• 著者: Offin M, Rizvi H, Tenet M, et al.
  • Corresponding author: Hellmann MD (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-07-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30045933

背景

腫瘍変異負荷 (TMB) は、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) 治療に対する奏効を予測するバイオマーカーとして、非小細胞肺癌 (NSCLC) を含む様々な癌種でその有用性が確立されつつある。例えば、Rizvi et al. Science 2015LeDung et al. Science 2017らの研究では、高TMBがICBへの感受性と関連することが示されている。しかし、EGFR-TKIなどの分子標的治療において、TMBが治療効果に与える影響についてはこれまで十分に検討されておらず、その臨床的意義は未解明であった。

EGFR変異陽性NSCLCは、全NSCLCの約20%を占め、エクソン19欠失 (ex19del) やエクソン21のL858R変異が最も一般的である。これらの患者に対しては、第1/2世代EGFR-TKI (erlotinib、gefitinib、afatinib) が標準的な初回治療として用いられ、高い奏効率 (約70%) と中央値9〜12か月の無増悪生存期間 (PFS) を達成することが知られている (Mok et al. NEnglJMed 2009Mitsudomi et al. LancetOncol 2010Rosell et al. LancetOncol 2012)。しかし、これらの治療に対する耐性発現の時期や、それに伴う治療効果の持続期間は患者間で大きく異なり、その分子的背景は十分に解明されていなかった。

先行研究では、TMBが高い腫瘍はより多くのネオアンチゲンを発現し、免疫原性が高いことでICBに奏効しやすいと考えられている (Schumacher et al. Science 2015)。一方で、EGFR-TKIのような分子標的治療においては、高TMBが腫瘍のゲノム不安定性や多様性を反映し、治療選択圧下で耐性サブクローンがより早期に出現する可能性が示唆されていた。この仮説に基づけば、高TMBはEGFR-TKIの治療効果を低下させる方向に働く可能性がある。このような背景から、EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKI治療効果とTMBの関連を詳細に評価し、TMBが新たな予測バイオマーカーとなりうるか否かを検討する必要があった。特に、TMBが免疫療法とは逆の方向で分子標的治療に影響を与える可能性は、TMBバイオマーカーの治療モダリティ特異的な解釈の重要性を示唆するものであり、この領域における知識のギャップを埋めることが求められていた。これまでの研究では、TMBの役割は主に免疫療法に限定されており、分子標的治療におけるTMBの臨床的有用性に関するデータは不足していた。

目的

本研究の目的は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) のMSK-IMPACT次世代シーケンシング (NGS) データを持つEGFR変異 (エクソン19欠失またはL858R) 陽性の転移性NSCLC患者を対象に、第1/2世代EGFR-TKI治療におけるTMBと臨床アウトカム (治療中止までの期間: TTD、全生存期間: OS) との関連性を評価することである。具体的には、TMBがEGFR-TKIの治療効果を予測するバイオマーカーとして機能しうるかを検討し、その結果が免疫療法におけるTMBの役割とどのように異なるかを明らかにすることを目指した。また、TMBと共存する遺伝子変異、特にTP53変異との関連性や、EGFR-TKI耐性獲得時におけるTMBの変化についても解析し、耐性メカニズムにおけるTMBの役割を考察することも目的とした。本研究は、TMBがEGFR変異陽性NSCLC患者におけるEGFR-TKIの治療選択や予後予測に新たな情報を提供しうるかを探求するものであった。

結果

患者背景とTMB分布: 本研究には、EGFR変異 (エクソン19欠失またはL858R) 陽性NSCLC患者153例が組み入れられた。患者背景として、非喫煙者が62%、L858R変異が39%、初回EGFR-TKIとしてerlotinibが92%を占めた (Table 1)。中央値追跡期間は24か月であった。MSK-IMPACTによるTMBは0.82〜17.9 mutations/Mbの広範囲に分布し、中央値は3.77 mutations/Mbであった。比較対照として解析したEGFR野生型肺腺癌1,849例のTMB中央値は6.12 mutations/Mbであり、EGFR変異陽性NSCLCはEGFR野生型と比較してTMBが有意に低い集団であることが確認された (Mann-Whitney P<0.0001) (Figure 1A)。

EGFR変異型とTMBの差異: EGFR変異型別のTMB比較において、L858R変異群はエクソン19欠失群よりもTMBが有意に高かった (中央値4.72 vs 3.17 mutations/Mb、Mann-Whitney P=0.003) (Figure 1B)。喫煙歴 (P=0.23) やTP53共変異の有無 (P=1.0) に差はなかった。この結果は、L858R変異がより多くのゲノム変化を伴って発生しやすい腫瘍背景を持つ可能性を示唆し、両変異型間で報告されている臨床的予後差 (一般にエクソン19欠失がより良好) の一部をTMB差として説明できる可能性が示唆された。

高TMBとEGFR-TKI治療期間 (TTD) の短縮: TMBを三分位で比較すると、TTDの中央値は低TMB群16.7か月、中TMB群16.0か月、高TMB群9.6か月であり、TMBが高いほどTTDが有意に短いという明確な用量反応的グラジエントが認められた (log-rank trend P=0.002) (Figure 1D)。特に、低/中TMB群と高TMB群を比較した場合、高TMB群はTTDが有意に短く、ハザード比は0.46 (95% CI 0.29-0.72, P=0.0008) であった。中央値TMBで二分した場合も、低TMB群のTTD中央値17か月に対し、高TMB群では10か月と有意に短く (HR 0.56, 95% CI 0.37-0.84, P=0.006)、高TMBが早期耐性出現の予測因子となることが示された。このTTDの短縮は、TMBがEGFR-TKIの治療効果の持続期間に直接的な影響を与えることを示唆している。

高TMBと全生存期間 (OS) の有意な短縮: OS中央値もTTDと同様に、低TMB群40.6か月、中TMB群37.3か月、高TMB群20.6か月と、TMBが高いほどOSが有意に短いという用量反応的勾配を示した (log-rank trend P=0.02) (Figure 1E)。低/中TMB群と高TMB群のOSを比較すると、高TMB群でOSが有意に短く、ハザード比は0.40 (95% CI 0.22-0.71, P=0.006) であった。中央値TMBで二分した場合も、低TMB群のOS中央値41か月に対し、高TMB群では29か月と有意に短く (HR 0.52, 95% CI 0.28-0.94, P=0.03)、高TMBと短いOSの関連が一貫して認められた。OS中央値の差は低TMB群と高TMB群で20か月に達しており、臨床的に極めて意義深い差であった。この結果は、TMBがEGFR変異NSCLC患者の長期予後を予測する強力なバイオマーカーとなりうることを示している。

TP53変異およびEGFR変異型調整後の独立予後効果: 高TMB群ではTP53変異が有意に多く (71% vs 52%、Fisher exact test P=0.037)、SMARCA4変異も多かった (14% vs 3%、Fisher exact test P=0.016)。Cox多変量解析において、TMB (低/中 vs 高)、TP53変異状態 (野生型 vs 変異型)、およびEGFR変異型 (エクソン19欠失 vs L858R) を共変量として調整した後でも、低/中TMBは高TMBに対して有意に良好なTTD (HR 0.57, 95% CI 0.37-0.87, P=0.009) およびOS (HR 0.50, 95% CI 0.27-0.91, P=0.025) を示した (Figure 2C, 2D)。この結果は、TMBの予後・予測効果がTP53変異やEGFR変異型から独立した独自の情報を持つことを確認するものであった。TP53変異の有無に関わらず、TMBによる層別化が有効であることも示された (Figure 2A, 2B)。

EGFR-TKI耐性時のTMB上昇と耐性機序との関連: EGFR-TKI治療前後の対ペアNGSデータを持つ30例の解析では、耐性獲得時にTMBが有意に上昇した (中央値3.42 mutations/Mbから6.56 mutations/Mbへ、Wilcoxon signed-rank test P=0.008) (Figure 3A)。この耐性時TMB上昇は、治療選択圧下での腫瘍細胞のゲノム不安定性蓄積を反映していると考えられる。T790M耐性患者 (n=45) は非T790M耐性患者 (n=39) と比較して、前治療TMBが数値的に低い傾向にあった (中央値3.77 vs 4.77 mutations/Mb、Mann-Whitney P=0.057) (Figure 3B)。この傾向は、T790M変異が単一の選択的変異による比較的単純な耐性機序であるのに対し、T790M非依存性耐性 (バイパス経路活性化や表現型転換など) はより複雑なゲノム変化を伴うことと整合する可能性が示唆された。

考察/結論

本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者において、TMBが第1/2世代EGFR-TKIの臨床効果と負の相関を示すことを初めて明らかにした。この知見は、高TMBが免疫チェックポイント阻害剤の奏効を改善するのとは対照的であり、同じTMBバイオマーカーであっても治療モダリティによって予測方向が異なるという新規の概念を提示するものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、TMBは主に免疫療法の予測バイオマーカーとして注目されてきたが、本研究は分子標的治療におけるTMBの役割を詳細に解析した点で先行研究と異なる。特に、高TMBがEGFR-TKIの治療効果を短縮させるという逆相関の関係は、免疫療法におけるTMBの役割とは対照的であり、TMBの解釈が治療文脈に依存することを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるTMBとEGFR-TKIの治療効果の間に有意な負の相関があることを示した。高TMBはTTDおよびOSの有意な短縮と関連し、多変量解析でもTP53変異状態やEGFR変異型から独立した予測因子であることが確認された。また、EGFR-TKI耐性獲得時にTMBが有意に上昇するという所見は、治療選択圧下での腫瘍のゲノム不安定性亢進と耐性経路の多様化を示唆するものであり、これも新規の発見である。

臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者のEGFR-TKI治療における予後予測および治療戦略の最適化に臨床的意義を持つ。TMBを他のバイオマーカー (TP53変異状態、EGFR変異型など) と組み合わせることで、EGFR-TKIの治療効果の持続期間をより正確に予測し、高TMB患者においては早期の耐性発現を念頭に置いた治療計画や、新たな治療法の開発が必要となる可能性が示唆される。例えば、高TMB患者では、より強力な初回治療や、耐性メカニズムを標的とした併用療法の検討が考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究が第1/2世代EGFR-TKIに焦点を当てた後方視的解析である点が挙げられる。現在、初回治療として広く用いられている第3世代EGFR-TKIであるosimertinibにおけるTMBの役割については、前向き研究による検証が必要である。また、他のoncogene-driven肺癌や他の固形癌における分子標的治療とTMBの関連性についても、その外挿性を評価するための研究が求められる。さらに、TMB上昇が免疫原性の増加に繋がる可能性も示唆されるが、EGFR-TKI耐性後の免疫療法効果との関連性については、さらなる詳細な解析が必要である。本研究はTTDを主要な代理エンドポイントとして用いたが、これはPFSと密接に相関することが示されているものの、最終的な結論には前向き研究によるOSの検証が不可欠である。

方法

本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (ニューヨーク州、ニューヨーク) にて実施された後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) であり、施設内倫理委員会の承認を得て、米国Common Ruleに準拠して行われた。全ての患者からインフォームドコンセントを取得した。

患者選択: 2010年1月から2017年9月の期間に、MSK-IMPACTによるNGS検査を受けたEGFR変異 (エクソン19欠失またはL858R) 陽性の転移性NSCLC患者を特定した。初回TKIとして第1/2世代EGFR-TKI (erlotinib、gefitinib、afatinib) を投与された患者153例を対象とした。比較対照として、2014年1月から2018年3月にMSK-IMPACTでプロファイリングされたEGFR野生型肺腺癌1,849例のTMBデータも解析に用いた。研究対象患者の選択基準には、EGFR ex19delまたはL858R変異を有すること、初回治療として第1/2世代EGFR-TKIを投与されたこと、NGS検査時に転移性疾患が確認されていることが含まれた。

NGSとTMBの定義: MSK-IMPACTはFDA承認の標的NGSプラットフォームであり、341、410、または468遺伝子パネルを用いて体細胞変異、コピー数変化、および特定の遺伝子融合を検出する。TMBは、非同義のSNVおよびindelの総数を、各パネルの捕捉領域 (341遺伝子: 0.98 Mb、410遺伝子: 1.06 Mb、468遺伝子: 1.22 Mb) で除した値として定義された。MSK-IMPACTプラットフォームによるTMB推定値は、全エクソームシーケンス (WES) 由来のTMBと高い相関を示すことが先行研究で報告されている。

TMBの層別化: EGFR変異陽性コホート内では、TMBを三分位 (低群: ≤2.83 mutations/Mb、中群: 2.84〜4.85 mutations/Mb、高群: >4.85 mutations/Mb) および中央値 (3.77 mutations/Mb) で層別化した。

臨床アウトカム評価: 主要評価項目はTTD (time to treatment discontinuation) とOS (overall survival) であった。TTDはEGFR-TKI投与開始日から最終投与日までと定義され、OSはTKI投与開始日から死亡日または最終追跡日までと定義された。

統計解析: TMBサブグループ間のアウトカムの差は、Kaplan-Meier法を用いて評価し、log-rank検定で比較した。ハザード比 (HR) はMantel-Haenszel法を用いて算出した。共変量としてTP53変異状態、EGFR変異型 (exon 19欠失 vs L858R)、およびTMBを統合したCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) による多変量解析を実施した。群間のTMB差はMann-Whitney U検定で、対ペア比較はWilcoxon符号順位検定で評価した。比率の比較にはFisherの正確検定を用いた。

耐性時TMB解析: EGFR-TKI治療前後の対ペア組織NGSデータを持つ30例において、耐性獲得時のTMB変化を解析した。また、T790M変異の有無と前治療TMBとの関連も検討した。