- 著者: Dahlberg SE, Sandler AB, Brahmer JR, Schiller JH, Johnson DH
- Corresponding author: Suzanne E. Dahlberg, PhD (Department of Biostatistics and Computational Biology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-01-19
- Article種別: Original Article (Correlative/biomarker analysis of Phase 3 trial)
- PMID: 20085937
背景
Bevacizumabは血管内皮増殖因子 (VEGF; vascular endothelial growth factor) を標的とするヒト化モノクローナル抗体で、FDA承認を受けた最初の抗血管新生薬として大腸癌・乳癌・NSCLCの治療に用いられている。これまでの研究では、ECOG 4599試験 (Sandler et al. NEnglJMed 2006) でbevacizumab+carboplatin+paclitaxel (PCB; paclitaxel carboplatin bevacizumab) は非扁平上皮NSCLCの1次治療においてcarboplatin+paclitaxel (PC) 単独と比較してmOSを12.3対10.3ヶ月へと延長し (HR 0.79、95% CI 0.67-0.92、P=.003)、FDA承認を獲得した。しかし、どの患者が特にbevacizumabから恩恵を受けるかを示す予測バイオマーカーは未解明の課題として残されていた。
これまでの研究 (earlier work) では、bevacizumabは消化管穿孔・出血・動脈血栓・蛋白尿・うっ血性心不全等の毒性に加え、11-16%の患者で降圧薬介入を要する高血圧 (HBP; high blood pressure) を引き起こすことが既報で示されていた。VEGF経路の詳細研究により、bevacizumabによるVEGF拮抗が血管内皮一酸化窒素 (NO; nitric oxide) 産生を低下させ、血圧 (BP; blood pressure) 上昇と腎ナトリウム排泄低下を引き起こす機序、加えて毛細血管rarefaction (vascular rarefaction; 毛細血管密度の低下) によりHBPが発症する機序が報告されている。
これまでの研究 (ECOG 2100、Schneider 2008) では、HER2陰性乳癌に対するpaclitaxel+bevacizumab試験でGrade 3-4 HBP発症患者のOSが有意に延長したという観察があり、転移性腎細胞癌・膵癌・大腸癌のbevacizumab治療例でも同様のHBP-生存相関が報告されていた。これらの先行研究は「HBP発症はVEGF経路がより効果的に阻害されている生物学的指標である」という仮説を支持するが、何が足りなかったかは「NSCLC患者集団における時間依存性共変量 (time-varying covariate) を適切に扱った大規模解析の欠如」と「Landmark解析やCox time-dependent modelによる統計学的バイアスを除去した厳密検証の欠如」であり、このギャップを埋めることが未解明の重要課題であった。本研究はECOG 4599データを用いてこれらの方法論的問題を解決した初の系統的解析である。WNK1 (with-no-lysine kinase 1) などのhypertension感受性遺伝子多型との関連は併行ECOG 4599 correlative研究で別途検討されている。
目的
ECOG 4599試験データを用い、(1) bevacizumab+carboplatin+paclitaxel (PCB) 治療中の高血圧 (HBP) 発症がOS・PFS改善の予測バイオマーカーとして機能するかを、Landmark解析と時間依存性共変量Cox回帰により厳密に検証、(2) HBP発症PCB群・HBP非発症PCB群・PC対照群を多変量Cox modelで比較してbevacizumab効果におけるHBPの位置付けを明らかにする、(3) HBP発症の累積発生率と発症時期を定量化すること。
結果
サイクル1終了時HBP発症率と背景特性 (Table 1):解析対象741例中、HBP発症はPC群27.0% (117/433) vs PCB群44.8% (187/417、Fisher P<.0001) で有意に併用群で多発し、ECOG 4599でbevacizumab添加が高血圧を1.7倍に増加させたことを再確認。PCB+HBP群 (n=95) は非HBP群と比較して年齢≥65歳が有意に高率 (54% vs 37%、P=.03)、体重減少≥5%が有意に低率 (20% vs 32%、P=.002)、adenocarcinoma 64%、PS 1が54%。ベースライン収縮期BP中央値130 mmHg、拡張期74 mmHgで両群バランス良好 (Table 2)。
主要知見—OS改善 (Fig 1、Landmark解析、multivariate Cox):サイクル1終了時HBPを起点とするLandmark解析では、PCB+HBP群のmOS 15.9ヶ月 (95% CI 13.4-20.3) vs PCB+noHBP群 mOS 11.5ヶ月 (95% CI 10.4-13.4) vs PC群 mOS 10.3ヶ月 (95% CI 8.6-13.6、HBP有無で類似) で、4群比較のlog-rank P=.0002と顕著な差が観察された。多変量Cox modelでは、PCB+HBP群 vs PC群の補正OS HR 0.68 (95% CI 0.54-0.86、P=.001)、PCB+noHBP群 vs PC群の補正OS HR 0.84 (95% CI 0.71-0.98、P=.03)。HBPをtime-varying covariateとして全治療期間モデル化すると、PCB+HBP vs PC群の補正OS HRはさらに低下し0.60 (95% CI 0.43-0.81、P=.001)、PCB+noHBP vs PC群はHR 0.86 (95% CI 0.74-1.00、P=.05) と、bevacizumabの恩恵がHBP発症患者で約2倍に集中していることが明確化した。
主要知見—PFS改善 (Fig 2):Landmark PFS解析では、PCB+HBP群 mPFS 7.0ヶ月 (95% CI 5.6-8.6) vs PCB+noHBP群 mPFS 5.5ヶ月 (95% CI 5.1-6.1) vs PC群 mPFS 3.6/4.2ヶ月 (HBP有無で類似) で、4群log-rank P<.0001。多変量Cox modelでPCB+HBP vs PC群の補正PFS HR 0.63 (95% CI 0.50-0.78、P<.0001)、PCB+noHBP vs PC群はHR 0.67 (95% CI 0.57-0.79、P<.0001)。time-varying共変量モデルではPCB+HBP vs PC群 HR 0.54 (95% CI 0.41-0.73、P<.0001)、PCB+noHBP vs PC群 HR 0.72 (95% CI 0.62-0.84、P<.001)。bevacizumabのPFS利益はHBP発症で約1.5倍に増幅された。
PCB群内比較 (likelihood ratio test):PCB群のみでHBPあり vs HBPなしの予後を比較する多変量Cox modelでは、HBP指標を加えるとnested modelに対するlikelihood ratio testがOS・PFSともP<.001で有意となり、HBP発症はPCB群内でも独立した予後改善因子であることを確認。ただしformal treatment×BP interaction testは検出力不足で有意に至らなかった (HBP発症が真に予測的なバイオマーカーであるかは別途検証要)。HBP閾値を>140/90 mmHgに変更した感度解析でも結果は一致。
HBP有害事象解析—6.2%の累積発生率と早期発症 (Fig 3):PCB群417例中34例がhypertension有害事象として報告され、1例は治療終了3ヶ月以降のため除外、33例で解析。Grade 3が30例 (90.9%)、Grade 2が2例、Grade 4 (hypertensive crisis) 1例。PC群は3例のみで頑健解析不可。Hypertension発症の中央時間は1.94ヶ月 (range 0.36-19.38)、6ヶ月累積発生率6.2% (95% CI 3.9-8.6%)、18ヶ月で7.2% (95% CI 4.7-9.7%) と、bevacizumab開始後早期に発症する特徴を持つ。有害事象データを用いたLandmark解析 (起点1.94ヶ月) ではmOS 14.0ヶ月 (PCB+HBP) vs 11.3ヶ月 (PCB+noHBP)、mPFS 8.0ヶ月 vs 4.5ヶ月の傾向が確認されたが、補正Coxモデルでは多変量補正後にOS有意性が消失 (HR 0.64、P=.03がadjusted modelで非有意)、PFSは単変量で非有意 (HR 0.83、P=.32) と、有害事象報告のunder-reportingにより検出力が低下していることが示唆された。
考察/結論
本相関解析は、ECOG 4599試験 (n=850) のデータを用いた厳密なLandmark解析と時間依存性共変量Cox回帰により、bevacizumab+carboplatin+paclitaxel (PCB) 治療中のhigh blood pressure (HBP) 発症が、OS HR 0.60 (P=.001) ・PFS HR 0.54 (P<.0001) と対照PC群を上回る顕著な予後改善と関連することを実証した。HBP発症PCB群のmOS 15.9ヶ月はHBP非発症PCB群 (11.5ヶ月) ・PC対照群 (10.3ヶ月) を約5ヶ月上回り、bevacizumabの恩恵がHBP発症集団に集中することが明確化された。VEGFantagonism→NO産生減少→血管収縮→腎Na排泄低下というメカニズムがHBP発症の生物学的基盤であり、HBPはVEGFの効果的な阻害を反映する in vivoバイオマーカーとして機能すると解釈される。
これまでの研究 (ECOG 2100、Schneider 2008、Bono 2009等) との違いとして、これらの先行研究はsmall-sampleまたは単一サイクル評価で、time-to-event biasを除去した解析がなかった (これとは異なる本研究の厳密な方法論)。Anderson 1983ら一連の方法論研究 (これまでの研究) は、time-to-eventを治療outcome変数で分類するbaseline解析は分類のためには患者が観察まで生存する必要があるため本質的にバイアスがかかると警告しており、本研究はLandmark解析とtime-varying共変量Coxを用いて初めてこのバイアスを除去した点が新規な貢献である。本研究で初めてNSCLC患者集団でHBPを時間依存共変量としてモデル化したことで、bevacizumab有効性予測の方法論的標準が確立された。一方、有害事象法による解析は補正後に有意性が消失し、Grade 1-2 HBPのunder-reporting (ECOG 4599プロトコルでGrade 1-2 HBPは報告必須でなかった) が予測力を希釈することを示している。
臨床応用として、(1) PCB治療中はサイクル前BP測定を実施し、HBP発症を効果のサロゲートとして治療継続判断に活用、(2) bevacizumab dose titration (HBPが出るまで増量) の合理性が支持される (Reck 2009、Zhu 2007)、(3) WNK1多型 (Frey 2008) などのhypertension感受性遺伝子マーカーとの併用で予測精度向上の可能性、(4) HBP発症はbevacizumab減量理由とはならず、ACE阻害薬・Ca拮抗薬で適切に降圧管理しつつ治療継続すべき、というbench-to-bedsideの臨床的意義が示された。
残された課題とlimitationとして、(1) 共病・併用薬・降圧薬の前向き収集が欠如し、retrospective解析の限界を持つ、(2) treatment×BP interaction testが検出力不足で formal predictive marker としての証明には至らず、prospective validation studyが必須、(3) HBP累積発生率6.2%と低く治療開始前の予測バイオマーカーとしては機能できず、treatment-emergent biomarkerに留まる、(4) WNK1多型などgenetic predisposition解析が並行ECOG 4599 correlativeで別途実施中で本解析には含まれていない、(5) ICI併用時代 (atezolizumab+bevacizumab+chemo等のIMpower150-like regimen) におけるHBP-効果相関の再評価、(6) brain metastases患者・squamous NSCLC・PD-L1高発現例での外挿可能性、が今後の検討課題である。今後の研究としては、bevacizumab dose titrationによるHBP誘発戦略のprospective trial、HBP予測遺伝子多型 (WNK1等) の併用、ICI併用regimenでのHBP意義再検証が必要である (Sandler et al. NEnglJMed 2006、Reck et al. JClinOncol 2009)。
方法
親試験: ECOG 4599はランダム化Phase 3試験 (n=878登録、eligible n=850) で、進行非扁平上皮NSCLC (Stage IIIB胸水・心嚢水合併または Stage IV/再発、ECOG PS 0-1) をcarboplatin (AUC 6, Day 1) + paclitaxel (200 mg/m², Day 1) ±bevacizumab (15 mg/kg, Day 1) のq3週投与に1:1ランダム化、PCB群は6サイクル後にSD以上ならbevacizumab維持療法継続。除外: 扁平上皮優位組織型、脳転移既往、肉眼的喀血、創傷治癒障害、出血/血栓イベント既往、未制御高血圧 (>150/100 mmHg)。
HBP相関解析対象: median follow-up 55.2ヶ月時点で741/850例 (PCB 370、PC 371) が一次解析対象 (106例はサイクル1終了時BP測定欠落、3例は早期死亡で除外)。
HBP定義 (2方法で並行解析):
- 一次解析 (BPデータ法): 全治療サイクルの前に外来で測定したBPデータを使用。「サイクル1終了時HBP」= ベースラインまたはサイクル1終了時のBP>150/100 mmHg、または拡張期BPがベースラインから20 mmHg超上昇。time-varying covariateとしても全治療期間を通じてHBPをモデル化。
- 二次解析 (有害事象法): PCB群のhypertension toxicity報告 (Grade問わず) を集計、発症日が不明確な場合は日付範囲の中点を採用、複数報告では最初のイベントのみ使用 (n=33解析対象、Grade 3が30例/91%、Grade 2が2例、Grade 4 [hypertensive crisis] 1例)。
統計手法: ベースライン特性比較はFisher正確検定。Landmark解析 (サイクル1終了またはhypertension発症中央値1.94ヶ月を起点) でKaplan-Meier生存曲線をlog-rank検定で比較。多変量Cox proportional hazards modelで補正変数 (PS、組織型 [adenocarcinoma]、性別、体重減少≥5%、肝/骨/副腎転移、年齢≥65歳) を投入。累積発生率関数 (cumulative incidence) は死亡を競合リスクとしKalbfleisch-Prentice法で構築。HBP閾値感受性は>140/90 mmHgでも再解析して頑健性を確認。多重比較補正なし、CI 95%、両側P値。