• 著者: K. Hastings, H. A. Yu, W. Wei, F. Sanchez-Vega, M. DeVeaux, J. Choi, H. Rizvi, A. Lisberg, A. Truini, C. A. Lydon, Z. Liu, B. S. Henick, A. Wurtz, G. Cai, A. J. Plodkowski, N. M. Long, D. F. Halpenny, J. Killam, I. Oliva, N. Schultz, G. J. Riely, M. E. Arcila, M. Ladanyi, D. Zelterman, R. S. Herbst, S. B. Goldberg, M. M. Awad, E. B. Garon, S. Gettinger, M. D. Hellmann, K. Politi
  • Corresponding author: Matthew D. Hellmann (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, USA); Katerina Politi (Yale Cancer Center, Yale School of Medicine, New Haven, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31086949

背景

EGFR変異非小細胞肺癌 (NSCLC) は、EGFR遺伝子のエクソン18-21に多様な変異を持つ分子学的・臨床的に不均一な疾患サブタイプである。これらの変異の多くはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) に対する感受性を付与し、特にEGFR L858R変異とEGFR exon 19 deletion (D19) 変異はTKIに良好な初期反応を示すことが知られている Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004。しかし、TKI治療後にはほぼ全ての患者で獲得耐性が生じ、その後の治療選択肢が限られることが臨床上の大きな課題であった Pao et al. PLoSMed 2005Kobayashi et al. NEnglJMed 2005。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) がNSCLC治療において有望な選択肢として登場し、一部の患者で耐久性のある奏効が報告されているが、EGFR変異NSCLCにおけるICIの効果は限定的であるとされてきた Borghaei et al. NEnglJMed 2015Garon et al. NEnglJMed 2015

これまでの研究では、EGFR変異NSCLCはPD-L1発現、腫瘍変異負荷 (TMB)、CD8+腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) などのICI応答予測因子の陽性率が低いことが報告されているが、一部の臨床試験 (ATLANTIC試験やIMpower150試験など) ではEGFR変異NSCLC患者においてもPD-(L)1阻害薬が有効なケースが示されており、この不一致の原因は未解明であった。EGFR変異NSCLCの分子学的異質性がICIへの応答性に影響を与える可能性が示唆されていたものの、EGFR変異サブタイプ別のICI応答性や、その応答性を規定する分子学的特徴に関する詳細な検討は不足していた。特に、最も頻度の高いD19とL858R変異の間でもTKIに対する反応性に差異があることが報告されており、ICIに対する反応性もアレル特異的である可能性が考えられた。本研究は、EGFR変異NSCLCにおけるICI治療の有効性をEGFRアレルサブタイプ別に詳細に評価し、その応答性を規定する因子を明らかにすることを目的とした。これにより、EGFR変異NSCLC患者におけるICI治療の最適な適用を決定するための知識ギャップを埋めることが期待された。

目的

本研究の目的は、EGFR変異非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者における免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) (抗PD-1/PD-L1単剤または抗CTLA-4との併用) の奏効および生存アウトカムを、EGFRアレルサブタイプ別に詳細に評価することである。具体的には、EGFR exon 19 deletion (D19) 変異とEGFR L858R変異がICI治療に対する反応性に与える影響を、EGFR野生型NSCLCと比較して明らかにすることを目的とした。さらに、ICI応答性の決定因子として、EGFRアレルサブタイプ、EGFR T790M変異の状態、PD-L1発現レベル、腫瘍変異負荷 (TMB)、および喫煙歴などの臨床病理学的特徴を包括的に解析し、これらの因子がICI治療効果にどのように関連するかを明らかにすることを目指した。最終的に、EGFR変異NSCLC患者におけるICI治療の層別化戦略に資する知見を得ることを目的とした。

結果

EGFRサブタイプ別のICI応答性: EGFR変異NSCLC患者171例のICI治療に対する応答性を評価した結果、EGFR D19変異腫瘍はEGFR野生型腫瘍と比較して客観的奏効割合 (ORR) が有意に低かった (5/76例、7% vs 47/212例、22%、p=0.002) (Figure 1A)。一方、EGFR L858R変異腫瘍のORRはEGFR野生型腫瘍と同程度であった (7/44例、16% vs 47/212例、22%、p=0.42) (Figure 1A)。無増悪生存期間 (PFS) は、EGFR D19変異腫瘍 (HR 0.449, 95% CI 0.338-0.595, log-rank p<0.001) およびEGFR L858R変異腫瘍 (HR 0.578, 95% CI 0.412-0.811, log-rank p=0.001) の両方で、EGFR野生型腫瘍と比較して有意に短縮していた (Figure 1B)。全生存期間 (OS) については、EGFR D19変異腫瘍のみがEGFR野生型腫瘍と比較して不良であった (HR 0.69, 95% CI 0.493-0.965, log-rank p=0.03)。EGFR L858R変異腫瘍のOSはEGFR野生型腫瘍と同程度であった (HR 0.917, 95% CI 0.597-1.409, log-rank p=0.69) (Figure 1C)。これらのデータは、特にEGFR D19変異腫瘍がICI治療から得られる恩恵が著しく限定的であることを示唆している。

先行治療ライン数とICI応答性: EGFR L858RおよびEGFR D19変異NSCLC患者におけるICI応答性に対する臨床病理学的因子の影響を検討した。先行治療ライン数が0-2ラインの患者 (n=47) は、3ライン以上の患者 (n=73) と比較して、ORR (9/47例、19% vs 3/73例、4%、p=0.01)、PFS (HR 2.267, 95% CI 1.499-3.427, log-rank p<0.001)、およびOS (HR 1.845, 95% CI 1.204-2.826, log-rank p=0.004) の全てにおいて有意な改善が認められた (Figure 2A-C)。この生存期間の差は、EGFR D19コホートでは統計学的に有意であったが、EGFR L858Rコホートでは有意差は認められなかった。喫煙歴はORRと正の相関を示したが (p=0.01)、PFS (p=0.06) およびOS (p=0.23) とは有意な関連は認められなかった。

T790M状態およびPD-L1発現の影響: EGFR-TKI治療後に耐性を示した患者において、EGFR T790M変異の有無はICI治療の奏効に影響を与えなかった。T790M陽性 (n=52) とT790M陰性 (n=56) の間で、ORR (p=0.21)、PFS (HR 1.348, 95% CI 0.905-2.007, p=0.15)、およびOS (HR 0.878, 95% CI 0.574-1.343, p=0.55) に有意差は認められなかった (Figure 2D-F)。また、PD-L1発現レベル (1%または50%カットオフ) もICIの有効性と関連しなかった。PD-L1発現が1%以上の腫瘍と1%未満の腫瘍の間で、ORR (13% vs 14%、p>0.99)、PFS (HR 1.370, 95% CI 0.761-2.466, log-rank p=0.29)、およびOS (HR 1.747, 95% CI 0.913-3.342, log-rank p=0.084) に有意差は認められなかった (Figure 2G-I)。PD-L1発現はEGFRアレル間でも差はなかった。

EGFRサブタイプ間のTMB差異: 383例の独立したシーケンスコホートを用いてTMBを評価した結果、全EGFR変異腫瘍のTMB中央値は3.8 non-synonymous mutations/Mb (平均5.6) であり、これは未選択NSCLCのTMB中央値7.4や、免疫療法効果の閾値とされる10 non-synonymous mutations/Mbと比較して低い値であった。特に、EGFR D19変異腫瘍はEGFR L858R変異腫瘍と比較して有意に低いTMBを示した (TMBパーセンタイルランク中央値 36.5 vs 50.9、p<0.001) (Figure 3A)。D19変異腫瘍のTMBはEGFR 20InsやL861Q変異腫瘍と同程度であったが、G719変異腫瘍よりは低値であった (p<0.001)。

喫煙歴とTMB: 喫煙歴がEGFRサブタイプ間のTMB差に影響するかを検討したところ、EGFR変異コホート全体では喫煙歴のある患者でTMBが高い傾向が見られたものの、EGFR L858RとEGFR D19変異腫瘍に限定した場合、喫煙歴の有無によるTMBの有意差は認められなかった (中央値 3.8 vs 3.1、p=0.37) (Figure 3B)。また、D19とL858R変異腫瘍の間で喫煙率やパックイヤーの分布に有意な差はなかった (Figure 3C, D)。このことから、D19とL858R変異腫瘍間のTMBの差は、単純な喫煙曝露の差だけでは説明できず、他の分子機序 (例: clock-like mutational process、p53併発変異、診断時年齢差など) が関与している可能性が示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、EGFR変異NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の効果がEGFRアレルサブタイプによって異なることを示した最大規模の多施設後方視的解析である。これまで、EGFR変異NSCLC全体としてICIへの反応が不良であると報告されてきたが、本研究は特にEGFR exon 19 deletion (D19) 変異腫瘍がEGFR L858R変異腫瘍やEGFR野生型と比較してICIから得られる恩恵が著しく少ないことを明らかにした点で、これまでの包括的な報告とは異なる知見を提供する。また、TKI治療においてはD19変異腫瘍がL858R変異腫瘍よりも良好な奏効期間を示すこと (LUX-Lung 3/6試験など) とは対照的であり、遺伝子型に対する治療反応性が薬剤の種類によって文脈依存的であることを強調する。

新規性: 本研究で初めて、EGFR D19変異腫瘍がEGFR L858R変異腫瘍と比較して有意に低い腫瘍変異負荷 (TMB) を有していることを示し、このTMBの差異がICI応答性の差に部分的に寄与している可能性を新規に同定した。さらに、EGFR T790M変異の状態やPD-L1発現レベルがICI効果を予測しなかった点は、現行のPD-L1バイオマーカーがEGFR変異NSCLCにおいて十分な予測能を持たない可能性を示唆する新規の所見である。

臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異NSCLC患者に対するICI治療の臨床応用において重要な含意を持つ。EGFR変異NSCLCでは、一次治療としてオシメルチニブなどのEGFR-TKIが依然として標準治療であり、PD-L1陽性であってもTKI未治療のEGFR変異患者に対するPD-L1阻害薬の有効性は乏しいことが報告されている。また、PD-1阻害後にオシメルチニブを投与した場合に重篤な免疫関連有害事象のリスクがあることも考慮すべきである。したがって、EGFR変異NSCLC患者、特にD19変異を有する患者に対しては、ICI単独療法を慎重に検討し、化学療法や抗血管新生薬との併用療法 (IMpower150試験など) がICI感受性向上戦略として期待される。

残された課題: 本研究の限界としては、後方視的デザイン、異なる施設間でのスキャン間隔の不統一、多様なICI薬剤 (抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4併用) の混在、およびICI治療コホートにおけるTMBデータの不足 (別コホートで代用) が挙げられる。これらの限界は、結果の一般化可能性に影響を与える可能性がある。今後の検討課題として、L858RとD19変異腫瘍におけるTMB差の分子機序をさらに解明すること、アレル特異的な動物モデルを用いたICI治療効果の検証、そして低TMB腫瘍内におけるICI応答サブ集団を特定するための研究が残されている。これらの研究は、EGFR変異NSCLC患者に対する個別化された免疫療法戦略の開発に貢献するであろう。

方法

患者コホート: 本研究は、4つの主要な医療機関 (Yale Cancer Center n=37、Memorial Sloan Kettering Cancer Center n=67、University of California Los Angeles n=35、Dana-Farber Cancer Institute n=32) から、EGFR変異NSCLCと診断されICI治療を受けた171例の患者データを後方視的に収集した多施設後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。患者は臨床試験 (n=97、56.7%) または標準治療 (n=74、43.3%) のいずれかでICI治療を受けていた。ICI治療は抗PD-(L)1単剤、または抗CTLA-4との併用で行われ、これが初回ICI曝露であった。比較対象として、既報のEGFR野生型NSCLC患者212例のデータを用いた。本研究は、各施設でのIRB承認を得て実施された。

TMB解析コホート: ICI治療コホートではシーケンスデータが不足していたため、TMBとEGFR変異サブタイプとの関係を評価するために、治療歴を問わないEGFR変異NSCLC患者383例の独立したコホートを構築した。このコホートは、Yale Cancer Center (n=17)、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (n=313)、およびThe Cancer Genome Atlas (TCGA) (n=53) からのシーケンスデータに基づいて構成された。TMBは、非同義変異の総数を各プラットフォームで捕捉されたコーディング領域のサイズで除して算出された。異なるシーケンスプラットフォーム間のTMB値の差異を補正するため、各コホート内でTMB値をパーセンタイルランクに変換し、統一的な解析を可能とした。

EGFR変異サブタイプ分類: 解析対象のEGFR変異は、主にEGFR exon 19 deletion (D19, n=80)、EGFR L858R (n=46)、EGFR exon 20 insertion (20Ins, n=28)、EGFR G719 (n=7)、EGFR L861Q (n=5)、およびその他の稀な変異 (n=5) に分類された。

エンドポイントと統計解析: 主要評価項目は、客観的奏効割合 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) であった。ORRの比較にはFisherの正確検定 (Fisher’s exact test) が用いられた。PFSおよびOSの解析には、Kaplan-Meier法とログランク検定 (log-rank test) が用いられ、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。PD-L1発現は1%および50%のカットオフ値を用いて評価された。T790M変異の有無、先行治療ライン数 (0-2ライン vs 3ライン以上)、および喫煙歴もICI応答性との関連について検討された。本研究は後方視的デザインであり、スキャン間隔の不均一性や異なるICI薬剤の混在 (抗PD-1 n=140、抗PD-L1 n=15、抗CTLA-4併用 n=16) が潜在的な限界として認識された。