitinibが有効であること(いずれもPFS約11ヶ月)、(4) 高悪度NECには白金-エトポシドが一次治療だが予後は依然不良であること(mOS 11ヶ月)、という4点が重要である。

先行研究との違い: 本総説で示された知見は、従来の治療パラダイムと大きく異なる。PROMID試験以前は、SSAの抗増殖効果は確立されておらず、症状管理のみが適応であった。本研究でレビューされたPROMIDおよびCLARINET試験は、SSAが腫瘍増殖抑制効果を持つことを初めて明確に示した点で、これまでの知見と対照的である。また、RADIANT-3およびSunNET試験によって膵NETへの分子標的薬のエビデンスが確立され、それぞれ2011年にFDA承認を受けたことは、この分野における大きな転換点である。

新規性: 本総説は、NETの診断と治療における近年の進歩を包括的に統合し、多様なNETサブタイプに対する個別化された治療戦略の必要性を強調した点で新規性がある。特に、分子生物学的知見(例:膵NETにおけるMEN-1、DAXX/ATRX、mTOR経路遺伝子の変異)と臨床的アウトカムを結びつけ、治療選択の指針を提示している。また、生存期間が長く後続治療が多いNET領域では、全生存期間(OS)を主要評価項目とすることが困難であり、無増悪生存期間(PFS)が最適な臨床試験エンドポイントであることを本研究で初めて明確に位置づけた。

臨床応用: 本知見は、NET患者の治療選択における臨床応用可能性が高い。治療選択は、病期、増殖速度、原発部位、グレード、機能性の5要素に基づく個別化が求められる。例えば、低悪性度で安定した病変の患者には経過観察も選択肢となり、進行性の高悪性度NETにはより積極的な化学療法が考慮される。これらの情報は、臨床現場での意思決定に直接役立つ。

残された課題: 2015年当時の限界として、PRRTはNETTER-1試験の結果待ちの段階であり(後に177Lu-DOTATATEが2018年FDA承認)、免疫チェックポイント阻害薬については言及がない。LCNECについては高悪度NEC群に包含して論じており、分子サブタイプの概念はまだ確立していない時期の論文である。今後の検討課題として、(1) 最適な治療シーケンスの確立、(2) 肝動脈塞栓術の異なる手技間の比較試験、(3) バイオマーカー選択による臨床試験の設計、(4) 高悪度NEC向け新規レジメンの開発が残されている。また、患者のQOLや患者報告アウトカム、サバイバーシップに関する研究も重要である。本総説の価値は、NETの全スペクトラムを一覧できる実践的ガイダンスを提供した点にある Ellis et al. JClinOncol 2014

方法

本論文は総説論文であり、特定の実験や臨床試験を新規に実施したものではない。そのため、具体的な患者コホートや実験プロトコルは存在しない。本総説は、WHO分類、既存の文献レビュー、およびNCCN(National Comprehensive Cancer Network)やNANETS(North American Neuroendocrine Tumor Society)ガイドラインに基づいた体系的な解説を提供している。文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて実施された。検索期間は、NET研究が活発化した2000年代初頭から本総説の出版年である2015年4月までを対象とした。

レビューの対象としたのは、肺、消化管、膵臓に発生するNETの全スペクトラムであり、これには典型カルチノイド(TC)、異型カルチノイド(AC)、大細胞神経内分泌癌(LCNEC)、小細胞肺癌(SCLC)、消化管NET、膵NETが含まれる。診断およびステージングに関する情報は、多相CT/MRI、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー、生化学的評価、およびAJCC第7版のTNMステージングシステムに関する文献に基づいている。

治療に関する情報は、ソマトスタチンアナログ(SSA: somatostatin analog)、分子標的薬(mTOR阻害薬、VEGFチロシンキナーゼ阻害薬)、細胞毒性化学療法、ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT: peptide receptor radionuclide therapy)、および肝動脈塞栓術を含む局所療法に関する主要な臨床試験(PROMID、CLARINET、RADIANT-2、RADIANT-3、SunNET、NETTER-1など)の結果を網羅的に分析している。また、低分化神経内分泌癌に対する白金-エトポシド療法や、temozolomideとcapecitabineの併用療法に関するデータも含まれる。統計解析の評価においては、Kaplan-Meier法による生存曲線、Cox regression(コックス比例ハザードモデル)に基づくハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)、log-rankテストによる有意差検定などの統計手法が用いられた各臨床試験の報告を統合的に評価した。今後の臨床試験の方向性として、NCT登録試験(例: NCT01677910, NCT02063659, NCT00569127, NCT01524783, NCT01841736, NCT01578239, NCT01229943, NCT01824875, NCT02246127)が複数言及されている。本総説では、各治療法の有効性と安全性についてエビデンスレベルを考慮し、推奨度を評価した。