- 著者: Li N, Zeng ZF, Wang SY, Ou W, Ye X, Li J, et al.
- Corresponding author: Wang SY (Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 25515658
背景
肺癌は世界的に年間約160万例が新規診断され Jemal et al. CaCancerJClin 2011、非小細胞肺癌 (NSCLC) が約85%を占める。Stage IIIはNSCLCの約30%であり、特にstage IIIA-N2病変の管理は依然として困難である。N2疾患を有するNSCLCでは、術後補助化学療法や集学的治療による局所制御後に14〜40%の患者が脳転移を最初の再発部位として発症し、脳転移発症後の生存期間は積極的治療を行っても3.1〜11.8ヶ月にとどまる。
予防的全脳照射 (PCI) はNSCLCの脳転移発生率を低下させることが知られていた一方、生存への影響は未解明なままであった。先行するRTOG 0214試験 (stage III NSCLC全体を対象) ではPCIが脳転移率を低下させたが、全生存期間 (OS)・無増悪生存期間 (PFS) の有意な改善は認められなかった。この陰性結果は脳転移低リスク患者が非意図的に組み入れられたことが原因と考えられた。著者らは局所進行NSCLCにおける術後脳転移リスクを予測する数理モデルを独自に構築し (Wang 2009)、高リスク患者を選定してPCIを実施するという仮説を検証することにした。しかし、脳転移高リスク患者に限定したPCIの有効性を前向きに評価した研究は不足しており、その臨床的意義は未確立なままであった。
目的
術後補助化学療法後に脳転移高リスクを有する完全切除stage IIIA-N2 NSCLCを対象として、PCIが無病生存期間 (DFS) を延長するかを第III相試験により評価すること。
結果
患者登録と背景因子のバランス: 2005年1月〜2009年1月に377例がスクリーニングされ、脳転移低リスク209例、再発・転移6例、患者拒否3例、不完全切除2例、好中球減少1例の計221例が除外された。最終的に156例がPCI群 (n=81) と対照群 (n=75) に無作為割付された (Figure 1)。本試験は症例集積不振のため早期終了した (目標254例)。患者背景は両群で良好にバランスしており (Table 1)、年齢中央値はPCI群55歳 (31-73)、対照群57歳 (24-75) であった。男性はPCI群71.6%、対照群70.7%を占めた。ECOG PS 0の患者はPCI群35.8%、対照群37.3%であった。組織型は腺癌が最多で、PCI群61.7%、対照群61.3%であった。リンパ節転移部位はL2 (縦隔下傍気管支) が最多で、PCI群70.4%、対照群69.3%であった。術式はlobectomyがPCI群82.7%、対照群85.3%を占めた。術後補助化学療法は主にカルボプラチンベースのレジメンが用いられ、82.7%の患者が4サイクルを完遂した。中央追跡期間はPCI群68.1ヶ月 (1.1-97.3)、対照群65.2ヶ月 (1.4-82.9) であった。
PCI群におけるDFSの有意な延長: データカットオフ時点までに合計100件のDFSイベントが記録された (PCI群50件、対照群50件)。PCI群のDFS中央値は28.5ヶ月 (95% CI 21.9-35.1) であったのに対し、対照群では21.2ヶ月 (95% CI 15.0-27.4) であり、PCI群でDFSが有意に延長された (HR 0.67; 95% CI 0.46-0.98; P=0.037) (Figure 2A)。DFSの3年値はPCI群42.0% vs 対照群29.8%、5年値は26.1% vs 18.5%であった。PCIにより7.3ヶ月のDFS延長効果が認められた。
PCIによる脳転移発生率の著明な低下: 脳転移イベントはPCI群で10件、対照群で29件発生した。5年脳転移発生率はPCI群20.3% vs 対照群49.9%と、PCI群で著明な低下が認められた (HR 0.28; 95% CI 0.14-0.57; P<0.001)。3年脳転移発生率はPCI群13.7% vs 対照群44.2%であった。脳転移が初発再発部位となった5年率はPCI群15.6% vs 対照群45.3%であり (HR 0.26; 95% CI 0.12-0.57; P=0.001)、PCIが脳転移の初発再発を抑制する効果も示された。対照群の5年脳転移率 (49.9%) は、術後局所進行NSCLCで先行研究が報告した30〜50%と同水準であり、本試験における高リスク患者選択の妥当性が確認された。
OSはPCI群で数値的に良好だが統計的有意差なし: データカットオフ時点までに合計121件の死亡イベントが発生した (PCI群61件、対照群60件)。OS中央値はPCI群31.2ヶ月 (95% CI 24.2-38.2)、対照群27.4ヶ月 (95% CI 19.4-35.4) であった (Figure 2B)。PCI群でOSは数値的に良好な傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった (HR 0.81; 95% CI 0.56-1.16; P=0.310)。3年OSはPCI群44.5% vs 対照群38.7%、5年OSはPCI群27.4% vs 対照群22.8%であった。PCIは5年OSを絶対値で4.6%改善したが、有意差は得られなかった。OSカーブは交差せず、試験開始から一貫してPCI群が優れた推移を示した。
PCIの毒性は許容範囲内でQOLへの有意な影響なし: PCI群における主な急性毒性 (90日以内) は頭痛27% (Grade 1: 20%、Grade 2: 6%、Grade 3: 1%)、嘔気・嘔吐23% (Grade 1: 17%、Grade 2: 6%)、倦怠感22% (Grade 1: 11%、Grade 2: 9%、Grade 3: 2%) であった。晩期毒性 (90日後) としては、軽度頭痛・軽度嗜眠が22.2%、中等度頭痛・高度嗜眠が11.1%、重度頭痛が2.5%で認められた。Grade 3以上の晩期毒性は皮膚萎縮1例、倦怠感1例のみであった。PCI関連死亡は0例であった。FACT-L質問票によるQOL評価では、QOL悪化率および症状スコアに両群間で有意差は認められなかった。これらの結果から、PCIの急性・晩期毒性はいずれも管理可能な範囲であり、QOLへの有意な影響なく施行可能であることが確認された。
考察/結論
本試験は、術後補助化学療法後に脳転移高リスクを有する完全切除stage IIIA-N2 NSCLC患者を対象としたPCIの役割を検討した初の無作為化第III相試験である。
先行研究との違い: 本試験は、先行するRTOG 0214試験とは異なり、自施設開発の数理モデルによって脳転移高リスクと判定された患者のみを組み入れた点が最大の特徴である。RTOG 0214では脳転移低リスク患者の非意図的な混入がOSの陰性結果の一因とされており、本試験のアプローチはよりターゲットを絞ったものであった。
新規性: 本研究で初めて、脳転移高リスクに層別化された術後局所進行NSCLC患者において、PCIがDFSを有意に延長し、脳転移発生率を著明に低下させることを示した。このDFS中央値の7.3ヶ月延長は臨床的に意義のある改善であり、5年脳転移率で29.6ポイントの絶対的低下という著明な効果が観察されたことは、これまで報告されていない高リスク患者へのPCIの有効性を明確に裏付けるものである。
臨床応用: 本知見は、脳転移高リスクの術後局所進行NSCLC患者に対するPCI施行を支持する重要なエビデンスを提供し、臨床現場における治療選択肢の一つとしてPCIを考慮する根拠となる。特に、脳転移の発生を大幅に抑制できることは、患者の神経学的QOL維持に大きく貢献する可能性がある。
残された課題: DFS利益がOS利益に有意差として反映されなかったことは残された課題である。この理由として、(1) 早期中止によるサンプル不足 (目標254例に対し実際156例) が挙げられる。また、(2) 中国人集団のEGFR変異頻度が約30%と高く、再発後のEGFR-TKI使用が対照群のOSを延長した可能性、(3) PCIで脳転移を抑制しても体外転移は抑制されないため生存差が吸収された可能性も考えられる。今後の検討課題として、より大規模な試験でのOS改善効果の検証や、EGFR変異ステータスに応じた層別化解析、あるいは体外転移に対する治療戦略との組み合わせが挙げられる。Limitationとして、本試験が早期中止されたことによる検出力不足が挙げられる。また、試験開始時点 (2005年) ではN2 NSCLCへの術後照射 (PORT) の有用性が不明確であったため施行されなかったが、その後のエビデンス (Douillard et al. IntJRadiatOncolBiolPhys 2008) から、今後の試験ではPORTを組み込む可能性も論じられる。
結論として、術後補助化学療法後の脳転移高リスクを有する完全切除stage IIIA-N2 NSCLC患者において、PCI (30 Gy/10分割) はDFS中央値を有意に延長し (28.5 vs 21.2ヶ月、HR 0.67; 95% CI 0.46-0.98; P=0.037)、5年脳転移率を20.3% vs 49.9% (HR 0.28; 95% CI 0.14-0.57; P<0.001) と著明に低下させた。OSへの有意な影響は認められなかったが、早期中止による検出力不足が一因と考えられる。毒性は許容範囲内であり、QOLへの有意な影響もなかった。
方法
本研究は前向き、オープンラベル、無作為化第III相試験 (NCT00147690) として実施された。対象は完全切除され病理学的にstage IIIA-N2と確認されたNSCLC患者で、補助化学療法後に腫瘍再発がなく、著者らの数理モデルによる脳転移高リスクを有する患者であった。年齢18〜75歳、ECOG PS 0-2の患者が適格とされた。術前診断でN2と同定された患者は除外された。
適格患者はPCI群 (n=81) と経過観察群 (n=75) に1:1で無作為割付され、最終化学療法サイクル終了から6週以内に無作為化された。層別化因子はECOG PS (0-1 vs 2)、組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮)、および施設であった。PCIは全脳照射 30 Gy、10分割 (1日3 Gy、週5回) で、二対向側野を用いて施行された。術後照射 (PORT) は全例非施行とされた。
主要評価項目 (primary endpoint) はDFS (無作為化から局所再発・脳転移・他臓器転移・死亡いずれかまでの期間) と定義された。副次評価項目は脳転移発生率、OS、毒性、およびQOL (FACT-L (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung) 質問票) であった。統計解析はKaplan-Meier法、Cox比例ハザードモデル、およびlog-rank検定を用いて実施された。DFSイベント254件を検出するため最低254例の無作為化が必要であったが、登録不振のため早期中止となった。