- 著者: Nassar AH, Uddin MH, Hasson SP, Almquist D, Doebele RC, Rittmeyer A, Johnson ML, Perol M, Fernandez-Cuesta L, Peled N, Rekhtman N, Seto T, Takahashi T, Le Treut J, Tsakonas G, Cho BC, Piotrowska Z, Goldman JW, Tabbó F, Dingemans AMC, Derks JL, George J
- Corresponding author: J. George (IARC-WHO, Lyon, France)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-08-28
- Article種別: Original Article (統合分子・臨床解析、大規模国際2コホート観察研究)
- PMID: 40830141
背景
肺の大細胞神経内分泌癌 (LCNEC, large cell neuroendocrine carcinoma) は全肺癌の約3%を占める高悪性度神経内分泌腫瘍で、進行例の生存期間中央値は7-12ヶ月と非常に予後不良である (Travis et al. JThoracOncol 2015)。2015年WHO分類で独立疾患単位とされたものの、最適な全身治療は確立しておらず、その理由のひとつは生物学的位置づけの曖昧さにある。先行ゲノム解析 (George et al. NatCommun 2018、n=75) はLCNECをType I (TP53+STK11/KEAP1変異・神経内分泌表現型) とType II (TP53+RB1両アレル不活化・NOTCH活性化・免疫関連シグネチャ富化) に分け、最近ではRekhtman ら (2016 ClinCancerRes) がNSCLC-like (KRAS/STK11/KEAP1変異・RB1野生型) とSCLC-like (TP53/RB1同時変異) という、より治療志向の二分類を提唱したが、症例数が限定的で予後との関連も明確でなかった。免疫チェックポイント阻害薬 (ICI, immune checkpoint inhibitor) はNSCLC (non-small cell lung cancer, 非小細胞肺癌) /SCLC (small cell lung cancer, 小細胞肺癌) 双方で標準治療化したものの (Reck et al. NEnglJMed 2016; Horn et al. NEnglJMed 2018)、LCNECにおけるICIの第一選択での前向きエビデンスはほぼ皆無で、報告は症例集積と125例の後方視的解析にとどまり、しかも全例が二次治療以降での投与であった (現在の標準診療順序と乖離)。さらに分子サブタイプ別の治療選択と生存の関係、ゲノムでは「未分類」となる症例の生物学的位置づけ、LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3) リガンドFGL-1 (fibrinogen-like protein 1) ・SPINK1 (serine peptidase inhibitor Kazal type 1) ・DLL3 (delta-like ligand 3) など新規治療標的候補のサブタイプ特異性は未解明であり、これら三つのギャップを埋める大規模統合解析が不足していた。これまでの研究で何が足りなかったかを整理すると、(a) サブタイプ別予後を検出可能な検出力を持つコホート (>200例) の不在、(b) ゲノム未分類例の生物学的解像度を高めるトランスクリプトーム統合の欠如、(c) 治療標的候補 (FGL-1・SPINK1・DLL3) のサブタイプ特異性のsystematic定量、の3点に集約される。
目的
進行LCNEC 590例 (国際2コホート) を対象に、(1) 第一選択全身療法 (化学療法 vs 化学免疫療法 vs ICI単独) によるOS/PFS差を実臨床データで定量する、(2) ゲノム未分類LCNECをトランスクリプトームベースSVM分類器で再分類しその精度と転帰関連を評価する、(3) FGL-1・SPINK1・DLL3など治療標的候補がどの分子サブタイプに偏在するかを定義し、TIL密度を他肺癌と比較して免疫療法奏効限界の機序を考察する、という三つの問いに答えること。
結果
第一選択全身療法によるOS/PFSにサブタイプ横断的有意差なし:Cohort 1 (n=217) のOS中央値は化学療法群15ヶ月 (95% CI 8.1-17.4)・化学免疫療法群12ヶ月 (95% CI 7.4-18.3)・ICI単独群13.6ヶ月 (95% CI 6.8-25.2) で三群間に有意差なし (Fig 1A)、Cohort 2 (n=146) でも化学療法群14.9ヶ月 (95% CI 9.3-26.1)・化学免疫療法群17.6ヶ月 (95% CI 13.2-21.2)・ICI単独群21.7ヶ月 (95% CI 6.0-NR) で有意差なし (Fig 1B)。2019年1月前後の治療年で層別しても化学療法群内OS差なし (n=71 vs n=48; p=0.57)、2019年3月以降の症例での三群比較でも有意差なし (n=32 vs n=8 vs n=74; p=0.3)。化学療法後の二次治療をICI-based (n=33) vs non-ICI-based (n=28) で比較してもOS差なし (p=0.2)。real-world PFS中央値はCohort 1で化学療法5.1ヶ月・化学免疫療法5.4ヶ月・ICI単独3.9ヶ月で、ECOG・M stage・性別・年齢調整後に化学療法群が化学免疫療法群より有意に短い (HR 1.43, 95% CI 1.04-1.99, p=0.03) ものの絶対差は0.3ヶ月で臨床的意義は限定的 (Fig 1C)。NSCLC-likeにNSCLCレジメンを当てた群とSCLC-likeにSCLCレジメンを当てた群のOS比較もCohort 2でHR 1.20 (95% CI 0.59-2.31, p=0.65) と差なし。治療関連有害事象 (trAE, treatment-related adverse event) 発生率はCohort 1全体で52% (n=112/216)、Grade≥3は化学療法22%・化学免疫療法26%・ICI単独0%と治療群間で大差なく、治療中止に至る毒性も10-15%と類似していた (Fig 1D)。
SVM分類器が未分類LCNECの70.6%をSCLC-likeに再分類:Cohort 1で完全な遺伝子パネルがある85例のうちNSCLC-like n=25 (29%)・SCLC-like n=19 (22%)・unclassified n=41 (48%)、Cohort 2では373例中NSCLC-like n=89 (23.9%)・SCLC-like n=136 (36.5%)・unclassified n=148 (39.7%) と、ゲノム単独分類では4-5割が未分類となった (Fig 2A, 2B)。2,168遺伝子のトランスクリプトーム特徴量で訓練したSVM (support vector machine) 分類器はAUC 0.98・正確度90.1%を達成し (Fig 3A, 3B)、未分類143例のうちn=101 (70.6%) をSCLC-like、n=42 (29.4%) をNSCLC-likeに再分類した。UMAP (uniform manifold approximation and projection) 次元削減で3クラスタが描出され再分類試料が各サブタイプクラスタに近接配置されたことから生物学的妥当性が支持された (Fig 3C, 3D)。ただし4亜群間のOS差は依然有意でなかった (log-rank p=0.23)。9例の経時的二検体ペア解析ではゲノムdriverは安定する一方、5例中4例で転写プロファイルが時間とともに変動 (transcriptional fluidity) し、ゲノム-転写の二重評価の重要性が示された (Fig 2C)。Targetable alterationはCohort 2のn=22/373 (5.9%) に検出 (KRAS G12C n=13・EGFR活性化変異n=5・ERBB2変異n=1・EML4-ALK n=3・ETV6-NTRK2 n=1)。
FGL-1・SPINK1がNSCLC-likeで顕著高発現 (LAG-3軸標的の根拠):NSCLC-like vs SCLC-like間で1,061遺伝子が有意差 (p<0.05, fold change>2) を示し、なかでもFGL-1とSPINK1はNSCLC-likeで圧倒的高発現を示した (Fig 5A)。FGL-1はNSCLC-like n=19 vs SCLC-like n=16でp=8.4×10⁻⁶、NSCLC-like vs unclassified n=31でp=0.0003と独立の3コホートで再現性確認 (Fig 5C)。TCGA-LUAD n=503と比較してもNSCLC-like LCNECでFGL-1有意高発現。DepMap 54細胞株中、LCNEC由来NCIH1155がFGL-1タンパク最高発現を示し (Fig 5D)、Caris WTS (whole-transcriptome sequencing) の125,632腫瘍横断比較でもNSCLC-like LCNECは肝内胆管癌・肝細胞癌に次ぎ全癌種中3位のFGL-1発現中央値を示した (Fig 5E)。FGL-1高低でGSEA (gene set enrichment analysis) を実施するとKRASシグナル経路が高発現群で有意富化され、KRAS変異とLAG-3経路抑制のクロストーク仮説が浮上 (Fig 5F)。免疫蛍光ではNSCLC-like LCNEC n=1/2 (50%) ・NSCLC n=3/3 (100%) でFGL-1陽性、SCLC-like n=0/1・SCLC n=0/4で陰性とRNA発現と整合した (Fig 5G)。SPINK1も同様にNSCLC-like vs SCLC-likeでp=1×10⁻⁶、NSCLC-like vs unclassifiedでp=8.3×10⁻⁵と差が再現された。
DLL3はSCLC-like LCNECで高発現 (SCLC類縁):DLL3発現中央値はSCLC群でTPM (transcripts-per-million) 8.3、SCLC-like LCNECで6.3、unclassified LCNECで3.9 (SCLC vs unclassified LCNEC p<0.0001、SCLC-like vs unclassified p<0.05、NSCLC-like vs SCLC-like p=0.04; Fig 4E)。これはGeorge et al. NatCommun 2018 のType I-LCNECにおけるDLL3高発現の知見と一致し、DLL3標的二重特異性抗体tarlatamabや抗体薬物複合体 (ADC, antibody-drug conjugate) のSCLC-like LCNECへの応用根拠を強化する。SCLC転写サブタイプ分類 (ASCL1/NEUROD1/POU2F3/YAP1, Gay et al. CancerCell 2021) をn=1,643 SCLC + n=361 LCNECに適用すると、SCLC-like LCNECは36.56%がASCL1陽性 (NSCLC-likeの23.81%・unclassifiedの11.12%より有意に多い、p=0.04 / p<0.001; Fig 4A, 4B)、YAP1陽性はNSCLC-likeで26.19%・SCLC-likeで14.18%・unclassifiedで31.76%と分布し、YAP1陽性LCNECはCD8浸潤富化を伴った。
TILはLCNECで他肺癌より顕著に少なくimmune-cold表現型:QuPathによるH&Eベース自動TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) カウントでLCNEC n=16のTIL密度はLUAD (lung adenocarcinoma) n=353 (p=0.009)・LUSC (lung squamous cell carcinoma) n=63 (p=0.006)・SCLC n=122 (p=0.005) のいずれと比較しても有意に低く、LCNECが免疫学的に「冷たい (cold) 」腫瘍微小環境を有することが示された (Fig 4H)。これは化学免疫療法・ICI単独でOS改善が得られなかった本研究の臨床所見と整合する。なおサブタイプ別TIL解析 (NSCLC-like n=6・SCLC-like n=4・unclassified n=6) は症例数不足で統計的検出力不足だった。TMB-High (>10 muts/Mb, tumor mutational burden) はNSCLC-likeの56.3% (n=49)・SCLC-likeの49.6% (n=67) で類似、PD-L1陽性率も三群類似、MMR (mismatch repair) 欠損はn=2 (1.47%、いずれもSCLC-like) のみと、既存FDA承認バイオマーカーではLCNEC内サブタイプを十分に層別できないことも示された (Fig 2E)。
考察/結論
本研究はLCNECに関する過去最大規模 (n=590) の統合分子・臨床解析であり、これまでの125例規模の後方視的単一サブタイプ解析や、二次治療以降に偏ったICI報告 (n=17 nivolumab・n=23 ICI、いずれもmedian PFS 4ヶ月前後) と異なり、第一選択全身療法に焦点を当てた最初の多施設大規模統合データを提供した。先行のGeorge 2018 NatCommun (n=75) およびRekhtman 2016 ClinCancerResのゲノム二分類研究と対照的に、本研究はトランスクリプトームベースSVM分類器を導入することでゲノム未分類例の生物学的解像度を初めて格段に向上させた点が新規である。これまでの研究では達成されていなかった「ゲノム未分類4-5割の再分類」「3独立コホート (Cohort 2・George et al. NatCommun 2018 ・TCGA-LUAD) でのFGL-1/SPINK1サブタイプ特異性検証」「自動TIL解析によるimmune-cold表現型のサブタイプ横断的定量」の3点を本研究で初めて系統的に示した。Heijboer 2025 Lung Cancer (パネル確認LCNECでchemo-IO非有意 HR 0.71, p=0.2) と相違なく整合する化学免疫療法のサブタイプ横断的非優越性と、TIL低密度のimmune-cold表現型は、なぜLCNECでICIが効きにくいかの機序的説明 (George et al. NatCommun 2018 のType II免疫関連シグネチャ富化と対照的) を提供する新規な視点となる。novelなFGL-1高発現はLAG-3軸の標的根拠となり、これまでLCNECで未検討であった「LAG-3抗体+化学療法」併用試験 (Tawbi et al. NEnglJMed 2022 でmelanomaで実証済みのrelatlimab-nivolumab pair) のLCNECへの拡張が合理的に提案できる。臨床応用と臨床的意義の観点では、本研究の知見は (a) LCNEC全体ではchemo-IO・ICI単独が化学療法に優越しないため漫然と適用すべきでなく、(b) 分子サブタイプ別の標的療法 (SCLC-like→DLL3標的tarlatamab・bispecific T cell engager、NSCLC-like→LAG-3抗体・FGL-1標的ADC・SPINK1下流MAPK阻害) を前向きに検証する第II相試験の設計指針を提供し、bench-to-bedside translationの転換点となる可能性がある。残された課題と今後の展望としては、(i) 後方視デザインに伴う治療選択バイアスと不均一なフォローアップによるrwPFS推定のばらつきというlimitation、(ii) Cohort 1でのパネル不均一性と中央病理確認の欠如 (ただしCaris中央確認サブセットで94.3%の診断一致が支持)、(iii) 非白人集団の過小代表によるgeneralizability制約、(iv) 9例にとどまる経時検体での転写plasticityの結論不可能性、(v) FGL-1/SPINK1の機能的役割 (in vitro/in vivo検証) の今後の検討、(vi) NCT05882058・NCT05619744 (DLL3標的) など進行中のLCNEC特異的試験への分子サブタイプ層別化導入、(vii) 前向きバイオマーカー駆動型試験のデザインが挙げられる。
方法
Cohort 1は2014年1月-2023年12月にベルギー・ドイツ・イタリア・スペイン・英国・米国の26施設で第一選択全身療法を受けた進行LCNEC 217例の多施設レトロスペクティブコホートで、Yale-New Haven Hospital IRB承認下にde-identified dataで実施 (informed consent waived)。診断は第5版WHO肺腫瘍分類に基づき神経内分泌形態 (organoid nesting/palisading/rosettes/trabeculae) と神経内分泌マーカー (chromogranin A/synaptophysin/INSM1/CD56) 少なくとも1陽性、有糸分裂>10/2mm²または広範な壊死を要件とし、他成分 (腺癌・扁平上皮癌・SCLC) との混合例は除外。Cohort 2は2015年1月-2023年11月にCaris Life Sciences (Phoenix, AZ) でtissue-based genomic profilingを受けた373例で、うち第一選択全身療法データのある146例を臨床outcome解析、全例を分子相関解析に組み入れた。Caris内中央病理確認のサブセット (n=142) で診断一致率94.3%。Cohort 1は施設標準のNGSパネルで主要driver遺伝子 (ALK/EGFR/KEAP1/KRAS/MET/RB1/SMARCA4/STK11/TP53) を評価、Cohort 2はNextSeq 592遺伝子パネル (n=84) またはNovaSeq 6000 WES (n=289) で統一的に解析し、>700遺伝子は500×、>20,000遺伝子は200×平均深度を達成、OncoKB criteria (Cohort 1) およびACMG基準 (Cohort 2) でvariant pathogenicityを判定。RNA whole-transcriptome sequencing (WTS) はAgilent SureSelect Human All Exon V7とIllumina NovaSeqで22,948遺伝子をSalmonで定量、TCGA-LUAD 515例を比較対照とした。分子サブタイプはconcurrent TP53+RB1変異をSCLC-like、KRAS/STK11/KEAP1変異+RB1野生型をNSCLC-like、それ以外をunclassifiedと定義。SVM分類器はSCLC-like/NSCLC-likeのトランスクリプトーム (高分散+adjusted p<0.01の2,168遺伝子) を入力特徴量とし、ラベルあり試料の80% (n=174) で訓練・残り20% (n=44) で検証。免疫細胞構成はquanTIseqで10系統を推定、PD-L1は22c3/28-8/SP263抗体、TMB-Highは>19 muts/Mb (KEYNOTE-158基準) と定義。TIL densityはQuPath v4.0でwatershed segmentation + random forest classifierにより自動カウント (DFCI標本)、FGL-1はProteintech 16000-1-AP/66483-1-Ig抗体による免疫蛍光をLSM880 Airyscan共焦点で評価。SCLC比較群として独立Caris cohort 1,704例 (うちWTSあり1,643例) を用いた。生存解析はKaplan-Meier法+log-rank test、HRはCox比例ハザード、サブタイプ間頻度比較はtwo-sided chi-square test、発現量比較はnon-parametric two-sided Wilcoxon rank sum testで実施。