• 著者: Gridelli C, Ardizzoni A, Le Chevalier T, Manegold C, Perrone F, Thatcher N, et al.
  • Corresponding author: C. Gridelli (S.G.Moscati病院, Avellino, Italy)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2004
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 14998843

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準治療としてプラチナベース併用化学療法が推奨されているが、その利益はECOG PS (Performance Status) 0〜1の良好な患者に限定されると考えられてきた。ECOG PS2の患者は、歩行や全自立生活は可能であるものの就業は不可であり、覚醒時間の50%未満をベッドで過ごす状態と定義される。人口ベースの調査では、PS2患者は進行NSCLC全体の30〜40%を占めるにもかかわらず、臨床試験への登録比率は20%未満と著しく低い状況が指摘されていた Lewis et al. JClinOncol 2003Hutchins et al. NEnglJMed 1999

PS2は、腫瘍関連症状(疼痛、食欲不振、倦怠感、体重減少など)や、併存疾患(慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、心血管疾患、整形外科疾患、加齢に伴う機能低下など)に起因するという不均一性を持つ。例えば、単一の骨転移による疼痛で臥床している40歳のPS2患者と、中等度から重度の心血管疾患による併存疾患で臥床している高齢のPS2患者では、化学療法の利益、毒性リスク、コンプライアンスが本質的に異なる可能性がある。しかし、このようなPS2患者の不均一性を客観的に層別化する基準(例えば、腫瘍関連症状スコアや臓器機能評価)は2003年時点では確立されておらず、これが試験設計と実臨床での判断を困難にしていた。

2003年時点で、PS2患者に特化した前向き無作為化試験は存在せず、化学療法の選択(単剤対併用、プラチナ有無)に関するエビデンスベースのコンセンサスが強く求められていた。先行研究では、PSが独立した予後因子であることが一貫して示されており Stanley JNatlCancerInst 1980Albain et al. JClinOncol 1991、PS2患者の生存期間はPS0/1患者と比較して著しく短いことが報告されていた Jiroutek et al. ProcAmSocClinOncol 1998。このような背景から、PS2患者に対する最適な治療戦略は未解明であり、臨床的意義の高い課題として残されていた。特に、PS2患者における治療選択肢に関するエビデンスの不足は、臨床現場での意思決定を困難にし、患者の予後改善機会を逸する可能性があった。この知識のギャップを埋めることが喫緊の課題と認識されていた。

目的

本欧州専門家パネルは、ECOG PS2の進行NSCLC患者に対する各治療選択肢(ベストサポーティブケア (BSC)、単剤化学療法、非プラチナ系併用化学療法、プラチナ系併用化学療法)を支持するエビデンスをレビューすることを目的とした。さらに、臨床実践における治療のコンセンサスを形成するとともに、今後の臨床研究における優先課題を提示することを目指した。特に、PS2患者における化学療法の有効性と安全性、単剤と併用療法の比較、プラチナ系と非プラチナ系レジメンの役割、および新規生物学的製剤の可能性について、既存のエビデンスを評価し、実用的な推奨事項を導き出すことを目的とした。このコンセンサス形成を通じて、PS2患者に対する治療戦略の明確化と、今後の研究の方向性を示すことにより、この特殊な患者集団の治療成績向上に貢献することを目指した。

結果

PS2は独立した予後因子であり生存期間は限定的である: 5,000例を超える切除不能肺癌患者の分析を含む複数の後向きおよび前向き試験において、PSが一貫して独立した予後因子として同定された Stanley JNatlCancerInst 1980Albain et al. JClinOncol 1991。1981年から1994年に実施された5つのECOGプラチナ系化学療法試験(n=1,960例)のサブグループ解析(Jiroutek et al.)では、PS0患者の生存期間中央値が9.4ヶ月、PS1患者が6.4ヶ月であったのに対し、PS2患者では3.3ヶ月と明確な差が認められた。PS2患者の全生存期間中央値はいかなる治療においても5ヶ月を超えることは稀であり、1年生存率は20%未満であった。PS2は化学療法への奏効率の低下、治療失敗までの期間の短縮、無増悪生存期間の短縮の独立した予測因子でもある。ECOG 1594試験 Sweeney et al. Cancer 2001(n=1,207例、4種類のプラチナ系併用療法を比較)では、PS2患者(n=64例)の登録が過剰な有害事象の懸念から中断された。しかし、その後の後解析では、PS2患者における重症(グレード3/4)毒性の発生率は統計的にPS0/1患者と有意差がなく、毒性の原因の一部は治療以外の併存疾患に起因していたことが示された。このことは、PS2患者が化学療法を受ける際には特別な配慮が必要であることを示唆している。

化学療法はPS2患者でもBSC単独より有意な生存利益をもたらす: 1995年の52試験メタ解析 NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995(n=778例、シスプラチン系化学療法 vs BSC)では、シスプラチン系化学療法がBSC単独に対してHR=0.73 (95% CI 0.66-0.80, p<0.0001) の生存利益を示し、PS良好・不良の両者でこの利益が確認された (Table 2)。その後の第3世代単剤試験においても、ビノレルビン(ELVIS試験のPS2サブグループ、n=41例:OS中央値6.4ヶ月 vs 1.9ヶ月)、パクリタキセル(Ranson試験PS2サブグループ、n=26例:OS中央値4.1ヶ月 vs 2.9ヶ月)、ゲムシタビン Anderson et al. BrJCancer 2000(Anderson試験PS2サブグループ、n=108例:OS中央値3.2ヶ月 vs 2.6ヶ月)の単剤がBSC単独より生存利益を示した。これらのPS2サブグループでは正式な統計的有意差は示されていないものの、数値的な優位性が認められた。シスプラチン系化学療法(Cullen et al. JClinOncol 1999、Big Lung Trial等)でもPS2患者(それぞれn=159例およびn=147例)で生存利益が示されたが、Cullen et al. JClinOncol 1999のPS2サブグループのHRは0.98と効果量は小さかった。QOLデータは希少だが、MIC試験(Billingham解析、PS2サブグループn=31/48例が解析対象)では、PS2患者がPS0/1患者と同等以上のQOL改善を呈した。これは、ベースラインスコアが最も低いPS2患者で改善の余地が最大であったためと考えられる。患者選好の研究(Slevin et al., BMJ 1990)では、癌患者の大多数は、医師、看護師、一般市民と比較して、極めて小さな利益でも化学療法を選択する傾向があり、医師や看護師が拒否するような僅かな利益(数週間の生存延長)でも積極的治療を望むことが示された。さらに別の患者選好研究(Silvestri et al.)では、経験済み化学療法患者の68%が症状改善のためなら生存延長がなくても化学療法を選択すると回答した一方、3ヶ月のOS延長のみでは22%しか選択しなかった。この知見は、PS2患者において症状緩和やQOL改善が生存延長と同様あるいはそれ以上に重視されることを示唆している。

プラチナ有無・用量の選択:単剤推奨とカルボプラチン系ダブレットの代替選択肢: 欧州多施設試験(Le Chevalier et al., N=612例、PS≤2)のPS2サブグループ(n=120例、全体の20%)では、ビノレルビン単剤、ビンデシン+シスプラチン (120 mg/m²)、ビノレルビン+シスプラチン (120 mg/m²) の3群いずれでも生存期間中央値は18週と差がなかった。シスプラチン高用量(>100 mg/m²)系ダブレットは、PS2患者でPS0/1患者と比較して血液毒性がより早期かつ高頻度に発現した(ビノレルビン+シスプラチン群の重症血液毒性は投与開始後7日 vs ビノレルビン単剤群28日)。唯一PS2患者で有意な生存利益を示した比較試験はCALGB 9730(パクリタキセル+カルボプラチン vs パクリタキセル単剤)のPS2サブグループ(n=107例)であり、カルボプラチン併用群のOS中央値は4.7ヶ月 vs 単剤群2.4ヶ月 (log-rank p=0.0177; Wilcoxon p=0.0123) であった。1年生存率はそれぞれ18% vs 10%であった。ただし、この結果は選択バイアスのリスクがあり、カルボプラチン+パクリタキセル群では好中球減少、血小板減少、悪心嘔吐などで有意に高い毒性が確認されていた。これらのデータは、PS2患者におけるプラチナ系併用療法の選択には慎重な検討が必要であることを示唆している (Table 4)。

非プラチナ系ダブレットはプラチナ系に劣らないが単剤にも優れない: 5つの第III相試験(Table 3)のPS2サブグループ解析では、ゲムシタビン+ドセタキセル(Georgoulias et al.; OS中央値: 10ヶ月 vs 9.5ヶ月、p=0.98)、パクリタキセル+ゲムシタビン(Kosmidis et al.; OS中央値: 10.4ヶ月 vs 9.8ヶ月、p=0.32)、ゲムシタビン+パクリタキセル(Giaccone; OS中央値: 8.1/8.8ヶ月 vs 6.9ヶ月)、ゲムシタビン+ビノレルビン(Gridelli et al.; OS中央値: 8.8ヶ月 vs 7.4ヶ月、p=0.08)のいずれも非プラチナ系とプラチナ系の間に有意差はなく、PS2患者でも同様の傾向であった。しかし、イタリアMILES試験(高齢者対象)のPS2サブグループ(n=130例)では、ゲムシタビン+ビノレルビン併用は単剤いずれに対しても生存上乗せ効果を示さなかった(1年生存率20%・18%・22%;HR=1.0 vs ビノレルビン、HR=0.97 vs ゲムシタビン)。したがって、非プラチナ系ダブレットは毒性が少ない可能性があるものの、単剤を凌駕するエビデンスは不足している。これらの結果は、PS2患者に対する非プラチナ系併用療法の役割を限定的に評価する根拠となった。

新規生物学的製剤(ゲフィチニブ)の可能性と限界、研究体制の課題: ZD1839(ゲフィチニブ、EGFR-TKI)のIDEAL 1/2試験 Fukuoka et al. JClinOncol 2003では、二次・三次治療での奏効率 (ORR) が10〜20%、症状改善率が約40%と報告され、PS2患者でも短期間での症状改善効果が記録された。経口投与、良好な忍容性(主な副作用は皮膚障害、下痢で重篤な血液毒性は稀)、PS2患者への理論的適合性(持続投与、外来管理容易)は高いが、一次治療データが存在しないため、臨床実践での推奨は不可とされた。2003年4月30日時点の米国国立癌研究所 (NCI) 臨床試験データベースに登録された43件の進行NSCLC試験のうち、PS2専用試験はわずか2件(5%)のみであった。18件はPS0〜2を対象とし、14件(38%)はPS0〜1のみを対象としていた。高齢者や貧PS患者を「特殊患者集団」として一括りにする設計に対して専門家パネルは強く反対し、PS2と高齢者を別カテゴリーとして個別研究することを強調した。患者にとって症状改善が何よりも重要であるため、OS以外の症状緩和やQOLをエンドポイントとして試験に組み込むことを推奨した (Table 5)。

考察/結論

先行研究との違い: 本コンセンサスは、これまでの多くの研究がPS0〜1の患者に焦点を当てていたのに対し、PS2患者に特化し、彼らの治療選択肢に関するエビデンスを体系的にレビューした点で先行研究とは異なるアプローチを示した。特に、高用量シスプラチン (>100 mg/m²) のPS2患者への適用を明確に否定し、カルボプラチン系ダブレットを限定的な代替選択肢として位置づけた実践的指針は、その後のプラチナ系適応を議論する多くの後続試験(IFCT-0501、CALGB 9730等の後続解析)の対照設定に影響を与えた点で、これまでの一般的な治療ガイドラインとは異なるアプローチを示した。

新規性: 本研究で初めて、PS2患者に対する化学療法の有効性をBSCと比較し、生存利益があることを明確に示した。また、単剤化学療法(ゲムシタビン、ビノレルビン、タキサン系)がPS2患者の推奨オプションであるというコンセンサスを形成したことは、当時の臨床実践において新規の指針であった。さらに、患者選好データ(PSでの化学療法選択率と症状改善選好)を治療意思決定の科学的根拠として明示したことは、インフォームドコンセントと共同意思決定 (shared decision making) の観点からも新規の重要な貢献である。患者の22%しか3ヶ月OS改善では化学療法を選択しないが、68%が症状改善なら生存延長がなくても化学療法を選択するという知見は、OS以外のエンドポイント(症状緩和・QOL)の臨床的重要性を強調している。

臨床応用: 本コンセンサスは、PS2患者に対する治療選択肢の明確化と、単剤化学療法を推奨オプションとして提示することで、臨床現場での意思決定を支援する。特に、カルボプラチンベースの併用療法や低用量シスプラチンベースの併用療法が代替選択肢として考慮される可能性を示唆したことは、個々の患者の状態に応じたテーラーメイド治療の臨床応用を促進する。また、症状緩和やQOL改善がPS2患者にとって重要なエンドポイントであることを強調したことは、治療目標の設定において患者中心のアプローチを促す臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究の主要なlimitationは、利用可能なデータの大部分がPS0〜2混在試験の事後サブグループ解析であり、選択バイアス、統計的検力不足、共変量調整の限界という方法論的欠陥を内包している点である。この問題意識から、単剤化学療法を対照とするPS2専用の前向き試験を最優先課題として提言した。今後の検討課題として、PS2患者の不均質性という根本的課題が残されている。腫瘍関連PS2と併存疾患関連PS2では化学療法の利益・毒性リスク・コンプライアンスが本質的に異なるため、この不均質性の客観的な層別化基準(例えば、腫瘍関連症状スコア・臓器機能評価)の確立が今後の研究で必要である。さらに、新規生物学的製剤のPS2患者における一次治療としての有効性と安全性に関する前向きデータも不足しており、今後の研究方向性として重要である。本コンセンサス以後、IFCT-0501試験等のPS2特化試験が実施され、ゲムシタビン+カルボプラチン vs 単剤の優劣についての前向きエビデンスが一部蓄積されたが、PS2 NSCLC管理の完全な標準化は現代においても未達成の課題として残されている。

方法

本パネル会議は2003年4月14日にイタリアのアヴェッリーノで開催された。「進行NSCLC患者におけるECOG PS2の治療に関する欧州専門家パネル」と題し、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、英国の5カ国から8名の腫瘍内科医が参加した。これらの専門家はNSCLCの臨床および研究経験が豊富であった。

会議では以下の6つの主要トピックについて、利用可能なエビデンスがレビューされ、議論を経てコンセンサスが形成された。

  1. PSの予後因子としての役割
  2. 化学療法とBSCの比較
  3. 単剤化学療法と併用化学療法の比較
  4. 非プラチナ系多剤化学療法とプラチナ系多剤化学療法の比較
  5. 新規生物学的製剤の可能性
  6. 進行中の臨床試験

エビデンスの収集にあたっては、Medline検索により関連する無作為化第III相臨床試験の論文が系統的にレビューされた。検索期間は特定されていないが、2003年4月30日時点の米国国立癌研究所 (NCI) 臨床試験データベースも参照された。さらに、PS2患者に関するより詳細な情報を得るため、一部の著者には直接連絡を取り、未発表データや論文に記載されていないサブグループ解析データが参照された。主要な腫瘍学会で発表された未公表の抄録も考慮された。

専門家パネルは、分析されたエビデンスの大部分が、通常PS0〜2の患者を対象とした臨床試験におけるPS2サブグループ解析に由来するものであることを認識していた。これらの試験ではPS2患者の割合が全登録患者の20%未満であることが多く、より重篤な全身状態や併存疾患を持つPS2患者が除外される選択バイアスが存在する可能性を指摘した。また、無作為化臨床試験に登録される患者の年齢中央値は実臨床よりも低い傾向があり、厳格な適格基準(良好な腎機能、肝機能、心機能、その他の重大な併存疾患の欠如)がPS2患者の代表性をさらに低下させていることも認識された。

これらの方法論的限界(サブグループ解析の解釈における注意、QOLデータの不足など)を認識しつつも、PS2患者に対する標準治療の確立が喫緊の課題であることから、専門家パネルはコンセンサス形成と今後の研究優先課題の特定を目指した。統計手法としては、生存解析には主にハザード比 (HR) や生存期間中央値の比較が用いられ、毒性評価にはグレード分類が用いられた。特に、サブグループ解析の解釈においては、統計的有意差が示されていない場合でも、数値的な傾向が臨床的意義を持つ可能性について議論された。