- 著者: Steuer CE, Behera M, Kim S, Chen Z, Saba NF, Pillai RN, Owonikoko TK, Khuri FR, Ramalingam SS
- Corresponding author: Suresh S. Ramalingam (Winship Cancer Institute of Emory University, Atlanta, GA, USA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-07-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 25371080
背景
肺非定型カルチノイド (AC: atypical carcinoid) は、肺神経内分泌腫瘍 (NET: neuroendocrine tumor) スペクトラムの中間型に位置する中悪性度の稀少肺癌である。肺カルチノイド腫瘍は全肺新生物の1~5%を占め、ACはそのうち約10%にすぎないと推定されており (Fink et al. Chest 2001)、肺癌全体の中では極めて希少な組織型を形成する。ACは1972年にArrigoni et al.により初めて記載され、その後1998年にTravis et al.が200例の肺NETを対象とした包括的な組織病理学的・臨床的検討により、神経内分泌形態かつ凝固壊死の存在または有核腫瘍2 mm2あたりmitotic count 2-10を満たすものとして臨床的に意義ある定義を確立した。この定義はその後WHOおよびIALSC (International Association for the Study of Lung Cancer) の肺腫瘍分類に組み込まれた。肺NET群は分化度の高い順に典型カルチノイド (TC: typical carcinoid)、AC、大細胞神経内分泌癌 (LCNEC: large cell neuroendocrine carcinoma)、小細胞癌からなるスペクトラムをなし (Filosso et al. J Thorac Oncol 2013)、ACはその中間的な生物学的悪性度を示す独自のサブグループを構成する。
ACの有病率の低さから、臨床的リスク因子・予後・最適治療に関する理解は乏しい状態が続いており、大規模な集団ベースのデータが不足していた。既存の文献の大部分は外科シリーズに基づく小規模な単一施設研究からなり (García-Yuste et al. Eur J Cardiothorac Surg 2007; Daddi et al. Eur J Cardiothorac Surg 2014)、外科切除が適応となる早期病期の患者が偏って組み込まれるという選択バイアスが存在する。加えて、放射線治療や化学療法の外科単独または補助的使用における有効性については確立されたエビデンスが皆無に等しく、治療戦略上の重大なgap in knowledgeが存在した (Bertino et al. Cancer 2009)。これらの課題を克服するため、本研究は全米規模の人口ベースがん登録データベースであるSEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) プログラムを用いて、肺ACの疫学的特徴・人口統計学的プロファイル・病期分布および治療効果を体系的に解析することを試みた。
目的
米国SEERデータベースを用いて、肺ACの疫学的特徴・人口統計学的プロファイル・病期分布・治療実態および全生存期間 (OS: overall survival) を記述することを主目的とした。副次的に、外科的切除・放射線治療が全生存に与える独立した影響をCox比例ハザードモデルにより定量化し、稀少疾患であるACの予後因子に関するエビデンスを大規模データで確立することを目的とした。
結果
疾患頻度と人口統計学的特徴:SEERデータベースに登録された肺および気管支腫瘍947,463例のうち、ACは441例 (n=441、0.05%) を占めるにすぎず、肺癌全体の約0.1%未満の極めて稀な組織型であることが確認された (Table 1)。AC患者の診断時年齢中央値は65歳 (範囲21-90歳) であった。性別分布では女性が303例 (68.7%) と過半数を占め、人種別では白人381例 (87.2%)、黒人37例 (8.5%)、その他19例 (4.4%) であった。原発部位は下葉177例 (40.1%)、上葉151例 (34.2%)、中葉61例 (13.8%)、主気管支10例 (2.3%) の順であった。治療実施状況としては、外科的切除が341例 (77.5%)、放射線治療が54例 (12.5%) に施行された。外科切除施行例のうち、亜区域切除 (楔状切除・区域切除) が72例 (21.5%)、肺葉切除以上が269例 (78.5%) を占めた。
病期分布と転移状況:病期評価可能な417例において、限局性病変が203例 (48.7%)、所属リンパ節転移を有する地域性病変が131例 (31.4%)、遠隔転移が83例 (19.9%) を占めた (Table 2)。AJCC第6版ステージでは、欠損128例を除いた313例のうちIA期が123例 (39.3%)、IV期が56例 (17.9%) であった。病期群間の比較では、遠隔転移性疾患の患者は限局性疾患と比較して有意に高齢であり (中央値67歳 vs 65歳; p=0.006)、放射線治療を受ける頻度が有意に高く (24.7% vs 4.0%; p < 0.001)、外科的切除を受ける頻度は有意に低かった (36.1% vs 91.6%; p < 0.001) (Table 2)。
全生存成績の病期別解析:全体集団における1年OS率は86% (322/374例)、3年OS率は67% (170/254例) であった (Table 3、Fig 1)。病期別の生存成績は病期の進行に伴い著明に悪化し、限局性病変では1年OS率92%・3年OS率85% (99/116例) であったのに対し、遠隔転移性病変では1年OS率61%・3年OS率は26% (13/50例) に留まった (Table 3、Fig 2)。単変量Cox解析では、遠隔転移性疾患は限局性疾患と比較して死亡リスクが6.72倍高く (HR 6.72; 95% CI 4.45-10.15; p < 0.001)、地域性疾患でも1.94倍高かった (HR 1.94; 95% CI 1.26-2.96; p=0.002)。連続変数としての高齢も死亡リスクと有意に関連した (HR 1.03; 95% CI 1.02-1.05; p < 0.001) (Table 4)。
外科的切除の予後効果と術式の影響:外科的切除は単変量解析において、未切除例と比較して死亡リスクを81%低減し (HR 0.19; 95% CI 0.14-0.26; p < 0.001)、すべての解析変数の中で最も強力な独立予後改善因子であることが確認された (Table 4)。術式別の比較では、亜区域切除 (楔状切除・区域切除) と肺葉切除以上の術式の間でOSに有意差は認められなかった (単変量: HR 1.23; 95% CI 0.72-2.11; p=0.446; 多変量: HR 1.11; 95% CI 0.59-2.10; p=0.740) (Table 4、Table 5)。病期・年齢で補正した後も外科切除の利益は一貫して観察されたが、手術未施行例の中には切除困難な進行例が多く含まれることに留意が必要である。
放射線治療・人種・腫瘍部位の影響:放射線治療は単変量解析においてOS有意悪化と関連した (HR 2.44; 95% CI 1.65-3.63; p < 0.001) が、多変量解析 (要約病期・年齢で層別化) では統計的有意水準を下回った (HR 1.42; 95% CI 0.90-2.24; p=0.13) (Table 5)。人種については、単変量解析で黒人患者は白人に比べ死亡リスクが有意に高く (HR 1.94; 95% CI 1.13-3.33; p=0.017)、多変量補正後も悪化傾向は維持されたが有意差は消失した (HR 1.58; 95% CI 0.88-2.83; p=0.126) (Table 4、Table 5)。腫瘍部位別解析では、主気管支発生 (HR 3.67; 95% CI 1.37-9.84; p=0.010) および部位不明 (Lung NOS; HR 5.42; 95% CI 2.65-11.10; p < 0.001) のACが有意に不良な予後を示した。
考察/結論
本研究はSEERデータベースを用いた肺ACの集団ベース後方視的解析であり、441例という当該疾患の単一研究としては比較的大規模なコホートで疫学・予後データを体系的に提供した。
先行研究との違い:これまでの研究は主に外科シリーズに基づく小規模単一施設研究であり、切除可能な早期病期患者が選択的に組み込まれるバイアスを免れなかった。既報の大規模外科シリーズ (García-Yuste et al.; Cañizares et al.) では女性比率が46~50%と報告されているのと異なり、本研究の集団ベース解析ではACが69%という明確な女性優位分布を示した。この相違点は、SEERデータベースが全病期の患者を捕捉し、切除不能例を含むより代表性の高いコホートを反映していることを示唆している。また、遠隔転移率20%はGridelli et al.の報告とほぼ一致し (AC 20% vs TC 3% vs LCNEC 40%)、ACがNETスペクトラム内で中間的な転移頻度を示す独自のサブグループを構成することを確認した。これまでの研究では十分に検討されていなかった黒人患者の予後不良 (HR 1.94) についても、非小細胞肺癌全体で報告される黒人の死亡率17%上昇と整合する新規の知見を示した。
新規性:本研究で初めて、全米規模の集団ベースデータを用いてACが肺癌全体の0.05%という超希少疾患であることが定量化され、外科的切除がACにおける最も強力な独立予後改善因子であること (HR 0.19) が大規模コホートで確立された。特に新規の知見として、亜区域切除と肺葉切除以上の術式間でOSに有意差がないこと (p=0.446 単変量、p=0.740 多変量) が、これまでの限られた報告を超える規模で初めて示された。黒人患者における過剰死亡リスクの存在もACとしては新規の観察であり、社会経済的・生物学的要因を含む機序の解明が今後の重要な課題となる。
臨床的意義:本知見はACの臨床応用に複数の実践的示唆を与える。外科的切除がOSを劇的に改善する (HR 0.19) ことから、限局性・地域性ACには積極的な外科的切除が最優先治療として推奨される。亜区域切除でも肺葉切除と同等のOSが期待できるという知見は、肺機能の温存が重要となる症例においても臨床的意義を持つ。遠隔転移性ACの3年OS率が26%という著しく不良な成績は、有効な全身療法が臨床現場で欠如していることを示しており、mTOR阻害薬・ソマトスタチンアナログ・ペプチド受容体放射核種療法 (PRRT) を含む新規全身療法の開発が急務である。放射線治療の単変量でのOS悪化との関連については、切除不能例や重篤な併存疾患を有する高リスク患者が放射線治療に選択される傾向を反映した選択バイアスである可能性が高く、放射線治療そのものの有害性とは解釈できない点に注意が必要である。
残された課題:本研究にはいくつかのlimitationが存在する。SEERデータベースには喫煙歴・パフォーマンスステータス・化学療法レジメン・Ki-67増殖指数・TNM詳細ステージといった予後の重要な臨床情報が含まれておらず、これらの交絡因子を制御できない点が主たる制限である。特に化学療法の詳細データが一切入手できないため、進行・転移性ACに対する全身療法の有効性の評価が不可能であった点は大きな限界である。また、1973年から2010年という長期データ収集期間中の診断基準変化 (ACの組織学的コーディング標準化は1998年) や治療手順の変化が解析の均一性に影響する可能性がある。ACの希少性に伴う症例数の制約も多変量解析の検出力を制約しており、特に黒人患者や部位別解析では解釈に慎重さが求められる。今後の検討課題として、Ki-67・病理学的詳細情報・全身療法データを組み込んだ前向き研究の実施、および進行ACに対する標的療法・免疫療法の有効性を評価する国際共同試験の実施が求められる。
方法
本研究は、米国国立がん研究所 (NCI: National Cancer Institute) が主導するSEERプログラムの公開データを用いた後方視的コホート解析である。18のSEERレジストリから収集された1973年から2010年までのデータをSEER*Stat 8.1.2ソフトウェアで抽出した。SEERプログラムは米国人口の約28%をカバーする18の集団ベースがん登録から癌罹患・生存データを収集している。ICD-O-3/WHO 2008分類に基づき肺および気管支癌と診断された全症例を同定し、このうちICD-O-3組織学的診断コードでACと分類された患者441例を主解析対象として特定した。AC症例はSEERでの組織学的コーディング標準化 (1998年) を受け、実質的には2001年以降から登録されている。解析除外基準は設けず全AC症例を対象とした。
統計解析はSAS 9.3 (SAS Institute, Inc., Cary, NC) を用いた。ベースライン患者特性の病期間比較には、連続変数 (診断時年齢) にKruskal-Wallis検定を、カテゴリ変数にカイ二乗検定またはFisherの正確検定を適用した。病期分類はAJCC第6版の欠損率が高かったため、SEER historic stage A分類 (限局性・所属リンパ節転移性・遠隔転移性の3区分) を主解析に使用した。全生存 (OS) はKaplan-Meier法で推定し、log-rank検定で層別化群間差を評価した。単変量および多変量生存解析にはCox比例ハザードモデルを用い、多変量モデルでは人種・性別・原発部位・放射線治療・CHSDA (Contract Health Service Delivery Areas) 地域を投入し、除去基準alpha=0.1とする後方変数選択法で最良予測モデルを同定した。モデルは要約病期と診断時年齢で層別化した。統計的有意水準はp<0.05とした。