- 著者: Lee JB, Baek S, Kim DK, Kwon BE, Ahn JS, Nagasaka M, Davar D, Park H, Kim H, Im J, Yang J, Yang E, Shin GH, Choi S, Kwon JE, Kim JM, Kang SY, Kim Y, Park SY, Kim JH, Oh HS, Chalita M, Min A, Cho BC
- Corresponding author: Byoung Chul Cho (Yonsei Cancer Center, Severance Hospital, Seoul, Korea); Arim Min (CJ Bioscience, Seoul, Korea)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-02-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 42140743
背景
ICI (immune checkpoint inhibitor、免疫チェックポイント阻害薬) は進行固形腫瘍の治療において中心的役割を担うが、NSCLC・頭頸部扁平上皮癌・黒色腫を含む多くの患者で病勢進行が発生し、奏効維持の壁は依然として高い。腸内細菌叢のdysbiosis (腸内フローラ異常) が免疫療法耐性を促進することが複数の観察研究で示されており、腸内細菌叢の操作がICI効果を改善しうる可能性として注目されている (Davar et al. 2021)。糞便微生物移植 (FMT) がICI難治性黒色腫患者の一部でPD-1阻害薬との組み合わせにより臨床効果を示したことが報告されているが、実施の煩雑さと再現性の問題から臨床応用には課題が残る (腸内細菌叢と癌免疫)。
LBP (live biotherapeutic product; 生菌治療薬) は特定の有益菌株を規定の用量で投与する経口製剤として、FMTよりも実用的なアプローチとして開発が進んでいる。CJRB-101はLeuconostoc mesenteroides (L. mesenteroides) の新規菌株からなるLBPであり、キムチ等の発酵食品に由来するグラム陽性・通性嫌気性・非芽胞形成の乳酸産生球菌である。先行前臨床研究ではCJRB-101がM2型マクロファージをCXCL9/CXCL10二重発現M1型へ再分極することでpembrolizumabとの相乗的抗腫瘍活性を示し (Min et al. 2023)、ICI-naiveおよびICI難治性設定での予備的有効性が示唆されていた (Lee et al. 2025)。しかし最適用量・安全性プロファイル・臨床有効性を体系的に評価したヒト初回投与試験データは未確立であり、腸内細菌叢モジュレーションと抗腫瘍免疫応答を結ぶ臨床的メカニズムも不足していた (免疫療法一次耐性)。
目的
CJRB-101 + pembrolizumab併用の安全性・忍容性・予備的有効性を、進行NSCLC・頭頸部扁平上皮癌・黒色腫患者におけるICI-naiveおよびICI難治性設定で第I相ヒト初回投与試験として評価し、腸内細菌叢変化と薬力学的応答を探索的に検討する。
結果
前臨床: 腫瘍増殖抑制と免疫細胞依存性の確認:
ヒト化PDXモデル (YHIM-2003/2004/2009/2014) を用いた検討では、高用量CJRB-101単剤群でTGI (tumor growth inhibition; 腫瘍増殖抑制) >50%を達成したマウスが77.3%に達し、CJRB-101+pembrolizumab併用群でも61.9%と良好な奏効を示した。一方、pembrolizumab単剤群でのTGI >50%達成率は23.8%にとどまり、CJRB-101追加による抗腫瘍効果の顕著な増強が確認された (Figure 1D)。C3PQ syngeneicモデルを用いた免疫細胞除去試験では、CD8+ T細胞・好中球・マクロファージのいずれを除去しても抗腫瘍効果および生存率が著しく低下し (Figure 1B/C)、CJRB-101の抗腫瘍活性が複数の免疫細胞集団を必要とする免疫介在性機序によることが示された。さらに、免疫不全NOGマウスでは抗腫瘍効果が消失したが、ヒト化NSGマウスでは効果が保持されたことで、活性が免疫システム依存性であることが確認された。
機序: M2→M1マクロファージ再分極とTLR4 (toll-like receptor 4) 依存的細胞膜分画活性:
YHIM-2004 PDXモデルのscRNA-seq解析では、CJRB-101投与によりmyeloidコンパートメントにおいてM2→M1マクロファージへの転換が経時的に進行する分化軌跡が示され、CXCL9・CXCL10の発現がpseudotimeに沿って増加した (Figure 2A/B)。フローサイトメトリー解析でも併用群においてM1/M2マクロファージ比が有意に増加し (Figure 2D)、多重IHCでM1マクロファージの腫瘍内浸潤増加が確認された (Figure 2E)。BMDM (bone marrow-derived macrophage; 骨髄由来マクロファージ) 再分極アッセイでは、CJRB-101処置によりM1マーカー (MHC-II等) が上昇し、M2マーカーCD206が低下した (Figure 2F)。さらに細胞分画解析でCM (cell membrane; 細胞膜) 分画が活性本体であることが同定され、TLR4阻害薬の添加によりCJRB-101 CM誘導性のM2→M1再分極が減弱したことでTLR4依存的機序が確立された。T/NKコンパートメントでは、CJRB-101+pembrolizumab併用群でTcm (central memory T cell; 中央記憶T細胞)・NKクラスターが増加し、細胞傷害性分子群 (granzyme B/perforin等) および活性化受容体の発現上昇とIL-2分泌増加によるT細胞活性化の強化が示された (Figure 3C-G)。
安全性: DLTなし・高い忍容性:
データカットオフ (2025年10月27日) 時点で42例が登録 (NSCLC 86%、n=36 patients、中央年齢67歳)。ICI難治性患者が67% (n=28 patients) を占め、そのうち64% (n=18 patients) が2次治療として受けた。全患者においてDLTは発生せず (低用量・高用量ともに0/42)。全グレードTRAE: AST上昇 n=4 (9.5%)・ALT上昇 n=4 (9.5%)・下痢 n=3 (7%)、いずれもGrade 1-2。Grade ≥3 TRAEは1例も発生しなかった。CJRB-101またはpembrolizumabの減量・中断・投与中止は認められず、経口カプセル製剤としての安全性と利便性が確認された。
臨床有効性: ICI-naive NSCLC (PD-L1 >50%)での高奏効:
画像評価可能な39例 (ICI-naive n=13 patients、ICI難治性 n=26 patients) を解析した。ICI-naive NSCLC (n=12 patients) においてORR 58% vs ICI難治性NSCLC 5%、DCR (disease control rate; 病勢制御率) は75% vs 41%の差が認められた (Figure 4A/B)。中央FU 15.6ヵ月 (95%CI 11.1NR) での中央PFSは9ヵ月 (95%CI 5.6NR) に達した。これはKEYNOTE-024試験でのpembrolizumab単剤ORR 44.8%を数値的に上回る。ICI難治性NSCLC (n=22 patients) ではORR 5%、DCR 41%、中央PFS 1.8ヵ月 (95%CI 1.6~4.3)、中央FU 8.9ヵ月と有効性は限定的であった。ICI難治性頭頸部扁平上皮癌コホート (n=2) および黒色腫 (n=2) では全例が2サイクル後に病勢進行を経験した。
腸内細菌叢解析と薬力学的効果:
ICI難治性患者での検討において、CB (clinical benefit; 部分奏効または安定病態) グループは非CBグループと比較してベースライン糞便の微生物多様性が有意に低下していた (observed species p=0.025; Shannon index p=0.027) (Figure 4C)。CJRB-101投与後3週目以降にICI-naive (n=14 patients)・ICI難治性 (n=27 patients) 双方でL. mesenteroidesの相対存在量が増加し持続した (Figure 4D)。全体での微生物多様性は投与3週後 (observed species p=0.024; Shannon index p=0.091) および8週後 (observed species p=0.057; Shannon index p=0.0096) にベースラインから上昇した (Figure 4E)。ICI難治性患者の末梢血解析では治療中に免疫活性化遺伝子群 (ケモカイン・自然免疫受容体・T細胞関連遺伝子) の上昇が確認され、GSEA (gene set enrichment analysis; 遺伝子セット濃縮解析) でT細胞活性化・自然免疫応答・走化性経路の有意な濃縮が認められた (Figure 4F/G/H)。末梢血単核球ではPD-1+TIM-3+ T細胞が持続的に減少し、CBグループではMDSC (myeloid-derived suppressor cell; 骨髄由来免疫抑制細胞) および好中球の割合が減少した。
考察/結論
① 先行研究との違い: FMTを用いた先行研究 (Davar et al. 2021) とは異なり、本研究は特定の単菌株 (L. mesenteroides) を経口カプセルとして標準化したLBPでの初めての第I相試験であり、FMTの煩雑な実施手順や再現性の問題を回避した。ICI単剤治療であるKEYNOTE-024のpembrolizumab単剤ORR 44.8%とは対照的に、本試験のICI-naive NSCLC (PD-L1 >50%) でのORR 58%は数値的に高く、腸内細菌叢モジュレーションが免疫療法効果を増強するというこれまでの仮説を初めてランダム化試験外で臨床的に裏付けるデータを提示した。また既存のICI難治性黒色腫でのFMT知見がほぼ単一コホートにとどまるのと異なり、NSCLC・頭頸部扁平上皮癌・黒色腫を横断した多腫瘍種での安全性確認が実現した点でも相違がある (ICI獲得耐性)。
② 新規性: 本研究で初めて、食品 (キムチ) 由来のL. mesenteroidesを含むLBP (CJRB-101) とpembrolizumabの組み合わせが、ICI-naive NSCLC (PD-L1 >50%) においてORR 58%・中央PFS 9ヵ月を達成することが新規に示された。M2→M1マクロファージ再分極がCJRB-101の細胞膜 (CM) 分画によるTLR4 (toll-like receptor 4) 依存的シグナリングを介して誘導されるという詳細な機序は、腸内細菌叢由来成分による腫瘍免疫微小環境再プログラミングの新規な分子経路として、これまでにない知見を提供している (腸内細菌叢と癌免疫)。
③ 臨床応用: CJRB-101は食品由来で安全プロファイルが良好であり、Grade ≥3 TRAEおよびDLTが0例という高い忍容性が確認された。経口カプセルとしての利便性はFMTに比較して臨床現場での実施を大幅に簡略化できる。PD-L1 >50%でドライバー変異陰性のICI-naive進行NSCLCに対するpembrolizumab+CJRB-101の組み合わせは、標準治療への追加選択肢として第III相試験での検討が期待される臨床的意義を持つ。
④ 残された課題: ICI難治性コホートでの有効性は限定的 (NSCLC ORR 5%) であり、腸内細菌叢組成に影響する食事・抗菌薬・民族差を考慮した患者選択バイオマーカーの確立が今後の検討課題として残されている。頭頸部扁平上皮癌・黒色腫での有効性評価にはさらなる症例集積が必要であり、腸内細菌叢多様性の増加がICI効果と直接連動するかの因果関係の解明および無作為化比較試験によるOS改善の証明も今後の研究方向性に含まれる。
方法
NCT05877430; 多施設・非盲検・2パート・第I相試験 (韓国・米国施設)。対象: 組織学的または細胞学的に確認されたstage IV NSCLC (EGFR/ALK陰性)、頭頸部扁平上皮癌、黒色腫のICI-naiveまたはICI難治性患者。ICI-naiveコホートのPD-L1 (programmed death-ligand 1) 要件: NSCLC TPS (tumor proportion score) >50%・頭頸部扁平上皮癌 CPS (combined positive score) >20。ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-1。
治療: 投与量はCFU (colony-forming unit) で規定し、CJRB-101低用量 (LD; 1×10^11 CFU/日、1カプセル/日) またはCJRB-101高用量 (high-dose; 4×10^11 CFU/日、2カプセル2回/日) + pembrolizumab 200mg静注 3週ごと。Part 1 (n=12): 低用量 n=6→高用量 n=6の段階的投与; Part 2 (n=30): 高用量探索期。主要エンドポイント: DLT (dose-limiting toxicity; 用量制限毒性)・AE (adverse event; 有害事象)。副次エンドポイント: ORR, DCR, DoR, PFS。Kaplan-Meier法でPFSを推定し、微生物多様性の群間比較はWilcoxon検定で実施した。探索的エンドポイント: 糞便メタゲノム解析・薬力学的バイオマーカー。
前臨床: C3PQ (murine lung carcinoma syngeneic cell line) を用いたBALB/c syngeneicモデルおよびヒト化NSGマウスを用いたPDX (patient-derived xenograft; 患者由来腫瘍移植) モデル (YHIM-2003/2004/2009/2014)。scRNA-seq (single-cell RNA sequencing; 単一細胞RNAシーケンス) : 10x Genomics Chromiumプラットフォーム、Cell Ranger/Seurat解析。多重IHC (immunohistochemistry; 免疫組織化学) : 多重蛍光染色システム + Opal Polaris 7色試薬。フローサイトメトリー解析はFlowJo v10で実施した。腸内細菌叢: ショットガンシーケンス + 16S rRNA遺伝子V3-V4 (variable regions of 16S rRNA) アンプリコンシーケンス (MiSeq)、QIIME2 (quantitative insights into microbial ecology) v2022.11、EzBioCloudデータベース。