- 著者: Langer CJ, Novello S, Park K, Krzakowski M, Karp DD, Mok T, Benner RJ, Scranton JR, Olszanski AJ, Jassem J
- Corresponding author: Corey J. Langer (University of Pennsylvania, Philadelphia, PA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-12-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 24888810
背景
インスリン様増殖因子1受容体 (IGF-1R) シグナル経路は、腫瘍細胞の増殖、生存、および治療抵抗性に関与することが知られている (Pollak 2008)。Figitumumab (CP-751,871) は、このIGF-1Rを標的とする完全ヒト型IgG2モノクローナル抗体である。前臨床モデルでは、figitumumabが細胞株および異種移植モデルにおいて抗腫瘍効果を示すことが報告されていた。非小細胞肺癌 (NSCLC) において、IGF-1Rの発現は39%から84%の進行NSCLCで検出され、特に扁平上皮癌で高頻度であることが示唆されていた (Fidler et al. 2012)。
先行する単アーム第II相試験 (Karp et al. 2009) では、扁平上皮癌NSCLC患者においてfigitumumabとパクリタキセル/カルボプラチン併用療法が有望な奏効率 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS) の延長傾向を示し、特に血清IGF-1高値患者でのORR向上が報告された。これらの結果に基づき、進行非腺癌NSCLC (扁平上皮癌、大細胞癌、腺扁平上皮癌) を対象とした第III相試験が計画された。しかし、この第II相試験のデータは後に再解析によりORRが下方修正され、PFSの優位性も消失したため撤回された (Karp et al. 2012)。このような背景から、IGF-1R阻害薬の臨床的有効性には依然として未解明な点が残されており、ランダム化第III相試験による検証が強く求められていた。特に、特定の患者集団における有効性と安全性のバランスに関する情報が不足していた。
目的
進行非腺癌NSCLCの一次治療において、インスリン様増殖因子1受容体 (IGF-1R) 阻害薬であるfigitumumab (20 mg/kg) と標準化学療法 (パクリタキセル/カルボプラチン) の併用療法が、化学療法単独と比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価すること。副次的に、無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (ORR)、安全性、および血清IGF-1レベルと治療効果の関連性を評価することも目的とした。
結果
試験の早期中止と患者背景: 2008年4月から2009年9月にかけて、25カ国163施設から681例の患者がランダムに割り付けられ、671例が治療を受けた (figitumumab群 n=338、対照群 n=333)。患者の年齢中央値は62歳であり、男性が76-77%、ステージIV疾患が88%を占めた。組織型は扁平上皮癌が85-86%と大多数であった (Table 1)。2009年9月、独立データ安全性モニタリング委員会 (DSMC) の勧告により、figitumumab群における重篤な有害事象 (SAE) および死亡例の増加が認められたため、患者登録が一時停止された。その後、同年12月に実施された最初の中間解析において、figitumumabの追加が主要評価項目であるOSの改善を達成する可能性が低いと判断されたため、試験は無益性により早期中止された。最終解析は2011年3月まで追跡され、全体の中央追跡期間は23.1ヶ月であった (Table 3)。
全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS): 最終解析において、figitumumab併用群のOS中央値は8.6ヶ月 (95% CI, 7.4-9.3) であり、対照群の9.8ヶ月 (95% CI, 8.6-10.9) と比較して統計的に有意な改善は認められなかった (HR 1.18; 95% CI, 0.99-1.40; P = .06)。1年生存率はfigitumumab群で34%、対照群で39%であった (Table 3, Fig 2A)。OSのハザード比 (HR) は1.18であり、95%信頼区間 (CI) は0.99-1.40であった (P = .06)。サブグループ解析では、性別、ECOG PS、組織型 (扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)、喫煙歴、病期などのベースライン特性に関わらず、figitumumabのOSに対する効果に一貫した差は認められなかった (Fig 3)。PFS中央値は、figitumumab併用群で4.7ヶ月 (95% CI, 4.2-5.4)、対照群で4.6ヶ月 (95% CI, 4.2-5.4) であり、有意な差は認められなかった (HR 1.10; 95% CI, 0.93-1.32; P = .27)。客観的奏効率 (ORR) は、figitumumab群で33% (95% CI, 28-38)、対照群で35% (95% CI, 29-40) であり、両群間に有意差はなかった (Table 3)。
安全性プロファイル: Grade 3/4の有害事象は、figitumumab群で66% (n=226)、対照群で51% (n=173) と、figitumumab群で有意に高頻度であった (P < .01)。特に高血糖 (figitumumab群12% vs 対照群1%)、食欲不振、脱水、疲労、悪心などがfigitumumab群でより多く報告された (Table 4)。治療関連のGrade 5有害事象 (治療関連死) は、figitumumab群で5% (17例)、対照群で1% (3例) と、figitumumab群で有意に高率であった (P < .01)。figitumumab群で報告された主なGrade 5有害事象には、肺出血、肺炎、敗血症性ショック、心肺停止などが含まれた (Appendix Table A2)。これらの重篤な有害事象の増加が試験の早期中止の主要な理由の一つであった。
バイオマーカー解析とOSへの影響: ベースライン血清IGF-1レベルに基づく探索的サブグループ解析では、IGF-1レベルが120 ng/mL未満の患者において、figitumumab群のOS中央値が7.0ヶ月と、対照群の10.1ヶ月と比較して有意に短縮した (HR 1.37; P = .01)。このサブグループにおけるOSのハザード比は1.37であり、P値は0.01であった。一方、IGF-1レベルが120 ng/mL以上の患者では、両群間でOSに差は認められなかった (HR 0.93; P = .67)。また、IGF-1レベルが低い患者群では、figitumumab群でGrade 5有害事象の発生率が56%と、IGF-1レベルが高い患者群 (38%) や対照群 (37%) と比較して高かった (Appendix Fig A1)。これは、低IGF-1レベルの患者においてfigitumumabの安全性プロファイルが特に不良であることを示唆する。ベースラインHbA1cレベルは、治療効果の強力なバイオマーカーではなかったものの、HbA1cが5.7%以上の患者では、figitumumab群のOS中央値が8.2ヶ月、対照群が9.7ヶ月であり、HR 1.26 (P = .05) であった。
考察/結論
本第III相試験は、進行非腺癌NSCLCの一次治療において、IGF-1R阻害薬figitumumabと標準化学療法の併用が、化学療法単独と比較してOSを改善しないことを示した。さらに、figitumumab併用群では重篤な有害事象および治療関連死の発生率が有意に増加したため、試験は早期中止された。この結果は、IGF-1R阻害という治療コンセプトが、NSCLCにおいて期待された臨床的有効性を示さなかったことを明確に示している。
先行研究との違い: 本研究の結果は、以前報告された第II相試験の初期データ (Karp et al. 2009) とは対照的であり、その後の再解析による第II相データの撤回 (Karp et al. 2012) の妥当性を裏付けるものであった。第II相試験で示唆された有効性のシグナルは、ランダム化された大規模な第III相試験では確認されず、むしろ有害事象の増加という予期せぬ結果となった。
新規性: 本研究で初めて、ベースライン血清IGF-1レベルが低い患者群において、IGF-1R阻害薬であるfigitumumabの安全性プロファイルが特に不良であり、OSの短縮と関連することが示唆された。これは、低IGF-1レベルがIGF-1R阻害薬に対する有害事象のバイオマーカーとなる可能性を新規に提示するものである。
臨床応用: 本試験の失敗は、分子標的薬開発における患者選択バイオマーカーの事前検証の重要性を強調する。IGF-1Rシグナルは腫瘍増殖に重要であると考えられていたが、単独阻害では十分な臨床的意義が得られない可能性が示された。この結果は、figitumumabの今後の臨床応用を断念させるものであり、他のIGF-1R抗体(例: ガニツマブ)の第III相試験での失敗とも一致する。
残された課題: 本試験の限界として、第II相試験と第III相試験の患者背景の差異が挙げられる。第III相試験では扁平上皮癌患者が大多数を占め、喫煙歴のある患者も多く、併存疾患が多い可能性があり、これが毒性の増加に寄与した可能性がある。また、IGF-1Rシグナル経路がホメオスタシス維持に果たす役割が大きく、その阻害がインスリン受容体/IGF-1R/成長ホルモンシグナル軸を大きく乱す可能性も指摘された。今後の検討課題として、特定の患者集団におけるIGF-1R阻害の役割や、他の経路との併用療法の可能性をさらに探る必要がある。
方法
本研究は、多施設国際二重盲検ランダム化第III相試験 (TRIO-F試験、NCT00596830) として実施された。適格患者は、組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIB/IVまたは再発NSCLC(非腺癌組織型)、ECOGパフォーマンスステータス0-1、および一次治療未施行の患者であった。患者は1:1の割合で、figitumumab (20 mg/kg、3週ごと) +パクリタキセル (200 mg/m²) /カルボプラチン (AUC 6) 併用群、またはパクリタキセル/カルボプラチン単独群にランダムに割り付けられた。化学療法は最大6サイクルまで実施され、figitumumab群の患者は化学療法完了後もfigitumumab単剤での維持療法を最大17サイクル (約1年間) まで継続することが可能であった。
主要評価項目はOSであり、全死因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目はPFS、ORR、安全性、およびQOLであった。統計学的検出力は、figitumumab群でOS中央値が対照群と比較して25%改善 (ハザード比 [HR] 0.80) することを検出するために、片側有意水準0.025、検出力90%で820例の患者が必要と算出された。2回の事前規定された中間解析が計画され、O’Brien-Fleming停止基準を用いたLan-DeMets spending functionアプローチにより、有効性および無益性の境界が設定された。主要評価項目であるOSの解析には、層別化ログランク検定 (log-rank test) が用いられ、ハザード比は層別化Cox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) により推定された。腫瘍評価はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.0 (Therasse et al. 2000) に基づき、ベースライン時およびその後6週ごとに実施された。有害事象はNCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 3.0を用いて評価された。血清IGF-1レベルは、ベースライン時、サイクル1および4、治療終了時に測定され、探索的バイオマーカー解析に用いられた。