• 著者: Zhang N, Zeng Y, Du W, Zhu J, Shen D, Liu Z, Huang JA
  • Corresponding author: Huang JA (First Affiliated Hospital of Soochow University, Suzhou, China)
  • 雑誌: International Journal of Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27499357

背景

プログラム細胞死タンパク質1 (PD-1) / プログラム細胞死リガンド1 (PD-L1) 経路を介したシグナル抑制は、T細胞およびB細胞の機能を効果的に阻害し、免疫応答の調節において重要な役割を果たすことが知られている。近年、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるPD-L1の発現が上皮成長因子受容体 (EGFR) の変異状態と関連しているというエビデンスが蓄積されている。具体的には、EGFRシグナル経路の活性化がPD-L1の発現を誘導することが複数の研究で報告されていた。例えば、Akbay et al. CancerDiscov 2013はEGFR駆動型肺腫瘍におけるPD-1経路の活性化が免疫回避に寄与することを示し、Azuma et al. AnnOncol 2014は外科的切除されたNSCLCにおけるPD-L1過剰発現とEGFR活性化変異の関連性を報告している。しかし、EGFR変異NSCLCにおいて、EGFRシグナルがPD-L1発現を誘導する詳細な分子メカニズムは未解明であった。

一方、インターロイキン6 (IL-6) が介在するIL-6/JAK/STAT3経路は、様々な癌の発生、進展、形成において重要な役割を果たすことが広く認識されている。特に、活性化されたSTAT3がPD-L1プロモーターに結合し、PD-L1の転写を促進することが報告されていた。また、先行研究では、EGFRシグナル経路がIL-6/JAK/STAT3経路の活性化に関与することが示唆されていたが、EGFR変異NSCLCにおけるEGFR→IL-6/JAK/STAT3→PD-L1という具体的なシグナル伝達経路の全体像は確立されていなかった。この知識のギャップは、EGFR変異NSCLCにおける免疫回避メカニズムの理解を深め、新たな治療戦略を開発する上で重要な課題として残されていた。特に、EGFR-TKIと免疫療法の併用療法の最適化には、このシグナル経路の解明が不足していた。本研究は、この未解明なメカニズムを明らかにすることで、EGFR-TKIと免疫療法の併用療法の可能性を探ることを目的とした。

目的

本研究の目的は、EGFR変異を有する非小細胞肺癌 (NSCLC) 細胞において、EGFRシグナル経路がIL-6/JAK/STAT3経路を介してPD-L1の発現をどのように制御するかのメカニズムを詳細に解明することである。さらに、PD-L1がNSCLC細胞の生存において果たす内因性役割を評価し、その臨床的意義を考察することも目的とした。具体的には、EGFR活性化がIL-6分泌およびJAK/STAT3経路の活性化を介してPD-L1発現を上方制御するかどうか、そしてEGFR-TKIによるEGFR阻害がこの経路を抑制し、PD-L1発現を低下させるかどうかを検証する。また、PD-L1の発現抑制が腫瘍細胞の増殖およびアポトーシスに与える影響を評価し、PD-L1の腫瘍細胞自律的な生存促進機能の有無を明らかにすることを目指した。これらの知見を通じて、EGFR変異NSCLCにおけるEGFR-TKIと免疫療法の併用療法の可能性について新たな視点を提供することを意図する。

結果

EGFR変異NSCLC細胞株におけるPD-L1の高発現: EGFR変異を有するNSCLC細胞株 (HCC827: exon 19欠失、PC-9: exon 19欠失、H1975: L858R+T790M) は、EGFR野生型細胞株 (SPC-A1、A549、H1299) と比較して、PD-L1のmRNAおよびタンパク質発現レベルが有意に高いことがRT-PCRおよびWestern blot解析により確認された (Figure 1B)。特に、HCC827、PC-9、H1975細胞株では、PD-L1の発現が顕著に高かった。H1299細胞株はEGFR野生型であるにもかかわらずPC-9細胞と同程度のPD-L1発現を示したが、これはTP53遺伝子の欠失がPD-L1発現と関連している可能性が示唆された。この結果は、EGFR活性化変異がPD-L1発現の上方制御に直接的に関与するという仮説の強力な裏付けとなった。

EGF刺激によるPD-L1発現の濃度依存的誘導: HCC827およびPC-9細胞をEGF (0, 25, 50, 75 ng/ml) で刺激すると、EGFRのリン酸化 (p-EGFR) およびSTAT3のリン酸化 (p-STAT3) が濃度依存的に増加し、これに伴いPD-L1のmRNAおよびタンパク質発現も濃度依存的に上昇した (Figure 2A, B)。RT-PCRの結果では、EGF濃度の上昇とともにPD-L1 mRNAレベルが有意に増加し、Western blotでは50 ng/mlのEGF刺激でPD-L1タンパク質が顕著に増加した。このデータは、EGFRシグナルの活性化がPD-L1発現の直接的な上流調節因子として機能し、その活性化の程度がPD-L1の発現量と正に相関することを示している。

Gefitinib処理によるPD-L1発現の用量依存的抑制: EGFR-TKIであるgefitinib (0.1 µM, 0.8 µM) をHCC827およびPC-9細胞に処理すると、p-EGFRの抑制とともに、p-STAT3の有意な低下およびPD-L1のmRNAおよびタンパク質発現の用量依存的な低下が観察された (Figure 2C)。特に、0.8 µMのgefitinib処理ではPD-L1発現が顕著に抑制され、未処理細胞と比較してPD-L1タンパク質発現が約50%減少した (p<0.001)。この結果は、EGFRシグナル経路の薬理学的遮断が、下流のSTAT3経路の不活性化を介してPD-L1発現を効果的に抑制することを示唆している。

IL-6/JAK/STAT3経路の介在メカニズムの確立: ELISA解析により、gefitinib (0.8 µM) 処理はHCC827およびPC-9細胞からのIL-6分泌速度を時系列で有意に抑制することが示された (p<0.01; Figure 3A)。IL-6濃度は未処理細胞では時間とともに増加したが、gefitinib処理細胞ではその増加が著しく緩やかであった。例えば、48時間後のIL-6濃度はgefitinib処理群で未処理群の約30%に減少した。さらに、JAK2阻害薬AG490 (100 µM) を処理すると、PD-L1のmRNAおよびタンパク質発現が有意に低下した (p<0.001; Figure 3B)。STAT3をsiRNAでノックダウンした場合も、PD-L1のmRNAおよびタンパク質発現が有意に低下した (p<0.01; Figure 3C)。これらの結果は、EGFR活性化がIL-6分泌を促進し、その後のJAK/STAT3経路の活性化を介してPD-L1発現を誘導するという詳細なシグナル伝達経路を明確に確立した。

PD-L1の腫瘍細胞生存における内因性役割: PD-L1のsiRNAによるサイレンシング (siPD-L1) は、HCC827およびPC-9細胞の細胞増殖を有意に抑制した (p<0.01; Figure 4B)。コロニー形成アッセイでは、siPD-L1処理によりコロニー形成能が顕著に減少し、コントロールsiRNA処理群と比較してコロニー数が約60%低下した (p<0.001)。さらに、Annexin V/PIアポトーシスアッセイでは、siPD-L1処理によりアポトーシス率が有意に増加した (p<0.01; Figure 5)。例えば、HCC827細胞ではアポトーシス率がコントロールsiRNA処理群の約7%からsiPD-L1処理群では約20%に増加した。これらのデータは、PD-L1が単に免疫抑制分子として機能するだけでなく、腫瘍細胞自体の増殖促進およびアポトーシス回避という内因性の役割を果たすことを強く示唆している。PD-L1の発現抑制が腫瘍細胞の生存能力を低下させることは、PD-L1が腫瘍細胞の自律的な生存シグナル伝達に関与している可能性を示唆する。

考察/結論

本研究は、EGFR変異を有する非小細胞肺癌 (NSCLC) 細胞において、EGFRシグナル経路がIL-6/JAK/STAT3シグナル軸を介してPD-L1発現を正に制御するという新規メカニズムを明確に示した。EGFによるEGFR活性化はIL-6の分泌を増加させ、その結果としてJAK/STAT3経路が活性化され、最終的にPD-L1の発現が上方制御されることが明らかになった。この経路は、EGFR-TKIであるgefitinibによって効果的に抑制され、IL-6分泌の低下、STAT3の脱リン酸化、そしてPD-L1発現の低下という連鎖反応を引き起こす。

先行研究との違い: これまでの研究では、EGFR変異とPD-L1発現の関連性や、STAT3がPD-L1プロモーターに結合して転写を促進することは示唆されていたが、EGFRがIL-6/JAK/STAT3経路を介してPD-L1発現を誘導するという具体的なシグナル軸の全体像は、本研究で初めて詳細に解明された。特に、EGFR阻害がIL-6分泌を抑制するという知見は、EGFR-TKIの抗腫瘍メカニズムに新たな視点を提供する点で、これまでの報告と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1がT細胞抑制という免疫学的機能だけでなく、腫瘍細胞自体の増殖促進およびアポトーシス回避という内因性役割を果たすことを示した。PD-L1のサイレンシングが細胞増殖を抑制し、アポトーシスを増強するという結果は、PD-L1が腫瘍細胞の生存に直接的に寄与する分子であることを新規に同定したものである。これはこれまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異NSCLCの治療戦略に重要な臨床的含意を持つ。EGFR-TKI耐性獲得後もEGFR変異患者ではPD-L1高発現が維持される可能性があり、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害薬がEGFR-TKI耐性後の有効な治療オプションとなりうる。しかし、EGFR-TKIがPD-L1発現を低下させるという本研究の結果は、EGFR-TKIとPD-1/PD-L1阻害薬の同時併用が効果を相殺する可能性を示唆する。このため、両薬剤の逐次投与や、CTLA-4などの追加の免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせを検討する必要がある。これは、Sharma et al. Science 2015が提唱する免疫チェックポイント療法の未来においても重要な考慮事項となる。これらの知見は、臨床現場での個別化医療の進展に貢献する可能性がある。

残された課題: 本研究は前臨床データに基づいているため、これらの知見を臨床現場に適用する前に、さらなる臨床検証が必要である。また、EGFRシグナルとPD-L1発現に関与する他のシグナル分子 (NFκB、MAPK、PI3K/AKT、mTOR、MEK/ERK/STAT1など) とIL-6/JAK/STAT3経路とのクロストークについても、今後の検討課題として残されている。これらの経路間の複雑な相互作用を解明することで、より効果的な併用療法戦略の開発につながる可能性がある。

方法

本研究では、ヒトNSCLC細胞株として、EGFR変異型細胞株 (HCC827: exon 19欠失、PC-9: exon 19欠失、H1975: L858R+T790M) とEGFR野生型細胞株 (H1299、SPC-A1、A549) を使用した。細胞はRPMI-1640またはDMEM培地(いずれもGibco製)に10% FBSと1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加して培養した。EGFR変異解析は、ゲノムDNAを抽出し、ARMS PCRおよび直接シーケンシングにより実施した。

EGFRシグナル活性化の評価のため、HCC827およびPC-9細胞を様々な濃度 (0, 25, 50, 75 ng/ml) の組換えヒト上皮成長因子 (EGF) で48時間刺激した。PD-L1のmRNA発現はRT-PCRで、タンパク質発現はWestern blotで測定した。EGFRシグナル阻害の評価には、EGFR-TKIであるgefitinib (0.1, 0.8 µM) をHCC827およびPC-9細胞に48時間処理し、PD-L1、リン酸化EGFR (p-EGFR)、リン酸化STAT3 (p-STAT3)、および全STAT3のタンパク質発現をWestern blotで評価した。

IL-6/JAK/STAT3経路の介在を検証するため、gefitinib (0.8 µM) 処理したHCC827およびPC-9細胞の細胞培養上清中のIL-6分泌量を、ELISAキット (Multi Sciences製) を用いて0, 2, 4, 8, 12, 24, 48時間の各時点での濃度を測定した。JAK2阻害薬であるAG490 (100 µM; Sigma-Aldrich製) をHCC827およびPC-9細胞に4時間処理し、PD-L1のmRNAおよびタンパク質発現の変化をRT-PCRおよびWestern blotで評価した。さらに、STAT3およびPD-L1のsiRNA (Shanghai GenePharama Co., Ltd.製) によるサイレンシングを行い、PD-L1発現のSTAT3依存性およびPD-L1の腫瘍細胞生存への影響を評価した。siRNAトランスフェクションはsiRNAトランスフェクションキット (Shanghai GenePharama製) に従って実施した。

PD-L1の腫瘍細胞生存における役割を評価するため、siRNAによるPD-L1サイレンシング後のHCC827およびPC-9細胞の細胞増殖をCCK-8アッセイ (Cell Counting kit-8; Beyotime Institute of Biotechnology製) で24, 48, 72時間後に測定した。コロニー形成アッセイでは、細胞を6-cm培養皿に3x10^3 cells/wellで播種し、1週間後にクリスタルバイオレット染色を行い、ImageJソフトウェアでコロニー数を解析した。アポトーシスは、Annexin V-FITC/PIアポトーシス検出キット (Beyotime Institute of Biotechnology製) を用いて、フローサイトメトリー (FACSCaliberシステム; Beckman Coulter製) で検出した。

統計解析はSPSS 17.0ソフトウェアを用いて、両側Studentのt検定により実施し、p値が0.05未満を有意差ありと判断した。