• 著者: Huamao M Lin, Xiaoyun Pan, Peijie Hou, Susan Allen, Pia Baumann, Maximilian J Hochmair
  • Corresponding author: Huamao M Lin (Millennium Pharmaceuticals, Inc., Cambridge, MA, USA)
  • 雑誌: Future Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-04-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32338548

背景

ALK陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界の肺癌患者の3-5%を占め、若年・非喫煙者に多く見られる疾患である (Bray et al. 2018)。First-generation ALK-TKIであるクリゾチニブは、多くの患者で12ヶ月以内に耐性を獲得し、特に中枢神経系 (CNS) への進行が問題となる (Katayama et al. 2012; Costa et al. 2015)。これに対し、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ロルラチニブなどの次世代 (NG) ALK-TKIが開発され、クリゾチニブ耐性変異に対して強力な活性を示し、脳浸透性も改善されている (Gainor et al. 2016; Lin et al. 2017)。しかし、これらのNG ALK-TKIを逐次的に使用する最適な治療戦略は未確立であり、実臨床における各薬剤の有効性および安全性に関するデータは不足している。ブリガチニブの国際早期アクセスプログラム (EAP) は、2016年7月にALK-TKI既治療で臨床試験に参加できない患者を対象として開始され、21カ国に拡大された。本プログラムは、アンメットニーズを持つ患者へのアクセス提供を主目的とするが、その過程で収集される実臨床データは、ブリガチニブの安全性と有効性に関する貴重なエビデンスを提供する可能性がある。

目的

本研究の目的は、ブリガチニブ国際EAPのデータを用いて、先行ALK-TKI治療歴のあるALK陽性NSCLC患者におけるブリガチニブの治療中止までの期間 (TTD: time-to-treatment discontinuation) を実臨床における有効性の指標として評価することである。特に、先行ALK-TKIの種類(クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ、ロルラチニブ)や先行ALK-TKIの治療数に応じたTTDを解析し、ブリガチニブの実臨床における有用性を明らかにすることを目指した。

結果

患者背景と先行治療歴 (n=604): 患者の年齢中央値は58.0歳 (範囲 19-94歳) であり、女性が56.8%を占めた。Performance Status (PS) は、0-1が85.9%、2が8.1%であった (Table 1)。先行ALK-TKIの治療数は、1剤が25.7% (n=155)、2剤が34.6% (n=209)、3剤以上が11.5% (n=69) であった。最も最近の先行ALK-TKIとしては、セリチニブが29.5% (n=178)、クリゾチニブが19.0% (n=115)、アレクチニブが13.1% (n=79) であった。これらの患者背景は、多様な治療歴を持つ実臨床患者集団を反映している。

全体集団におけるブリガチニブのTTD: 全体集団におけるブリガチニブのTTD中央値は11.0ヶ月 (95% CI 8.7-13.9) であった。ブリガチニブの継続使用確率は、6ヶ月時点で67.1%、12ヶ月時点で48.6%であった (Figure 1)。これは、先行ALK-TKI治療歴のある患者においてもブリガチニブが持続的な治療効果を示す可能性を示唆する。

先行アレクチニブ治療後のTTD: 先行治療としてアレクチニブをいずれかのラインで受けた患者111例におけるブリガチニブのTTD中央値は8.7ヶ月 (95% CI 7.5-14.9) であった (Figure 2A)。このサブグループでは、6ヶ月継続率が71.5%、12ヶ月継続率が47.4%であった。最も最近のALK-TKIがアレクチニブであった79例では、TTD中央値は8.7ヶ月 (95% CI 6.6-NE) であった (Figure 2B)。クリゾチニブとアレクチニブ、またはアレクチニブ単独の治療歴がある患者51例では、TTD中央値は14.8ヶ月 (95% CI 6.6-NE) と最も長い傾向を示した (Figure 2C)。この結果は、アレクチニブ後のブリガチニブが特に有効である可能性を示唆する。

先行クリゾチニブ治療後のTTD: 先行治療としてクリゾチニブをいずれかのラインで受けた患者389例におけるブリガチニブのTTD中央値は10.0ヶ月 (95% CI 8.2-13.6) であった (Figure 3A)。クリゾチニブ単独の治療歴を持つ患者117例では、TTD中央値は9.8ヶ月 (95% CI 7.3-NE) であった (Figure 3B)。これらの結果は、クリゾチニブ後のブリガチニブが実臨床で有効な選択肢となり得ることを示唆する。

先行セリチニブ治療後のTTD: 先行セリチニブ治療歴のある患者249例では、ブリガチニブのTTD中央値は10.3ヶ月 (95% CI 8.1-13.6) であった (Figure 3C)。6ヶ月継続率は66.0%、12ヶ月継続率は46.3%であった。この結果は、セリチニブ後のブリガチニブも持続的な治療期間を示すことを裏付ける。

先行ロルラチニブ治療後のTTD: 先行ロルラチニブ治療歴のある患者37例では、ブリガチニブのTTD中央値は7.5ヶ月 (95% CI 4.5-NE) であり、6ヶ月継続率は68.3%であった (Figure 3D)。ロルラチニブは次世代ALK-TKIの中でも強力な薬剤であり、その後のブリガチニブも一定の治療期間を維持できることが示された。

先行ALK-TKI数別のTTD: 先行ALK-TKIが1剤の患者155例では、ブリガチニブのTTD中央値は11.8ヶ月 (95% CI 8.7-NE) であった。2剤の患者209例では10.8ヶ月 (95% CI 8.2-14.1)、3剤以上の患者69例では7.7ヶ月 (95% CI 6.1-14.9) であった (Figure 4B)。先行ALK-TKI数が増加するにつれて、TTDが短縮する傾向が認められたが、多剤耐性患者においても有意な治療期間が観察された。

治療中止理由と忍容性: 解析時点で、604例中260例 (43.0%) がブリガチニブの投与を中止していた (Table 2)。副作用 (AE) による中止はわずか0.7% (n=4) であり、疾患進行による中止は10.6% (n=64) であった。死亡は2.5% (n=15) であり、145例 (24.0%) はギャップ基準による推定中止であったが、具体的な中止理由は不明であった。AEによる中止率が極めて低いことは、ブリガチニブの高い忍容性を示唆する。

考察/結論

本研究は、国際ブリガチニブEAPを通じて得られた604例のALK陽性NSCLC患者の実臨床データに基づき、ブリガチニブが多様な先行ALK-TKI治療歴を持つ患者集団において、臨床試験と同様の有益性を示すことを支持するものである。

先行研究との違い: 従来の臨床試験では、特定の先行ALK-TKI治療歴を持つ患者群に限定されることが多かった。しかし、本研究は、クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ、ロルラチニブといった複数のNG ALK-TKIを含む多様な先行治療歴を持つ患者集団におけるブリガチニブのTTDを包括的に評価した点で、これまでの報告と異なる。特に、アレクチニブ後のブリガチニブTTD中央値が8.7ヶ月、クリゾチニブとアレクチニブの併用歴を持つ患者群では14.8ヶ月と良好な結果を示したことは、先行治療の種類に関わらずブリガチニブが実臨床で有効な選択肢となり得ることを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、国際EAPという大規模な実臨床データを用いて、先行ALK-TKIの種類や治療数に応じたブリガチニブのTTDを詳細に分析した。TTDは、FDAのBlumenthallら (2019) のpost-hoc解析でPFSと強い相関 (r=0.87) を示すことが報告されており、実臨床における有効性の代理エンドポイントとして妥当である。AEによる中止が0.7%と極めて低かったことは、ブリガチニブの高い忍容性を新規に強調する所見である。

臨床応用: 本研究の結果は、ブリガチニブが実臨床において、先行治療の種類や数に関わらず、持続的な臨床的利益をもたらす可能性を示唆する。特に、NG ALK-TKIであるアレクチニブやロルラチニブ後の患者においても、ブリガチニブが意味のある治療期間を提供できることは、治療選択肢が限られる進行期のALK陽性NSCLC患者にとって重要な臨床的有用性を持つ。これは、最適な逐次治療戦略を検討する上で貴重な情報となる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、EAPデータはアクセスフォーム、出荷記録、および自発的な中止フォームから収集されており、データ収集におけるエラーの可能性が否定できない。第二に、TTDは確立されたエンドポイントではなく、患者の臨床状況や医師の判断に依存するため、解釈には注意が必要である。患者や医師が新しい薬剤を求めて早期に治療を中止する可能性や、代替治療選択肢が少ない場合に治療を継続する傾向がTTDに影響を与える可能性がある。第三に、対象患者集団が重度の前治療歴を持つ末期患者であり、追跡期間も比較的短かったことが、観察されたTTDに影響を与えた可能性がある。第四に、AEはデータベースに収集されたものの、中止との関連付けが不十分であった。第五に、化学療法レジメンに関するデータが欠如していた。最後に、実臨床研究におけるランダム化の欠如は、未知の交絡因子によるバイアスの可能性を導入する。今後の検討課題として、NG ALK-TKI失敗後のブリガチニブの活性を検証する第II相試験 (NCT02706626, NCT03535740) の結果が待たれる。これらの結果を踏まえ、最適な逐次治療戦略が確立されることが期待される。

方法

本研究は、2016年7月から2018年11月までにブリガチニブ国際EAPに登録された604例 (21カ国) の患者を対象としたレトロスペクティブな観察研究である。適格基準は、18歳以上、組織学的または細胞学的に確認された局所進行または転移性ALK陽性NSCLC、先行ALK-TKI治療歴 (2018年6月以降はクリゾチニブ耐性または不耐容も可)、および居住国で承認された薬剤または臨床試験を通じて適切に治療できない患者であった。主要評価項目であるTTDは、治療開始から何らかの理由による治療中止までの期間と定義された。TTDは、医師報告による中止フォーム、またはデータカットオフ日 (2018年11月) と最終薬剤出荷日の間に120日を超えるギャップがある場合に中止と仮定して算出された。TTDの推定にはKaplan-Meier法が用いられた。サブグループ解析は、先行ALK-TKIの種類 (クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ、ロルラチニブ) 別、および先行ALK-TKIの数 (1剤、2剤、3剤以上、欠測) 別に実施された。治療中止理由も頻度と割合で要約された。