- 著者: Nasser K. Altorki, Bhavneet Bhinder, Alain C. Borczuk, Olivier Elemento, Vivek Mittal, Timothy E. McGraw
- Corresponding author: Nasser K. Altorki (Weill Cornell Medicine); Timothy E. McGraw (Weill Cornell Medicine)
- 雑誌: Cell Reports Medicine
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-02-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 38401548
背景
免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) は固形腫瘍の治療を大きく変革したが、ICB単剤療法に対する奏効割合は非小細胞肺癌 (NSCLC) において約20%に留まり、持続的な奏効を達成する患者は少ないことが課題である Haslam and Prasad JAMA Netw. Open 2019。ICBへの応答と抵抗性には、腫瘍タイプ、病期、癌細胞内在性メカニズム(例:ドライバー遺伝子変異、抗原提示、変異負荷、免疫チェックポイント発現)、腫瘍微小環境因子(例:免疫ランドスケープ)、および個体固有の因子(例:代謝状態)など、多くの変数が関与すると考えられている Morad et al. Cell 2021。したがって、ICB療法への応答を予測するバイオマーカーの開発は喫緊の課題である。これまでの研究では、PD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) がバイオマーカーとして注目されてきたが、その予測能には限界があり、より信頼性の高いバイオマーカーの同定が不足していた。
本研究の著者らは、以前に報告されたフェーズII臨床試験 (NCT02464903) のデータに基づき、早期NSCLC患者60例を対象としたネオアジュバント抗PD-L1療法 (デュルバルマブ) 単剤群 (arm 1) と、低線量定位放射線治療 (SBRT; 8 Gy×3回) 併用群 (arm 2) の結果を解析した Altorki et al. Lancet Oncol. 2021。この試験では、主要病理学的奏効 (MPR: 残存腫瘍細胞が10%以下) が主要評価項目とされた。結果として、arm 1でのMPR達成率は6.66% (30例中2例) であったのに対し、arm 2では53.3% (30例中16例) と有意に高い奏効が認められた。この結果は、SBRTが抗腫瘍免疫応答を増強する効果を持つことを強く示唆している。しかし、このMPR率の顕著な差異の生物学的基盤は未解明であり、SBRT併用療法または単剤療法への応答を予測できる分子シグネチャーの同定が不足していた。特に、高増殖性腫瘍の免疫微小環境がどのようにICB療法への応答に影響するか、またSBRTがその応答をどのように変調させるかについては、さらなる詳細な解析が必要であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、ネオアジュバント抗PD-L1療法単独またはSBRT併用療法を受けた早期NSCLC患者において、治療前の腫瘍組織から得られる遺伝子発現プロファイルを解析し、主要病理学的奏効 (MPR) と関連する分子シグネチャーを同定することである。具体的には、以下の点を目的とする。
- SBRT併用抗PD-L1療法群 (arm 2) におけるMPR達成腫瘍と非MPR腫瘍間で、治療前の遺伝子発現プロファイルを比較し、応答に関連する140遺伝子シグネチャーを同定する。
- 同定された140遺伝子シグネチャーを用いて、全試験コホート (arm 1およびarm 2) の治療前腫瘍を「高増殖性 (High PI)」と「低増殖性 (Low PI)」の2つの分子サブクラスに分類し、それぞれの臨床病理学的特徴、免疫微小環境、および遺伝子変異負荷 (TMB) を詳細に解析する。
- 治療後の腫瘍組織のトランスクリプトーム解析を通じて、MPR達成腫瘍における免疫細胞組成の変化、特にB細胞および三次リンパ組織 (TLS) の形成との関連を評価する。
- The Cancer Genome Atlas (TCGA) のデータを用いて、同定された140遺伝子シグネチャーの非小細胞肺癌 (肺腺癌 [LUAD] および肺扁平上皮癌 [LUSC]) および他の固形腫瘍における予後予測能を外部検証し、疾患特異的生存期間 (DFS) および全生存期間 (OS) との関連を評価する。
- 試験コホート全体のDFS解析において、140遺伝子シグネチャーが高増殖性腫瘍における抗PD-L1療法への応答と生存期間延長との関連を評価する。
結果
140遺伝子増殖シグネチャーの同定とMPR集積: ネオアジュバント抗PD-L1療法とSBRT併用療法 (arm 2) を受けた患者において、MPR達成腫瘍 (n=10 tumors) と非MPR腫瘍 (n=6 tumors) の治療前RNA-seqデータを比較した結果、135遺伝子が有意に高発現し、5遺伝子が有意に低発現していた (FDR ≤ 0.05)。高発現遺伝子の約70%は細胞周期関連のGO群 (GO:0007049) に分類され、MPR達成腫瘍が高い増殖指数 (PI) を持つことを示唆した (Figure 1C, 1F)。この140遺伝子シグネチャーを用いて全32例の治療前サンプルを階層クラスタリングしたところ、High PI群 (n=18 tumors) とLow PI群 (n=14 tumors) に分類された。驚くべきことに、MPRを達成した全症例 (arm 2の10例およびarm 1の唯一のMPR例) がHigh PI群に集積しており、High PIがMPR達成の必要条件であることが示唆された (Figure 2A)。High PI群では、Ki67 mRNA発現およびタンパク質発現が有意に高かった (p<0.001, Figure 2D, 2F)。
High PI腫瘍の表現型特徴:Ki67、PD-L1、TMB、代謝、MHCクラスII: High PI群の腫瘍は、Ki67タンパク発現の有意な増加 (p<0.001)、PD-L1陽性癌細胞割合の増大 (Figure 2G)、PD-L1 mRNA (CD274) 発現の増加 (Figure 2H)、SUVmaxで示される解糖代謝の亢進 (Figure 3B)、および腫瘍変異負荷 (TMB) の増加 (p=0.0077, Figure 3K) を特徴とした。これらの特徴は、高増殖性腫瘍が免疫療法に応答しやすい可能性を示唆する。しかし、High PI群では主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスII遺伝子 (HLA-DMA, HLA-DMB, HLA-DOAなど) の発現が有意に低下しており (Kruskal-Wallis p<0.0001)、抗原提示能の低下という免疫抑制的な側面も有していた (Figure 3C)。また、EGFR変異腫瘍はLow PI群に有意に富化していた (Low PI群 14例中7例 vs High PI群 18例中1例、p=0.01)。
High PI腫瘍における免疫細胞組成:活性化CTLとTregの共増加: 多重免疫蛍光解析 (各PI群5例) では、High PI群においてCD8+PD1+T細胞 (p=0.0159) およびCD8+Granzyme B+細胞傷害性T細胞 (p=0.0077) の密度が有意に増加しており、腫瘍に対する活性化免疫応答が存在することを示した (Figure 3H, 3I)。同時に、FoxP3+CD4+Treg細胞の密度もHigh PI群で有意に増加していた (p=0.0254, Figure 3J)。この活性化T細胞とTregの共増加パターンは、高増殖性腫瘍の免疫環境が活性化と抑制の複雑なバランスにあることを示唆し、SBRTがこの抑制を解除してMPR達成に寄与する可能性が考えられる。
治療後腫瘍の免疫プロファイル:B細胞および三次リンパ組織 (TLS) の富化: 治療後切除された腫瘍組織 (n=46 tumors) のRNA-seq解析では、MPR達成腫瘍においてB細胞関連経路および三次リンパ組織 (TLS) 関連遺伝子 (特にメラノーマ由来TLSスコア) が顕著に富化していた (p=0.0005, Figure 4A-4G)。また、CD8+T細胞、樹状細胞、M1およびM2マクロファージなどの免疫細胞も治療後に増加しており (Figure 4I-4K)、SBRTとデュルバルマブの併用が腫瘍部位で強力な局所適応免疫応答を誘導し、免疫細胞浸潤の再構築とTLS形成を介した持続的な抗腫瘍免疫を促進したことが示唆された。
TCGAデータによる外部検証:LUADにおける予後予測能: TCGAの肺腺癌 (LUAD, n=407 samples) データに140遺伝子シグネチャーを適用したところ、89.4%の腫瘍がHigh PI群 (n=211 samples) とLow PI群 (n=196 samples) に分類された (Figure 5A)。High PI群はLow PI群と比較して、有意に低い疾患特異的生存期間 (DFS) および全生存期間 (OS) と関連していた (Figure 5C, 5D)。多変量Cox比例ハザードモデルでは、140遺伝子シグネチャーのスコアが高いほどDFSが有意に不良であり (HR 1.60, 95% CI 1.1-2.2, p=3.04×10⁻⁶)、これは病期、年齢、性別、EGFR変異状態、TMB、PD-L1およびPD-1発現とは独立した予後不良因子であることが確認された (Figure 5E)。一方、肺扁平上皮癌 (LUSC, n=311 samples) では、同様に2群に分類可能であったが、生存期間との有意な関連は認められなかった (Figure 5F, 5G)。
複数固形腫瘍への汎用性と試験内DFS解析: メラノーマ (n=103 samples)、乳癌 (n=893 samples)、前立腺癌 (n=236 samples)、膵臓癌 (n=124 samples) の4つのTCGA固形腫瘍タイプにおいても、High PI群はDFSの低下と関連しており、140遺伝子シグネチャーが腫瘍横断的な増殖指数および予後指標として機能することが示された (Figure 6F-6I)。試験コホート全体 (arm 1+2合算) のDFS解析では、High PI群の患者の方がDFSが有意に延長しており (Kaplan-Meier log-rank test p=0.0244)、高増殖性腫瘍が抗PD-L1療法、特にSBRT併用療法に応答しやすいというパラドックスを支持した (Figure 7A)。ただし、各治療アーム単独でのDFS解析では、サンプル数の不足により統計的有意差は認められなかった (arm 1: n=16 patients, p=0.1203; arm 2: n=16 patients, p=0.1792)。
考察/結論
本研究は、ネオアジュバントICB療法への応答と関連する増殖性腫瘍サブクラスを分子的に定義する140遺伝子シグネチャーを開発し、その予測的および予後的な価値を早期NSCLCおよびTCGAの複数固形腫瘍で実証した。
新規性: 本研究で初めて、早期NSCLCにおける抗PD-L1療法単独またはSBRT併用療法への応答が、治療前の高増殖性を示す140遺伝子シグネチャーと関連することを発見した。このシグネチャーは、高TMB、高PD-L1発現、高解糖代謝、活性化CD8+T細胞の浸潤といった特徴を持つ一方で、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスII発現の低下という免疫抑制的側面も有するという逆説的な知見は、腫瘍内免疫環境の複雑性を示す新規な発見である。
先行研究との違い: 従来のICB応答予測バイオマーカーはPD-L1発現やTMBに焦点を当ててきたが、本研究の140遺伝子シグネチャーはこれらの因子とは独立して予後価値を持つことを示した点が、これまでの報告と異なる。特に、TCGA LUADデータを用いた多変量Cox回帰分析では、140遺伝子シグネチャーが高スコアであるほどDFSが有意に不良であり (HR 1.60, 95% CI 1.1-2.2, p=3.04×10⁻⁶)、これはEGFR変異状態、TMB、PD-L1発現などの既知の予後因子とは独立した予測能を持つことを示している。また、高増殖性腫瘍が必ずしも「免疫学的コールド」ではないことを示唆する、CD8+PD1+T細胞やTregの共増加パターンも、これまでの知見と対照的である。
SBRTがこのような免疫抑制的高増殖性腫瘍の免疫原性を増強する機序として、放射線誘導性ネオ抗原の放出、DAMPs (damage-associated molecular patterns) の誘導、免疫原性細胞死の促進、MHCクラスI/II発現の変化などが示唆される。高増殖性細胞は低線量放射線に対する感受性が高いというin vitro研究の結果とも一致する。EGFR変異腫瘍がLow PI群に富化する点は、EGFR変異NSCLCの免疫療法に対する低応答性の分子的背景を支持する。治療後腫瘍におけるTLS形成とB細胞誘導がMPRと関連するという知見は、適応免疫応答におけるB細胞の重要な役割を再認識させるものであり、Cabrita et al. Nature 2020やHelmink et al. Nature 2020などの先行研究とも一致する。
臨床応用: 本研究で同定された140遺伝子シグネチャーは、早期NSCLC患者においてネオアジュバント抗PD-L1療法単独またはSBRT併用療法への応答を予測するバイオマーカーとして臨床応用される可能性がある。高増殖性腫瘍がICB療法に応答しやすいという知見は、治療戦略の個別化に貢献し、患者選択の最適化につながる臨床的意義を持つ。
残された課題: 本研究の限界として、小規模なフェーズII試験 (特にarm 2のMPR群はn=10 patients) での発見であること、およびICBと放射線療法の独立した寄与を明確に分離することが困難である点が挙げられる。また、治療前生検サンプルが限られていたため、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析が主であり、より詳細なプロテオミクスや空間的解析の深度が制約された。今後の検討課題として、本140遺伝子シグネチャーの予測妥当性を検証するための大規模な前向き臨床試験が必要である。さらに、高増殖性腫瘍が免疫逃避をどのように行うのか、またSBRTがその免疫抑制を解除する具体的なメカニズムについて、より詳細な基礎研究が求められる。
方法
本研究では、フェーズII臨床試験 (NCT02464903) に参加した早期NSCLC患者の腫瘍組織サンプルを用いた。
遺伝子発現プロファイリングとシグネチャー同定: ネオアジュバント抗PD-L1療法とSBRT併用療法を受けたarm 2の患者から得られた治療前腫瘍組織 (MPR達成群 n=10、非MPR群 n=6) のRNAシーケンス (RNA-seq) データを用いて、遺伝子発現プロファイルを比較した。Benjamini-Hochberg (BH) 法による多重検定補正後、偽陽性率 (FDR) ≤ 0.05の基準で有意に発現差のある遺伝子を同定した。これにより、135個の高発現遺伝子と5個の低発現遺伝子からなる計140遺伝子セットが特定された。この140遺伝子セットは、主に細胞周期関連遺伝子に富んでおり、腫瘍の増殖指数 (PI) を反映すると考えられた。
腫瘍の分子サブクラス分類: 同定された140遺伝子セットの発現パターンに基づき、全32例の治療前腫瘍サンプル (arm 1およびarm 2から各16例) を対象に、Pearsonの1-r相関係数を用いた階層クラスタリングを実施した。これにより、腫瘍は「高増殖性 (High PI)」群 (n=18) と「低増殖性 (Low PI)」群 (n=14) の2つのサブクラスに分類された。各サブクラスのKi67 mRNA発現、腫瘍細胞性、PD-L1 mRNA発現、およびSUVmax (解糖系代謝の代理マーカー) を比較した。また、多重免疫蛍光染色 (各PI群から5例) により、Ki67タンパク質発現、CD3+、CD8+、CD8+PD1+、CD8+Granzyme B+、FoxP3+CD4+ (Treg) 細胞の密度を測定した。腫瘍変異負荷 (TMB) は、一部のサンプル (Low PI群 n=8 tumors、High PI群 n=13 tumors) の全エクソームシーケンスデータから算出した。
免疫微小環境解析: RNA-seqデータからxCellデコンボリューション法を用いて、腫瘍内の免疫細胞組成を推定した。特に、CD4+Th1/Th2細胞、樹状細胞、マクロファージ、B細胞などの浸潤レベルを評価した。主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスIおよびクラスII関連遺伝子の発現も解析した。
治療後腫瘍の解析: 治療後切除された腫瘍組織 (n=46) のRNA-seqを実施し、arm 2のMPR達成腫瘍 (n=14) と非MPR腫瘍 (n=10) 間で遺伝子発現プロファイルを比較した。B細胞関連経路および三次リンパ組織 (TLS) 関連遺伝子シグネチャーの富化を評価した。また、MPR達成腫瘍における治療前後の遺伝子発現変化を解析し、免疫応答関連経路の誘導を検討した。
TCGAデータによる外部検証: The Cancer Genome Atlas (TCGA) の肺腺癌 (LUAD, n=455)、肺扁平上皮癌 (LUSC, n=488)、メラノーマ (n=103)、乳癌 (n=893)、前立腺癌 (n=236)、膵臓癌 (n=124)、結腸癌 (n=297) のRNA-seqデータを用いて、140遺伝子シグネチャーの予後予測能を検証した。Wilkerson et al. Bioinformatics 2010で報告されたConsensusClusterPlusを用いて、各腫瘍タイプをHigh PIとLow PIの2群に分類した。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、疾患特異的生存期間 (DFS) および全生存期間 (OS) との関連を評価し、年齢、性別、病期、EGFR変異状態、TMB、PD-L1発現などの臨床病理学的因子で調整した。
統計解析: 統計解析にはGraphPad Prism 9.1.2、R Studio、GSEA、Morpheusオンラインソフトウェアを用いた。群間の比較には、ノンパラメトリックデータに対してはMann-Whitney U検定、多重比較にはANOVAとTukeyまたはDunnの補正を適用した。遺伝子発現差異の解析にはDESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014とBH補正を用いた。遺伝子セット濃縮解析にはMSigDB Hallmark gene set collection Liberzon et al. CellSyst 2015を用いた。