- 著者: Yu Miura, Fuyumi Nishihara, Yoshitake Murayama, Kunihiko Kobayashi, Hiroshi Kagamu
- Corresponding author: Kyoichi Kaira (Department of Respiratory Medicine, Comprehensive Cancer Center, International Medical Center, Saitama Medical University, Hidaka-City, Saitama, Japan)
- 雑誌: Thoracic Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-02-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 30809973
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) において、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI: immune checkpoint inhibitor) である抗PD-1/PD-L1抗体は標準治療として確立されている。特にニボルマブのようなICIは、一部の患者で5年以上の長期生存を達成するなど、その有効性が示されている (Gettinger et al. 2018)。しかし、ICI治療後に病勢進行した患者に対する最適な救済化学療法レジメンは未解明であり、臨床上の重要な課題として残されている。
近年、Schvartsman et al. (2017) や Park et al. (2018) らの後向き研究では、ICI治療後に単剤化学療法を施行された進行NSCLC患者において、客観的奏効率 (ORR: objective response rate) が39%から53.4%と、従来の歴史的対照群と比較して高い数値を示すことが報告された。これらの報告は、ICIがその後の化学療法に対する感受性を向上させる「chemo-sensitization」効果を持つ可能性を示唆しているが、その詳細な機序は不明である。
ラムシルマブは、血管内皮増殖因子受容体2 (VEGFR-2) の細胞外ドメインを特異的に標的とする完全ヒトIgG1モノクローナル抗体である。第III相REVEL試験 (Garon et al. 2014) では、ドセタキセルとラムシルマブの併用療法が、ドセタキセル単剤療法と比較して進行NSCLCの二次治療において有意な全生存期間 (OS: overall survival) の改善を示すことが報告された。日本人患者を対象としたJVCG (Japanese VEGFR2 inhibitor Clinical Study Group) 試験 (Yoh et al. 2016) でも、ラムシルマブとドセタキセルの併用療法は28.9%のORRを達成し、その有効性が確認されている。
さらに、前臨床研究では、抗PD-1抗体と抗VEGFR2抗体の同時阻害が相乗的な抗腫瘍効果を示すこと (Yasuda et al. 2013) や、抗PD-L1療法が抗血管新生療法の効果を増強し、抗血管新生療法が抗PD-L1抗体の効果を改善することが報告されている (Allen et al. 2017)。これらの知見は、ICIと抗血管新生薬の併用、あるいは逐次的な投与が、単剤療法よりも優れた効果をもたらす可能性を示唆している。
しかしながら、ニボルマブを含むICI治療後に病勢進行したNSCLC患者に対するラムシルマブとドセタキセルの併用療法の有効性および安全性に関する報告はこれまで不足しており、その臨床的有用性は確立されていない。特に、ICIによるchemo-sensitization効果が、細胞傷害性薬剤と抗血管新生薬の併用療法においても発揮されるか否かは、今後の治療戦略を検討する上で重要な知識ギャップ(knowledge gap)であった。この点において、本研究はニボルマブ不応後の最適な治療シーケンスを確立するための重要な情報を補完するものである。
目的
本研究の目的は、ニボルマブ治療後に病勢進行した進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、ラムシルマブとドセタキセルの併用療法を施行した場合の客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、全生存期間 (OS) および安全性を後ろ向きに評価することである。これにより、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 失敗後の救済併用療法としてのラムシルマブとドセタキセルの位置づけを検討し、ICIによるchemo-sensitization効果が細胞傷害性薬剤と抗血管新生薬の併用療法においても発揮される可能性を検証することを目的とした。また、本治療シーケンスにおける特有の有害事象プロファイルを明らかにすることも目的とした。本研究は、ニボルマブ不応後の治療選択肢が限られる現状において、有効かつ安全な治療戦略を提示することを目指した。
結果
患者背景と治療実施状況: 本研究の対象となった20例 (n=20) の患者背景はTable 1に示されている (Table 1)。年齢中央値は70歳 (範囲: 55-77歳) であり、男性が12例、女性が8例であった。喫煙歴のある患者は12例 (60%) であった。組織型は腺癌が16例 (80%)、扁平上皮癌が3例 (15%)、その他が1例 (5%) であった。臨床病期はStage IIIが3例、Stage IVが12例、術後再発が5例であった。EGFR変異はwild typeが17例、mutant typeが3例であった。ラムシルマブとドセタキセルの併用療法は、3次治療として16例、4次治療として3例、5次治療として1例に投与された。ニボルマブ治療期間の中央値は68日 (範囲: 29-554日) であった。ニボルマブ最終投与からラムシルマブとドセタキセル開始までの期間中央値は34日 (範囲: 25-168日) であった。PEG-G-CSF (pegylated granulocyte colony-stimulating factor) は18例 (90%) に予防的に投与された (Fig 1)。
高い奏効率と病勢コントロール率: 全20例が治療効果評価可能であった (Table 2)。完全奏効 (CR) は0例、部分奏効 (PR) は12例 (60.0%)、安定 (SD) は6例 (30.0%)、病勢進行 (PD: progressive disease) は2例 (10.0%) であった。客観的奏効率 (ORR) は60.0% (95% CI 38.5–81.4%) であり、病勢コントロール率 (DCR) は90.0% (95% CI 76.9–103%) であった。このORR 60.0%という結果は、歴史的対照であるREVEL試験 (Garon et al. 2014) の23%や、日本人を対象としたJVCG (Japanese VEGFR2 inhibitor Clinical Study Group) 試験 (Yoh et al. 2016) の28.9%と比較して大幅に高い数値であり、EGFR-TKI治療と同等の水準であった。個々の患者における最大腫瘍縮小率はFigure 2のウォーターフォールプロットに示されており、ほとんどの患者で腫瘍縮小が観察された (Fig 2)。
生存期間の延長効果と歴史的対照との比較: ラムシルマブとドセタキセル併用療法後の無増悪生存期間 (PFS) 中央値は169日、全生存期間 (OS) 中央値は343日であった。本コホートにおける高い治療効果を検証するため、歴史的対照である第III相REVEL試験 (Garon et al. 2014) の成績と比較すると、同試験におけるラムシルマブ+ドセタキセル群 vs プレセボ+ドセタキセル群の全生存期間(OS)のハザード比は HR 0.86 (95% CI 0.75-0.98, p=0.023) であり、無増悪生存期間(PFS)のハザード比は HR 0.76 (95% CI 0.68-0.86, p<0.001) であった。本研究の単一アームコホート(n=20)におけるPFS中央値169日およびOS中央値343日という成績は、これらの歴史的対照データ(REVEL試験のPFS 4.5ヶ月 vs 3.0ヶ月、OS 10.5ヶ月 vs 9.1ヶ月)を上回る良好な傾向を示しており、先行するニボルマブ治療がその後のラムシルマブ+ドセタキセル併用療法の感受性を高める「chemo-sensitization」効果を強く支持するものであった。
ニボルマブ治療期間と後続治療効果の関連: ニボルマブ治療期間と後続のラムシルマブとドセタキセル併用療法の効果との間に明確な関連性は認められなかった (Fig 3)。ニボルマブ治療期間が90日未満であった患者は、PR群で9例中7例 (77.8%)、SD群で6例中3例 (50.0%)、PD群で2例中2例 (100.0%) であった。このことから、ニボルマブの治療期間の長短にかかわらず、その後のラムシルマブとドセタキセル併用療法が高い奏効率を示す可能性が示唆された。さらに、ニボルマブ最終投与からラムシルマブとドセタキセル開始までの期間中央値は、PR群で30日 (範囲: 15-161日) vs SD群で102日 (範囲: 21-474日) vs PD群で42日 (範囲: 21-63日) であった。
特徴的な安全性プロファイルと消化管毒性: 有害事象はTable 3にまとめられている (Table 3)。全20例中19例 (95.0%) で何らかのグレードの有害事象が認められた。ドセタキセルの減量は7例(35.0%)で実施された。治療中止に至ったのは2例 (10.0%、口内炎、イレウス) であり、3例 (15.0%、Grade 3肺血栓塞栓症、Grade 3手足症候群、Grade 2肺出血) ではドセタキセル単剤療法に変更された。消化器系の有害事象 (口内炎、イレウス、腸閉塞など) が19例(95.0%)で頻繁に観察された。特に、1例(5.0%)ではGrade 3の腸閉塞が8日目に発生し、集中治療室での管理を要した。Grade 3の好中球減少症は3例 (15.0%)、発熱性好中球減少症は1例 (5.0%) で認められたが、この発熱性好中球減少症の患者は予防的PEG-G-CSFを投与されていなかった。間質性肺炎や治療関連死亡は認められなかった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究で得られたORR 60.0%という極めて高い反応率は、これまでのラムシルマブとドセタキセル併用療法の報告(REVEL試験の23%やJVCG試験の28.9%)と異なり、大幅に高い数値であった。また、消化管毒性(口内炎、イレウス、腸閉塞など)が頻繁に観察された点も、これまでの安全性プロファイルと異なり、本治療シーケンスに特有の安全性課題である可能性が示された。
新規性: 本研究で初めて、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 後のchemo-sensitization効果が、細胞傷害性薬剤と抗血管新生薬の併用療法においても発揮される可能性を新規に示した。特に、ニボルマブ不応後のラムシルマブとドセタキセル併用療法が、分子標的薬に匹敵する高い奏効率を達成することをこれまで報告されていない独自の知見として明らかにした。
この高い奏効率の機序としては複数の仮説が考えられる。第一に、PD-1抗体の長い半減期 (約2ヶ月) により、化学療法投与時にもPD-1抗体が持続的にPD-L1に結合し、抗腫瘍免疫が維持される可能性が挙げられる (Patnaik et al. 2015)。第二に、化学療法自体がMDSC (myeloid-derived suppressor cell) やTreg (T-regulatory cell) を除去し、抗原提示を促進し、腫瘍細胞におけるデスレセプターの発現を上方制御することで、免疫抑制微小環境を解除する免疫調節効果を持つことが報告されている (Ramakrishnan et al. 2013)。第三に、VEGFR2阻害がCD (cluster of differentiation) 4陽性およびCD8陽性T細胞の腫瘍内浸潤を増加させ、TregおよびMDSCの数を減少させることで、腫瘍微小環境の免疫抑制を解除する効果が期待される (Manegold et al. 2016)。最後に、抗PD-1抗体と抗VEGFR2抗体の同時阻害が相乗的な抗腫瘍効果を示すという前臨床データ (Yasuda et al. 2013) も、本結果を支持する。これらの複合的な作用が、ニボルマブ不応後のラムシルマブとドセタキセル併用療法における高い奏効率に寄与したと考えられる。
臨床応用: 本知見は、一次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法とICIの併用療法が標準となる臨床現場において、ニボルマブ不応後の最適な治療シーケンスを決定する上での重要な臨床的有用性を持つ。ラムシルマブとドセタキセルの併用療法が、ICI不応後の強力な救済治療オプションとなる可能性を示唆している。
残された課題: 本研究のlimitationとして、単一施設における小規模な後ろ向き研究 (n=20) であること、およびECOG PS 0-1の患者が90%を占めるなど、患者選択にバイアスがある可能性が挙げられる。また、生存期間に関する明確な結論を導くにはサンプルサイズが不十分である。今後の検討課題として、これらの結果を大規模な前向き多施設共同試験で検証し、その有効性と安全性プロファイルをさらに確立することが強く望まれる。
方法
患者選択とデータ収集: 2016年2月から2017年12月にかけて、埼玉医科大学国際医療センターでニボルマブ治療を受けた非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者152例を特定した。このうち、ニボルマブ中止後にラムシルマブとドセタキセルの併用療法を投与され、効果評価が可能な20例を本研究の対象として抽出した。本研究は、特定の介入を伴う前向き試験ではないため、ClinicalTrials.govなどの登録(NCT番号など)は行われていない後ろ向きコホート研究(retrospective cohort study)である。包含基準は、組織学的または細胞学的にNSCLCと診断されていること、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) が0-2であること、年齢が20歳以上であること、ニボルマブ治療後に病勢進行が認められたこと、一次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法を施行済みであること、およびラムシルマブとドセタキセルの併用療法の有効性データが利用可能であることであった。EGFR変異陽性例では、プラチナ製剤ベースの化学療法前にEGFR-TKIを投与されている場合も対象とした。除外基準は、過去3ヶ月以内の心筋梗塞、不安定狭心症、心不全、未コントロールの糖尿病、未コントロールの高血圧、間質性肺炎またはその他の重篤な肺疾患、感染症、化学療法を禁忌とするその他の疾患、妊娠または授乳中であった。本研究は埼玉医科大学国際医療センターの倫理委員会によって承認され、後ろ向き研究であるため文書によるインフォームドコンセントは免除された。
治療プロトコルとエンドポイント: ラムシルマブは10 mg/kgをday 1に、ドセタキセルは60 mg/m²をday 1に、3週間サイクルで静脈内投与された。好中球減少症の予防のため、18例 (90%) の患者にPEG-G-CSF (pegylated granulocyte colony-stimulating factor) がラムシルマブとドセタキセル投与後72時間以内に予防的に投与された。本研究の主要評価項目(primary endpoint)は客観的奏効率 (ORR) であり、副次評価項目(secondary endpoint)は無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルであった。
有効性・安全性評価および統計解析: 治療開始前には、全血球算定、生化学検査、胸部X線、胸部CT、腹部CT、脳MRIまたはCT、骨シンチグラフィーによる評価が行われた。治療中は、毎週の全血球算定、生化学検査、身体診察、および毒性評価が実施された。腫瘍効果はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) v1.1に従って評価された (Eisenhauer et al. 2009)。客観的奏効率 (ORR) は、完全奏効 (CR: complete response) または部分奏効 (PR: partial response) を達成した患者の割合と定義された。病勢コントロール率 (DCR: disease control rate) は、CR、PR、または安定 (SD: stable disease) を達成した患者の割合と定義された。無増悪生存期間 (PFS) は、化学療法開始日から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。全生存期間 (OS) は、化学療法開始日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。有害事象はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0に従って評価された。生存曲線はカプラン・マイヤー法(Kaplan-Meier method)を用いて算出された。また、予後因子の解析にはコックス比例ハザードモデル(Cox proportional hazards model)やログランクテスト(log-rank test)が検討された。統計解析にはSPSSソフトウェア (IBM Corp., Armonk, NY, USA) が使用された。