• 著者: Lin-Chi Chen, William D. Travis, Lee M. Krug
  • Corresponding author: Lin-Chi Chen (Division of Thoracic Oncology, Department of Medicine, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Journal of the National Comprehensive Cancer Network
  • 発行年: 2006
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 16813729

背景

肺神経内分泌腫瘍 (PNETs; pulmonary neuroendocrine tumors; 肺神経内分泌腫瘍) は、全肺がんの約 20% を占める極めて多様性に富んだ腫瘍群である。WHO (World Health Organization; 世界保健機関) 2004分類において、これらの腫瘍は典型カルチノイド (TC; typical carcinoid)、非定型カルチノイド (AC; atypical carcinoid)、大細胞神経内分泌癌 (LCNEC; large cell neuroendocrine carcinoma)、および小細胞肺癌 (SCLC; small cell lung cancer) の4つの主要なカテゴリーに分類されている。これらの腫瘍は、組織形態学的、超微形態学的、免疫組織化学的な共通の特徴を共有する一方で、臨床経過は極めて無痛性のTCから、極めて侵襲性が高く予後不良なSCLCまで多岐にわたる。

歴史的に、Hamperl (1937) は肺カルチノイドを低悪性度の気管支腫瘍として初めて記載した。その後、腫瘍の悪性度スペクトラムの理解が進むにつれ、Arrigoni et al. (1972) によって典型カルチノイドと非定型カルチノイドの臨床病理学的な区別が明確に提唱された。さらに、1991年には Travis et al. (1991) が、神経内分泌分化の特徴を持つ大細胞癌の一群を「大細胞神経内分泌癌 (LCNEC)」という独立した腫瘍サブタイプとして提唱し、これが後にWHO分類に正式に組み込まれることとなった。しかし、2006年当時、LCNECに関する臨床的エビデンスは極めて限定的であり、本論文のタイトルにある「(little) do we know」という表現が示す通り、その病態や最適な治療戦略に関する知見は著しく不足していた。

LCNECは非小細胞肺癌 (NSCLC) の大細胞型亜型として分類されるものの、形態学的にはSCLCに類似しており、臨床的にも極めて侵襲性の高い経過をたどる。このため、LCNECに対してNSCLCに準じた治療を行うべきか、あるいはSCLCに準じた治療を行うべきかという重要な臨床的課題が残されていた。特に、LCNECの予後がSCLCに類似しているという Asamura et al. (2006) の報告は、LCNECをより攻撃的な疾患として認識し、治療アプローチを再考する必要性を強く示唆していた。しかし、LCNECに対する最適な化学療法レジメンや放射線治療の役割は依然として未解明であり、前向き試験データが圧倒的に不足しているという深刻な gap が残されていた。また、カルチノイド腫瘍においても、転移性疾患に対する有効な全身療法は極めて手薄であり、治療選択肢の拡大が求められていた。本総説は、これらの未開拓な領域における知見を統合し、当時の知識のギャップを埋め、今後の研究の方向性を示すことを意図して執筆された。

目的

本総説の目的は、2006年時点における肺神経内分泌腫瘍 (PNETs; pulmonary neuroendocrine tumors; 肺神経内分泌腫瘍) の命名法と分類 (WHO 2004分類)、疫学的特徴、病理学的診断基準、臨床症状と診断法、および治療戦略 (手術、化学療法、放射線治療) に関する包括的かつ系統的なレビューを提供することである。これにより、臨床医が低悪性度のカルチノイドから高悪性度のLCNECやSCLCに至るPNETsの全スペクトラムに対する理解を深め、日常の臨床現場における実践的なガイダンスを得ることを目指した。

特に、LCNECとSCLCの類似点と相違点を整理し、LCNECに対する最適な治療戦略が未確立である現状を浮き彫りにすることを重要な目的とした。LCNECの治療においては、SCLCに準じたプラチナ製剤ベースの化学療法が推奨されるべきか、あるいはNSCLCに準じた多剤併用化学療法が適切であるかという当時の議論に対し、既存の臨床データを基に方向性を示すことも意図された。また、カルチノイド腫瘍、特に転移性疾患に対する全身療法の有効性が限られている現状を強調し、新たな治療法の開発の必要性を訴えることも目的の一つであった。最終的には、これらの腫瘍群における最適な治療法の開発に向けた今後の研究の方向性を特定し、臨床アウトカムの改善に寄与することを目的とした。

結果

疫学的特徴と予後の悪性度相関: 2006年時点での米国における年間推定診断数は、SCLCが 25,000 から 30,000 人、肺カルチノイドが 1,700 から 3,000 人、LCNECが約 5,000 人 (全肺がんの約 3%) であった。年間診断される全カルチノイド腫瘍 10,000 から 12,000 例のうち、消化管原発が 50% 以上、肺原発が 25% 未満を占める。5年生存率は、TCが約 90%、ACが 40% から 60%、LCNECが 13% から 47%、SCLCが 9% から 15% と報告されており、腫瘍の悪性度と明確に相関する。LCNECとSCLCの5年生存率は概ね同等であり、LCNECが高悪性度腫瘍として扱われるべきであることを支持する。LCNECおよびSCLCは男性、高齢者、喫煙者に多く見られ、LCNEC患者の多くは 50 パックイヤー以上の喫煙歴を持つ。TCおよびACは性別分布が均等で、診断年齢は比較的若い傾向がある。これらの腫瘍の組織像は、それぞれ特徴的な形態を示している。(Fig 1) (Fig 2) (Fig 3) (Fig 4)

遺伝学的背景と分子生物学的相違: TC/ACと高悪性度群 (LCNEC/SCLC) の間には遺伝学的な相違が認められる。TC/ACでは、MEN1 (multiple endocrine neoplasia; 多発性内分泌腫瘍症) 遺伝子 (11q13) 変異との関連が報告されており、多発性内分泌腫瘍症 (MEN; multiple endocrine neoplasia; 多発性内分泌腫瘍症) 症候群との家族性クラスターも存在する。一方、LCNECおよびSCLCでは MEN1 遺伝子変異は認められない。Krasおよびp53の変異パターンと遺伝子発現プロファイルはLCNEC and SCLCの間で類似しており、TC/ACとは遺伝的に異なる系統であることが示唆される。Onuki et al. (1999) は、ACと高悪性度神経内分泌腫瘍 (LCNECおよびSCLC) の間で異なるp53変異パターンが存在することを示し、これらの腫瘍が遺伝的に異なることを裏付けた。

病理診断とWHO 2004分類基準: WHO 2004分類では、TCを「核分裂数 2/2mm² 未満かつ壊死なし」、ACを「核分裂数 2 から 10/2mm² かつ壊死巣の有無」と定義する。LCNECとSCLCはともに核分裂数 10/2mm² 超 (平均それぞれ75および80超 per 10 hpf) で高悪性度に分類される。LCNECの診断には、豊富な細胞質、大型細胞、神経内分泌増殖パターン (organoid nesting、rosette様構造、trabecular growth、perilobular palisading) に加えて、CD56 (NCAM; neural cell adhesion molecule; 神経細胞接着分子)、synaptophysin、chromogranin Aのうち少なくとも1つ以上の免疫組織化学的陽性が必要である。(Fig 3) SCLCは通常、光学顕微鏡のみで診断可能であり、小型細胞、乏しい細胞質、不明瞭な細胞境界、細顆粒状の核クロマチン、不明瞭な核小体という特徴的な形態を呈する。(Fig 4) 神経特異的エノラーゼは神経内分泌マーカーとして言及されることがあるが、NSCLC症例でも最大 60% が陽性を示すため信頼性が低い。

臨床症状と診断における解剖学的特徴: TCおよびSCLCは中枢性 (大気道近位) に多く、ACおよびLCNECは末梢性に多い。主訴は咳嗽、呼吸困難、肺炎、血痰であるが、気管支カルチノイドは無症状で偶発的に発見されることも多い。カルチノイド症候群は肺カルチノイドでは約 2% と、消化管原発の 10% と比較して低頻度である。SCLC・LCNECでは急性発症の呼吸困難、嚥下障害、上大静脈症候群が多く、診断時からほぼ転移を伴う。気管支カルチノイドの症状発現から診断までの間隔は推定 29 から 37 ヶ月であり、最大 14 年の例も報告されている。LCNECのCT所見では末梢肺野の孤立性結節ないし肺葉切除適応となる腫瘤が多く、中枢性は少数である。

外科的切除の適応と予後改善効果: カルチノイドおよび早期LCNECでは外科的切除が治療の主体となる。TCでは、楔状切除、区域切除、スリーブ切除などの肺実質温存手術でも良好な成績が報告されている。Schreurs et al. (1992) の後ろ向き解析では、93 例のTCを 25 年間追跡し、90% 超の良好な全生存期間を確認した。ACはNSCLCに準拠した肺葉切除や全肺切除が推奨される。ACの5年生存率は 40% から 60% であり、リンパ節転移や遠隔転移があると生存率はさらに低下する。早期LCNECでは、肺葉切除と縦隔リンパ節郭清が標準治療である。Zacharias et al. (2003) の報告では、LCNECの完全切除後 (n=30) でも5年生存率は 57% にとどまり、縦隔リンパ節転移を認めなかった症例で生存率が改善する傾向が見られた。SCLCは早期の血行性転移の傾向があるため、1970年代の大規模試験で手術単独の不十分さが示されて以来、化学療法が主体となっている。しかし、T1-2N0 (T1-2N0; TNM分類における原発腫瘍因子T1またはT2、かつリンパ節転移なしN0) 症例における切除と補助化学療法の役割については議論が続いている。

小細胞肺癌における標準的化学療法の治療成績: SCLCは化学療法に極めて感受性が高く (奏効割合 (ORR) 60% から 80%)、シスプラチン/カルボプラチンとエトポシドの併用療法が標準レジメンである。Noda et al. (2002) の日本での第III相試験では、イリノテカンとシスプラチンの併用療法がエトポシドとシスプラチンと比較して進展期SCLC患者の全生存期間を改善することを示したが、米国でのSWOG追試では同様の差は示されなかった。再発SCLCに対するFDA (Food and Drug Administration; 米国食品医薬品局) 承認薬であるトポテカンは、ORRが 10% から 20% にとどまり、平均生存期間は 6 ヶ月前後と予後不良である。

大細胞神経内分泌癌およびカルチノイドに対する化学療法の限界: LCNECの最適化学療法レジメンは2006年時点で確立されていなかった。SCLC的レジメン (シスプラチンとエトポシド) への反応性がSCLCよりも低いことが小規模な後ろ向き研究から示唆されていた。Kozuki et al. (2005) は、7 例のLCNEC患者に対しシスプラチンとエトポシド、またはドセタキセルと同時照射を施行し、3 例 (43%) で部分奏効を認めた。カルチノイドに対する化学療法は、ソマトスタチン受容体陽性例に対するオクトレオチド以外に有効な全身療法が乏しい。Granberg et al. (2001) の転移性肺カルチノイド 31 例を対象とした後ろ向き研究では、α-インターフェロン、オクトレオチド、ストレプトゾシン/5-FU、ドキソルビシン、シスプラチン/エトポシドなど複数のレジメンが使用されたが、有意な奏効や生存改善は認められなかった。補助化学療法はAC/LCNECで限定的なデータのみであり、Iyoda et al. (2001) は早期LCNECにおける補助化学療法が生存率を改善する可能性を後ろ向きに報告した。完全切除後の補助化学療法の効果について、補助化学療法群は非投与群と比較して良好な生存を示し、ハザード比は HR 0.54 (95% CI 0.31-0.94, p=0.02) であった。

放射線治療の役割と再発パターンの解析: 限局期SCLCでは、化学療法と胸部放射線治療の同時併用が標準治療である。Turrisi et al. (1999) の試験では、1日2回照射は1日1回照射と比較して生存期間を延長し、死亡ハザード比は HR 0.78 (95% CI 0.62-0.97, p=0.03) であった。完全奏効またはほぼ完全奏効を達成したSCLC患者に対する予防的全脳照射 (PCI) は、脳転移リスクを軽減し、全生存期間を改善することが示されている。LCNECおよびカルチノイドに対する放射線治療のエビデンスは乏しく、小規模な後ろ向き研究に限られる。切除不能例には根治的放射線治療が推奨されるが、前向きデータは不十分である。SCLCおよびLCNECの再発は多く、通常診断から2年以内に発生する。SCLCの遠隔転移部位としては脳、肝臓、肺、骨が多い。LCNECも同様のパターンを示すことが報告されている。TCは再発率が低く、術後42年以上の晩期再発報告もある。ACは転移頻度が高く (15% から 64%)、長期追跡での生存率はTCより劣る。TC/ACを合わせた複合再発率は 5% 未満と推定される。

考察/結論

先行研究との違い: 本総説は、LCNECを単に非小細胞肺癌 (NSCLC) の一亜型として扱う従来の分類と異なり、臨床的・遺伝学的・病理学的な観点から小細胞肺癌 (SCLC) との緊密な類似性を強調した点で極めて対照的である。従来の多くの研究がLCNECを他の大細胞癌や腺癌、扁平上皮癌と同様の治療アプローチで扱っていたのに対し、本レビューはLCNECが高悪性度神経内分泌腫瘍として、SCLCと同等の侵襲性と予後不良な経過をたどることを明確に示した。このアプローチは、LCNECの生物学的特性をより正確に反映した治療戦略の再考を促すものであり、これまでのNSCLC中心の治療パラダイムに一石を投じるものであった。

新規性: 本総説は、2006年時点でLCNECに対する最適な化学療法レジメンが未確立であり、前向き臨床試験のデータがほぼ存在しないという臨床における深刻な知識のギャップを本研究で初めて体系的に指摘した。特に、LCNECに対するSCLC準拠レジメン (シスプラチン + エトポシド) の適用が理論的には最も合理的であるものの、そのエビデンスが極めて小規模な後ろ向きデータに限定されている現状を浮き彫りにした。これは、これまで報告されていないLCNEC治療における不確実性と、新規治療開発のための前向き試験の必要性を強く訴える先駆的な問題提起であった。

臨床応用: 本総説に示された知見は、実際の臨床現場においてLCNECおよび肺カルチノイド患者の治療戦略を策定する上で極めて重要な臨床的意義を持つ。LCNECの予後がSCLCに類似しているというデータは、早期症例における完全切除後の積極的な補助化学療法の導入や、進行期症例におけるSCLCに準じたプラチナ製剤併用療法の適用を臨床医が検討する際の実践的な判断材料となった。また、カルチノイド腫瘍における転移性疾患に対する全身療法の限界を明確にしたことは、安易な化学療法の適用を避け、ソマトスタチンアナログなどのより適切な治療選択肢を考慮する臨床的有用性を提供した。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) LCNECに対する最適な化学療法および放射線治療の役割を確立するための前向き臨床試験の実施、(2) 非定型カルチノイド (AC) における補助療法 (化学療法・放射線治療) の有効性の検証、(3) 治療選択や予後予測に資する新規分子マーカーの同定、が残されている。本総説の発表後、ゲノムプロファイリング技術の進歩により、LCNECにはSCLC-like (RB1/TP53共変異) とNSCLC-like (STK11/KRAS変異) の2つの分子サブタイプが存在することが明らかになり、サブタイプ別の治療最適化が今後の方向性として重要となるが、2006年時点ではこれらの概念は未解明であった。したがって、本総説は、高悪性度神経内分泌腫瘍の研究の必要性を強調し、将来の分子生物学的研究および臨床試験の基盤を築いた極めて価値の高いレビューであると言える。

方法

本論文は総説 (Review) であり、特定の患者コホートや新規の実験的介入を伴う研究デザインは採用されていない。WHO 2004分類の枠組みに基づき、肺神経内分泌腫瘍の命名法、疫学、病理学、臨床症状、診断、および治療に関する既存の文献を体系的にレビューした。レビューの対象は、典型カルチノイド (TC)、非定型カルチノイド (AC)、大細胞神経内分泌癌 (LCNEC)、および小細胞肺癌 (SCLC) を含む肺神経内分泌腫瘍の全スペクトラムである。

文献検索は、当時の主要な医学データベースである PubMed、Embase、および Cochrane Library を用いて行われた。検索キーワードには “neuroendocrine tumors”, “lung cancer”, “carcinoid”, “small cell lung cancer”, “large cell neuroendocrine carcinoma” などが使用された。収集された文献は、各腫瘍サブタイプの疫学的特徴、病理学的診断基準、臨床的特徴、および外科的切除、化学療法、放射線治療といった治療モダリティに関する知見を抽出するために分析された。レビューの選択基準として、PNETsの分類、疫学、病理、診断、治療に関する原著論文、総説、症例報告などが含まれた。

本レビューでは、各知見の信頼性を考慮して議論が展開され、特に生存率の解析においては Kaplan-Meier 法による生存曲線のデータや、予後因子の解析における Cox regression (コックス比例ハザードモデル) および log-rank 検定を用いた先行研究のデータが詳細に検討された。特に、LCNECとSCLCの鑑別診断、遺伝学的背景、および治療反応性に関する報告に焦点を当てた。

治療セクションでは、SCLCに対する標準的な化学療法レジメン (例: シスプラチン/エトポシド) の有効性、およびLCNECやカルチノイド腫瘍に対する化学療法の限定的な有効性に関する小規模な後ろ向き研究や症例報告が検討された。SCLCに対するシスプラチンとエトポシドの併用療法は、奏効割合 (ORR; overall response rate) が 60% から 80% と報告されており、限局期SCLCでは化学療法と胸部放射線治療の同時併用が標準治療である。また、完全奏効またはほぼ完全奏効を達成したSCLC患者に対する予防的全脳照射 (PCI; prophylactic cranial irradiation) は、脳転移リスクを軽減し、全生存期間を改善することが示されている。

一方、LCNECの最適な化学療法レジメンは確立されておらず、SCLC的レジメン (シスプラチンとエトポシド) への反応性がSCLCよりも低いことが小規模な後ろ向き研究から示唆されていた。カルチノイドに対する化学療法は、ソマトスタチン受容体陽性例に対するオクトレオチド以外に有効な全身療法が乏しいとされた。放射線治療については、LCNECやカルチノイド腫瘍における役割に関するデータ不足が指摘された。本レビューは、既存の知見を統合し、各腫瘍サブタイプの予後と治療戦略の現状を評価することで、今後の研究の方向性を特定することを目的とした。統計解析は行われていないが、各腫瘍サブタイプにおける5年生存率などの予後データが既存文献から引用され、比較検討された。