• 著者: Forest F, Casteillo F, Da Cruz V, Yvorel V, Picot T, Vassal F, Tiffet O, Péoc’h M
  • Corresponding author: Fabien Forest (CHU de Saint Etienne, Hôpital Nord, Service d’Anatomie et Cytologie Pathologiques, Saint Etienne, France)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33690015

背景

肺腺癌は肺の原発腫瘍として最も頻度が高く、しばしば転移段階で発見される。この腫瘍は組織学的に不均一であり、lepidic、acinar、papillary、solid、micropapillaryなどの異なる建築パターンが混在することが多い。これらのサブタイプのうち、solid型とmicropapillary型は予後不良と関連し、lepidic型は良好な予後を示すことが知られている (Casteillo et al. 2018)。原発腫瘍における肺腺癌の組織学的サブタイピングは必須とされており (Travis et al. 2015)、転移巣においても患者の予後予測にその重要性が示されている (Clay et al. 2014; Mansuet-Lupo et al. 2014)。

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療選択は、分子状態とPD-L1免疫組織化学 (IHC) の結果に大きく依存する。PD-L1 IHCは、抗体クローンやプラットフォームに関わらず、検体タイプ、腫瘍組織量、組織病理学的タイプおよびサブタイプ、検体採取部位、生検時期など、様々な要因と関連することが報告されている (Ilie et al. 2016; Yvorel et al. 2017)。PD-L1発現は肺腺癌において不均一なマーカーであり (Gagné et al. 2018)、原発腫瘍ではPD-L1発現の不均一性が異なる組織学的サブタイプと関連することが示されている (Zito Marino et al. 2020; Naso et al. 2020)。特にsolid型やmicropapillary型でPD-L1高発現が認められ、lepidic、papillary、acinar型では低発現であることが報告されている (Gagné et al. 2018)。

しかし、これらの先行研究は主に原発腫瘍に焦点を当てており、肺腺癌患者の多くが転移段階で診断されるにもかかわらず、転移巣におけるPD-L1発現と組織学的サブタイプの関連性については十分に評価されていない点が未解明な課題として残されていた。原発腫瘍で得られた知見が転移巣にも当てはまるかは不明であり、特にsolid型サブタイプは原発腫瘍よりも転移巣でより頻繁に認められることが示されている (Takahashi et al. 2018)。また、肺外転移巣にはlepidic型がほとんど存在しないことも指摘されている。したがって、転移巣におけるPD-L1発現の不均一性と組織学的サブタイプの関連性を体系的に解析することは、PD-L1評価の精度向上と免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療の最適化において重要な知識ギャップを埋めるものである。本研究は、手術切除された肺腺癌転移巣を対象に、各組織学的パターンにおけるPD-L1発現を評価し、その不均一性が組織学的サブタイプと関連するという仮説を検証することを目的とした。これまでの研究では転移巣におけるPD-L1発現の不均一性に関するデータが不足しており、特に異なる組織学的サブタイプ間でのPD-L1発現の差異については未開拓な領域であった。

目的

本研究の目的は、手術切除された肺腺癌転移巣において、各組織病理学的サブタイプ (solid、acinar、papillary、micropapillary) におけるPD-L1発現 (TPS) を評価することである。さらに、転移巣における組織学的サブタイプの不均一性とPD-L1染色パターンとの関連性を明らかにすることを目指した。特に、PD-L1発現の不均一性が異なる組織学的サブタイプと関連しているという仮説を検証し、この関連性が原発腫瘍と同様に転移巣でも認められるかを系統的に解析することを目的とした。これにより、PD-L1評価におけるサンプリングエラーの可能性や、低PD-L1発現患者におけるICI奏効のメカニズムを説明する新たな病理学的根拠を提供することを目指した。本研究は、転移巣におけるPD-L1発現の包括的な理解を深め、個別化医療の進展に貢献することを目指す。

結果

患者背景と組織学的サブタイプ分布: 本研究には136例の患者が組み入れられ、男性85例、女性51例、平均年齢は66.2 ± 0.9歳であった。検体採取部位は胸膜 (n=57)、脳 (n=43)、骨 (n=11)、心膜 (n=7)、リンパ節 (n=5)、縦隔 (n=5)、軟部組織 (n=3)、皮膚 (n=2)、副腎 (n=2)、腹膜 (n=1) であった。TTF-1陽性は87例 (64%)、陰性は49例 (36%) であった。主要な組織学的サブタイプはsolid型が69例 (50.7%) で最も多く、次いでacinar型37例 (27.2%)、micropapillary型14例 (10.3%)、papillary型10例 (7.3%) であった。6例 (4.4%) では腫瘍組織が不十分で主要サブタイプを決定できず、PD-L1解析から除外された。患者の39% (53例) が単一の組織学的サブタイプ、42.6% (58例) が2種類のサブタイプ、16.2% (22例) が3種類のサブタイプ、2.2% (3例) が4種類のサブタイプを有していた。

組織学的サブタイプ別のPD-L1平均発現率: 各サブタイプにおけるPD-L1の平均発現率は、solid型で28 ± 4.8%、micropapillary型で23.6 ± 4.1%、acinar型で5.3 ± 1.9%、papillary型で5 ± 1.9%であった (Fig. 2a)。Solid型とmicropapillary型は、acinar型およびpapillary型と比較して有意に高いPD-L1発現を示した。具体的には、solid型とacinar型間 (p < 0.001)、solid型とpapillary型間 (p = 0.007)、micropapillary型とacinar型間 (p < 0.001)、micropapillary型とpapillary型間 (p = 0.015) で統計的に有意な差が認められた。一方で、solid型とmicropapillary型間 (p = 0.63)、acinar型とpapillary型間 (p = 0.71) では有意な差は認められなかった。この結果は、PD-L1発現に関して高発現群 (solid、micropapillary) と低発現群 (acinar、papillary) の2つのクラスターが存在することを示唆する。

主要サブタイプ別のTPS分布: 主要サブタイプ別のTPSカテゴリー分布では、solid型優位群 (n=69) でTPS ≥ 50%が21例 (30%)、micropapillary型優位群 (n=14) でTPS ≥ 50%が3例 (21%) と比較的高率であった。対照的に、acinar型優位群 (n=37) ではTPS ≥ 50%が1例 (3%)、papillary型優位群 (n=10) ではTPS ≥ 50%が1例 (10%) と低率であり、この差は統計的に有意であった (p = 0.009) (Table 1)。また、性別はPD-L1 TPSカテゴリーと有意に関連しており (p = 0.027)、男性でPD-L1低発現の割合が高い傾向が認められた。TTF-1発現もPD-L1 TPSカテゴリーと有意に関連し (p = 0.021)、TTF-1陽性例でPD-L1高発現の割合が有意に高かった。

腫瘍内PD-L1発現の不均一性 (Intra-tumoral heterogeneity): 少なくとも2つの組織学的パターンを有する83例の転移性肺腺癌のうち、20例 (約24%) で異なる組織学的パターン間でPD-L1 TPSカテゴリーに差異が認められた。これは、異なるPD-L1発現レベルを持つ領域が存在することを示している。具体的には、<1%と1-49%カテゴリー間で14件、1-49%と≥50%カテゴリー間で11件、<1%と≥50%カテゴリー間で4件の不一致が検出された。特に、<1%と≥1%のTPSスコアが異なるサブタイプで認められた患者は8例 (24%) であった。Papillary型はPD-L1発現の腫瘍内不均一性と関連していた (p = 0.027) (Table 3)。Solid型およびmicropapillary型成分は、acinar型およびpapillary型成分よりも高いPD-L1発現を示す傾向が、個々の症例内でも一貫して観察された (Fig. 3)。

各サブタイプ内のPD-L1不均一性: 各サブタイプ内で最も高い2mm²領域と最も低い2mm²領域におけるTPSの差は、solid型で23.5 ± 3.2%、micropapillary型で16.2 ± 2.7%、acinar型で8.5 ± 2.5%、papillary型で8.8 ± 3.4%であった (p < 0.001) (Fig. 5)。これは、各サブタイプ内でもPD-L1発現に局所的な不均一性が存在することを示している。例えば、あるsolid型領域ではTPSが90%であったのに対し、同じ腫瘍内の別のsolid型領域ではTPSが60%であった症例も認められた。

検体採取部位と分子マーカーとの関連: 転移部位別のTPS分布には統計的に有意な差は認められなかった (p = 0.21)。EGFR変異陽性群 (n=19) ではTPS ≥ 50%が2例 (1.5%) と少なく、KRAS変異陽性群 (n=41) ではTPS ≥ 50%が13例 (9.6%) と比較的高発現の傾向が認められたが、統計的に有意な関連はなかった (p=0.38 for EGFR, p=0.12 for KRAS) (Table 1)。

原発腫瘍との比較: 33例の患者において、以前の検体 (気管支生検、他転移巣生検、原発巣切除検体など) と現在の転移巣検体との間でPD-L1 TPSを比較した。その結果、11例で異なるTPSカテゴリーが認められた。内訳は、<1% vs 1-49%が7例、1-49% vs ≥50%が2例、<1% vs ≥50%が2例であった (Fig. 6)。特に、以前の検体でTPS < 1%であったが、現在の転移巣でTPS ≥ 1%であった患者は8例 (24%) であり、これはPD-L1発現の経時的または空間的変化を示唆する。

観察者間一致度: 2名の病理医による組織学的パターンの認識および定量化における一致度は良好であった。Solid型、acinar型、papillary型、micropapillary型の存在認識におけるκ係数はそれぞれ0.83、0.71、0.65、0.66であった。各パターンの定量化におけるSpearmanのρは、solid型で0.87 (p < 0.001)、acinar型で0.83 (p < 0.001)、papillary型で0.71 (p < 0.001)、micropapillary型で0.78 (p < 0.001) であった (Fig. 1)。PD-L1 TPS評価における観察者間一致度も高く、Spearmanのρは0.93 (p < 0.001) であった。これらの結果は、本研究における組織学的評価およびPD-L1評価の信頼性が高いことを示している。

考察/結論

本研究は、肺腺癌転移巣136例を対象とした体系的な解析により、PD-L1発現の不均一性が組織病理学的サブタイプと密接に関連していることを初めて明確に示した。特に、solid型 (平均28%) とmicropapillary型 (平均23.6%) は、acinar型 (平均5.3%) およびpapillary型 (平均5%) と比較して、統計的に有意に高いPD-L1発現を示した (p < 0.001)。この結果は、転移巣においても原発腫瘍と同様のサブタイプとPD-L1発現の関連性が維持されることを裏付けている。

先行研究との違い: これまでの研究は主に原発腫瘍におけるPD-L1発現と組織学的サブタイプの関連に焦点を当てていたが (Zito Marino et al. 2020; Naso et al. 2020)、本研究は、転移巣においてこの関連性を大規模かつ詳細に評価した点で先行研究と異なる。転移巣は原発腫瘍とは異なる組織学的構成を持つことが報告されており (Takahashi et al. 2018)、本研究は転移巣においても組織学的サブタイプがPD-L1発現の主要な決定因子であることを示した。

新規性: 本研究で初めて、肺腺癌転移巣において複数の組織学的パターンが混在する症例の約1/4で、異なるパターン間でPD-L1 TPSカテゴリーに差異が存在すること、すなわちPD-L1発現の不均一性が稀な事象ではないことを新規に示した。この腫瘍内不均一性は、PD-L1評価におけるサンプリングエラーの可能性を強調するものであり、低PD-L1発現と判定された患者が免疫療法に奏効する理由の一つを説明する可能性を提示した。

臨床応用: 本知見は、PD-L1評価の臨床応用において重要な含意を持つ。第一に、生検や細胞診などの小検体では、腫瘍全体の組織学的サブタイプ構成を正確に反映できない可能性があり、これがPD-L1 TPS判定の不一致や誤分類の根本原因となりうる。したがって、PD-L1評価時には、可能であればより大きな検体や複数回の生検が推奨される。第二に、PD-L1陰性と判定された患者でもICIに奏効する例が存在する理由として、採取されなかったsolid型やmicropapillary型などの高発現サブタイプが存在した可能性が考えられる。第三に、PD-L1評価報告書に組織学的サブタイプ構成を併記することで、臨床医はより正確な治療判断を下せるようになる。最後に、予後不良とされるsolid型やmicropapillary型サブタイプがPD-L1高発現を伴うという事実は、ICIがこれらのサブタイプに選択的に有効である可能性を示唆し、治療戦略の個別化に繋がる可能性がある。

残された課題: 本研究のlimitationとして、単施設での後方視的解析である点が挙げられる。この結果の汎化可能性を検証するためには、多施設共同研究による大規模な前向き検証が必要である。また、組織学的サブタイプ別のPD-L1発現が、ICI治療のアウトカム (客観的奏効割合、無増悪生存期間、全生存期間) と実際にどのように関連するかを前向きに評価する必要がある。さらに、本研究で用いた22C3クローン以外のPD-L1クローン (28-8、SP142、SP263など) での再現性を確認することも今後の課題である。原発巣と転移巣におけるサブタイプとPD-L1発現の関連性を直接比較する研究や、空間トランスクリプトミクスなどの手法を用いて各サブタイプにおけるPD-L1高発現の分子機序を解明することも、今後の研究方向性として重要である。また、腫瘍微小環境における他の免疫チェックポイント分子や腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) と組織学的サブタイプとの関連性も、包括的な理解のために検討すべきである。

方法

本研究は、サンテティエンヌ大学病院の倫理委員会によって承認された後方視的単施設研究 (retrospective cohort study) である (IRBN1262020/CHUSTE)。2016年12月から2020年2月までの期間に、当施設で外科的に切除された転移性肺腺癌患者136例を対象とした。N1、N2、N3リンパ節転移は除外し、遠隔リンパ節転移のみを含めた。患者の年齢、性別、腫瘍サイズなどの臨床変数を医療記録から収集した。

組織病理学的評価は、2015年WHO分類およびIASLC/ATS/ERS (International Association for the Study of Lung Cancer/American Thoracic Society/European Respiratory Society) コンセンサスに従い、ヘマトキシリン・エオシン染色スライドを用いて肺腺癌の診断を行った。solid、acinar、papillary、micropapillaryの各パターンを5%刻みで評価し記録した。

PD-L1発現は、腫瘍細胞の膜染色に基づいてTPS (Tumor Proportion Score) を用いて評価した。PD-L1 IHCは、Dako-Agilent社のOMNIS (Open, Modular, Next-generation, Integrated System) プラットフォーム上で22C3クローン (希釈1/40) を用いて実施した。TPSは、全腫瘍および各組織学的サブタイプごとに個別に評価し、<1%、1-49%、≥50%の3つのカテゴリーに分類した。PD-L1 TPS評価に必要な最小腫瘍細胞数は100細胞とした。PD-L1発現の不均一性は、各サブタイプ内で最も高い2mm²領域と最も低い2mm²領域におけるTPSの差として評価した。TTF-1 (Thyroid Transcription Factor-1) 免疫組織化学染色も実施し、核染色が10%以上の腫瘍細胞で認められた場合に陽性と判断した。

すべてのスライドは2名の病理医 (FFとFC) が独立してレビューし、組織学的サブタイプおよび各パターンにおけるPD-L1発現を評価した。意見の不一致があった場合は、合議によりコンセンサスを得た。観察者間の一致度はCohenの重み付きκ係数を用いて算出した。

分子解析は、次世代シーケンシング (NGS) を用いてEGFR、KRAS、BRAF、ERBB2遺伝子の変異を検出した。ALKおよびROS1融合遺伝子は、まず免疫組織化学染色でスクリーニングし、陽性または疑陽性の場合にはFISH法で確認した。

統計解析はRソフトウェア (バージョン3.4.1) およびExcelソフトウェアを用いて実施した。連続変数には平均値と標準偏差を用い、カテゴリ変数間にはFisherの正確検定またはχ²検定を用いた。正規性の検定にはShapiro-Wilk検定を用い、正規性がない連続変数間の関係にはSpearmanの順位相関係数 (ρ) を、正規性がある場合にはPearsonの相関係数 (R²) を用いた。連続変数の平均値の比較にはWilcoxon-Mann-Whitney検定およびKruskal-Wallis検定を用いた。p値が0.05未満を統計的に有意と判断した。