• 著者: Filippo Gustavo Dall’Olio, Ilaria Maggio, Maria Massucci, Veronica Mollica, Benedetta Fragomeno, Andrea Ardizzoni
  • Corresponding author: Andrea Ardizzoni (Medical Oncology Unit, S. Orsola-Malpighi Hospital, University of Bologna, Bologna, Italy)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Meta-analysis
  • PMID: 32417680

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療体系を劇的に変化させ、現在の標準治療として確立されている。しかしながら、ICIの承認および臨床導入の根拠となった主要なランダム化比較試験 (RCT) の多くは、全身状態が良好なEastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) 0または1の患者のみを対象としており、PSが2以上の全身状態不良患者は原則として除外されてきた。実臨床においては、進行NSCLC患者の約20%から30%がベースライン時点でECOG PS ≥ 2の脆弱な背景を有していると報告されており、この患者群に対するICIの治療効果や安全性のエビデンスは極めて限定的であった。

先行研究において、化学療法を対象としたメタ解析である Maio et al は、進行NSCLCにおけるPS 2の強力な予後不良因子としての役割を報告している。また、Albain et al も早期から進行NSCLCの予後規定因子として全身状態の重要性を指摘してきた。さらに、CheckMate 153試験の報告である Spigel et al では、PS 2患者におけるニボルマブ単剤療法の安全性と一定の有効性が示されたものの、RCTによる直接比較データは存在しない。

このように、実臨床で高い割合を占めるPS ≥ 2の進行NSCLC患者におけるICI治療の真の臨床的ベネフィットについては、これまで大規模な統合データによる検証が行われておらず、明確な結論が得られていないという「知識のギャップ (knowledge gap)」が存在していた。特に、PS不良患者では腫瘍随伴症状や併存疾患、悪液質、免疫老化、さらには緩和目的での副腎皮質ステロイド薬の使用頻度の高さなど、免疫応答を減弱させる複数の要因が複雑に絡み合っている。それにもかかわらず、実臨床ではICIの良好な毒性プロファイルのみを根拠に、PS不良患者に対しても広くICIが投与されているのが現状である。したがって、PS ≥ 2の患者群におけるICIの治療効果(生存期間、奏効率)への影響を定量的に評価した大規模なメタ解析データが「著しく不足」しており、治療選択における意思決定を支援するための客観的指標の確立が急務の課題となっていた。本研究は、この未解明な領域におけるエビデンスを構築し、実臨床データ (RWD) のメタ解析を通じて臨床上の疑問に答えるために実施された。

目的

本系統的レビューおよびメタ解析の目的は、免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、または抗CTLA-4抗体を含む治療) を受ける進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、治療開始前のベースラインにおけるECOG PS ≥ 2が、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および客観的奏効割合 (ORR) に及ぼす予後への影響を定量的に明らかにすることである。具体的には、実臨床でICI治療を受けた患者を対象とした複数の観察研究を統合し、PS ≥ 2の患者群とPS 0-1の患者群との間でハザード比 (HR) およびオッズ比 (OR) を算出・比較することで、全身状態不良がICIの治療成績に与える影響の大きさを評価する。さらに、研究デザイン、治療施設の種類、前治療の有無、脳転移や肝転移の有無、組織型、およびPS 3-4の患者が含まれているか否かなどの各種共変量を用いたサブグループ解析およびメタ回帰分析を行い、結果の異質性の要因を探索し、PSの予後因子としての頑健性を検証することを目的とした。

結果

組み入れ研究の背景と患者背景: 文献検索の結果、最終的に19件の観察研究(総患者数 n=3600、うちECOG PS ≥ 2の患者は n=757)がメタ解析の基準を満たし、分析対象となった (Figure 1)。PS ≥ 2の患者が占める割合は、研究間で 6.0% から 48.6% の範囲に分布しており、全体の平均値は 21.0% であった (Table 1)。使用されたICI製剤はニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバマブなどであり、多くは二次治療以降の実臨床コホートであった。NOSを用いた品質評価では、OSを評価した15研究のうち13研究が9点、2研究が7点と、全体として極めて高い研究の質が維持されていることが確認された (Table 2)。

全生存期間における予後不良因子: 全生存期間 (OS) の解析には15件の研究(総患者数 n=2331)が組み入れられた。ベースラインのECOG PS ≥ 2は、PS 0-1の患者群と比較して、全生存期間の著しい短縮と有意に関連していた。統合ハザード比は HR 2.72 (95% CI 2.03-3.63, p<0.001) であり、PS ≥ 2の患者群では死亡リスクが約2.7倍に上昇することが示された (Figure 2)。この解析において研究間に高い統計学的異質性が認められたが (I² = 72.70%, p<0.001)、すべての研究において一貫してPS ≥ 2がOSの有意な予後不良因子であることが示された。

無増悪生存期間への悪影響: 無増悪生存期間 (PFS) の解析には9件の研究(総患者数 n=1860、うちPS ≥ 2は n=416)が組み入れられた。ベースラインのECOG PS ≥ 2は、PS 0-1の患者群と比較して、無増悪生存期間の有意な短縮と関連していた。統合ハザード比は HR 2.39 (95% CI 1.81-3.15, p<0.0001) であり、病勢進行または死亡のリスクが約2.4倍に達することが確認された (Figure 3)。OS解析と同様に、PFS解析でも高い異質性が検出されたが (I² = 73.03%, p<0.0001)、すべての研究が同様の予後不良の傾向を示した。

客観的奏効率の著しい低下: 客観的奏効割合 (ORR) の解析には3件の研究(総患者数 n=580)が組み入れられた。ECOG PS ≥ 2の患者群における客観的奏効率は、PS 0-1の患者群と比較して極めて有意に低かった。統合オッズ比は OR 0.25 (95% CI 0.11-0.56, p=0.001) であり、奏効を得られる確率が約4分の1に低下していることが明らかになった (Figure 4)。特筆すべき点として、このORR解析における統計学的異質性は極めて低く (I² = 0.00%, p=0.900)、結果の再現性と頑健性が強く支持された。

サブグループ解析による異質性の検証: OSに対するPS ≥ 2の影響について、様々な因子を用いたサブグループ解析を行った。PS 2のみを対象とした6研究(n=879、うちPS 2は n=122)における統合ハザード比は HR 2.67 (95% CI 1.81-3.94, p<0.001) であった。一方、PS 3-4の患者を含む9研究(n=1452、うちPS ≥ 2は n=383)における統合ハザード比も HR 2.67 (95% CI 1.81-3.94, p<0.001) と完全に一致し、PS 3-4の混入の有無は異質性に影響を与えないことが示された (p=0.865)。また、前向き vs 後方視的デザイン (p=0.675)、単施設 vs 多施設 (p=0.302)、三次医療機関 vs 非三次医療機関 (p=0.417) のいずれの層別化においても、PS ≥ 2の予後不良因子としての有意性に変化はなかった。さらに、多変量解析において肝転移 (p=0.485)、脳転移 (p=0.450)、組織型 (p=0.500) などの共変量を調整した研究と調整していない研究の間でも、統合HRに統計学的な有意差は認められなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本メタ解析の結果は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による治療を受けた進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、ECOG PS ≥ 2が全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および客観的奏効割合 (ORR) のすべてにおいて一貫して極めて強力な予後不良因子であることを明確に示した。化学療法を対象とした過去のメタ解析である Maio et al では、二次化学療法におけるPS 2患者のOSのハザード比は 3.01 (95% CI 2.41-3.76) と報告されており、本研究で得られたICI治療におけるハザード比 HR 2.72 (95% CI 2.03-3.63) と極めて類似している。この事実は、ICI治療においても、PSが治療法に依存しない一般的な「予後因子」としての役割を強く維持していることを示唆している。この結果は、EGFR遺伝子変異陽性例に対するEGFR-TKI(ゲフィチニブ、エルロチニブ)の有効性を検証した Mok et al、Zhou et al、および Rosell et al や、ALK融合遺伝子陽性例に対するクリゾチニブの有効性を示した Solomon et al などの分子標的薬の臨床試験において、PS 2の患者であってもPS 0-1の患者と同様に劇的な治療ベネフィットを享受できる傾向があったこととは対照的である。

新規性: 本研究は、進行NSCLCに対するICI治療において、ECOG PS ≥ 2がOS、PFSのみならず、ORRの著しい低下(OR 0.25)をもたらすことを、実臨床データ (RWD) に基づく大規模なメタ解析によって初めて定量的に証明した。特に、ORR解析における異質性が 0% であったことは、全身状態不良患者におけるICIの奏効率低下が、治療環境や患者コホートの違いを超えて普遍的に観察される現象であることを新規に提示している。

臨床応用: 本知見の臨床的意義として、実臨床におけるPS ≥ 2の進行NSCLC患者に対するICIの適応は、単に「化学療法より毒性が低いから」という理由だけで無条件に決定されるべきではないことが示された。PS不良患者では、ICIが十分な治療効果を発揮する前に病勢進行や早期死亡に至るリスク(一部の研究では治療開始後3か月以内の早期死亡率が30%から50%に達する)が極めて高い。したがって、臨床現場では、PS低下の原因が腫瘍負荷によるもの(腫瘍起因性)か、あるいは高齢や併存疾患、悪液質、サルコペニア、さらには慢性閉塞性肺疾患 (COPD) 等に伴う全身状態低下によるものかを慎重に見極める必要がある。腫瘍起因性のPS低下であれば、ICIや化学療法併用療法による迅速な腫瘍縮小がPSの改善に寄与する可能性があるが、非腫瘍性の要因による場合は、ベストサポーティブケア (BSC) や緩和ケアを優先する、あるいは低用量化学療法を選択するなどの個別化された治療戦略が必要となる。

残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在する。第一に、メタ解析に組み入れられた研究の多くが後方視的観察研究であり、未知の交絡因子や選択バイアスの影響を完全に排除できない点である。第二に、ECOG PSの評価自体が多分に主観的であり、評価者間の一致率(インターレイター信頼性)が低いことが課題として残されている。第三に、PD-L1発現レベル(TPS)別の詳細な層別化データや、化学療法併用ICI療法(例:KEYNOTE-189など)におけるPS 2患者のデータが本解析では十分にカバーされていない。今後の検討課題として、PS低下の生物学的メカニズム(免疫老化や炎症性悪液質)を反映する客観的なバイオマーカーの確立や、PS不良患者に特化した前向き臨床試験の実施が求められる。

方法

本系統的レビューおよびメタ解析は、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) ガイドラインに準拠して厳格に設計・実施された。

文献検索戦略: 2019年11月1日までにオンラインデータベースである PubMed, Embase, Cochrane Database of Systematic Reviews and Central Register of Controlled Trials に登録された査読付き学術論文を対象に、包括的な文献検索を行った。検索式には、“NSCLC”, “non-small cell lung cancer”, “immunotherapy”, “nivolumab”, “pembrolizumab”, “atezolizumab”, “durvalumab”, “performance status”, “ECOG” などのキーワードおよびMeSH用語を組み合わせて使用した。

選択基準および除外基準: 組み入れ基準は、(1) 18歳以上の進行・転移性NSCLC患者を対象としていること、(2) 治療ラインを問わずICI (単剤または併用療法) が投与されていること、(3) ベースラインのECOG PS ≥ 2の患者群とPS 0-1の患者群におけるOS、PFS、またはORRの予後データ(Cox比例ハザードモデルに基づくハザード比 [HR]、またはロジスティック回帰分析に基づくオッズ比 [OR] とその95%信頼区間 [CI])が明記されていること、(4) 前向きまたは後方視的観察研究であること、とした。 除外基準は、(1) 症例数が10例未満のケースシリーズや症例報告、(2) ECOG PSをカテゴリー変数ではなく連続変数として解析している研究、(3) 生存期間の中央値のみが報告されHRが算出できない研究、(4) 臨床試験 (RCT) は実臨床のPS不良患者の分布を反映しないため除外とした。

データ抽出および質評価: 3名の独立したレビューアがタイトルおよび抄録によるスクリーニングを行い、次いでフルテキストの確認を行って最終的な採否を決定した。意見の不一致は合意形成によって解決した。組み入れられた研究のバイアスリスク評価には、観察研究の質評価ツールである Newcastle-Ottawa Scale (NOS) を使用し、選択、比較可能性、アウトカムの3領域について星(スコア)を付与した。

統計学的手法: メタ解析は、Stata MP v. 14 および RStudio (Version 1.2.1335) を用いて実施された。主要エンドポイントであるOSおよびPFSについては、逆分散法を用いてハザード比 (HR) を統合した。ORRについてはオッズ比 (OR) を統合した。各効果量は95%信頼区間 (CI) とともに算出された。研究間の統計学的異質性は、I²統計量およびχ²検定を用いて評価した。I²値が50%を超える、またはp < 0.10の場合は有意な異質性があると判断し、ランダム効果モデル (random-effects model) を適用して統合効果量を算出した。 結果の頑健性を検証するため、以下のモデレーターを用いたサブグループ解析およびメタ回帰分析を実施した:(1) PS > 2 (PS 3または4) の患者の有無、(2) 全体におけるPS ≥ 2患者の割合、(3) 治療施設(三次医療機関 vs 非三次医療機関)、(4) 研究デザイン(前向き vs 後方視的)、(5) 施設数(単施設 vs 多施設)、(6) 多変量解析における脳転移・肝転移の調整の有無、(7) 組織型の調整の有無、(8) 治療歴(前治療ありのみ vs 未治療患者を含む)。出版バイアスの有無は、ファンネルプロットの視覚的評価および Egger’s test を用いて統計学的に評価した。