- 著者: Takeuchi K, Choi YL, Togashi Y, Soda M, Hatano S, Inamura K, Takada S, Ueno T, Yamashita Y, Satoh Y, Okumura S, Nakagawa K, Ishikawa Y, Mano H
- Corresponding author: Kengo Takeuchi (Division of Pathology, The Cancer Institute, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-04-21 (published OnlineFirst)
- Article種別: Original Article
- PMID: 19383809
背景
遺伝子融合は血液腫瘍・肉腫における主要な発癌機構であり、慢性骨髄性白血病の t(9;22)(q34;q11) が生む BCR-ABL 融合キナーゼ (Bartram 1983) を端緒に多数の融合型癌遺伝子が同定されてきた。一方で、上皮性腫瘍において転座依存性の融合型癌遺伝子が主要な役割を担うかは長く不明であったが、前立腺癌の約 50% が ETS 転写因子座を含む遺伝子融合を有すること (Kumar-Sinha 2008) が示され、状況が変わりつつあった。非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer, NSCLC) では inv(2)(p21p23) によって生じる融合型の PTK (protein tyrosine kinase) である EML4-ALK が同定され (Soda 2007)、強制発現マウスでの肺腫瘍誘導と ALK 阻害による腫瘍消退から、この融合キナーゼが発癌の駆動因子であること・ALK 阻害薬の臨床応用可能性が裏付けられていた。
しかし EML4-ALK は EML4 側の breakpoint 多様性により複数の isoform が存在し (Choi 2008)、すべての in-frame 融合を捕捉する必要があったため、著者らは multiplex RT-PCR 検出系を先行開発していた (Takeuchi 2008)。だが病理検体の多くはホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) で核酸が劣化しており、RNA/DNA ベースの検出には不向きであった。免疫組織化学 (immunohistochemistry, IHC) は有力な代替手段だが、未分化大細胞型リンパ腫の NPM-ALK が効率良く検出される (Cataldo 1999) のとは対照的に、EML4-ALK は EML4 プロモーターの転写活性が弱いためか肺組織での IHC 検出が困難であった (Martelli 2009)。すなわち、FFPE 検体でも ALK 融合蛋白を高感度かつ正確に検出できるスクリーニング系が欠けており、従来法では NSCLC での検出感度が十分でなかったこと、そしてそうした系が未知の ALK 融合遺伝子を捕捉しうるかが本研究のギャップであった。
目的
FFPE 検体で ALK 融合蛋白を高感度に検出できる免疫組織化学的スクリーニング系を確立し、それを連続肺腺癌コホートに適用して EML4-ALK 陽性例を漏れなく同定すること。加えて、本 IHC 系が既存の PCR 法では捕捉できない新規 ALK 融合遺伝子・新規 variant を発見しうるかを検証することを目的とした。
結果
iAEP 法の確立と抗体選定:NPM-ALK 陽性の未分化大細胞型リンパ腫検体を 5 種の抗 ALK 抗体クローン (ALK1 1:20、5A4 1:50、SP8 (anti-ALK monoclonal antibody clone) 1:100、ZAL4 (anti-ALK antibody clone) 1:200、p80 1:100) で EnVision+DAB ポリマー法により染色したところ、ZAL4 は正常間葉系細胞とも反応し p80 は染色強度が低かったため、ALK1・5A4・SP8 の 3 抗体が初期選定された。5 抗体中 3 抗体 (60%) が選定され、希釈倍率は 20 倍から 200 倍にわたった。EML4-ALK 陽性 11 例・陰性 10 例から成る test set を従来法で染色すると陰性〜境界陽性に留まったため、一次抗体と EnVision+DAB の間に介在抗体を挟む intercalated antibody-enhanced polymer (iAEP) 法を導入した。この iAEP 法では 3 抗体すべてが test コホートの EML4-ALK 陽性 11 例全例を検出した一方、SP8 は EML4-ALK 陰性例の大半とも反応し大規模スクリーニングに不適、ALK1 は非腫瘍細胞に低レベルの非特異的背景染色を示した (Table 1)。
validation コホートでの 5A4 選定と陽性例同定:ALK1 と 5A4 を連続肺腺癌 130 例 (n = 130) の validation set に適用した結果、両抗体で 4 例が iAEP 法陽性となった。ALK1 は多くの検体で背景染色を示したのに対し 5A4 では背景がごく少数に限られたため、5A4 を最終的に選定し日常診断業務に組み込んだ。これにより validation コホート 130 例に加えてルーチン診断中にさらに 4 例の 5A4 陽性肺腺癌が同定され、合計 8 例の陽性例が得られた。これら 8 例のうち 5 例は既知の EML4-ALK variant、残り 3 例が新規 ALK 融合蛋白 (EML4-ALK variant 6・7 および KIF5B-ALK) を発現しており、高感度 IHC が新規融合構築物の検出で PCR 法に優ることが示された。
EML4-ALK 新規 variant 6・7 の同定:5A4 で認識された validation 4 例を multiplex RT-PCR で解析すると 3 例が EML4-ALK 陽性で、#24461 と #26422 はそれぞれ variant 1 と 3 を有した (Fig. 1A)。#26020 由来 cDNA は EML4 exon 13 が ALK exon 20 の 69 bp 上流に融合した新規 variant 6 を含み、その融合点の周辺ゲノム配列は splicing acceptor site の consensus に合致した (Fig. 1B)。ルーチン診断で得た追加 4 例の解析では #27998 に EML4 exon 14 が ALK exon 20 の nucleotide 13 に融合した新規 variant 7 が同定された (Fig. 1C and D)。全長 cDNA は variant 6 が 3,365 bp、variant 7 が 3,435 bp で、予測分子量はそれぞれ 119,380 Da・122,220 Da の機能的 PTK をコードした。
KIF5B-ALK の発見と頻度:validation コホートの #24704 は iAEP 法で強陽性だったが multiplex RT-PCR では特異的産物が増幅されなかった。inverse RT-PCR により KIF5B exon 24 と ALK exon 20 を含む産物を得て、KIF5B exon 24 と ALK exon 22 を標的とするプライマーで予想サイズ 546 bp の単一産物を増幅し KIF5B-ALK 融合を確認した (Fig. 2A)。KIF5B はヒト 10 番染色体短腕にあり、motor domain・neck・seven coiled-coil を含む stalk から成る kinesin で、t(2;10)(p23;p11) によりほぼ全長 KIF5B が ALK 細胞内領域に連結される (Fig. 2B)。KIF5B-ALK も検出できるよう改変した multiplex RT-PCR を、本研究の 8 例に加え既報の肺腺癌 253・他型肺癌 111・他臓器腫瘍 292 検体に適用したところ、既報コホート中にもう 1 例 (#2524) の KIF5B-ALK 陽性肺腺癌が見つかり、肺腺癌 383 例中 2 例 (0.52%) が KIF5B-ALK 陽性であった。2 例間で genomic PCR 産物が異なり、KIF5B intron 24 と ALK intron 19 内の breakpoint が distinct であることを示した (Fig. 2C)。
組織像・FISH・形質転換能:KIF5B-ALK 陽性 2 例は papillary 構造を示し、EML4-ALK 陽性例に典型的な粘液産生を伴う acinar pattern はまれであった。iAEP-5A4 染色では全癌細胞にびまん性細胞質染色を呈し、一部に perinuclear halo や macroglobular spots が見られ、これらは EML4-ALK 陽性腫瘍では観察されなかった (Fig. 3)。ALK split・KIF5B split・KIF5B-ALK fusion の 3 種 FISH はいずれも t(2;10)(p23;p11) の存在と整合し、#2524 では融合シグナルが 2 個以上で増幅が示唆された (Fig. 4)。3T3 線維芽細胞に EML4-ALK variant 6・7 または KIF5B-ALK をコードするレトロウイルスを感染させると、空ウイルス (mock) では focus 形成がほぼ皆無であったのに対し数十個の形質転換 focus を形成し (mock 比で 10-fold 以上の増加)、ヌードマウスでは全 PTK が観察 20 日以内に 8 注入部位中 8 部位 (8/8) すべてで皮下腫瘍を誘導し、新規 variant および KIF5B-ALK の発癌能が実証された (Fig. 5)。KIF5B-ALK 全長 cDNA は 4,479 bp、予測分子量 167,903 Da であった。
考察/結論
本研究は、肺癌 IHC で広く用いられてきた ALK1 抗体による従来染色が EML4-ALK を信頼性高く検出できなかったとする既報 (Martelli 2009) の知見と異なり、一次抗体と EnVision+DAB ポリマーの間に介在抗体を挟む iAEP 法という比較的簡便な改良で感度を中等度に高め、test コホートの EML4-ALK 陽性 11 例全例を検出した点が要諦である。tyramide signal amplification など他の高感度化技術 (McLachlan 2003) は多段階で再現性に劣りルーチン診断に不向きであったのに対し、本法は通常の病理検査室で実施可能である。
本研究で初めて同定された KIF5B-ALK は novel な融合癌遺伝子であり、KIF5B-PDGFRA (Score 2006) に続く 2 例目の oncogenic な KIF5B と protein tyrosine kinase の融合に相当する。KIF5B の stalk 領域 (seven coiled-coil) が EML4-ALK における EML4 の coiled-coil (Soda 2007) と同様に homodimerization を介して ALK キナーゼを恒常活性化すると推定され、形質転換能でこれを裏付けた。さらに novel な EML4-ALK variant 6・7 の発見は、EML4-ALK の isoform 多様性 (Choi 2008) が依然拡張しうることを示し、すべての in-frame 融合を捕捉する multiplex RT-PCR (Takeuchi 2008) でも単一プライマーセットでは検出されない融合がありうることを露呈した。実際 #24704 は IHC 強陽性ながら EML4-ALK 用 multiplex RT-PCR では陰性であり、高感度 IHC が PCR ベース法に対して融合 partner 非依存に新規構築物を捕捉する優位性をもつことが示された。
臨床応用の観点では、本 iAEP 法は FFPE 検体で ALK 融合蛋白陽性例を選別する translational なスクリーニング系として、ALK 阻害薬の恩恵を受けうる患者亜群の同定に直結する。EML4-ALK と肺癌組織型の関連 (Inamura 2008) のように分子・病理の対応づけが進む中で、KIF5B-ALK 陽性例が papillary 構造・perinuclear halo・macroglobular spots という EML4-ALK とは異なる組織・染色像を示すことは、partner 別の生物学的差異を示唆する。これまでの ALK 融合蛋白の知見と対照的に、NPM-ALK が核・細胞質双方に局在するのに対し KIF5B-ALK では核局在がなく、perinuclear halo は微小管沿いの輸送を反映した細胞辺縁への集積を示す可能性があり、STAT リン酸化など下流シグナルが他の ALK 融合蛋白 (Armstrong 2004) と相違しうる点は本研究が新たに示した相違である。残された課題として、すべての抗体が ALK 細胞内領域を認識するため野生型 ALK との交差を完全には排除できず (本研究では 5’ ALK cDNA 定量で野生型寄与は低いと推定したが、脳・脊髄など ALK を高発現する組織では 5A4 が認識する蛋白の同定が必要)、KIF5B-ALK の頻度がわずか 0.52% (2/383) と低く下流シグナルや治療応答性の検討は今後の課題として残された。
方法
test set は EML4-ALK 陽性 NSCLC 11 例 (variant 1・2・3 各 3 例、variant 4・5 各 1 例) と EML4-ALK 陰性 NSCLC 10 例から成り、validation set は書面同意を得た連続肺腺癌 130 例である。検体は 20% 中和ホルマリン固定・パラフィン包埋し、対応する snap-frozen 検体から RNeasy Mini kit (Qiagen) で total RNA を抽出した。FFPE 切片は 4 μm でシランコート slide に載せ、ALK 細胞内領域特異的な 5 抗体 (ALK1 [Dako]、5A4・SP8 [Abcam]、ZAL4 [Zymed]、p80 [Nichirei]) を EnVision+DAB system (Dako) で評価した。iAEP 法では Target Retrieval Solution (pH 9.0) で 97℃ 40 分の抗原賦活後、Protein Block 10 分、一次抗体 30 分、続いて感度増強のため抗マウス/抗ウサギ免疫グロブリン抗体を介在抗体として室温 15 分反応させ、dextran polymer reagent と AutoStainer (Dako) で検出した。融合転写産物は multiplex RT-PCR で全 in-frame 融合を捕捉する設計とし、KIF5B-ALK は inverse RT-PCR で同定後 KIF5B exon 24/ALK exon 22 標的プライマーで確認した (産物 546 bp)。全長 cDNA は EML4 5’UTR/ALK 3’UTR プライマーで増幅し nucleotide sequencing で確認、ゲノム再構成は genomic PCR で検証した。FISH は ALK split・KIF5B split・KIF5B-ALK fusion の 3 assay を BAC clone プローブ・DAPI 対比染色で実施した。形質転換能は各融合 PTK をコードするレトロウイルスを mouse 3T3 線維芽細胞に感染させ in vitro focus formation (培養 14 日、陽性対照 EML4-ALK variant 1・NPM-ALK) と nude mouse 皮下注入による in vivo 造腫瘍性 (観察 20 日、8 注入あたりの腫瘍数) で評価した。KIF5B-ALK の検出頻度は陽性例数を解析対象肺腺癌総数で除した割合 (2/383 = 0.52%) として記述統計的に算出し、本研究は仮説検定を伴わない記述的・診断系開発研究として陽性率・染色感度を集計した。cDNA 配列は公的塩基配列データベースに AB462411 (variant 6)・AB462412 (variant 7)・AB462413 (KIF5B-ALK) として登録した。