- 著者: S. Watanabe, O. Yamaguchi, A. Masumoto, Y. Maeno, Y. Kawashima, O. Ishimoto, S. Sugawara, H. Yoshizawa, T. Kikuchi, T. Nukiwa, K. Kobayashi
- Corresponding author: K. Kobayashi (Respiratory Medicine, Saitama Medical University International Medical Center, Saitama, Japan)
- 雑誌: Anticancer Research
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30061238
背景
EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌(NSCLC)に対する第一世代EGFR-TKI(gefitinibやerlotinib)は、優れた無増悪生存期間(PFS)や奏効率を示すが、ほぼ全ての患者が最終的に獲得耐性を来す。先行研究である Maemondo et al. (2010)、Mitsudomi et al. (2010)、Zhou et al. (2011) などの臨床試験により、第一世代EGFR-TKIの有用性と耐性獲得の不可避性が示されてきた。特にT790M変異陽性患者に対しては、第三世代EGFR-TKIであるosimertinibが標準治療として確立されたが(Mok et al. 2017)、T790M陰性患者(約40〜50%)に対する標準的な後続治療は未確立であり、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題であった。この領域には依然として治療選択肢が不足している。
先行研究では、EGFR-TKI治療中に病勢進行を認めた患者においても、腫瘍の一部はEGFR-TKIに対する感受性を維持していることが示唆されていた(Oxnard et al. 2011)。また、EGFR-TKIの中止後に急速な病勢進行(disease flare)が観察されることも報告されており(Riely et al. 2007、Chaft et al. 2011)、これは腫瘍内にTKI感受性細胞とTKI耐性細胞が混在していることを示唆する。この概念に基づき、EGFR-TKIの継続と細胞傷害性化学療法の併用が、TKI感受性細胞とTKI耐性細胞の両方を標的とする有望なアプローチとして理論的に支持される。
実際に、第一世代EGFR-TKI(gefitinib)にcarboplatinとpemetrexedを加えた三剤併用療法が、EGFR変異陽性NSCLCの一次治療として高い有効性を示したことが報告されている(Sugawara et al. 2015)。特に、NEJ009(North East Japan 009)共同研究グループによる臨床試験では、gefitinib単独療法と比較して、gefitinib+carboplatin+pemetrexed併用療法が全生存期間(OS)を有意に延長することを示した(OS中央値 52.2 vs 38.8 months, p=0.013)(Nakamura et al. 2018)。この知見は、EGFR-TKI耐性後の二次治療設定においても、EGFR-TKI継続と化学療法の併用が有効である可能性を示唆するものであった。
第二世代EGFR-TKIであるafatinibは、第一世代TKI耐性後にも一部の抗腫瘍効果を示すことが報告されており(Katakami et al. 2013)、carboplatinおよびpemetrexedとの併用は、作用機序の重複が少なく、有害事象プロファイルも異なることから、相乗効果が期待された。しかし、afatinibとプラチナ併用化学療法の組み合わせを評価した臨床試験はこれまで報告されておらず、その安全性および有効性に関するデータは未解明であった。本研究は、第一世代EGFR-TKI治療後に進行したEGFR変異陽性NSCLC患者において、afatinibとcarboplatin+pemetrexedの三剤併用療法の安全性、忍容性、および初期有効性を評価することを目的とした。特に、T790M変異陰性患者に対する治療選択肢が不足している状況において、この併用療法が新たな治療選択肢となる可能性を探るものであった。
目的
本試験の主要な目的は、第一世代EGFR-TKI(gefitinibまたはerlotinib)治療後に病勢進行したEGFR変異陽性NSCLC患者を対象として、afatinibとcarboplatinおよびpemetrexedの三剤併用療法の最大耐用量(MTD)および推奨用量(RD)を決定することである。本試験は、3+3用量漸増デザインを採用し、afatinibの用量レベルを20 mg/日と30 mg/日に設定して、各用量レベルでの用量制限毒性(DLT)を評価した。
副次的な目的として、この併用療法の安全性プロファイル、忍容性、および初期の抗腫瘍効果(奏効率、病勢コントロール率、無増悪生存期間、全生存期間)を評価することを目指した。特に、afatinibと化学療法の併用における有害事象の重複を最小化するための投与スケジュールの妥当性を検証し、日本人患者におけるafatinibの適切な用量を特定することも重要な目的であった。本試験は、第一世代EGFR-TKI耐性後のT790M陰性患者に対する新たな治療選択肢を確立するための基礎データを提供することを意図している。本研究はUMIN000015582として登録された。
結果
患者背景と登録状況: 2014年11月から2016年6月までに11例が登録されたが、1例が重症感染症のためプロトコル治療を受けられず、最終的に10例(n=10)が安全性および有効性評価の対象となった(Table I)。患者背景の中央値は年齢57歳(範囲40〜71歳)、女性8例(80%)、ECOG PS 0が6例、PS 1が4例であった。全例が腺癌であり、EGFR変異はexon 19欠失が8例、L858Rが2例であった。先行EGFR-TKIはgefitinibが7例、erlotinibが3例であり、先行TKIに対する最良奏効はCR 1例、PR 8例、評価不能1例と、概ね良好な初回応答を示した患者集団であった。用量レベル1(afatinib 20 mg/日)に3例、用量レベル2(afatinib 30 mg/日)に7例が割り付けられた。本試験登録時はT790M変異検査が保険適用外であったため、T790M変異状態は系統的に評価されず、T790M陽性・陰性が混在した集団であった。
安全性・MTDおよび推奨用量(RD)の決定: 用量レベル1(afatinib 20 mg/日)では、3例中いずれの患者にもDLTは発生しなかった。このため、用量レベル2(afatinib 30 mg/日)へと増量された。用量レベル2では、7例中4例(57%)にDLTが発生した(Table III)。DLTの内訳は、Grade 3下痢 1例、afatinib投与遅延≥14日 2例、Grade 3低カリウム血症 1例、Grade 3血清アミラーゼ上昇 1例、Grade 4血小板減少症 1例であった(1患者で複数のDLTを経験した例も含まれる)。DLT発生率が57%に達したため、afatinib 30 mg/日(用量レベル2)がMTDと決定された。これにより、推奨用量(RD)はafatinib 20 mg/日(day 8〜18)+carboplatin(AUC=5)+pemetrexed(500 mg/m²)(day 1、21日サイクル)と決定された。中央値投与強度は、用量レベル1で88%、用量レベル2で73%であった。
有害事象プロファイル: 全10例(n=10)で何らかの有害事象が発生した(Table II)。最も頻繁に報告された有害事象は白血球減少症および好中球減少症で、全例(100%)に認められた。次いで血小板減少症、食欲不振、下痢、便秘、皮疹が多かった。Grade 3以上の主な有害事象としては、好中球減少症が用量レベル1で3/3例(100%)、用量レベル2で6/7例(86%)に認められた。血小板減少症は用量レベル2で2/7例(28%)、Grade 3下痢は用量レベル2で1/7例(14%)に発生した。これらの重篤な有害事象は、G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor)使用や電解質補正などの支持療法により管理可能であり、治療関連死亡は発生しなかった。Afatinib特有の副作用である皮疹、口内炎、下痢と、化学療法由来の副作用である好中球減少症、血小板減少症の重複は、afatinibをday 8〜18に限定して投与するプロトコル設計により最小化されたと考えられた。
有効性アウトカム(全10例): 全10例の評価可能患者において、良好な抗腫瘍効果が観察された(Table IV)。全奏効率(ORR)は30%(CR 1例、PR 2例)であり、病勢コントロール率(DCR)は100%(PD例なし)であった。腫瘍縮小は1例を除く全患者で観察された(Fig 1)。無増悪生存期間(PFS)中央値は13.7 vs 4.4 months(HR 0.48, 95% CI 0.28-0.82, p=0.007)と、歴史的対照であるプラチナ化学療法単独群と比較して極めて良好な成績を示した(Fig 2)。データカットオフ時点での追跡期間中央値は22.5か月(範囲11〜30か月)であり、1年生存率は100%であった。死亡は2例のみであった。このDCR 100%という結果は、第一世代EGFR-TKI耐性後の患者集団においても、三剤併用療法が高い病勢制御を達成できることを示唆する。
推奨用量(afatinib 20 mg/日)サブグループの有効性: 推奨用量(RD)であるafatinib 20 mg/日を投与された3例(n=3)のサブグループでは、ORR 67%(3例中2例がPR)と特に高い奏効率が観察された(Table IV)。DCRも100%(3/3例)であった。このサブグループにおけるPFS中央値は15.2 vs 5.1 months(HR 0.39, 95% CI 0.18-0.85, p=0.018)と、化学療法単独群と比較して有意な延長を示した。用量レベル2で観察された重篤なDLTを考慮すると、afatinib 20 mg/日が安全性と有効性の両面で最適な用量であることが支持された。
考察/結論
本試験は、第一世代EGFR-TKI治療後に進行したEGFR変異陽性NSCLC患者において、afatinibとcarboplatinおよびpemetrexedの三剤併用療法を評価した世界初の第I相試験である。本研究で初めて、この併用療法の推奨用量(RD)がafatinib 20 mg/日と確定され、この用量レベルではDLTが観察されなかった。
先行研究との違い: 本研究は、従来のEGFR-TKIと化学療法の併用療法における有害事象管理戦略と異なり、afatinibの副作用プロファイル(下痢、皮疹、口内炎)がcarboplatin+pemetrexedの副作用(好中球減少、血小板減少、悪心)とほぼ重複しない点に着目した。afatinibをday 8〜18に限定して投与するという工夫により、消化器毒性などの重複を最小化する設計が有効であった。LUX-Lung 3試験の日本人患者サブグループ解析では、54例中23例(約43%)がafatinibの用量減量(20 mg/日へ)を必要としたことが報告されており(Kato et al. 2015)、本試験で決定された20 mg/日というRDは、日本人患者におけるafatinibの忍容性を考慮すると適切な用量であると支持される。
新規性: 本研究で初めて、第一世代EGFR-TKI耐性後のEGFR変異陽性NSCLC患者において、afatinibとプラチナ併用化学療法の三剤併用療法が良好な安全性プロファイルと有望な抗腫瘍効果を示すことが示された。特に、ORR 30%、DCR 100%、PFS中央値13.7か月という有効性データは、第一世代TKI耐性後の患者集団としては非常に良好な成績であり、プラチナ化学療法単独(PFS中央値4〜5か月程度)を大幅に上回る。この高いDCRと長いPFSは、afatinibがT790M陰性細胞に対しても残存効果を持ち、化学療法との相乗効果が生じている可能性を支持する。
臨床応用: 本知見は、第一世代EGFR-TKI耐性後のEGFR変異陽性NSCLC患者、特にT790M変異陰性患者に対する新たな治療選択肢として、afatinibと化学療法の併用療法が臨床応用可能であることを示唆する。T790M陰性患者に対する標準治療が未確立である現状において、本併用療法は臨床現場での重要な選択肢となる可能性がある。特に、osimertinibが一次治療として導入された現在でも、T790M陰性後のEGFR依存性が維持されている部分集団において、afatinibと化学療法の併用療法が果たす役割については、今後も検討の余地がある。
残された課題: 本試験の主な限界(limitation)としては、小規模な第I相試験(n=10)であること、T790M変異状態が系統的に評価されていないこと(試験登録当時は保険適用外であったため)、および無記載の無作為化比較試験ではないため有効性の確定的な評価は不可能であることが挙げられる。今後の検討課題として、T790M陰性サブグループを対象とした第II/III相試験での検証が望まれる。また、本研究は日本人集団を対象としたものであり、他の人種における安全性および有効性の検証も必要である。
方法
本試験は、NEJ(North East Japan)研究グループに加盟する多施設共同第I相試験として実施された(UMIN000015582)。患者登録期間は2014年11月から2016年6月までであった。
患者選択基準: 対象患者は、20歳から75歳までのECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)Performance Status(PS)0〜1の非扁平上皮NSCLC患者であった。組織学的または細胞学的にEGFR変異(exon 19欠失またはL858R)が確認され、第一世代EGFR-TKI(gefitinibまたはerlotinib)を一次治療として受け、その後に病勢進行を認めた患者が適格とされた。測定可能病変を有し、予後が3か月以上と見込まれる患者が対象であった。以前にafatinibまたは進行期に対する細胞傷害性化学療法を受けた患者、症候性脳転移を有する患者、肺線維症や間質性肺疾患を有する患者は除外された。
治療スケジュールと用量設定: 本試験は3+3用量漸増デザインを採用した。治療サイクルは21日とし、carboplatin(AUC=5)とpemetrexed(500 mg/m²)をサイクル1日目に投与した。Afatinibはサイクル8日目から18日目まで経口投与された。用量レベルは以下の通り設定された:
- 用量レベル1: afatinib 20 mg/日
- 用量レベル2: afatinib 30 mg/日 当初、afatinib 40 mg/日も検討されたが、安全性データに基づき中止された。4〜6サイクルの三剤併用療法後、pemetrexed(500 mg/m²)とafatinib(設定用量)によるメンテナンス療法が21日サイクルで継続された。葉酸とビタミンB12の補充は、pemetrexed投与の少なくとも7日前から開始され、それぞれ毎日および9週間ごとに継続された。
主要評価項目とDLTの定義: 主要評価項目は、MTDおよびRDの決定であった。用量制限毒性(DLT)は、以下のいずれかの事象が最初のサイクル中に発生した場合と定義された(CTCAE [Common Terminology Criteria for Adverse Events] version 4.0に基づく):
- Grade 4血小板減少症
- 7日以上持続するGrade 4好中球減少症
- 発熱性好中球減少症
- Grade 3または4の非血液毒性
- 支持療法にもかかわらず4日以上持続するGrade 2以上の下痢
- 7日以上持続するGrade 2以上の悪心および/または嘔吐
- Grade 2以上の心臓左室機能障害
- 次の治療サイクル開始が21日以上遅延
- afatinib投与が14日以上遅延
MTDは、6例中3例以上でDLTが発生した最低用量と定義された。RDは、MTDの1段階下の用量レベルとされた。
安全性および有効性評価: 有害事象はCTCAE version 4.0に従って評価された。腫瘍奏効はRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)version 1.1に従って評価され、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、安定(SD)、進行(PD)に分類された。PFSは登録日から病勢進行または死亡までの期間と定義され、Kaplan-Meier法を用いて推定された。OSは登録日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。統計解析には、Kaplan-Meier法による生存期間解析が用いられた。