- 著者: Edward S Kim, Fabrice Barlesi, Tony Mok, Myung-Ju Ahn, Junwu Shen, Pingkuan Zhang, Sai-Hong Ignatius Ou
- Corresponding author: Edward S Kim (Levine Cancer Institute, Atrium Health, Charlotte, NC, USA; current affiliation: City of Hope National Medical Center, Duarte, CA)
- 雑誌: Future Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-02-11
- Article種別: Protocol
- PMID: 33569983
背景
世界の肺癌は2018年に約210万例発症し、非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer) がその大部分を占める。NSCLC患者の約3-5%において、EML4とALKの遺伝子融合に代表される未分化リンパ腫キナーゼ (ALK: anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子転座が認められる。Soda et al. (2007) によるALK融合遺伝子の同定以降、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI: tyrosine kinase inhibitor) の開発が急速に進んだ。第一世代のcrizotinibに続き、より強力で脳移行性の高い第二世代ALK-TKIであるalectinibやceritinibが登場した。特にalectinibは、Peters et al. (2017) による第III相ALEX試験においてcrizotinibに対する無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) の優越性を示し、未治療ALK陽性NSCLCの第一選択薬として広く用いられている。しかし、これらの第二世代ALK-TKI治療を行っても耐性の獲得は必発である。Gainor et al. (2016) などの先行研究によれば、alectinibやceritinibに対する耐性機序として、G1202RやI1171T/N/S、F1174L/Cといった二次的なALK耐性変異が50%以上の症例で検出されることが報告されている。このように、第二世代ALK-TKI治療後に病勢進行 (PD: progressive disease) となった患者に対する最適な治療シークエンスは依然として未確立であり、後続治療に関するエビデンスが著しく不足しているという課題が存在する。第二世代ALK-TKI耐性後の治療選択肢を増やすことは、臨床現場における極めて重要なニーズである。
目的
本研究の目的は、第二世代ALK-TKIであるalectinibまたはceritinibによる治療後に病勢進行が確認された、ALK陽性の局所進行または転移性NSCLC患者を対象として、別の第二世代ALK-TKIであるbrigatinib(ブリガチニブ)を投与した際の有効性と安全性を評価することである。主要目的は、独立審査委員会 (IRC: independent review committee) の判定による確認客観的奏効率 (ORR: objective response rate) を明らかにすることである。さらに、副次目的として、奏効期間 (DOR: duration of response)、PFS、全生存期間 (OS: overall survival)、頭蓋内有効性、安全性、および健康関連の生活の質 (HRQoL: health-related quality of life) に対する影響を多角的に評価し、alectinibまたはceritinib耐性後の治療選択肢としてのbrigatinibの臨床的価値を検証する。
結果
前臨床モデルにおける広範なALK変異抑制活性: in vitroのBa/F3細胞を用いた細胞増殖抑制試験において、brigatinibは野生型ALKおよび臨床で報告されている17種類のALK耐性変異体すべてに対して強力な活性を示した。特に、alectinibおよびceritinibの両者に耐性を示すG1202R変異に対する50%最大阻害濃度 (IC50: 50% maximal inhibitory concentration) は、臨床的に達成可能な血中濃度範囲内であった。臨床推奨用量における定常状態の血中薬物濃度(タンパク結合補正後)を比較すると、brigatinib 180 mg q.d.投与時の補正後血中濃度は 899 nM であり、これは alectinib 600 mg 1日2回 (b.i.d.: bis in die) 投与時の 277 nM や、ceritinib 750 mg q.d.投与時の 456 nM、crizotinib 250 mg b.i.d.投与時の 259 nM と比較して最も高かった (Figure 1)。この高い血中濃度と優れたキナーゼ阻害プロファイルにより、brigatinibは既存の第二世代ALK-TKIに耐性となった多様な変異株を克服できる可能性が示されている。
既報の臨床試験における優れた全身および頭蓋内有効性:
crizotinib耐性患者を対象とした第II相ALTA試験(Kim et al. 2017)において、brigatinib 180 mg q.d.(7日間の90 mg lead-inを含む)を投与された群 (n=110) では、高い全身効果および頭蓋内効果が確認された。同試験におけるIRC判定による確認ORRは 54% であり、IRC判定によるPFS中央値は 16.7ヶ月 に達した。これは、crizotinib耐性後の治療において、他のALK-TKI(ceritinibのPFS中央値 5-7ヶ月、alectinibのPFS中央値 8-9ヶ月、lorlatinibのPFS中央値 11.1ヶ月)と比較して極めて良好な結果であった。さらに、未治療のALK陽性NSCLC患者を対象とした第III相ALTA-1L試験では、主要評価項目であるPFSにおいて、brigatinib群 vs crizotinib群の比較で有意な延長を示し、ハザード比は HR 0.49 (95% CI 0.35-0.68, p<0.0001) であった。また、ベースラインで脳転移を有するサブグループにおける頭蓋内PFSにおいても、brigatinib群 vs crizotinib群で有意な改善を示し、ハザード比は HR 0.38 (95% CI 0.20-0.72, p=0.0011) と、優れた中枢神経系 (CNS: central nervous system) 病変への効果が実証された (Table 1)。
ALTA-2試験における登録状況と患者背景の設計: 本ALTA-2試験 (NCT03535740) は、2019年1月に患者登録を開始し、北米、欧州、アジア太平洋地域の約80施設において最終的に目標数を満たす n=104 例の登録を完了した (Figure 3)。登録患者は、alectinibまたはceritinibによる治療後に病勢進行が確認された集団であり、化学療法の前治療歴は最大3レジメンまで許容された。試験デザインでは、主要評価項目であるIRC判定による確認ORRの帰無仮説を20%(uninteresting threshold)、対立仮説を35%(期待奏効率)に設定している。この設計は、alectinibまたはceritinib耐性後の患者集団において、brigatinibが臨床的に意味のある治療効果を提供できるかを厳密に検証するための科学的根拠に基づいている (Figure 2)。
考察/結論
先行研究との違い: 本試験は、alectinibまたはceritinib治療後に増悪したALK陽性進行NSCLC患者を対象として、後続のALK-TKI治療としてのbrigatinibの有効性を前向きに検証する臨床試験である。これまでの多くの臨床試験がcrizotinib耐性後の患者集団を対象としていたのと異なり、本試験は第二世代ALK-TKI耐性後のシークエンスに焦点を当てている点が特徴である。
新規性: 本研究は、alectinibまたはceritinibに対する耐性獲得後の治療選択肢として、brigatinibの全身および頭蓋内効果を本研究で初めて前向き第II相試験の枠組みで体系的に評価するものである。非臨床データにおいて、brigatinibがG1202Rを含む広範な二次耐性変異に対して高い活性を示すことが示されており、この科学的根拠が実際の臨床現場で実証されるかどうかが注目される。
臨床応用: 本試験の結果は、第二世代ALK-TKI治療後に病勢進行となった患者に対する治療アルゴリズムの策定において、極めて重要な臨床的意義を持つ。現在、この設定における標準治療は確立されておらず、lorlatinibなどの他剤が使用されることもあるが、lorlatinibはCNS関連の有害事象(認知影響21%、気分影響16%など)が報告されており、忍容性の観点から代替選択肢が求められている。ALTA-2試験によりbrigatinibの有効性と安全性が示されれば、臨床現場における新たな治療選択肢として迅速に臨床応用されることが期待される。
残された課題: 一方で、残された課題として、単群試験であるため他剤との直接比較データが得られない点が挙げられる。また、brigatinib投与後にさらに生じる新たな耐性変異のプロファイルや、それに対する最適な後続治療については依然として不明であり、これらは今後の検討課題である。本試験の探索的エンドポイントであるctDNAを用いた耐性機序の解析結果が、これらの課題解決に向けた重要な手がかりを提供することが期待される。
方法
本試験(ALTA-2:ALK in Lung Cancer Trial of Brigatinib-2、試験識別子:NCT03535740、EudraCT:2018-000635-27)は、オープンラベル、単群、多施設共同の国際共同第II相臨床試験である。主な適格基準は、18歳以上の組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIB/IVのALK陽性NSCLC患者であり、直近のALK-TKI治療としてalectinibまたはceritinibを12週間以上投与され、その治療中に病勢進行が確認された症例である。また、固形がんにおける治療効果判定基準 (RECIST: Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に基づく測定可能病変を有することが求められる。
投与スケジュールは、最初の7日間はbrigatinib 90 mgを1日1回 (q.d.: quaque die) 経口投与し(lead-in期間)、忍容性に問題がなければ8日目以降は180 mg q.d.に増量して継続する。病勢進行後も臨床的ベネフィットがあると判断され、かつ重篤な毒性がない場合は、医師の裁量により240 mg q.d.への増量または同用量での継続投与が可能である。
有効性の主要評価項目は、IRC判定による確認ORRである。目標サンプルサイズは103例であり、これは閾値奏効率20%(帰無仮説)に対して期待奏効率35%(対立仮説)を、片側有意水準α=0.025、検出力90%で検証できるように設計された。副次評価項目であるPFSやOSの解析には、Kaplan-Meier法を用いて生存曲線および生存期間中央値を推定する。また、探索的評価項目として、循環腫瘍DNA (ctDNA: circulating tumor DNA) を用いた耐性変異解析やバイオマーカー解析を実施する。
患者報告アウトカムの評価には、欧州がん研究治療機構 (EORTC: European Organization for Research and Treatment of Cancer) の生活の質質問票コア30 (QLQ-C30: Quality of Life Questionnaire-Core 30)、肺がん特異的モジュール13 (QLQ-LC13: lung cancer-specific questionnaire module)、および5水準ユーロQOL 5次元質問票 (EQ-5D-5L: 5-level EuroQol-5D) を用いる。さらに、米国食品医薬品局 (FDA: Food and Drug Administration) 承認の検査法を用いてALK融合遺伝子の確認を行い、薬物動態 (PK: pharmacokinetic) 解析用の血中サンプル収集も実施する。