• 著者: Leighl NB
  • Corresponding author: Natasha B. Leighl, MD, MMSc, FRCPC, FASCO (Princess Margaret Cancer Centre, Toronto, Ontario, Canada)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-11-18
  • Article種別: Commentary / Editorial
  • PMID: 33494924

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) の治療において、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) は一次治療として標準化されつつある。しかし、PD-L1腫瘍細胞比率 (TPS) が50%以上の患者においても約55%が持続的な奏効を得られず、PD-L1低発現例では大多数が初期耐性を示すことが大きな課題となっている。このICB耐性の克服は、肺がん治療における主要な臨床課題であり、そのメカニズムの解明と新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。これまでの研究により、PD-1阻害薬に対する耐性メカニズムは多岐にわたることが示唆されている。腫瘍浸潤T細胞が腫瘍抗原を認識し、免疫抑制的ではない微小環境で機能できること、また腫瘍細胞がPD-1を介した免疫回避に依存し、抗原提示機構が正常であることが奏効に不可欠である。T細胞が腫瘍に浸潤しない「免疫砂漠」型や、T細胞が腫瘍周辺に留まる「免疫排除」型といった腫瘍表現型も報告されている Teng et al. CancerRes 2015。さらに、T細胞が腫瘍抗原を認識できない、あるいは機能が障害されるメカニズムとして、腫瘍微小環境における骨髄由来抑制細胞やM2マクロファージなどの免疫抑制細胞の存在、代謝的影響、低酸素状態、遺伝的・エピジェネティックな要因、マイクロバイオーム、そしてTIM-3などの代替チェックポイントを介したシグナル伝達が挙げられる Chen et al. Nature 2017

獲得耐性のメカニズムとしては、主要組織適合性複合体クラスI (MHC-I) やβ2ミクログロブリンの喪失、インターフェロン (IFN) シグナル伝達の異常 (IFN-γ受容体、JAK1/2変異) など、抗原提示機構の障害が認識されている Zaretsky et al. NEnglJMed 2016Gettinger et al. CancerDiscov 2017。これらの複雑な耐性メカニズムを克服するため、サイトカイン、ワクチン、腫瘍の免疫抑制微小環境の標的化、新規T細胞療法など、様々な免疫ベースのアプローチが開発されている。また、PD-1やCTLA-4以外の免疫チェックポイント、例えばTIGIT、LAG-3、TIM-3、さらにはOX-40、4-1BB、GITRのアゴニストを標的とする研究も進行中である Koyama et al. NatCommun 2016

Pegilodecakin (pegylated IL-10) は、インターロイキン-10 (IL-10) の組換えペグ化製剤であり、前臨床および臨床研究において半減期の延長と抗腫瘍活性の増強が報告されている。IL-10は、炎症を抑制する一方で、STAT-1およびSTAT-3シグナル伝達を介してCD8陽性T細胞の増殖と細胞傷害性を促進し、IFN-γを介した抗原提示を誘導し、腫瘍特異的記憶T細胞の産生を促進するなど、一見矛盾する多様な機能を持つ。Pegilodecakinは、IL-2のような生物学的製剤とは異なり、サイトカイン放出症候群のリスクが最小限であり、忍容性が良好であるとされている。以前のPhase 1b試験では、進行NSCLC患者28例中12例 (43%) で、pembrolizumabまたはnivolumabとの併用により奏効が報告された。特にPD-L1 TPSが50%以上の患者では6例中5例 (83%)、PD-L1 TPSが1%未満の患者でも12例中4例 (33%) が奏効したと報告され、この有望な結果がCYPRESS-1およびCYPRESS-2試験の実施につながった。しかし、この初期の有望な結果が大規模な無作為化試験で再現されるかについては、依然として未解明な点が残されており、適切なバイオマーカーの不足が課題となっている。

目的

本コメンタリーの目的は、CYPRESS-1およびCYPRESS-2試験の結果を評価し、進行NSCLC患者におけるIL-10アゴニストであるpegilodecakinの抗PD-1抗体への追加が、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 耐性克服に有効であるか否かを論じることである。具体的には、PD-L1発現レベル別に層別化された患者群において、pegilodecakin併用療法の全奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) の改善効果を検証する。さらに、これらの結果が、肺がんにおけるICB耐性克服戦略の現状と、今後の治療開発におけるバイオマーカー探索の重要性にどのような示唆を与えるかを考察する。CYPRESS-1試験はPD-L1 TPSが50%以上の治療歴のない進行NSCLC患者を対象にpegilodecakinとpembrolizumabの併用療法をpembrolizumab単剤療法と比較し、CYPRESS-2試験はPD-L1 TPSが50%未満のチェックポイント阻害薬未治療の進行NSCLC患者を対象にpegilodecakinとnivolumabの併用療法をnivolumab単剤療法と比較した。これらの試験結果を通じて、IL-10を介した免疫活性化がICB耐性克服に寄与するという仮説の臨床的妥当性を評価し、今後の免疫療法開発の方向性について議論することを目的とする。

結果

CYPRESS-1試験 (PD-L1 TPS≥50%、治療歴なし、n=101): CYPRESS-1試験では、PD-L1 TPSが50%以上の治療歴のない進行NSCLC患者101例が登録された。主要評価項目である全奏効率 (ORR) は、pegilodecakinとpembrolizumabの併用群で47%、pembrolizumab単剤群で44%であり、両群間に有意な差は認められなかった。盲検下独立中央画像診断評価 (BICR) によるORRは、併用群で53%、単剤群で46%と報告されたが、これも統計的に有意な差ではなかった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は両群ともに約6.2ヶ月であり、改善は見られなかった。全生存期間 (OS) に関しては、併用群でむしろ数値的に不良な傾向が示され、ハザード比 (HR) は1.35 (95% CI: 0.7-3.2) であった。これらの結果は、PD-L1高発現患者においてpegilodecakinの追加が有効性をもたらさないことを明確に示した。

CYPRESS-2試験 (PD-L1 TPS<50%、チェックポイント阻害薬未治療、n=52): CYPRESS-2試験では、PD-L1 TPSが50%未満のチェックポイント阻害薬未治療の進行NSCLC患者52例が登録された。このコホートでは、患者の60%がPD-L1 TPS 1%未満であった。主要評価項目であるORRは、pegilodecakinとnivolumabの併用群で15%、nivolumab単剤群で12%であり、CYPRESS-1と同様に両群間に有意な差は認められなかった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は両群ともに約1.9ヶ月と短く、改善は見られなかった。全生存期間 (OS) のハザード比 (HR) は1.39 (95% CI: 0.6-3.1) であり、ここでもpegilodecakin追加による有効性は示されなかった。これらの結果は、PD-L1低発現患者においてもpegilodecakinの追加が臨床的利益をもたらさないことを示唆している。

Phase 1b試験との乖離と安全性プロファイル: CYPRESS-1およびCYPRESS-2試験の結果は、以前のPhase 1b試験で報告された有望な奏効率と大きく乖離した。Phase 1b試験では、NSCLC患者28例中12例 (43%) が奏効し、特にPD-L1 TPSが50%以上の患者では83%、PD-L1 TPSが1%未満の患者でも33%の奏効率が報告されていた。このギャップは、早期の単腕試験における過大評価と、適切な対照群による無作為化検証の重要性を示唆する。安全性プロファイルに関しては、pegilodecakinの追加により貧血、倦怠感、血小板減少症などの既知の有害事象が増加した。しかし、免疫関連有害事象の発生率の増加は認められなかった。興味深いことに、pegilodecakin投与患者の末梢血中ではIFN-γ、IL-18、FasL、グランザイムBレベルの増加とTGF-βレベルの減少が観察され、薬力学的活性の証拠は示されたものの、これが臨床的アウトカムの改善には繋がらなかった。両試験において、CD8陽性T細胞密度が高いほど、奏効率、PFS、OSが高いことが示されたが、これは他の研究でも報告されている一般的な所見である (Figure 1)。

他の免疫チェックポイント阻害薬耐性克服戦略の進展: 本コメンタリーでは、pegilodecakinの失敗にもかかわらず、他の免疫チェックポイント阻害薬耐性克服戦略が活発に検討されている現状も論じている。特に、TIGITを標的とする抗TIGIT抗体tiragolumabとatezolizumabの併用療法に関するCITYSCAPE試験では、PD-L1高発現NSCLC患者において、併用群のORRが37%であったのに対し、atezolizumab単独群では21%であり、PD-L1高発現サブグループでは併用群のORRが55%に対し単独群18%と、有望な結果が報告された。また、LAG-3を標的とするrelatimabとnivolumabの併用療法に関するRELATIVITY-047試験では、メラノーマ患者において併用群の無増悪生存期間中央値が10.1ヶ月であったのに対し、nivolumab単独群では4.6ヶ月と、有意な改善が示された。これらの結果は、PD-1/PD-L1経路以外の免疫チェックポイントを標的とすることの可能性を示唆している。さらに、TIM-3、IDO1、腫瘍微小環境における骨髄系抑制細胞など、多様な免疫抑制機構を標的とする戦略や、血管内皮増殖因子 (VEGF) 阻害薬、エピジェネティック修飾薬との併用療法も進行中である。

考察/結論

CYPRESS試験におけるpegilodecakinの失敗は、IL-10を介した免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 耐性克服の仮説が、進行NSCLC患者において臨床的に成立しないことを示した。Phase 1b試験で示された高い奏効率が、無作為化Phase 2/3試験で再現されなかったことは、早期の小規模単腕試験における選択バイアスや対照群の不在が、いかに誤った期待を生み出すかを示す教訓的な事例である。この結果は、新規免疫調節薬の開発において、早期の有望なシグナルを大規模な無作為化試験で慎重に検証することの重要性を強調している。

先行研究との違い: 本研究で評価されたpegilodecakinは、前臨床およびPhase 1b試験においてCD8陽性T細胞の活性化と増殖を促進し、腫瘍免疫記憶を誘導する重要なメディエーターとして期待された。しかし、CYPRESS試験の結果は、これらの有望な前臨床データや初期臨床データが、大規模な無作為化試験の臨床アウトカムに結びつかない場合があることを示した点で、これまでの免疫活性化戦略の成功例とは対照的である。特に、末梢血中での免疫活性化マーカー (IFN-γ、IL-18、FasL、グランザイムB) の増加や免疫抑制性TGF-βレベルの減少が観察されたにもかかわらず、臨床的有効性が見られなかった点は、薬力学的効果が必ずしも臨床的利益に直結しないという重要な知見を提示した。

新規性: 本研究は、IL-10アゴニストであるpegilodecakinの抗PD-1抗体への追加が、PD-L1発現レベルに関わらず進行NSCLC患者のORR、PFS、OSを改善しないことを、無作為化比較試験で初めて明確に示した。この結果は、IL-10の複雑な免疫調節機能が、必ずしも抗腫瘍免疫を強化する方向には働かない可能性、あるいはその効果が既存のPD-1阻害薬の効果を上回るほどではない可能性を示唆する。また、pegilodecakinに関連する毒性 (Grade 3/4の有害事象増加) も、併用療法の臨床的実用性を損なう要因となった。

臨床応用: CYPRESS試験の失敗は、ICB耐性克服のための組み合わせ戦略を開発する上で、適切なバイオマーカーによる患者選択の重要性を改めて浮き彫りにした。単に免疫活性化薬を追加するだけでは効果が得られず、腫瘍内の免疫抑制機構 (TIGIT、LAG-3、TIM-3、IDO1、腫瘍微小環境内の骨髄系抑制細胞など) を深く理解し、的確な標的を選択することが不可欠である。TIGITやLAG-3などの次世代免疫チェックポイントを標的とする戦略が進行中であり、これらの試験ではバイオマーカーに基づいた患者層別化や、より厳密な薬力学的評価が求められる。本知見は、今後の免疫療法の臨床応用において、より精密なアプローチが必要であることを示唆している。

残された課題: 今後の検討課題として、IL-10を標的とする治療が特定の患者サブグループで有効である可能性を排除できないため、どのような患者がIL-10療法から最も利益を得るかを予測できるバイオマーカーの探索が残されている。また、CYPRESS試験におけるpegilodecakinの用量や投与スケジュールが最適であったか、あるいは末梢血で観察された免疫変化が腫瘍微小環境内で再現されていたかについても、さらなる研究が必要である。さらに、免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性の生物学的メカニズムに関する我々の理解は依然として限定的であり、免疫遺伝子発現シグネチャー、定量的免疫蛍光法、シングルセルプロファイリングなどの新興技術を用いた、より詳細な解析が今後の研究の方向性となる。術前免疫療法開発へのシフトも、腫瘍、免疫微小環境、宿主における予測バイオマーカーとその治療による変化の理解を加速させる可能性がある。

方法

本稿は、Spigel et al. がJournal of Thoracic Oncology誌に発表したCYPRESS-1およびCYPRESS-2試験の結果を評価するコメンタリーであるため、著者自身による新規の実験方法や患者コホートの特定は実施されていない。CYPRESS-1およびCYPRESS-2試験は、進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象とした無作為化第2相シグナル探索試験であり、pegilodecakinとPD-1阻害薬の併用療法の有効性と安全性を評価した。

CYPRESS-1試験:

  • 対象患者: 治療歴のない進行NSCLC患者で、EGFRまたはALK遺伝子異常がなく、PD-L1 TPSが50%以上である患者 (n=101)。
  • 治療群:
    • 併用群: pembrolizumab + pegilodecakin
    • 単剤群: pembrolizumab単剤
  • 主要評価項目: 全奏効率 (ORR)。
  • 副次評価項目: 無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性。

CYPRESS-2試験:

  • 対象患者: チェックポイント阻害薬未治療の進行NSCLC患者で、PD-L1 TPSが50%未満であり、以前に化学療法を受けている患者 (n=52)。
  • 治療群:
    • 併用群: nivolumab + pegilodecakin
    • 単剤群: nivolumab単剤
  • 主要評価項目: 全奏効率 (ORR)。
  • 副次評価項目: PFS、OS、安全性。

評価方法:

  • 奏効評価: 治験責任医師評価および盲検下独立中央画像診断評価 (BICR) によるRECIST v1.1基準に基づく評価。
  • 統計解析: ORRは群間比較を行い、PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定し、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) を算出した。安全性は有害事象の発生率により評価された。

本コメンタリーでは、これらの試験結果を基に、pegilodecakinの臨床的意義、Phase 1b試験との結果の乖離、および今後の免疫チェックポイント阻害薬耐性克服戦略について考察している。