- 著者: Ramalingam SS, Dahlberg SE, Langer CJ, Gray R, Belani CP, Brahmer JR, Sandler AB, Schiller JH, Johnson DH
- Corresponding author: Suresh S. Ramalingam, MD (Emory Winship Cancer Institute, Atlanta, GA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2008
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 18165641
背景
肺癌は米国における癌関連死因の第1位であり、2007年には約213,000例の新規診断が予測されていた Jemal et al. CA Cancer J Clin 2007。非小細胞肺癌(NSCLC)は肺癌全体の85%以上を占め、患者の約40%は診断時に進行期である Govindan et al. JClinOncol 2006。これらの進行期NSCLC患者に対する標準治療は全身化学療法であり、これにより生活の質(QOL)と生存期間の両方が改善されることが示されている Bunn PA Jr. J Clin Oncol 2002。最近まで、良好なパフォーマンスステータス(ECOG PS 0または1)を有する進行NSCLC患者に対する標準治療は、プラチナ製剤または非プラチナ製剤をベースとした2剤併用レジメンであった。
高齢者(70歳以上)は肺癌患者全体の約50%を占めることが、SEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)データベースのデータから示されている。加齢に伴い、腎機能の低下、免疫応答の低下、骨髄再生能力の低下、および併存疾患の増加といった生理学的変化が生じ、これらが全身療法の忍容性に直接影響を及ぼす Balducci et al. Nat Rev Cancer 2005。高齢NSCLC患者において、単剤化学療法による質的および量的な利益が報告されている Effects of vinorelbine on quality of life and survival of elderly patients with advanced nonsmall-cell lung cancer: The Elderly Lung Cancer Vinorelbine Italian Study Group. J Natl Cancer Inst 1999。2剤併用療法は単剤療法よりも優れた有効性を示すが、毒性の増加を伴う Lilenbaum et al. JClinOncol 2005。高齢患者における併用療法と単剤療法の役割を評価する前向き高齢者特化型ランダム化臨床試験はまだ実施されていないものの、複数の臨床試験のレトロスペクティブ解析により、プラチナ製剤をベースとしたレジメンの安全性と有効性が確立されている Langer et al. JNatlCancerInst 2002。例えば、ECOG 1594試験では、4種類のプラチナ製剤ベースの2剤併用療法を比較し、高齢患者と若年患者で治療効果に差はなく、臨床的毒性の過剰な増加も認められなかったが、骨髄抑制の発生率は高齢患者で高かったと報告されている Langer et al. JNatlCancerInst 2002。このため、良好なPSを有する高齢NSCLC患者に対しては、米国では併用療法が日常的に用いられている。
ベバシズマブは、血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とするモノクローナル抗体であり、VEGFは新生血管形成(neoangiogenesis)の重要なメディエーターである Ferrara et al. NatMed 2003。新生血管形成は癌の進行に不可欠なイベントであるため、VEGFを標的とする治療法は癌治療において重要なモダリティとなっている Ferrara et al. NatMed 2003。ECOG 4599試験は、進行非扁平上皮NSCLC患者において、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル(PCB)併用療法が、カルボプラチン、パクリタキセル(PC)単独療法と比較して生存期間を改善することを示した大規模なランダム化第III相試験である Sandler et al. NEnglJMed 2006。PCBレジメンは、好中球減少症、出血、高血圧、蛋白尿などの毒性の発生率が高く、治療関連死も増加した。ECOG 4599試験の結果は、非扁平上皮NSCLC患者に対するPCBレジメンの米国食品医薬品局(FDA)承認の根拠となった。しかし、この試験全体でのOS改善は主に若年層で認められており、高齢者サブグループにおける有効性および安全性の詳細な分析は実施されていなかったため、この領域には知識のギャップが残されていた。
抗VEGF療法は、高血圧、出血、蛋白尿、血栓塞栓症などの特異的な毒性プロファイルを持つ。高齢患者では、高血圧、腎機能低下、血管病変、抗凝固薬の使用などのリスク因子が複合的に存在するため、これらのベバシズマブ関連毒性が増強される可能性が理論的に示唆されていた。ECOG 5592やECOG 1594などの先行試験では、高齢者を含むサブグループ解析が行われ、プラチナ併用化学療法は良好なPSの高齢者において若年者と同等の効果を示すことが報告されていたが、ベバシズマブと化学療法という3剤併用療法の高齢者における治療指数(therapeutic index)はこれまで検討されておらず、その安全性と有効性は未解明であった。本解析は、ECOG 4599試験の高齢者サブグループを事後的に解析し、ベバシズマブの高齢者への適用に関するエビデンスを初めて提供したものであり、この領域における知識のギャップを埋めることを目的としている。高齢患者は臨床試験において依然として過小評価されており、特に80歳以上の超高齢者群(全肺癌患者の約11%を占めるにもかかわらず、本研究では1.6%に過ぎない)におけるデータは不足していた。
目的
本研究の目的は、ECOG 4599試験に登録された高齢者(70歳以上)サブグループにおいて、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル(PCB)併用療法とカルボプラチン、パクリタキセル(PC)単独療法の有効性(全奏効率、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS))および安全性(Grade 3-5毒性、治療関連死)を比較することである。さらに、PCB治療を受けた高齢患者と若年患者(70歳未満)のアウトカムを対比することで、高齢NSCLC患者におけるベバシズマブ併用療法の治療指数を評価することを目的とした。この解析は、高齢患者におけるベバシズマブの適切な使用に関する臨床的ガイダンスを提供することを目指した。
結果
患者背景: ECOG 4599試験に登録された878例中、850例が主要解析に含まれた。高齢患者(70歳以上)は研究コホート全体の26%(n=224)を占め、そのうち113例がPC群、111例がPCB群に割り付けられた。高齢患者の44%が75歳以上であり、4例(1.6%)が80歳以上であった。高齢者群の中央値年齢は74歳であり、若年者群(70歳未満)の中央値年齢は59歳であった。若年者群では女性の割合が有意に高かった(48% vs 38%、p=0.005)。組織型分布に大きな差はなかった。高齢者群ではECOG PS 1の患者の割合がわずかに高かったが、統計的に有意ではなかった (Table 1)。
高齢者における有効性(PCB vs PC): 高齢者群において、PCB群の全奏効率は28.7%であり、PC群の17.3%と比較して高い傾向が認められた(p=0.067)。完全奏効(CR)は両群ともに認められず、部分奏効(PR)はPCB群で29例、PC群で18例であった。奏効持続期間中央値はPCB群で6.7ヶ月、PC群で5.5ヶ月であり、有意差はなかった(p=0.39)。無増悪生存期間(PFS)中央値は、PCB群で5.9ヶ月、PC群で4.9ヶ月であり、PCB群で良好な傾向が認められたが、統計的有意差には至らなかった(HR 0.76, 95% CI 0.57-1.01, p=0.063)(Fig 1B)。1年PFS率はPCB群で18.6%、PC群で9.2%であった。全生存期間(OS)中央値は、PCB群で11.3ヶ月、PC群で12.1ヶ月であり、有意差は認められなかった(p=0.4)(Fig 1A)。1年OS率はPCB群で46%、PC群で50%であったが、2年OS率はPCB群で24%、PC群で14%と、PCB群で良好な傾向が示された。年齢と治療の交互作用項は統計的に有意ではなかった(p=0.34)。これは、OSにおける治療効果の年齢依存的な修飾が統計的に確証されなかったことを意味する (Table 5)。
高齢者における毒性(PCB vs PC): 高齢者コホートにおいて、少なくとも1エピソードのGrade 3以上の毒性発生率は、PCB群で87%、PC群で61%と、PCB群で有意に高かった(p<0.001)。治療関連死(Grade 5)は、PCB群で7例(6.3%)、PC群で2例(1.8%)であり、統計的有意差はなかったものの、臨床的に重要な差が認められた(p=0.10)。PCB群における治療関連死の原因は、喀血2例、感染症2例、発熱性好中球減少症1例、吐血1例、脳血管虚血1例であった。PC群では、感染症1例、心虚血と消化管出血1例であった。
主要な毒性項目におけるGrade 3-5の発生率は以下の通りである(PCB vs PC):高血圧 6.2% vs 0.9%(p=0.03)、蛋白尿 7.9% vs 0%(p=0.002)、出血 7.9% vs 1.7%(p=0.03)、悪心 4.4% vs 0%(p=0.03)、食欲不振 7.9% vs 0.9%(p=0.01)。血液毒性では、Grade 4好中球減少症がPCB群で34%、PC群で22%と傾向が認められ(p=0.06)、Grade 4発熱性好中球減少症はPCB群で6.2%、PC群で0.9%と有意に高かった(p=0.03)(Table 2)。Grade 4血小板減少症もPCB群で3.5%、PC群で0%と傾向が認められた(p=0.06)。
高齢者 vs 若年者におけるPCB毒性比較: PCB治療を受けた高齢患者は、若年患者と比較して全体的に毒性発生率が高かった。少なくとも1エピソードのGrade 3以上の毒性発生率は、高齢患者で87%、若年患者で70%であり、高齢患者で有意に高かった(p<0.001)。PCB群におけるGrade 3-5毒性の主な違いは以下の通りである:Grade 4好中球減少症 34%(高齢者)vs 22%(若年者)(p=0.02)、消化管出血 3.5%(高齢者)vs 0%(若年者)(p=0.005)、Grade 3-5蛋白尿 7.9%(高齢者)vs 1.3%(若年者)(p=0.001)、筋力低下 7.8%(高齢者)vs 2.2%(若年者)(p=0.02)、めまい 7.9%(高齢者)vs 1.6%(若年者)(p=0.003)(Table 4)。治療関連死は高齢者で6.3%、若年者で2.6%であり、境界域の有意差が認められた(p=0.08)。PCB群で記録された治療関連死15例のうち、7例(47%)が高齢患者であったが、高齢患者はPCB群の登録患者の27%に過ぎず、高齢患者における致死的毒性の不均衡な負担が示唆された。
若年者における有効性(PCB vs PC): 若年患者群では、PCB群のOS中央値は12.1ヶ月、PC群は10.1ヶ月であり、PCB群で有意なOS改善が認められた(HR 0.76, 95% CI 0.61-0.96, p=0.002)。PFS中央値もPCB群で6.4ヶ月、PC群で4.6ヶ月であり、PCB群で有意な改善が確認された(p<0.001)。この結果は、全体試験と同様に若年患者におけるベバシズマブの有意な有効性を示しており、高齢患者でのOS有意差なしという結果と対照的である。
治療サイクル数: 高齢者および若年者ともに、治療サイクル数の中央値はPC群で5サイクル、PCB群で7サイクルであり、両群間で同等であった。これは、ベバシズマブの追加が高齢患者の治療継続性を著しく損なうものではないことを示唆している。
考察/結論
ECOG 4599試験の高齢者サブグループ解析から得られた主要な結論は、高齢NSCLC患者(70歳以上)において、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル(PCB)併用療法は全生存期間(OS)を改善せず(OS中央値 11.3ヶ月 vs 12.1ヶ月、p=0.4)、一方で毒性(Grade 3-5毒性発生率 87% vs 61%、p<0.001)および致死的毒性(PCB群7例 vs PC群2例)を有意に増加させるというものである。若年患者ではベバシズマブによる有意なOS改善が確認されたのに対し、高齢患者では統計的に有意なOS改善のエビデンスがなく、リスクが顕著に上回る可能性が示された。
先行研究との違い: 本研究の知見は、ECOG 5592やECOG 1594といった先行研究で示された、プラチナ製剤ベースの2剤化学療法が高齢患者でも若年患者と同等の効果と許容可能な毒性を示すという結果とは対照的である。これらの先行研究は分子標的薬を含まないレジメンであったのに対し、本解析はベバシズマブという抗体薬の追加が高齢患者において特異的な毒性増加をもたらすことを初めて示した点で、これまでの報告とは異なる。特に、抗VEGF抗体薬固有の毒性(高血圧、出血、蛋白尿)と化学療法による毒性(好中球減少)の両面で毒性増加が観察されたことは重要である。VEGF阻害による内皮機能障害が、高齢患者に既存する血管病変と相乗的に作用する機序が考えられる。
新規性: 本研究で初めて、進行非扁平上皮NSCLCの高齢患者におけるベバシズマブ併用化学療法の治療指数を詳細に評価した。PCB群における治療関連死15例中7例(47%)が高齢患者であった(PCB群参加者の27%に過ぎないにもかかわらず)という事実は、高齢患者における致死的毒性の不均衡に高い負担を端的に示す新規の知見である。これは、高齢患者がベバシズマブ関連の重篤な有害事象に対して特に脆弱であることを示唆している。
臨床応用: 本データは、高齢NSCLC患者へのベバシズマブの適用に際して、極めて慎重な個別評価が必要であることを示唆している。2008年当時のベバシズマブの処方習慣に対して重要な警告を発するものであり、臨床現場での意思決定に大きな影響を与える。特に、75歳以上の患者(n=98)ではさらに高リスクの可能性があり、80歳以上の超高齢者(n=4、1.6%)では本解析の結果を外挿することは困難であり、特別な配慮が必要である。現代の臨床では、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法(例:ペムブロリズマブとカルボプラチン/パクリタキセル)が標準治療となっているが、高齢患者における抗PD-1療法の適用判断においても、同様に薬剤固有の毒性の年齢依存性を考慮する必要がある。
残された課題: 本解析の限界として、(1) 事後的な非計画解析であり、多重比較調整がなされていない点が挙げられる。これにより、偶然の発見である可能性を完全に排除できない。(2) PCB群で75歳以上の患者がPC群よりも多く登録された(58例 vs 40例)というベースラインの不均衡が、PCB群における毒性増加に寄与した可能性がある。(3) 2次治療に関する情報が不完全であり、生存解析にバイアスが生じる可能性がある。(4) 患者のADL(Activities of Daily Living)、QOL、および併存疾患の定量化が欠如している。これらの因子は高齢患者のアウトカムに大きな影響を与えることが複数の研究で示されているが、本解析では必要な情報が利用できなかった。年齢と治療の交互作用項が有意でなかった(p=0.34)ことは、OS差が統計的に確証されていないことを意味し、サブグループ解析の検出力の限界(n=224)も考慮する必要がある。これらの残された課題を解決するためには、ベースラインのQOL、ADL、併存疾患を注意深く記録した、高齢者特化型の前向き試験が不可欠である。このような試験は、ベバシズマブベースのレジメンの安全性と有効性を確立し、最適な用量設定を検討する上で重要である。
方法
本研究は、ECOG 4599試験の事後サブグループ解析として実施された。ECOG 4599試験は、未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者(Stage IIIB/胸水またはIV期、ECOG PS 0-1)878例を対象とした大規模な第III相ランダム化比較試験(RCT)である。患者は、カルボプラチン(AUC=6 mg/mL×min、Day 1)とパクリタキセル(200 mg/m2、Day 1)にベバシズマブ(15 mg/kg、Day 1)を加えたPCB群、またはPC単独群にランダムに割り付けられた。治療サイクルは3週間ごとに繰り返され、6週間ごとに再評価された。実験群(PCB群)で6サイクル後に病勢安定または奏効を示した患者は、病勢進行または許容できない毒性が生じるまでベバシズマブ単独による維持療法を受けた。クロスオーバーは許可されなかった。
適格基準には、非扁平上皮NSCLC、ECOG PS 0または1、十分な骨髄、肝機能、腎機能、およびインフォームドコンセントへの同意が含まれた。除外基準は、主に扁平上皮NSCLC、大量喀血の既往、脳転移、最近の出血または血栓イベントの既往、未制御の高血圧、治療的抗凝固療法であった。測定可能病変および非測定可能病変の両方が許容された。すべての奏効はRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)基準を用いて評価され、毒性はNCI-CTCAE(National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events)バージョン2.0によってグレード分類された。主要評価項目はOSであった。本研究は、ヘルシンキ宣言、FDAの現行のGCP(Good Clinical Practices)、および各施設の倫理的・法的要件に従って実施された。
本解析では、研究登録時に70歳以上であった患者を高齢者と定義した。高齢者コホートは224例(全体の26%)で構成され、そのうち113例がPC群に、111例がPCB群にランダムに割り付けられた。高齢者群の中央値年齢は74歳であり、若年者群(70歳未満)の中央値年齢は59歳であった。高齢者群の44%が75歳以上であり、4例(1.6%)が80歳以上であった。
主な統計解析は以下の通りである。(1) 高齢者群内でのPCBとPCの比較:OS、PFS、奏効率、毒性について、ログランク検定(log-rank test)およびフィッシャーの正確検定(Fisher’s exact test)を用いて比較した。(2) PCB治療を受けた高齢患者と若年患者の毒性比較。Cox比例ハザードモデル(Cox proportional hazards models)を用いてハザード比(HR)を算出し、ベースライン特性(疾患測定可能性、病期、前治療放射線療法、体重減少)で層別化した。年齢と治療の交互作用項をCoxモデルに追加し、治療効果の年齢依存的な修飾を検定した。PFSはランダム化から病勢進行または進行のない死亡までの期間と定義され、OSはランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。進行または死亡が確認されていない患者は、最終評価日で打ち切られた。PFS、OS、および奏効期間はカプラン・マイヤー法(Kaplan-Meier method)を用いて推定された。多重比較に対する調整は行われず、すべてのP値は両側検定であり、信頼区間は95%レベルで設定された。本研究はNCT00004603として登録された。