• 著者: Sanguine Byun, Sung-Young Lee, Jihoon Lee, Chul-Ho Jeong, Lee Farrand, Semi Lim, Kanamata Reddy, Ji Young Kim, Mee-Hyun Lee, Hyong Joo Lee, Ann M. Bode, Ki Won Lee, Zigang Dong
  • Corresponding author: Zigang Dong (The Hormel Institute, University of Minnesota, Austin, MN); Ki Won Lee (Seoul National University, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-06-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23748694

背景

肺がんは世界的にがん関連死の主要な原因であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) は全肺がんの85%を占める最も一般的な形態である Jemal et al. CaCancerJClin 2011。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (EGFR-TKI) であるゲフィチニブやエルロチニブは、特定のEGFR活性化変異を有するNSCLC患者において顕著な治療効果を示してきた Fukuoka et al. JClinOncol 2003Shepherd et al. NEnglJMed 2005。しかし、これらのEGFR-TKIに対する初期反応が良好であるにもかかわらず、治療を受けた患者の大多数は様々な期間を経て薬剤耐性を獲得する Jackman et al. JClinOncol 2010。報告によると、約70%の症例で耐性はEGFRの二次変異 (T790M) および/またはMET遺伝子増幅に起因することが示されている Pao et al. PLoSMed 2005Engelman et al. Science 2007。したがって、肺がん治療におけるゲフィチニブおよびエルロチニブ耐性を克服するためには、EGFRおよびMETの変化の影響を抑制する新規治療戦略が緊急に必要とされている。

EGFR-TKI耐性を克服するための様々な新しいアプローチが提案されてきた。最近開発された新規阻害剤の中には、二次T790M変異を持つEGFRの活性を減弱できるものもある Zhou et al. Nature 2009。MET増幅はNSCLCにおけるゲフィチニブ耐性症例の25%を占める Engelman et al. Science 2007。MET阻害剤とEGFR阻害剤の併用療法も、治療効果を高める手段として検討されてきた Turke et al. CancerCell 2010。さらに、EGFRおよびMETの関連または下流シグナル伝達経路の阻害も一定の成功を収めている。しかし、これらの従来の戦略は、受容体変異による新たな選択圧を回避できないという根本的な課題を抱えている。

脱ユビキチン化酵素 (DUB) は、主にシステインプロテアーゼファミリーに属し、ユビキチンタグ化された基質の脱共役を媒介する。ユビキチン特異的プロテアーゼ (USP) はDUBのサブクラスであり、治療上重要な特定の標的を持つ。USP8 (ubiquitin-specific peptidase 8) は、Nrdp1、ERBB2、EGFRなど、いくつかの重要な基質の脱ユビキチン化に関与することが報告されている。特に、USP8がEGFRの分解を制御することが示唆されており、本研究者らは、直接RTKを阻害する従来型戦略ではなく、内因性制御因子を操作することでRTK総量を低下させる新規治療戦略を提案した。しかし、USP8がゲフィチニブ耐性NSCLCにおいて複数のRTKを同時に標的とし、耐性を克服できるかについては未解明な点が残されていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。従来の治療戦略では、薬剤耐性の出現により効果が不足しており、新たなアプローチが強く求められていた。

目的

本研究の目的は、脱ユビキチン化酵素であるUSP8が、ゲフィチニブ耐性および感受性NSCLC細胞に対する新規治療標的となりうるかを検証することである。具体的には、siRNAによるUSP8の遺伝子サイレンシングおよび合成小分子USP8阻害剤を用いて、in vitroの細胞培養モデルおよびin vivoの異種移植マウスモデルにおいて、USP8阻害がNSCLC細胞の生存率、増殖、および複数の受容体型チロシンキナーゼ (RTK) の発現に及ぼす影響を評価する。さらに、USP8阻害が正常細胞に与える影響を評価し、その選択的殺傷効果のメカニズムを解明することも目的とする。最終的に、USP8がゲフィチニブ耐性NSCLCを克服するための有望な治療標的となりうるか、そしてその臨床的応用可能性を評価する。本研究は、RTKの分解を促進することで、既存のRTK阻害剤耐性を克服する新たな治療戦略の確立を目指すものである。

結果

USP8ノックダウンによるNSCLC細胞の選択的殺傷: siRNAによるUSP8のノックダウンは、ゲフィチニブ耐性NSCLC細胞株であるH1975およびH1650において、細胞生存率の顕著な低下を誘導した (Fig. 1A)。これはGiemsa染色およびMTSアッセイによって確認された。si-USP8をトランスフェクションしたH1975およびH1650細胞では、モックトランスフェクション細胞と比較して細胞生存率が劇的に減少した。USP8ノックダウンにより、H1975細胞の生存率は対照群と比較して約60%減少し、H1650細胞では約70%減少した。さらに、USP8ノックダウンはNSCLC細胞においてアポトーシスを誘導したが、正常気管支上皮細胞では誘導しなかった (Supplementary Fig. S2C)。対照的に、正常ヒト気管支上皮細胞、ヒト肺線維芽細胞、および初代皮膚線維芽細胞では、USP8ノックダウンによる生存率への影響はほとんど見られなかった (Fig. 1B)。ゲフィチニブおよびエルロチニブは、これらのNSCLC細胞または正常細胞の生存率に有意な影響を示さなかった。USP8の有効なノックダウンはウェスタンブロッティングによって確認された (Fig. 1C)。

USP8ノックダウンによる複数のRTK発現抑制: USP8ノックダウンがゲフィチニブ耐性NSCLC細胞におけるRTKに与える影響を評価するため、Human Phospho-RTKアレイを用いた。H1975およびH1650細胞において、USP8ノックダウンによりEGFR、ERBB2、ERBB3、およびMETのリン酸化が顕著に減少した (Fig. 2A)。ウェスタンブロッティングにより、USP8ノックダウンはRTKのリン酸化だけでなく、EGFR、ERBB2、ERBB3、およびMETの全長タンパク質量も減少させることを確認した (Fig. 2B)。例えば、H1975細胞では、USP8ノックダウンによりリン酸化EGFRレベルが約80%減少し、全長EGFRも約50%減少した。一方、これらのRTKのmRNAレベルには変化が見られなかった (Supplementary Fig. S3)。このことは、USP8が翻訳後修飾、特にユビキチン-プロテアソーム経路を介してこれらのRTKの分解を制御していることを示唆している。

合成USP8阻害剤によるNSCLC細胞増殖の選択的抑制: 新規合成USP8阻害剤である9-ethyloxyimino-9H-indeno[1,2b]pyrazine-2,3-dicarbonitrileは、in vitroでUSP8の脱ユビキチン化活性を用量依存的に効果的に減弱させた (IC50 <2.5 μmol/L) (Fig. 3B)。このUSP8阻害剤は、ゲフィチニブ耐性NSCLC細胞株 (H1975、H1650、HCC827GR) およびゲフィチニブ感受性NSCLC細胞株 (HCC827) のいずれにおいても、細胞生存率を著しく低下させた (Fig. 3C)。H1975細胞では、1 μmol/LのUSP8阻害剤で細胞生存率が約70%抑制された。しかし、正常気管支上皮細胞 (HBTEC、NL20) および肺線維芽細胞 (CCD8-Lu、WI-38) では、USP8阻害剤による生存率への影響は観察されなかった。USP8阻害剤処理はNSCLC細胞でアポトーシスを誘導したが、正常気管支上皮細胞では誘導しなかった (Supplementary Fig. S4)。NSCLC細胞におけるUSP8、EGFR、ERBB2、ERBB3、およびMETの基礎発現レベルは、正常細胞と比較して有意に高かった (Fig. 3D)。

USP8阻害剤によるRTK発現および下流シグナル伝達の抑制: USP8阻害剤 (1 μmol/L) またはゲフィチニブをNSCLC細胞に投与し、RTKレベルと下流シグナル伝達への影響を調べた。USP8阻害剤処理は、ゲフィチニブ耐性および感受性NSCLC細胞のいずれにおいても、リン酸化および全長EGFR、ERBB2、ERBB3、METを抑制した (Fig. 4A-D)。例えば、H1975細胞では、USP8阻害剤によりリン酸化EGFRが約90%抑制され、全長EGFRも約70%減少した。さらに、RTKの下流標的であるSTAT3、Akt、およびERKのリン酸化も顕著に抑制された。対照的に、ゲフィチニブはゲフィチニブ感受性HCC827細胞でのみ下流シグナル伝達を抑制し、耐性NSCLC細胞では効果を示さなかった。

USP8阻害によるユビキチンと標的RTKの共局在の増強: USP8阻害剤処理がRTKのユビキチン化に与える影響を調べるため、免疫蛍光染色を行った。USP8阻害剤処理後、H1650細胞においてユビキチンとEGFR (Fig. 5A) およびERBB2 (Fig. 5B) の共局在が増加することが観察された。これは、USP8阻害がこれらのRTKのユビキチン化を促進し、その分解を誘導していることを示唆している。対照群と比較して、USP8阻害剤処理群ではユビキチンとEGFRの共局在シグナルが約2.5倍に増加した。

異種移植モデルにおけるNSCLC腫瘍増殖の抑制: in vivoでのUSP8阻害剤の抗がん活性を評価するため、ヌードマウスにゲフィチニブ耐性H1975およびHCC827GR細胞、ならびにゲフィチニブ感受性HCC827細胞を皮下移植した。USP8阻害剤 (0.2または1 mg/kg) は、ゲフィチニブ耐性および感受性NSCLC腫瘍の増殖を有意に抑制した (Fig. 6A-C)。H1975細胞を移植したマウスでは、USP8阻害剤 1 mg/kg群の腫瘍重量は対照群の4.5 gに対し1.8 gに減少した (p<0.001)。HCC827GR細胞を移植したマウスでは、腫瘍重量は対照群の1.6 gに対し0.8 gに減少した (p<0.001)。特に、1 mg/kgのUSP8阻害剤は、ゲフィチニブ10 mg/kgよりもH1975およびHCC827GR耐性腫瘍に対して有効であった。一方、ゲフィチニブは感受性HCC827腫瘍においてUSP8阻害剤よりも強力な腫瘍増殖抑制効果を示した。摘出した異種移植腫瘍組織の免疫組織化学分析により、USP8阻害剤投与群ではリン酸化EGFR、ERBB3、およびc-METが顕著にダウンレギュレーションされていることが確認された (Fig. 6D)。

考察/結論

本研究は、脱ユビキチン化酵素USP8の阻害が、EGFR、ERBB2、ERBB3、METといった複数の発がん性RTKの全長タンパク質量を同時にダウンレギュレーションすることで、ゲフィチニブ耐性および感受性NSCLC細胞に対して選択的な殺傷効果を発揮することを初めて示した。

先行研究との違い: 従来のRTK阻害剤戦略は、受容体変異や増幅による耐性出現を免れないという課題があった。これまでの研究では、変異型EGFRやMETの活性を抑制することに焦点が当てられてきたが、本研究はこれらと異なり、内因性の脱ユビキチン化酵素であるUSP8を標的とすることで、複数のRTKの総量レベルでの分解を誘導するという新規のパラダイムを提供する。これにより、受容体変異や増幅といった耐性回避機構を根本から除去できる可能性が示唆される点が、従来の治療法と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、USP8の遺伝子サイレンシングまたは薬理学的阻害が、in vitroおよびin vivoの両方で、ゲフィチニブ耐性および感受性NSCLC細胞の生存率を劇的に低下させることを実証した。特に、USP8阻害が正常細胞にはほとんど毒性を示さず、がん細胞に対して選択的な殺傷効果を持つことは新規の発見である。また、USP8およびその標的であるRTK (EGFR, ERBB2, ERBB3, MET) の発現レベルがNSCLC細胞で正常細胞よりも高いという知見は、この選択性の分子基盤を明らかにするものであり、治療的ウィンドウを提供する。

臨床応用: 本知見は、NSCLC治療における新たな治療標的としてUSP8の大きな可能性を示唆する。臨床応用上の示唆として、1) T790M変異やMET増幅といった異なる耐性機序を持つNSCLC患者の両方に対応できる可能性、2) 正常細胞に対する毒性が低いことによる副作用の軽減、3) HER2陽性乳がんなど、USP8の基質であるRTKに依存する他の腫瘍タイプへの治療法の拡張可能性が挙げられる。特に、ゲフィチニブ耐性HCC827GR細胞が、ゲフィチニブ感受性HCC827細胞よりもUSP8阻害剤に対して高い感受性を示したことは、RTK依存度が高い腫瘍ほどUSP8阻害に感受性が高い可能性を示唆しており、個別化医療への道を開く。

残された課題: 今後の検討課題として、USP8阻害剤の薬物動態学的プロファイル、詳細な毒性評価、および長期的なin vivo効果の評価が残されている。また、USP8がHGF受容体以外の他の基質に与える影響や、T790M選択的TKIなどの既存治療薬との併用療法の最適化についてもさらなる研究が必要である。臨床試験に向けた製剤化と、個別腫瘍のRTK発現プロファイルに基づくバイオマーカー戦略の確立も重要なステップとなる。本研究のlimitationとして、ヒトでの臨床試験データがまだないことが挙げられる。

方法

細胞株と培養: ゲフィチニブ耐性NSCLC細胞株 (H1975、H1650、HCC827GR) およびゲフィチニブ感受性NSCLC細胞株 (HCC827) をRPMI培地で培養した。正常細胞として、正常肺線維芽細胞 (CCD-8Lu、WI-38)、正常気管支上皮細胞 (NL20、HBTEC)、およびヒト皮膚線維芽細胞を用いた。HCC827GR細胞はDr. Pasi A. Jänne (Harvard Medical School) から提供された。

細胞生存率アッセイ: 細胞を96ウェルプレートに播種し、Giemsa染色またはMTS試薬 (Promega) を用いて細胞生存率を測定した。

RNA干渉: USP8を標的とする2種類のsiRNA (si-USP8 #1, #2; Bioneer) またはスクランブルsiRNA (si-scrambled; Bioneer) をLipofectamine 2000 (Invitrogen) を用いて細胞にトランスフェクションした。USP8のノックダウン効率はウェスタンブロッティングで確認した。

ウェスタンブロッティング: 細胞を溶解バッファー (Pierce) で溶解し、タンパク質を抽出した。SDS-PAGE後、PVDF膜に転写し、USP8、リン酸化EGFR、ERBB2、ERBB3、MET、STAT3、Akt、ERKおよびそれぞれの全長タンパク質に対する特異抗体を用いて免疫ブロッティングを行った。β-アクチンをローディングコントロールとして用いた。

RTKアレイ: ヒトPhospho-RTKアレイキット (R&D Systems) を用いて、42種類のヒトRTKのリン酸化プロファイルを解析した。

免疫蛍光顕微鏡: H1650細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、EGFRまたはERBB2 (緑) およびユビキチン (赤) に対する抗体で免疫染色した。DAPIで核を染色し、Zeiss LSM700共焦点スキャンニング顕微鏡で画像を撮影した。

アポトーシス解析: Annexin V染色後、BD FACSCaliburフローサイトメーター (BD Biosciences) を用いてアポトーシス細胞の割合を測定した。

半定量的RT-PCR: TRIzol試薬 (Tel-Test, Inc.) を用いて総RNAを抽出し、逆転写反応を行った。GAPDH、Met、EGFR、ErbB3、ErbB2、USP8のmRNA発現をPCRで評価した。

USP8阻害剤: 合成USP8阻害剤である9-ethyloxyimino-9H-indeno[1,2b]pyrazine-2,3-dicarbonitrile (ref. 27) を用いた。in vitroでのUSP8 DUB活性はDUB-Glo Protease Assay (Promega) で測定した。

動物実験: 6週齢の雄ヌードマウス (Seoul National University) を使用した。H1975 (4 × 10^6)、HCC827GR (5 × 10^6)、HCC827 (5 × 10^6) 細胞をMatrigelと混合し、マウスの側腹部に皮下移植した。腫瘍体積が約100 mm^3に達した後、USP8阻害剤 (0.2または1 mg/kg) またはゲフィチニブ (1または10 mg/kg) を週5回腹腔内投与した。腫瘍体積は毎週測定し、実験最終日に腫瘍重量を測定した。n=12 mice (H1975), n=12 mice (HCC827GR), n=11 mice (HCC827) が各群に割り当てられた。

免疫組織化学: 摘出した腫瘍組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋した。リン酸化EGFR、ERBB3、c-METに対する抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。抗原賦活化にはクエン酸バッファー (pH 6.0) またはEDTAバッファーを用いた。

統計解析: データの統計解析には、適切な統計手法が用いられたが、具体的な手法の詳細は記載されていない。結果は平均値±標準偏差で示され、群間の比較にはStudentのt検定またはANOVAが用いられたと考えられる。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。