• 著者: Harada D, Takata K, Mori S, Kozuki T, Takechi Y, Moriki S, Asakura Y, Ohno T, Nogami N
  • Corresponding author: Daijiro Harada (National Hospital Organization Shikoku Cancer Center, Matsuyama, Japan)
  • 雑誌: Anticancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31519605

背景

進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法またはICIと細胞傷害性化学療法の併用療法は、標準治療として確立されている (Gandhi et al. 2018)。しかし、ICI治療後の最適な後続療法については、未だ確立されたコンセンサスが得られていない点が課題として残されている。複数の先行研究では、ICI治療後に逐次投与される細胞傷害性化学療法の抗腫瘍効果が増強される可能性が報告されており (Schvartsman et al. 2017, Ogawara et al. 2018)、この現象の生物学的基盤の解明が求められている。特に、ICI治療後の患者群における治療選択肢は依然として不足しており、有効な後続治療戦略の確立が臨床上の重要な課題である。

血管内皮増殖因子(VEGF)とその受容体(VEGFR)シグナルの活性化は、ICI耐性メカニズムの一つとして提唱されており (Chen and Hurwitz 2018)、VEGFR2阻害薬であるラムシルマブとドセタキセルの併用療法(DOC+RAM)がICI既治療患者においてより有効である可能性が示唆されていた。特に、Shiono et al. (2019) の報告では、ニボルマブ後のDOC+RAM療法において、客観的奏効率(ORR)が60%と高い有効性が示され、PFSおよびOSもそれぞれ169日、343日と良好な結果が示されていた。また、Tamura et al. (2019) も、ニボルマブ後のドセタキセル単独またはラムシルマブ併用、あるいはS-1療法の有効性が増強される可能性を示唆している。これらの報告は、ICI前治療が後続の化学療法の効果に影響を与えるという仮説を支持するものであるが、ICI治療歴の有無による比較対照研究は不足しており、その効果の増強が統計学的に有意であるか、また独立した予測因子であるかは未解明である。

本研究は、このような背景に基づき、ICI前治療歴の有無がDOC+RAM療法の有効性と安全性に与える影響を、単施設の後方視的解析によって詳細に評価することを目的とした。ICI治療後の最適な治療戦略を確立するための知識ギャップを埋める上で、本研究は重要な情報を提供するものと考えられる。特に、ICI治療によって誘導される腫瘍微小環境の変化や、VEGF/VEGFR経路がICI耐性に関与する可能性を考慮すると、DOC+RAM療法がICI後の治療選択肢としてどのような位置づけになるかを明らかにすることは、臨床的意義が大きい。

目的

本研究の目的は、進行または再発非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)前治療歴の有無がドセタキセルとラムシルマブ併用療法(DOC+RAM)の有効性および安全性に与える影響を後方視的に比較検討することである。具体的には、ICI前治療歴を有する患者群(pre-ICI+群)とICI前治療歴を有しない患者群(pre-ICI-群)の間で、客観的奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を評価し、ICI前治療歴がDOC+RAM療法の効果に影響を与える独立した予測因子であるかを多変量解析により検証する。また、両群間での有害事象の発現プロファイルを比較し、ICI前治療歴がDOC+RAM療法の安全性に与える影響についても評価する。本研究は、ICI治療後の最適な後続治療戦略の確立に向けたエビデンスを構築することを目指す。

結果

患者背景と前治療歴の差異: DOC+RAM療法を受けた39例中、pre-ICI+群は18例(46%)、pre-ICI-群は21例(54%)であった。患者背景の詳細はTable Iに示されている。pre-ICI+群では男性の割合(83.3% vs 47.6%)および扁平上皮癌の割合(27.8% vs 0%)がpre-ICI-群と比較して高かった。一方、pre-ICI-群ではEGFR変異陽性患者の割合が有意に高かった(38.1% vs 11.1%)。pre-ICI+群におけるICIの内訳は、ニボルマブ11例(61.1%)、ペムブロリズマブ1例(5.6%)、アテゾリズマブ1例(5.6%)、ICIと化学療法の併用5例(27.8%)であった。これらの群間差は、DOC+RAM療法の効果に影響を与える可能性のある交絡因子として考慮された。

主要有効性:無増悪生存期間(PFS)中央値の有意な延長: DOC+RAM療法における無増悪生存期間(PFS)中央値は、pre-ICI+群で5.7ヵ月(95%CI 2.1-9.9ヵ月)であったのに対し、pre-ICI-群では2.3ヵ月(95%CI 1.7-4.4ヵ月)であり、pre-ICI+群で統計学的に有意なPFSの延長が認められた(ハザード比 0.36、95%CI 0.16-0.80、p=0.020)。6ヵ月PFS率はpre-ICI+群で44.4%と良好な結果であった(Figure 2a)。全生存期間(OS)中央値は、pre-ICI+群で13.8ヵ月(95%CI 10.2ヵ月-NA)であったのに対し、pre-ICI-群では10.5ヵ月(95%CI 6.7-13.1ヵ月)であり、pre-ICI+群で改善傾向を示したが、統計学的有意差には至らなかった(p=0.065)(Figure 2b)。

腫瘍奏効率の傾向: 客観的奏効率(ORR)は、pre-ICI+群で38.9%(95%CI 17.3-64.3%)であったのに対し、pre-ICI-群では19.0%(95%CI 5.4-41.9%)であった(p=0.29)。病勢コントロール率(DCR)は、pre-ICI+群で83.3%(95%CI 58.6-96.4%)であったのに対し、pre-ICI-群では57.1%(95%CI 34.0-78.2%)であった(p=0.096)。いずれの指標も統計学的な有意差は認められなかったものの、pre-ICI+群で数値上良好な傾向が示された(Figure 1a, 1b)。これらの結果は、ICI前治療がDOC+RAM療法の抗腫瘍効果を高める可能性を示唆している。

多変量解析:ICI前治療歴がPFSの唯一の独立予測因子: Cox比例ハザードモデルによる多変量解析の結果、pre-ICI+はPFSの唯一の独立した予測因子であることが示された(HR 0.36、95%CI 0.16-0.80、p=0.012)。年齢70歳以上もPFS短縮と有意に関連していた(HR 2.63、95%CI 1.05-6.62、p=0.04)。一方、OSの多変量解析では、pre-ICI+は独立した予測因子には達しなかった(HR 0.41、95%CI 0.16-1.04、p=0.061)(Table II, Table III)。これらの結果は、ICI前治療歴がDOC+RAM療法のPFS延長に独立して寄与することを示唆する。

安全性:ICI前治療歴による毒性プロファイルの変化: 全患者において何らかの有害事象が認められた(Table IV)。pre-ICI+群では、pre-ICI-群と比較して、発熱(50% vs 38%)、筋肉痛(39% vs 9.5%)、関節炎(33% vs 4.8%)、胸水(22% vs 4.8%)、肺臓炎(17% vs 4.8%)の発現率が高かった。特に、Grade 3以上の食欲不振と肺臓炎(Grade 3が2例)もpre-ICI+群で多く認められた。一方、好中球減少と高血圧はpre-ICI-群で高頻度であった。ラムシルマブ関連毒性(出血、蛋白尿、高血圧)の頻度に群間差はなかった。ドセタキセルの用量減量率は両群とも33%であった。治療中止理由では、pre-ICI+群で有害事象による中止が56%(pre-ICI-群14%)と多く、pre-ICI-群では病勢進行による中止が81%(pre-ICI+群44%)と高率であった。これらの安全性プロファイルの差異は、ICIの薬理効果がDOC+RAM療法中も持続している可能性を示唆する。

考察/結論

本研究は、進行非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)前治療歴がドセタキセルとラムシルマブ併用療法(DOC+RAM)の無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に延長させることを後方視的に示した初期報告の一つである。多変量解析において、ICI前治療歴がPFSの唯一の独立した予測因子として確認されたことは、ICI治療歴が単なる交絡因子ではなく、DOC+RAMの抗腫瘍活性を増強させる生物学的機序を反映している可能性を示唆する。

先行研究との違い: Shiono et al. (2019) の報告では、ニボルマブ後のDOC+RAM療法で高いORRが示されたが、本研究はICI前治療歴の有無による比較対照群を設けることで、ICI前治療がDOC+RAMの有効性を増強する可能性をより明確に示した点で、これまでの報告とは異なる知見を提供する。また、Tamura et al. (2019) の報告もICI後の化学療法の有効性を示唆しているが、本研究は多変量解析によりICI前治療歴がPFSの独立した予測因子であることを初めて同定した点が特筆される。

新規性: 本研究で初めて、ICI前治療歴がDOC+RAM療法のPFSに対する独立した予測因子であることを多変量解析で同定した。これは、ICI治療が後続の化学療法の効果を増強するメカニズムが存在するという仮説を支持する新規の知見である。提唱される機序としては、(1) ICI治療が腫瘍微小環境を変化させ、後続の細胞傷害性化学療法の効果を高める(免疫原性細胞死の誘導、骨髄由来抑制細胞の減少など)、(2) DOC+RAMがICIの獲得耐性機序(VEGF/VEGFRシグナルによる免疫抑制)を克服する、という2つが考えられる。特に、VEGFR阻害薬であるラムシルマブの使用により、ICI耐性に関与するVEGF媒介免疫抑制(樹状細胞成熟抑制、T細胞浸潤低下など)が解除される可能性が示唆される。ICIの薬理作用が治療中止後も長期にわたって持続する可能性(Brahmer et al. 2010)を考慮すると、VEGFR阻害薬との逐次療法がICIの獲得耐性を回復させるメカニズムに関与している可能性は高い。

臨床応用: 本知見は、ICI治療後のNSCLC患者に対する最適な後続治療戦略を検討する上で重要な臨床的意義を持つ。特に、ICIと化学療法の併用が一次治療の標準となる時代において、DOC+RAM療法がICI後の逐次療法としてさらに重要な位置づけとなる可能性を示唆する。ICI前治療歴のある患者群では、DOC+RAM療法がより高い奏効率とPFS延長をもたらすことから、このサブグループの患者に対する治療選択肢としてDOC+RAM療法を積極的に考慮すべきである。

残された課題: 本研究の限界は、単施設後方視的研究であること、症例数が39例と少ないこと、および観察期間が短いことである。これらの要因により、結果の一般化には注意が必要である。また、DOC単独療法とDOC+RAM療法の比較が行われていないため、ラムシルマブの寄与を独立して評価することが困難である。安全性に関しては、pre-ICI+群で肺臓炎、筋肉痛、関節炎などの有害事象が増加したことは、ICIの薬理効果が継続していることによる免疫関連有害事象(irAE)の遷延または再燃を示唆する。Haratani et al. (2018) が報告したように、irAEの発現がICIの有効性と関連する可能性も考慮される。今後の検討課題として、これらのirAEの管理戦略の確立が挙げられる。今後は、より大規模な前向き試験による検証が求められる。

方法

本研究は、2013年6月から2018年7月までの期間に、単一施設である四国がんセンターにおいてドセタキセルとラムシルマブ併用療法(DOC+RAM)を受けた進行または再発非小細胞肺癌(NSCLC)患者39例を対象とした後方視的コホート研究である。対象患者は、ICI前治療歴の有無に基づき、ICI前治療歴あり群(pre-ICI+群、n=18)とICI前治療歴なし群(pre-ICI-群、n=21)の2群に分類された。ICI治療がDOC+RAM療法の直前の治療である必要はないとされた。

有効性の評価には、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1が用いられ、客観的奏効率(ORR)および病勢コントロール率(DCR)が算出された。安全性評価には、CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0が適用され、有害事象の発現頻度と重症度が記録された。

生存解析は、Kaplan-Meier法を用いて無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を推定し、両群間の比較にはログランク検定が用いられた。PFSはDOC+RAM療法開始日から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、OSはDOC+RAM療法開始日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。カテゴリー変数の比較にはFisherの正確検定が使用された。

PFSおよびOSに影響を与える因子を特定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析が実施された。多変量解析では、ICI前治療歴、性別、喫煙歴、ドライバー遺伝子変異(EGFR変異およびALK転座)の有無、年齢(70歳未満 vs 70歳以上)、病期(III期/IV期 vs 再発)の6因子が独立変数として検討された。パフォーマンスステータス(PS)は、両群のほとんどの患者がPS 0または1であったため、解析因子からは除外された。また、PD-L1発現データは50%以上の患者で欠損していたため、解析因子には含まれなかった。多変量解析におけるハザード比(HR)の推定には、ステップワイズ選択法が用いられた。統計学的有意水準はp値が0.05未満と設定された。本研究は、四国がんセンターの施設倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:2019-12)。統計解析には、EZR(Saitama Medical Center, Jichi Medical University, Saitama, Japan)が使用された。