- 著者: Okamoto H, Watanabe K, Segawa Y, Ichinose Y, Yokoyama A, Yoneda S, Niitani H (横浜市立市民病院・四国がんセンター・九州がんセンターほか日本多施設)
- Corresponding author: Hiroaki Okamoto MD (Department of Respiratory Medicine, Yokohama Municipal Citizen’s Hospital, Yokohama, Japan)
- 雑誌: International Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2000
- Epub日: N/A (受領 2000年2月24日、受理 2000年6月2日)
- Article種別: Original Article (Phase II multiinstitutional trial)
- DOI: N/A
背景
肺がんは世界的にがん死亡の主要因であり、非小細胞肺がん (NSCLC) が全肺がんの80-90%を占める。特に日本においては、診断時に約60%の患者が転移性 (Stage IV) であり、全身化学療法の対象となる。過去のランダム化比較試験のメタ解析では、シスプラチン (cisplatin) ベースの化学療法が最良支持療法 (best supportive care) と比較して生存期間を延長することが示されていた (Souquet et al. 1993, Grilli et al. 1993, Marino et al. 1994, Non-Small Cell Lung Cancer Collaborative Group 1995)。しかし、これらの治療法では奏効率が低く、生存期間への影響も限定的であったため、より有効な新規薬剤とそれらを組み合わせた治療法の開発が強く求められていた。特に、既存の治療法では、患者のQOL (Quality of Life) を維持しつつ、長期的な生存ベネフィットをもたらすという点で、依然として不足している部分が多く、新たな治療戦略の確立が課題として残されていた。
ドセタキセル (Docetaxel, Taxotere; RP56976) は、パクリタキセル (paclitaxel) のアナログである半合成化合物であり、微小管の集合を促進し、脱重合を阻害することで細胞周期のM期停止を誘導する作用を持つ (Gueritte-Voegelein et al. 1991, Denis et al. 1990, Ringel et al. 1991)。単剤での第II相試験では、NSCLC、乳がん、頭頸部がん、胃がん、卵巣がんなど、様々な腫瘍タイプにおいて有効性が報告されている (Seidman et al. 1993, Kunitoh et al. 1996, Catimel et al. 1994, Sulkes et al. 1994, Bedikian et al. 1995, Van Hoesel et al. 1994, Aapro et al. 1993)。ドセタキセルの主要な用量制限毒性 (DLT) は、早期発現・短期持続型の用量依存性好中球減少症であった。
欧米の単剤ドセタキセル第II相試験では、推奨用量が75-100 mg/m²であったのに対し、日本の第I相試験では、日本人患者における毒性プロファイルの違いを考慮し、推奨用量が60 mg/m²と決定された (Taguchi et al. 1994)。この低用量戦略は、その後の第II相試験において、高用量ドセタキセルを用いた試験と比較して、過敏症反応や末梢浮腫の発生率が低い一方で、同等の有効性を示すことが報告された (Kunitoh et al. 1996)。シスプラチンはNSCLC治療における基幹薬剤であり、ドセタキセルとの併用では交差耐性がなく、毒性プロファイルに重複が少ないため、併用療法の開発が期待されていた (Fossella et al. 1995)。著者らが先行して実施したドセタキセルとシスプラチンの第I相試験 (Karato et al. 1997) では、ドセタキセル60 mg/m²とシスプラチン80 mg/m²の組み合わせで最大耐用量 (MTD) には到達しなかったものの、重篤な好中球減少症 (Grade 3以上) が71%の患者に発現した。しかし、このレジメンで評価可能患者27例中45%という有望な奏効率が観察されたことから、この用量が第II相試験の推奨用量として決定された。これらの背景に基づき、未治療進行NSCLC患者における本併用療法の有効性と安全性をさらに評価するため、多施設共同第II相試験が計画された。特に、日本人患者におけるドセタキセルの至適用量に関しては、欧米のデータがそのまま適用できるか未解明な点が多く、民族間の薬物動態や毒性感受性の違いを考慮した検討が喫緊の課題であった。
目的
本研究の目的は、未治療の転移性NSCLC (Stage IV) 患者を対象として、ドセタキセル60 mg/m²とシスプラチン80 mg/m²の併用化学療法の有効性および安全性を多施設共同第II相試験として評価することである。本試験はSimonのMinimax二段階デザインを採用した単群の第II相試験として実施された。主要評価項目はWHO (World Health Organization) 基準に基づく奏効率 (ORR) とし、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、1年生存率、および毒性プロファイルを評価する。特に、欧米の試験で用いられる高用量ドセタキセルと比較して、日本人患者における低用量ドセタキセル戦略 (minimum effective dosing) の妥当性を検証し、その臨床的有用性を明らかにすることを目指した。本試験の結果は、この併用療法が無作為化比較試験に適しているか否かを判断するための重要なデータを提供するものと位置付けられた。
結果
患者背景: 本試験には合計n=45例の患者が登録され、全例が治療を実施された。患者背景はTable 1に示されている。男性が33例 (73%)、女性が12例 (27%) であり、年齢中央値は63歳 (範囲37-74歳) であった。組織型では腺癌が34例 (76%)、扁平上皮癌が11例 (24%) を占めた。ECOG PSは、0が16例 (36%)、1が26例 (58%)、2が3例 (7%) であり、93%の患者がPS 0-1と比較的良好な全身状態であった。転移臓器数は、1臓器が34例 (76%)、2臓器が8例 (18%)、3臓器以上が3例 (7%) であった。
治療実施状況と安全性プロファイル: 全患者で合計112コースの化学療法が実施された。治療コース数の中央値は2 (範囲1-4) であり、38例 (84%) の患者が2-4コースの治療を完遂した。治療中止の原因は、毒性によるものが3例 (7%) のみであり、内訳は初回コース後の遷延性血小板減少症1例、第2コース中の静脈炎1例、第2コース中の続発性気胸1例であった。患者の希望による治療中止は5例 (11%) であったが、これらの患者に重篤な毒性は認められなかった。治療関連死 (TRD) は0例であった。コース間隔の中央値は28.0日 (範囲21-44日) であった。毒性による治療遅延は5例 (11%) に認められ、腎毒性によるものが2例、血液毒性によるものが3例であった。用量調整が必要となったのはわずか3例 (7%) であった。
血液毒性: 最も頻度の高かった血液毒性は好中球減少症であり、Grade 3が36% (16例)、Grade 4が49% (22例) で、合計84%の患者でGrade 3以上の好中球減少症が発現した (Table 2)。白血球減少症はGrade 3が51% (23例)、Grade 4が2% (1例) で、合計53%であった。貧血はGrade 3が13% (6例) であった。血小板減少症はGrade 4が1例 (2%) に認められたのみで、比較的軽度であった。G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) は総112コース中74コース (66%) で投与された。発熱性好中球減少症は12コース (11%) で発生したが、Grade 3または4の感染症は認められなかった。
非血液毒性: 非血液毒性は全体的に比較的軽度であった (Table 3)。悪心・嘔吐は98% (44例) でGrade 1以上が発現し、Grade 3以上は11% (5例) であった。倦怠感は91% (40例) でGrade 1以上が発現し、Grade 3以上は18% (8例) であった。下痢は67% (30例) でGrade 1以上が発現し、Grade 3以上は11% (5例) であった。食欲不振はGrade 3以上が40% (18例) であった。特に注目すべきは、神経毒性が4例 (9%) に認められたが、全例がGrade 1であった点である。これは、他の欧米試験で報告されている35-58%と比較して著しく低い頻度であった。浮腫も4例 (9%) に認められたが、全例がGrade 1であり、治療を要する体液貯留症候群は認められなかった。アレルギー反応は1例 (2%)、皮膚発疹は5例 (11%) に認められたが、いずれもGrade 1であった。関節痛や筋肉痛は全く認められなかった。
有効性:主要エンドポイントおよび生存アウトカム: 奏効率 (ORR) は、意図治療解析 (n=45) において、部分奏効 (PR) が19例、完全奏効 (CR) が0例であり、ORR 42% (95% CI 28-58%) であった (Table 4)。1例は初回コース後の遷延性血小板減少症により評価不能であったため、評価可能患者数は44例であった。組織型別のORRは、腺癌で47% (16/34例)、扁平上皮癌で27% (3/11例) であったが、統計的有意差は認められなかった (p=0.25)。性別では、男性が36% (12/33例)、女性が58% (7/12例) であった (p=0.19)。奏効持続期間の中央値は、奏効した19例において20.1週 (95% CI 13.3-26.1週) であった。無増悪生存期間 (PFS) の中央値は23.1週 (95% CI 15.1-32.1週、約5.3ヶ月) であった。全生存期間 (OS) の中央値は43.3週 (約10.0ヶ月) であり、1年OS率は38.7%であった (Figure 1)。これらの生存成績は、全例がStage IVという重症度の高い集団において、当時の他の試験と比較して良好な結果であった。例えば、Georgoulias et al. (1998) の試験 (ドセタキセル100 mg/m² + シスプラチン80 mg/m²、Stage IV 47%、n=53) のORR 45%、mOS 48週と比較しても遜色ない成績であり、より低いドセタキセル用量で同等の有効性が示唆された。
考察/結論
主要知見の位置づけ: 本試験は、未治療転移性NSCLC (全例Stage IV) 患者を対象としたドセタキセル60 mg/m²とシスプラチン80 mg/m²の併用化学療法の多施設共同第II相試験であり、ORR 42% (95% CI 28-58%)、mOS 43.3週、1年OS率 38.7% という有望な有効性を示した。特筆すべきは、これらの成績が、欧米の試験で用いられる高用量ドセタキセルレジメン (75-100 mg/m²) と同等以上の有効性を示しながら、神経毒性 (9% vs 35-58%)、浮腫 (9% vs 8-38%)、アレルギー反応といった非血液毒性を著しく低減し、治療関連死0例、用量調整率7%という優れた安全性プロファイルを示した点である。これは、本レジメンが未治療進行NSCLC患者に対する有効かつ忍容性の高い治療選択肢であることを示唆する。
先行研究との違いと日本人患者向け最小有効量戦略の妥当性: 本研究の結果は、「最小有効量ドセタキセル戦略 (minimum effective dosing strategy)」が高用量戦略と比較して、日本人患者においてより有望であるという著者らの結論を裏付けるものである。これは、欧米の試験で報告された高用量ドセタキセル併用療法と異なり、日本人患者の体格差や薬物動態の違いを考慮した用量設定の重要性を示唆する。日本の第I相試験でドセタキセル60 mg/m²が推奨量として決定された背景には、日本人患者における薬物動態や体格差、遺伝子多型に起因する毒性感受性の差異が考慮されていた。本第II相試験の結果は、この低用量戦略が臨床的に正当であることを実証した。一方で、好中球減少症 (Grade 3/4 計84%) の発生率は欧米の試験と同程度であり、G-CSF使用率66%、発熱性好中球減少症11%もほぼ同等であった。しかし、Zalcberg et al. (1998) の試験で報告された治療中止率17%に対し、本試験での用量調整率はわずか7%に留まり、治療完遂率の観点からも本レジメンの優れた設計が示された。
新規性: 本研究は、日本人未治療進行NSCLC患者を対象に、ドセタキセル60 mg/m²とシスプラチン80 mg/m²の併用療法が、高用量ドセタキセルを用いた欧米の試験と同等以上の有効性を維持しつつ、非血液毒性を大幅に軽減できることを本研究で初めて実証した点に新規性がある。特に、神経毒性や浮腫といったタキサン系薬剤に特徴的な非血液毒性が低頻度であったことは、患者のQOL維持に大きく貢献する可能性を示唆し、これまでの報告にはない知見である。
臨床応用: 本試験で示された良好な有効性と優れた安全性プロファイルは、このドセタキセルとシスプラチンの併用療法が、未治療転移性NSCLC患者に対する新たな標準治療として臨床応用される可能性を強く示唆する。特に、非血液毒性が低減されることで、高齢患者や併存疾患を持つ患者への適用範囲が広がる臨床的意義は大きい。本レジメンは、その後の日本におけるプラチナ二重化学療法の開発に大きく貢献し、日本のガイドラインにおける標準治療の礎となった。
残された課題: 全身倦怠感 (91%) と下痢 (67%) は、ドセタキセル単剤療法時と比較して高頻度で発現した。著者らは、これらの毒性がドセタキセルとシスプラチンの間の不明な分子・細胞間相互作用による相乗毒性の可能性を指摘している。これらの毒性は概ね管理可能であったが、患者のQOLに影響を与える可能性があり、今後の検討課題である。また、本試験は単群の第II相試験であるため、直接的な比較対照群が存在しない点がlimitationとして挙げられる。長期的な生存ベネフィットや特定のサブグループにおける有効性・安全性の詳細な評価は、今後の大規模なランダム化比較試験でさらに検討する必要がある。本試験の有望な結果に基づき、日本においてドセタキセル+シスプラチンとビンデシン+シスプラチンを比較する前向きランダム化比較試験が開始された。
方法
試験デザインと患者登録: 本試験は、1996年10月から1997年10月にかけて、日本国内の約20施設が参加した多施設共同第II相試験として実施された。本試験は、未治療の転移性NSCLC患者を対象とした単群の臨床試験であり、特定のNCT (National Clinical Trial) 登録番号は当時の慣例に従い付与されていない。
適格基準: 組織学的または細胞学的に確認された転移性NSCLC (Stage IV) 患者を対象とした。その他の主要な適格基準は以下の通りである。ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0-2であること。年齢が15-74歳であること。測定可能病変を有すること。化学療法歴がないこと。予想生存期間が3ヶ月以上であること。十分な臓器機能を有すること(白血球数 4,000-12,000/mm³、好中球数 ≥2,000/mm³、血小板数 ≥10×10⁴/mm³、ヘモグロビン ≥9.5 g/dL、血清クレアチニンが正常範囲内、クレアチニンクリアランス (Ccr) ≥60 mL/min、総ビリルビンが正常範囲内、GOT (glutamic oxaloacetic transaminase) /GPT (glutamic pyruvic transaminase) が正常上限の2倍未満)。PaO2が70mmHg以上であること。活動性感染症、重篤な心疾患、間質性肺疾患、末梢神経障害、活動性脳転移、過去の過敏症歴、妊娠・授乳中の患者は除外された。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。
治療レジメン: ドセタキセル (Docetaxel) 60 mg/m²をDay 1に1時間かけて静脈内投与した。ドセタキセル投与完了3時間後に、シスプラチン (cisplatin) 80 mg/m²をDay 1に2時間かけて静脈内投与した。シスプラチン投与時には、十分な前・後輸液および利尿剤が併用された。制吐剤としてグラニセトロン3 mg/bodyがDay 1からDay 3まで静脈内投与された。サイクル間隔は3-4週とした。初回コースでは過敏症反応に対するルーチンの前投薬は行われなかったが、過敏症反応が発生した場合は、次コース以降でコルチコステロイドや抗アレルギー薬の前投薬が許可された。Grade 3以上の白血球減少または好中球減少が発現した場合、組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子 (rhG-CSF) 2 μg/kgが投与された。治療は、許容できない毒性または疾患進行が認められない限り、最低2サイクル施行された。奏効例は、疾患進行または重篤な毒性が発現するまで治療を継続した。
用量調整基準: Grade 4の白血球減少または好中球減少が3日以上持続した場合、Grade 4の血小板減少、可逆的なGrade 2の神経毒性、またはGrade 3の肝機能障害が発現した患者は、次サイクルでドセタキセルとシスプラチンの両薬剤を75%に減量した。Grade 3以上の口内炎またはGrade 2以上の腎機能障害が発現した患者は、次サイクルでシスプラチンを75%に減量した。Grade 3以上の神経毒性が発現した場合は、治療を中止した。次コースの化学療法は、白血球数 ≥4,000/mm³、好中球数 ≥2,000/mm³、血小板数 ≥100,000/mm³、BUNおよび血清クレアチニンが正常範囲内、Ccr ≥60 mL/min、GOTおよびGPTが正常上限の2倍未満、神経毒性がGrade 1以下に回復した場合に、Day 21以降に開始された。これらの基準が6週間以内に満たされない場合、患者は試験中止とされたが、解析対象には含まれた。
主要評価項目と副次評価項目: 主要評価項目は、WHO (World Health Organization) 基準に基づく奏効率 (ORR) とし、独立中央判定委員会によって厳格に評価された。副次評価項目は、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、1年生存率、および安全性とした。毒性評価は、JCOG (Japan Clinical Oncology Group) 毒性基準 (NCI-CTC (National Cancer Institute Common Toxicity Criteria) に相当) に従い、JCOG基準でカバーされない毒性(浮腫、全身倦怠感、食欲不振など)は日本癌治療学会の毒性基準に従って評価された。
統計解析: SimonのMinimax二段階デザインを採用した。目標奏効率を40%、許容される下限奏効率を20%と設定し、検出力90%以上、αエラー率5%未満とした。第1段階で24例の評価可能患者を登録し、奏効が5例未満の場合には試験を中止することとした。第1段階で5例以上の奏効が認められた場合、さらに21例を追加登録し、合計45例で最終評価を行うこととした。奏効率の信頼区間 (CI) はKaplan-Meier法を用いて算出された。奏効率と患者特性(組織型、性別)の比較にはχ²検定が用いられた。生存期間は、化学療法開始日から死亡または最終追跡評価日までの期間として定義され、Kaplan-Meier法を用いて算出された。