• 著者: Arai S, Takeuchi S, Fukuda K, Taniguchi H, Nishiyama A, Tanimoto A, Satouchi M, Yamashita K, Ohtsubo K, Nanjo S, Kumagai T, Katayama R, Nishio M, Zheng MM, Wu YL, Nishihara H, Yamamoto T, Nakada M, Yano S
  • Corresponding author: Seiji Yano (Kanazawa University Cancer Research Institute, Kanazawa, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-01-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31972351

背景

非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、中枢神経系(CNS)転移、特に髄膜癌(leptomeningeal carcinomatosis: LMC)は、全悪性腫瘍の20%から40%に発生し、患者のQOLを著しく低下させ、予後不良と強く関連する。ALK再構成NSCLCでは、CNS転移の累積発生率が他の融合遺伝子を有するNSCLCと比較して高い傾向にあり、CNS転移の制御はALK再構成NSCLCの管理において極めて重要である。第一世代ALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)であるクリゾチニブはALK再構成NSCLCに対して強力な有効性を示すが、CNS移行性が低いためCNS再発が頻繁に観察された(Costa et al. J Clin Oncol 2015)。

第二世代ALK-TKIであるアレクチニブは、ALK再構成NSCLCの初回治療においてクリゾチニブと比較して優れた有効性と低い毒性を示し、未治療進行ALK再構成NSCLCの標準治療として確立されている(Hida et al. Lancet 2017, Peters et al. NEnglJMed 2017)。アレクチニブはクリゾチニブ耐性の有無にかかわらず、ALK再構成NSCLCのCNS転移に対しても有効である(Gadgeel et al. LancetOncol 2014, Gadgeel et al. AnnOncol 2018)。しかし、アレクチニブ投与患者の約20%から30%で後天性耐性が生じ、CNS再発が依然として臨床上の大きな課題となっている。ALK-TKI耐性の主要な機序としては、ALK二次変異、ALK遺伝子増幅、上皮間葉転換(EMT)、そしてEGFRリガンドによるEGFR活性化などの代替経路の活性化が知られている。しかし、LMCにおけるアレクチニブ耐性の正確な分子機序は未解明な部分が多い。アレクチニブの脳脊髄液(CSF)中濃度は血清の0.1%から0.3%と限定的であり、血液脳関門(BBB)によるCNS移行制限がLMCにおける耐性獲得の一因である可能性が示唆されていた。

先行研究では、ALK阻害薬に対する耐性機序として、EGFRリガンドであるamphiregulin(AREG)によるEGFR活性化がin vitroで示唆されていたが(Taniguchi et al. Cancer Sci 2017)、LMCという特殊な微小環境における耐性誘導の分子経路や、その上流の制御因子については不明な点が多かった。特に、LMCモデルにおけるアレクチニブ耐性細胞の樹立とその詳細な分子解析、そして臨床検体でのAREGの役割の検証は不足していた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的とする。

目的

本研究の目的は、EML4-ALK陽性肺癌の髄膜癌(LMC)モデルにおいてアレクチニブ耐性を誘導し、その耐性機序を分子生物学的に詳細に解析することである。具体的には、アレクチニブ耐性LMC細胞株を樹立し、既知のALK耐性変異や代替経路の活性化、特にEGFRシグナル伝達経路の関与を評価する。さらに、EGFR阻害薬(特に第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブ)との併用療法が、in vitroおよびin vivoのLMCモデルにおいてアレクチニブ耐性LMCを効果的に制御できるかを検証する。加えて、臨床検体である患者の脳脊髄液(CSF)中のEGFRリガンド濃度、特にamphiregulin(AREG)レベルを測定し、アレクチニブ耐性LMCにおけるAREGの臨床的バイオマーカーとしての可能性を評価することも目的とする。これにより、ALK-TKI耐性LMCに対する新規治療戦略の開発に向けた理論的根拠を提供することを目指す。

結果

A925L/AR細胞の樹立と耐性プロファイル: EML4-ALK陽性ヒト肺腺癌細胞株A925LPE3をSHO-SCIDマウスの髄腔内に接種し、アレクチニブを16週間連続経口投与することで、アレクチニブ耐性LMCマウスモデルを樹立した。このモデルから樹立されたA925L/AR細胞は、in vitroにおいてアレクチニブ(IC50: 0.528→2.13 μM; 4.0倍)、クリゾチニブ(0.645→2.74 μM; 4.3倍)、セリチニブ(0.098→1.15 μM; 11.7倍)、ロルラチニブ(8.43→>10 μM; 計算不能)といった様々なALK-TKIに対し中等度の交差耐性を示した (Figure 1C, D)。既知のALK耐性変異(I1171, F1174, R1192, L1196, L1198, G1202, G1206, G1269, R1275)は検出されず、上皮間葉転換(EMT)マーカーであるE-cadherinおよびN-cadherinの発現にも顕著な変化は認められなかった (Supplementary Fig. 1)。

アレクチニブ耐性機序の解明: Western blot解析の結果、A925L/AR細胞ではALKリン酸化が低下する一方で、EGFRリン酸化(Tyr1068)が親株と比較して増加していることが明らかになった (Figure 2A)。リアルタイムPCRおよびWestern blot解析により、A925L/AR細胞においてEGFR変異(exon 19欠失、L858R、T790M)は検出されず、EGFRコピー数も親株(0.84)と比較して増加していなかった(0.87) (Figure 2B)。EGFR-TKIであるゲフィチニブ(1 μM)または抗EGFR抗体セツキシマブ(50 μg/mL)をアレクチニブと併用することで、A925L/AR細胞のアレクチニブ感受性が回復した (Figure 2C)。これらの結果は、A925L/AR細胞がEGFRの変異や増幅によらないEGFR活性化を介してアレクチニブ耐性を獲得したことを示唆する。

amphiregulin (AREG) の過剰発現とmiR-449aの関与: RTKアレイおよびELISA法を用いた解析により、A925L/AR細胞では親株と比較してamphiregulin(AREG)の産生がタンパク質およびmRNAレベルで著明に増加していることが判明した (Figure 2D, E)。他のEGFRリガンド(TGFα、EGF、HB-EGF)の産生増加は認められなかった。siRNAを用いたAREGまたはEGFRのノックダウンは、アレクチニブ存在下でのA925L/AR細胞の増殖を顕著に抑制した (Figure 3A-C)。さらに、組換えAREGの外因性添加は親株A925LPE3細胞のアレクチニブ感受性を低下させ、一方、抗AREG抗体(10 μg/mL)はA925L/AR細胞の耐性を解除した (Figure 3D, E)。miRNA解析では、miR-449aの発現がA925L/AR細胞で有意に低下しており、miR-449aミミックの導入によりAREG産生が抑制され、アレクチニブ感受性が回復することが確認された (Figure 3F-H)。これらの結果から、miR-449aの低下を介したAREGの過剰発現がEGFRを活性化し、アレクチニブ耐性の主要な機序であることが同定された。

in vitroにおけるEGFR-TKIによる感受性回復: ゲフィチニブ(1 μM)、エルロチニブ、オシメルチニブといったEGFR-TKI各単剤は、A925LPE3親株の増殖にほとんど影響を与えなかったが、A925L/AR細胞ではアレクチニブとの併用により用量依存的な増殖抑制を示した (Figure 4A)。CompuSyn解析では、エルロチニブ+アレクチニブおよびオシメルチニブ+アレクチニブの併用が相乗効果(synergism)を示すことが明らかになった (Supplementary Fig. 3)。シグナル解析では、オシメルチニブは本実験条件下でEGFRとALK双方のリン酸化を抑制した (Figure 4B)。PI3K阻害薬GDC0941はA925L/AR細胞の増殖を用量依存的に抑制したが、MEK阻害薬トラメチニブは抑制しなかった (Figure 4C, D)。

in vivo LMCモデルにおける併用療法の効果: A925L/AR細胞をマウス髄腔内に接種したLMCモデルにおいて、アレクチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ各単独療法ではアレクチニブ耐性LMCの進行制御は不十分であった。しかし、アレクチニブ+エルロチニブおよびアレクチニブ+オシメルチニブの併用療法群では、LMCの進行が30日以上抑制され、マウスの生存日数が延長された(アレクチニブ単独44日、エルロチニブ単独30日、オシメルチニブ単独30日に対し、アレクチニブ+エルロチニブ58日、アレクチニブ+オシメルチニブ58日) (Figure 5A, B)。質量分析イメージング(MSI)により、エルロチニブおよびオシメルチニブは正常脳実質にはほとんど分布しなかったが、髄膜転移腫瘍病変内およびその周辺には高濃度に集積していることが確認され、この傾向はオシメルチニブでより顕著であった (Figure 5C)。

臨床検体CSF中のAREG濃度: アレクチニブ耐性ALK陽性NSCLC LMC患者4例のCSF AREG濃度は、EGFR変異NSCLCのEGFR-TKI耐性LMC患者38例と比較して有意に高値であった(1301±675.5 pg/mL vs 68.3±17.8 pg/mL, p=0.0011) (Figure 6A)。LMC患者と非LMC患者(24例)間でのAREG濃度比較では、統計的有意差には至らなかったものの(345.1±164.5 pg/mL vs 12.6±3.3 pg/mL, p=0.1629)、高値傾向が認められた。TGFαは全検体で検出されたが、LMCの有無による有意差はなかった (Figure 6B)。EGF、HB-EGF、ベタセルリンはほとんど検出されなかった。アレクチニブ耐性LMC患者3例のCSF cell-free DNAの次世代シーケンシング(NGS)解析では、既知のALK耐性変異(L1171T/N/S、L1196M、G1202R)は検出されず、AREG-EGFR経路が主要な耐性機序であることを支持する結果であった (Supplementary Table 6)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の最も重要な発見は、EML4-ALK肺癌細胞がLMCモデルにおいて、miR-449aの発現低下を介したamphiregulin(AREG)の過剰発現によりEGFRを活性化し、アレクチニブのみならずクリゾチニブ、セリチニブ、ロルラチニブを含む広範なALK-TKIに対して中等度の交差耐性を獲得するという分子機序を解明したことである。これまでの研究では、AREGのオートクリン分泌によるEGFR活性化とALK-TKI耐性の関連が示唆されていたが、本研究はLMCモデルでの耐性誘導を通じてmiR-449aという上流の調節因子を同定し、その分子経路を明確にした点で新規性を持つ。特に、LMCという特殊な微小環境における耐性獲得のメカニズムを詳細に解析した点は、これまでの報告と異なり、本研究で初めて示された知見である。

新規性: miR-449aの低下がAREGの過剰発現を引き起こし、それがEGFR活性化を介してアレクチニブ耐性を誘導するという経路は、本研究で初めて同定された新規の耐性メカニズムである。この発見は、ALK-TKI耐性LMCの病態生理に対する理解を深める上で極めて重要である。また、オシメルチニブが実験条件下でALKリン酸化も抑制したことは、ALK/EGFRデュアル阻害薬としての潜在的な有用性を示唆する。

臨床応用: オシメルチニブは第三世代EGFR-TKIとして高いCNS移行性を有し、質量分析イメージングにより髄膜転移病変への良好な集積が確認されたことから、アレクチニブとの併用療法が特に有望な選択肢と考えられる。臨床検体であるCSF中のAREG高値(p=0.0011)は、ALK-TKI耐性LMCにおけるEGFR活性化の臨床的関連性を強く支持し、CSF AREG測定がバイオマーカーとして有用である可能性を示している。これらの知見は、アレクチニブ耐性ALK陽性NSCLC LMC患者に対し、CSF AREG測定で耐性機序を確認し、アレクチニブとオシメルチニブの併用療法を探索するという臨床応用への道筋を示唆する。

残された課題: 本研究の限界として、アレクチニブ耐性LMC患者からのCSFサンプル数が4例と少ない点が挙げられる。今後は、より大規模なコホートを用いたCSFサンプルでのAREG測定の系統的な前向き検証が必要である。また、本研究ではmiR-449aがA925L/AR細胞で低下していることを示したものの、その低下を引き起こす上流のメカニズムそのものは未解明であり、今後の検討課題である。さらに、血清や組織検体におけるALK耐性変異やmiR-449aレベルの評価が、検体の制約により十分に行えなかったことも今後の研究で補完すべき点である。

方法

EML4-ALK(E2:A20, variant 5a)陽性ヒト肺腺癌細胞株A925LPE3を、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した状態でSHO-SCIDマウス(Charles River社)の髄腔内(第1頸椎-後頭骨間)に接種し、LMCマウスモデルを構築した。このモデルマウスに対し、アレクチニブを毎日経口投与(25 mg/kg)し、16週間の連続治療によりアレクチニブ耐性LMC由来細胞株A925L/ARを樹立した。

耐性機序の解析には、Western blot法を用いてALKおよびEGFRのリン酸化状態を評価した。また、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)アレイ(R&D Systems)を用いて、広範なRTKの活性化プロファイルをスクリーニングした。EGFR変異(exon 19欠失、L858R、T790M)およびEGFRコピー数増加の有無はリアルタイムPCRおよびWestern blotで確認した。amphiregulin(AREG)を含むEGFRリガンド(TGFα、EGF、HB-EGF、ベタセルリン)の産生は、ELISA法を用いて細胞培養上清で測定した。AREGおよびEGFRの機能的役割を評価するため、siRNAノックダウン(si-EGFR、si-AREG)実験を実施し、アレクチニブ存在下での細胞増殖への影響を検討した。さらに、microRNA(miR)の定量(TaqMan: miR-449a、miR-34a)を行い、AREG発現の上流制御因子を探索した。

EGFR-TKI(ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ)のin vitroでの効果はMTTアッセイにより評価し、アレクチニブとの併用効果をCompuSynソフトウェアで解析した。in vivo LMCモデルでは、アレクチニブ耐性LMCマウスを5群に無作為化し、アレクチニブ単独、エルロチニブ単独、オシメルチニブ単独、アレクチニブ+エルロチニブ、アレクチニブ+オシメルチニブの各治療群でLMCの進行を評価した。薬物分布評価には、質量分析イメージング(MSI; Shimadzu iMScope TRIO)を用いて、脳組織内のEGFR-TKIの集積を可視化した。

臨床検体として、アレクチニブ耐性ALK陽性NSCLC LMC患者4例、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLC LMC患者7例、EGFR変異NSCLC EGFR-TKI耐性LMC患者38例、LMCなし患者24例(肺癌7例、良性疾患17例)の脳脊髄液(CSF)を収集した。これらのCSF中のEGFRリガンド(AREG、TGFα、EGF、HB-EGF、ベタセルリン)濃度をELISAで測定・比較した。統計解析にはStatViewソフトウェアバージョン5.0を使用し、t検定により群間の差を解析した。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。本研究は各施設の倫理委員会により承認され、患者からは書面によるインフォームドコンセントが得られた。