- 著者: Shukuya T, Yamanaka T, Seto T, Daga H, Goto K, Saka H, Sugawara S, Takahashi T, Yokota S, Kaneda H, Kawaguchi T, Nagase S, Oguri T, Iwamoto Y, Nishimura T, Hattori Y, Nakagawa K, Nakanishi Y, Yamamoto N
- Corresponding author: Nobuyuki Yamamoto, MD, PhD (Third Department of Internal Medicine, Wakayama Medical University, Wakayama, Japan)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-10-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 26522337
背景
進行扁平上皮肺癌 (sqNSCLC) は、肺癌全体の20〜30%を占める悪性腫瘍であり、診断時に半数以上が進行期である。しかし、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子変異が陽性となることは稀であり、非扁平上皮型NSCLCと比較して治療選択肢の進歩が限定的であった。非扁平上皮型NSCLCでは、ベバシズマブ、ペメトレキセド、EGFR-TKI、ALK-TKIなどの導入により、中央生存期間が14〜30ヶ月に延長しているのに対し、扁平上皮肺癌に対する一次治療としてのプラチナ製剤併用化学療法の生存期間中央値は、約10〜12ヶ月に留まっていたことがThatcher et al. LancetOncol 2015やSandler et al. NEnglJMed 2006で報告されており、治療成績の向上は喫緊の課題であった。
扁平上皮肺癌に対する標準的な一次治療は、シスプラチンまたはカルボプラチンと、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、パクリタキセル、nab-パクリタキセル、またはドセタキセルなどの第三世代細胞傷害性薬剤との併用療法である。特に、シスプラチンとドセタキセルの併用療法は、過去の第III相試験において、シスプラチンとビンデシン併用療法やシスプラチンとビノレルビン併用療法と比較して、全生存期間 (OS) の延長を示す有効な一次治療レジメンとして確立されていた。
ネダプラチンは、シスプラチンの誘導体であり、シスプラチンと同様のアミンキャリアリガンドを持つが、異なる脱離基を持つ。シスプラチンと比較して、腎毒性や消化器毒性が少ないことが特徴であり、腎保護のための輸液も不要である。第I相試験では、ネダプラチン単剤療法がNSCLC、特に扁平上皮肺癌に対して良好な腫瘍反応を示すことが報告されており、用量制限毒性 (DLT) は好中球減少と血小板減少であった。さらに、ネダプラチン単剤療法を受けた扁平上皮肺癌患者の約40%が第II相臨床試験で腫瘍反応を達成したことがNaito et al. AnnOncol 2011で示されている。
先行研究として実施されたネダプラチンとドセタキセルの併用療法に関する第I/II相試験では、進行または再発扁平上皮肺癌に対して有望な抗腫瘍活性が示された。この試験では、客観的奏効率 (ORR) が62%であり、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は7.4ヶ月 (95% CI 3.5-11.4)、OS中央値は16.1ヶ月であった。最も一般的な有害事象は好中球減少症 (86%の患者でGrade 3または4) であったが、非血液毒性は許容範囲内であった。
しかし、ネダプラチンとドセタキセルの併用療法が、標準治療であるシスプラチンとドセタキセルの併用療法と比較して、OSを改善するかどうかは未解明であった。特に、日本における扁平上皮肺癌患者を対象とした大規模な第III相試験は不足しており、ネダプラチンの異なる毒性プロファイルが臨床転帰に与える影響も十分に評価されていなかった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として実施された。
目的
本研究 (WJOG5208L) の主要目的は、未治療または1年以上前の術後補助化学療法後に再発した進行・再発扁平上皮肺癌 (Stage IIIB/IV) 患者において、ネダプラチン 100mg/m² とドセタキセル 60mg/m² の併用療法 (ネダプラチン群) が、シスプラチン 80mg/m² とドセタキセル 60mg/m² の併用療法 (シスプラチン群) と比較して、全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価することである。
副次目的としては、両治療群における無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、および安全性プロファイルを比較検討することであった。特に、ネダプラチンがシスプラチンと比較して非血液毒性を軽減し、患者のQOLを向上させる可能性についても評価することを目的とした。また、治療継続率や後続治療の受療率についても比較し、治療レジメンがその後の治療選択肢に与える影響を検討することも目的とした。本試験は、ネダプラチンとドセタキセルの併用療法が、進行・再発扁平上皮肺癌に対する新たな一次治療選択肢となり得るかを検証するものであった。
結果
2009年7月6日から2012年7月26日の間に、合計355名の患者が無作為に割り付けられた。修正intention-to-treat (mITT) 解析には349名 (ネダプラチン群 n=177、シスプラチン群 n=172) が含まれた。ベースライン特性は両群間でバランスが取れていた (Table 1)。中央値追跡期間は39.3ヶ月 (IQR 31.3-48.7) であった。
全生存期間 (OS) の改善: 主要評価項目であるOSは、ネダプラチン群で有意に延長した。ネダプラチン群のOS中央値は13.6ヶ月 (95% CI 11.6-15.6) であったのに対し、シスプラチン群では11.4ヶ月 (95% CI 10.2-12.2) であった。ハザード比 (HR) は0.81 (95% CI 0.65-1.02, 片側層別ログランク検定 p=0.037) であり、事前に設定された片側p値0.05の有意水準を満たした (Figure 2A)。1年OS率はネダプラチン群で55.9% (95% CI 48.3-62.9)、シスプラチン群で43.5% (95% CI 35.9-50.8) であった。2年OS率はネダプラチン群で27.1% (95% CI 20.7-33.8)、シスプラチン群で18.1% (95% CI 12.7-24.3) と、長期生存においてもネダプラチン群が優れる傾向を示した。サブグループ解析では、PS (0 vs 1; p interaction =0.011) と病期 (IIIBまたは術後再発 vs IV; p interaction =0.057) で有意な治療相互作用が認められた。
無増悪生存期間 (PFS) の比較: 副次評価項目であるPFSは、両群間で有意な差は認められなかったが、ネダプラチン群で改善傾向が示された。ネダプラチン群のPFS中央値は4.9ヶ月 (95% CI 4.5-5.6) であったのに対し、シスプラチン群では4.5ヶ月 (95% CI 4.2-4.8) であった。ハザード比 (HR) は0.83 (95% CI 0.67-1.04, 片側層別ログランク検定 p=0.050) であった (Figure 2B)。6ヶ月PFS率はネダプラチン群で35.6% (95% CI 28.6-42.6)、シスプラチン群で27.9% (95% CI 21.4-34.7) であった。
奏効率 (ORR) および病勢コントロール率 (DCR): 客観的奏効率 (ORR) は、ネダプラチン群で56% (完全奏効 [CR] 2%、部分奏効 [PR] 54%)、シスプラチン群で53% (CR 1%、PR 52%) であり、両群間に有意な差はなかった (p=0.66)。病勢コントロール率 (DCR) は、ネダプラチン群で85%、シスプラチン群で81%であり、こちらも有意な差は認められなかった (p=0.39)。
非血液毒性プロファイルの改善: Grade 3以上の非血液毒性において、ネダプラチン群はシスプラチン群と比較して有意に低い発生率を示した (Table 3)。特に、悪心 (ネダプラチン群 4% vs シスプラチン群 14%)、倦怠感 (ネダプラチン群 3% vs シスプラチン群 11%)、低ナトリウム血症 (ネダプラチン群 14% vs シスプラチン群 30%)、低カリウム血症 (ネダプラチン群 2% vs シスプラチン群 9%) は、シスプラチン群で有意に高頻度であった (すべてp<0.05)。これは、シスプラチンに特徴的な消化器毒性および電解質異常がネダプラチンで軽減されることを示唆する。
血液毒性プロファイルの比較: 一方、Grade 3以上の血液毒性では、ネダプラチン群で高頻度であった (Table 3)。白血球減少症はネダプラチン群で55% vs シスプラチン群で44% (p<0.05)、好中球減少症はネダプラチン群で82% vs シスプラチン群で70% (p<0.05) であった。特に血小板減少症は、ネダプラチン群で9% (Grade 4は1%) であったのに対し、シスプラチン群では0%であり、ネダプラチン特有の毒性として注目された (p<0.05)。しかし、Grade 3以上の発熱性好中球減少症や感染症の発生率には両群間で差は認められなかった。
治療継続と後続治療の受療率: 毒性による治療中止率は、シスプラチン群で23%であったのに対し、ネダプラチン群では15%と、ネダプラチン群でやや低い傾向が認められた (p=0.077)。また、3次治療の受療率は、ネダプラチン群で54% (n=177) であったのに対し、シスプラチン群では40% (n=172) と有意に高かった (p=0.014)。これは、ネダプラチン群の患者がより良好な全身状態を維持し、その後の治療を受けやすかった可能性を示唆する。治療関連死は、ネダプラチン群で4例 (感染症、肺炎および腎不全、消化管出血、間質性肺炎)、シスプラチン群で3例 (心不全、低ナトリウム血症、肺炎を伴う敗血症) 報告された。
考察/結論
WJOG5208L試験は、進行または再発扁平上皮肺癌に対する一次治療として、ネダプラチンとドセタキセルの併用療法がシスプラチンとドセタキセルの併用療法と比較して、統計学的に有意な全生存期間 (OS) の延長を示した初の第III相試験である。ネダプラチン群のOS中央値は13.6ヶ月 (95% CI 11.6-15.6) であり、シスプラチン群の11.4ヶ月 (95% CI 10.2-12.2) と比較して、ハザード比 (HR) 0.81 (95% CI 0.65-1.02, 片側p=0.037) であった。この結果は、本試験のプロトコルで想定されたOS中央値 (ネダプラチン群14ヶ月、シスプラチン群10ヶ月) と概ね一致するものであった。
先行研究との違い: シスプラチンは扁平上皮癌に対して抗腫瘍活性を示すことが知られているが、ネダプラチンも肺、食道、頭頸部、子宮頸部など様々な臓器由来の扁平上皮癌に対して抗腫瘍活性を持つことが報告されている。前臨床研究では、ネダプラチンの細胞内取り込みが腺癌細胞よりも扁平上皮癌細胞で高いことが示されており、ネダプラチンが扁平上皮癌に対してより特異的な抗腫瘍活性を持つ可能性が示唆される。本研究の結果は、この前臨床的知見と一致し、シスプラチンとは異なる作用機序や薬物動態がOS延長に寄与した可能性を示唆する。また、Scagliotti et al. JClinOncol 2008の非扁平上皮NSCLCにおけるシスプラチン+ペメトレキセドとシスプラチン+ゲムシタビンの比較試験では、OSは延長したがPFSに差がなかったことと類似しており、毒性プロファイルの違いがその後の治療継続やQOLに影響を与え、OSの乖離につながった可能性が考えられる。これは、これまで報告された多くのプラチナ製剤併用療法とは対照的な結果である。
新規性: 本研究で初めて、ネダプラチンとドセタキセルの併用療法が、シスプラチンとドセタキセルの併用療法と比較して、進行・再発扁平上皮肺癌患者のOSを統計学的に有意に延長することを示した。特に、ネダプラチンはシスプラチンと比較して、悪心、倦怠感、低ナトリウム血症、低カリウム血症といった重要な非血液毒性の発生頻度が著明に低く、異なる安全性プロファイルを持つことが明らかになった点は新規の知見である。これにより、患者のQOL維持や後続治療へのアクセス改善に貢献する可能性が示唆された。実際に、ネダプラチン群では3次治療の受療率が有意に高かった (54% vs 40%, p=0.014)。
臨床応用: ネダプラチンとドセタキセルの併用療法は、進行または再発扁平上皮肺癌に対する新たな治療選択肢となり得る。特に、シスプラチンによる腎毒性や消化器毒性が懸念される患者、またはこれらの毒性により治療継続が困難な患者において、ネダプラチンはより忍容性の高い代替薬として臨床応用される可能性を秘めている。本試験は日本人集団を対象としたものであり、日本国内における扁平上皮肺癌の治療ガイドラインに影響を与える臨床的意義を持つ。しかし、現在の扁平上皮NSCLCの一次治療は、Thatcher et al. LancetOncol 2015で示されたネシツムマブ併用化学療法や、免疫チェックポイント阻害薬 (例: ペムブロリズマブ) と化学療法の併用療法が標準となりつつある。そのため、純粋な化学療法レジメンとしての本結果の臨床現場での位置付けは限定的となる可能性がある。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。第一に、本試験は日本人集団のみで実施されたため、薬理ゲノム学的差異が存在する欧米人集団への結果の外挿には注意が必要であり、非日本人集団での確認試験が今後の課題である。第二に、本試験で用いられたドセタキセルの用量 (60mg/m²) は、欧米で一般的に用いられる用量よりも低い。この用量差が結果に与える影響についても、さらなる検討が必要である。第三に、OSの有意差は片側検定に基づいており、両側検定であれば有意差は認められなかった可能性がある。しかし、Ellis et al. JClinOncol 2014が提唱する臨床的に意義のあるアウトカムの基準を考慮すると、HR 0.81は明確なベネフィットを示すものと考える。最後に、本研究では患者のQOL評価が行われなかったため、ネダプラチンの非血液毒性軽減が患者のQOLに与える具体的な影響を定量的に評価できなかった点が残された課題である。今後は、扁平上皮肺癌におけるネダプラチンの感受性メカニズムの解明や、効果予測バイオマーカーの同定に向けた今後の研究が期待される。
方法
本研究は、日本国内53施設で実施された無作為化、非盲検、第III相臨床試験 (WJOG5208L) である。対象患者は、病理学的に確認されたStage IIIB/IVの扁平上皮肺癌、または術後1年以上経過後の再発扁平上皮肺癌患者であった。主要な適格基準は、年齢20〜74歳、ECOG Performance Status (PS) 0〜1、前治療歴なし(術後補助化学療法後1年以上の再発は許容)、および十分な臓器機能を有することであった。混合型腺扁平上皮癌や非小細胞肺癌 (NSCLC) の組織型不明な症例も、腫瘍の50%以上が扁平上皮成分であれば適格とした。
患者は、ネダプラチン群 (ネダプラチン 100mg/m² + ドセタキセル 60mg/m² 静脈内投与) またはシスプラチン群 (シスプラチン 80mg/m² + ドセタキセル 60mg/m² 静脈内投与) に1:1の比率で無作為に割り付けられた。両レジメンとも3週間ごとに投与され、主治医の裁量により4〜6サイクル実施された。無作為化は、西日本がん研究機構 (WJOG) のデータセンターで中央管理され、病期 (IIIB/IVまたは術後再発)、性別、施設を層別因子として動的最小化法を用いて行われた。
主要評価項目は、無作為化日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義される全生存期間 (OS) であった。OSは修正intention-to-treat (mITT) 集団(無作為化され、適格基準を満たした全患者)で評価された。副次評価項目には、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、および安全性プロファイルが含まれた。PFSは無作為化日から病勢進行または死亡までの期間と定義された。腫瘍効果判定は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.1に基づいて実施された。有害事象は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) バージョン3.0に従って評価された。
統計解析では、当初目標サンプルサイズを250例、イベント数を218件としていたが、2011年1月に統計的検出力を90%に引き上げるため、目標サンプルサイズを350例、イベント数を303件に改訂した。これは独立データモニタリング委員会によって承認された。OSの解析には、片側有意水準α=0.05の層別ログランク検定が用いられた。ハザード比 (HR) は、病期と性別で層別化したCox回帰モデルを用いて推定された。PFSについても同様に層別ログランク検定とCox回帰モデルが用いられた。ORRおよびDCRは、Fisherの正確確率検定を用いて比較された。事前に計画されたサブグループ解析として、年齢 (70歳以上 vs 70歳未満)、性別 (男性 vs 女性)、ECOG PS (0 vs 1)、病期 (IIIBまたは術後再発 vs IV)、喫煙歴 (現在または過去の喫煙者 vs 非喫煙者) が実施された。すべての解析はWJOGデータセンターでSAS (バージョン9.1.3) を用いて行われた。本試験はUMIN臨床試験登録システム (UMIN000002015) に登録されている。