- 著者: Y. Nagata, K. Hiraoka, M. Shibata, et al.
- Corresponding author: Y. Nagata (Department of Radiation Oncology, Hiroshima University, Hiroshima, Japan)
- 雑誌: International Journal of Radiation Oncology Biology Physics
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26581137
背景
早期非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する標準治療は、肺葉切除および縦隔リンパ節郭清を伴う外科的切除である。しかし、高齢者や重篤な合併症 (呼吸機能低下、心疾患、糖尿病など) を有する患者においては、手術に伴うリスクが極めて高く、外科的切除が適応とならない症例が少なくない。このような医学的切除不能症例に対して、従来の分割照射による放射線治療が施行されてきたが、その3年全生存率 (OS) は30%から40%程度にとどまっており、より有効な非侵襲的局所治療の開発が強く望まれていた。
近年、高精度な照射技術の進歩に伴い、腫瘍に対して高線量をピンポイントに照射する体幹部定位放射線治療 (SBRT) が開発され、早期肺癌に対する新たな治療選択肢として注目を集めるようになった。日本国内においても、2000年代初頭からSBRTの臨床応用が開始され、単施設での後向き研究においては良好な局所制御率や生存率が報告されていた。具体的には、Blomgren et al. (1998) や Lax et al. (1998) による初期の定位照射技術の確立、さらには Uematsu et al. (2001) によるCTガイド下フレームレス定位放射線治療の5年経験などが報告され、その有用性が示唆されていた。しかし、これらの先行研究はあくまで単一施設における後向きの解析結果に限定されており、多施設共同による厳格なプロトコルに基づいた前向きの検証は行われていなかった。そのため、SBRTの有効性と安全性に関するエビデンスは未確立であり、標準治療としての位置付けを明確にするための臨床試験データが圧倒的に不足していた。
特に、切除不能症例におけるSBRTの治療成績を前向きに評価すること、さらには切除可能症例に対する手術の代替治療としての可能性を検証することは、当時の放射線腫瘍学分野における重要な課題であった。このような背景から、日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) は、標準的なSBRTプロトコル (48 Gy/4分割) の確立を目指し、多施設共同前向き第II相試験であるJCOG0403を立案した。本試験では、術前リスク評価に基づいて患者を切除不能群と切除可能群の2つのコホートに分類し、それぞれの群におけるSBRTの有効性と安全性を前向きに検証することで、これまでの臨床的ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、臨床病期T1N0M0 (最大腫瘍径3 cm以下、リンパ節転移なし、遠隔転移なし) の早期非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、48 Gy/4分割の体幹部定位放射線治療 (SBRT) を施行し、その有効性と安全性を多施設共同前向き第II相試験において評価することである。
具体的には、医学的切除不能群における主要評価項目として3年全生存率 (OS) 60%以上 (閾値35%) の達成を目指し、SBRTが切除不能例における標準的局所治療となり得るかを検証する。また、医学的切除可能群においては、3年OS 70%以上 (期待値80%) を目標に設定し、SBRTが外科的切除 (肺葉切除) に代わる有望な代替治療選択肢となり得るかを高精度に評価することを目的とする。
結果
患者背景と治療完遂状況: 登録された169例のうち、中央レビューによる再層別化を経て、最終的に切除不能群104例、切除可能群65例が解析対象となった (Table 2)。このうち、不適格と判定された5例 (切除不能群4例、切除可能群1例) を除く、切除不能群100例および切除可能群64例 (総計164例) が有効性評価対象となった。切除不能群104例の背景は、年齢中央値78歳 (範囲59-90歳)、男性74% (n=77)、腺癌48% (n=50)、扁平上皮癌38% (n=40) であった。切除可能群65例の背景は、年齢中央値79歳 (範囲50-91歳)、男性69% (n=45)、腺癌62% (n=40)、扁平上皮癌32% (n=21) であった。全患者が予定された48 Gy/4分割のプロトコル治療を完遂した。
切除不能群における生存成績: 有効性評価対象となった切除不能群100例において、主要評価項目である3年OSは59.9% (95% CI 49.6%-68.8%) であり、閾値である35%を大幅に上回り、期待値の50%も超える極めて良好な成績を示した (Figure 2A)。追跡期間を延長した更新解析における5年OSは42.8% (95% CI 33.0%-52.3%) であった。また、3年PFSは49.8% (95% CI 39.7%-59.2%)、3年LPFSは52.8% (95% CI 42.6%-62.1%)、3年EFSは46.8% (95% CI 36.7%-56.2%) であった (Figure 2B)。観察期間中に55例の死亡が確認され、そのうち肺癌死は17例 (31%) であり、他死が38例 (69%) と多数を占めた。
切除可能群における生存成績: 有効性評価対象となった切除可能群64例において、3年OSは76.5% (95% CI 64.0%-85.1%) であり、事前に設定された期待値80%の信頼区間内に収まる良好な生存割合を達成した (Figure 2C)。5年OSは54.0% (95% CI 41.0%-65.4%) であった。また、3年PFSは54.5% (95% CI 41.6%-65.8%)、3年LPFSは68.6% (95% CI 55.7%-78.5%)、3年EFSは51.4% (95% CI 38.6%-62.9%) であった (Figure 2D)。観察期間中に36例の死亡が確認され、そのうち18例 (50%) が肺癌死、18例 (50%) が他死であった。
局所制御効果と再発パターン: 死亡をイベントとせず局所再発のみをイベントとして評価した3年局所制御率 (LCR (local control rate)) は、切除不能群で87.3% (95% CI 77.5%-93.0%)、切除可能群で85.4% (95% CI 73.8%-92.1%) であり、両群ともに極めて高い局所制御効果が得られた (Figure 2F, G)。再発・治療不成功のパターンを分析したところ、最も頻度が高かったのは遠隔転移であった (Table 4)。切除不能群では31例に治療不成功が認められ、その内訳は遠隔転移単独が13例、遠隔転移を含む重複再発が10例 (計23例) であった。切除可能群では27例に治療不成功が認められ、遠隔転移単独が6例、遠隔転移を含む重複再発が15例 (計21例) であった。これに対し、局所再発単独は切除不能群で6例、切除可能群で1例のみと極めて少数であった。
安全性および有害事象: 治療に関連した重篤な毒性の発現割合は極めて低かった (Table 3)。切除不能群104例におけるGrade 3の有害事象は10.6% (n=11) に認められ、その内訳は呼吸困難10例、低酸素症8例、肺臓炎8例、胸痛2例、咳嗽1例であった。Grade 4の有害事象は1.9% (n=2) に認められ、呼吸困難2例、低酸素症1例、肺臓炎1例であった。切除可能群65例におけるGrade 3の有害事象は6.2% (n=4) であり、胸痛1例、呼吸困難3例、低酸素症1例、肺臓炎2例であった。切除可能群においてGrade 4の有害事象は認められなかった。また、いずれのコホートにおいても、治療に関連した死亡 (Grade 5) は1例も観察されなかった。
登録基準と中央レビュー再層別化による生存成績比較: 本試験では、施設登録時の外科医判断と中央レビューによる再層別化判断の整合性を評価するため、初期登録時の基準に基づくOSも解析された。初期登録時の切除不能群 (n=69) における3年OSは63.7% (95% CI 51.2%-73.8%) であり、初期登録時の切除可能群 (n=95) における3年OSは68.3% (95% CI 57.9%-76.7%) であった (Figure 2E)。中央レビュー再層別化後の生存成績と比較して、生存割合の推移に実質的な乖離は認められず、いずれの分類基準を用いてもSBRTの優れた治療効果が安定して再現されることが確認された。
考察/結論
本研究 (JCOG0403) は、日本国内の多施設共同グループにおいて、早期非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する体幹部定位放射線治療 (SBRT) の有効性と安全性を前向きに検証した初の第II相試験である。切除不能群における3年OS 59.9% (95% CI 49.6%-68.8%)、および切除可能群における3年OS 76.5% (95% CI 64.0%-85.1%) という結果は、48 Gy/4分割のSBRTプロトコルが極めて優れた治療効果を有することを示している。
先行研究との違い: 本試験の切除不能群における3年OS 59.9%は、従来の分割照射による放射線治療の歴史的成績 (3年OS 30-40%) を大きく凌駕しており、米国のRTOG0236試験 (Timmerman et al. 2010) における3年OS 55.8%や、国内の後向き多施設研究の成績とも極めて整合性が高い。しかし、これまでの多くの報告が単施設研究や後向き解析であったことと異なり、本研究は日本全国の15施設が参加し、厳格な品質管理 (QA) と線量制約のもとで実施された前向き試験であるため、そのエビデンスとしての信頼性は極めて高い。また、日本の肺癌登録研究 (Asamura et al. 2008) における臨床病期I期切除例の3年OS 85%と比較すると、本試験の切除可能群の3年OS 76.5%は数値上やや低いが、本試験の対象患者の年齢中央値が79歳と極めて高齢であり、多くの合併症を抱えていたことを考慮すると、手術成績に匹敵する極めて良好な結果であると考えられる。
新規性: 本研究は、日本の多施設共同グループにおいて、48 Gy/4分割という高精度SBRTプロトコルが極めて安全かつ有効に実施可能であることを本研究で初めて前向きに実証した。特に、肺V20 <20%や平均肺線量 <18 Gyといった厳格な線量制約を遵守することにより、Grade 5の治療関連死亡が皆無であったことは、高齢かつ高リスクな早期肺癌患者に対するSBRTの安全性を担保する新規な知見である。
臨床応用: 本試験の結果は、医学的に手術が不可能なT1N0M0 NSCLC患者に対する標準治療として、SBRTを確立する強力な根拠となる。また、手術が可能な患者に対しても、高齢や合併症のために手術リスクが高い場合や、患者自身が低侵襲治療を希望する場合には、SBRTが極めて有力な代替選択肢になり得ることを示しており、臨床現場における意思決定の幅を大きく広げた。
残された課題: 今後の検討課題として、切除可能患者におけるSBRTと外科的切除 (肺葉切除) との直接的なランダム化比較試験の実施が挙げられる。STARS (Stereotactic Radiotherapy vs Surgery) 試験や ROSEL (Radical Radiotherapy of Non-Small Cell Lung Cancer) 試験などの前向き比較試験は症例登録の難航により早期終了を余儀なくされており、真の優劣を決定するためには、より大規模な国際共同共同研究や、患者選択基準の最適化が必要である。また、本試験において最も頻度の高かった失敗パターンが遠隔転移であったことから、SBRT局所治療と全身化学療法や免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の開発が今後の研究方向性として期待される。
方法
本研究は、日本全国の15施設が参加した多施設共同前向き第II相試験 (JCOG0403、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT00238875、UMIN-CTR登録番号: C000000029) である。患者登録は2004年7月から2008年11月にかけて実施された。
主な適格基準:
- 病理学的 (組織学的または細胞学的) に確認された非小細胞肺癌 (NSCLC)
- UICC (国際対がん連合) 第6版に基づく臨床病期T1N0M0 (最大腫瘍径3 cm以下)
- 気管・主気管支から2 cm以上離れた末梢型腫瘍
- ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status (PS) が0から2
- 年齢20歳以上
- 良好な臓器機能 (動脈血酸素分圧 [PaO2] 60 torr以上、1秒量 [FEV1.0] 700 mL以上)
- 放射線治療または化学療法の既往がないこと
切除不能・切除可能の分類基準: 登録前に外科医による術前評価が行われ、以下の基準をすべて満たす場合を「切除可能 (operable)」、1つでも満たさない場合を「切除不能 (inoperable)」と定義した。
- 術後予測1秒量 (FEV1.0) が800 mL以上
- PaO2が65 torr以上
- 重篤な心疾患や重症糖尿病がないこと なお、施設間での判断の不一致を防ぐため、登録後に研究コーディネーターによる中央レビューが実施され、アウトカム情報を伏せた状態で再層別化が行われた。
治療プロトコルと照射法: 処方線量は、アイソセンター (照射中心点) において48 Gyを4分割 (1回12 Gy) とし、4日間から8日間の期間で照射された。治療計画には3次元治療計画装置を用い、不均質補正計算を必須とした。腫瘍体積 (GTV) は肉眼的腫瘍のみとし、臨床標的体積 (CTV) マージンは設定せず、内標的体積 (ITV) に5 mmのセットアップマージンを加えて計画標的体積 (PTV) とした。
正常組織への有害事象を回避するため、厳格な線量制約が設定された。肺の線量制約として、平均肺線量 (MLD) 18 Gy未満、20 Gy以上照射される肺体積割合 (V20) 20%未満、15 Gy以上照射される肺体積割合 (V15) 25%未満、40 Gy以上照射される肺体積が100 cm3未満とされた。また、脊髄最大線量は25 Gy/4分割以下、食道および肺動脈は40 Gy/4分割未満 (1 cm3未満) とされた。
評価項目と統計解析: 主要評価項目は3年全生存率 (OS) である。切除不能群では、閾値35%、期待値50%、片側α=0.05、検出力90%として必要サンプルサイズを100例と算出した。切除可能群では、期待値80%に対して95%信頼区間 (CI) の幅が±10%以内となる精度を確保するため、必要サンプルサイズを62例とした。副次評価項目は、無再発生存期間 (PFS)、局所進行なし生存期間 (LPFS (local progression-free survival))、イベントフリー生存期間 (EFS)、有害事象 (CTCAE v3.0による評価)、および再発パターンである。生存解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられた。