• 著者: Chuanhao Tang, Hongjun Gao, Xiaoyan Li, Yi Liu, Jianjie Li, Haifeng Qin, Weixia Wang, Lili Qu, Juan An, Shaoxing Yang, Xiaoqing Liu
  • Corresponding author: Xiaoqing Liu (Department of Lung Cancer, Affiliated Hospital of Academy of Military Medical Sciences, Beijing)
  • 雑誌: Journal of Cancer Research and Clinical Oncology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-01-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24401995

背景

非小細胞肺がん(NSCLC)は、がん関連死の主要な原因であり、その治療は近年、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の導入により劇的に改善された。EGFR-TKIは、がん細胞の細胞質に容易に浸透し、EGFRチロシンキナーゼの活性を特異的に阻害することで、がん細胞の増殖と生存を効率的に抑制する。ゲフィチニブ(G)とエルロチニブ(E)は、EGFR変異陽性NSCLC患者に広く使用されている代表的なEGFR-TKIである。これらの薬剤は、EGFR変異と奏効との明確な関連性が一貫して報告されており、特にEGFR変異を有する患者においてその有効性が確立されている (Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004Mok et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. NEnglJMed 2009Maemondo et al. NEnglJMed 2010Mitsudomi et al. LancetOncol 2010Zhou et al. LancetOncol 2011Rosell et al. LancetOncol 2012)。

しかしながら、多くの患者は初期奏効にもかかわらず、最終的に病勢進行(PD)に至り、耐性を獲得する。腫瘍が進行した場合、利用可能な治療選択肢は非常に限られることが課題であった (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005)。近年、以前にEGFR-TKIから利益を得た患者に対するEGFR-TKIの再投与(retreatment)が治療選択肢の一つとして検討されるようになった。先行研究では、ゲフィチニブからエルロチニブへの切り替えに関するデータが多く報告されていたが、逆方向(エルロチニブからゲフィチニブ)や同一薬剤の再投与(ゲフィチニブからゲフィチニブ、エルロチニブからエルロチニブ)の臨床的ベネフィットを比較したデータは不足していた。また、2回目のEGFR-TKI投与における適切な患者選択基準や最適な投与間隔についても、さらなる検証が必要であり、その知見は未解明な点が多かった。本研究は、これら4種類の治療順序間の有効性を比較し、EGFR-TKI再投与の有効性予測因子を後ろ向きに検討することで、これらの知識ギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究の目的は、EGFR-TKIを2回投与された非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、ゲフィチニブ(G)からゲフィチニブ(G)、Gからエルロチニブ(E)、EからE、EからGという4種類の治療順序間の有効性(客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS))に差異があるかを後ろ向きに評価することである。さらに、2回目のEGFR-TKI投与に対する臨床的ベネフィットを予測する因子を特定し、特に初回EGFR-TKIのPFS期間や2回目投与までの期間が再投与効果に与える影響を明らかにすることを目的とした。これにより、EGFR-TKI再投与の適切な患者選択基準と最適な治療戦略に関するエビデンスを提供することを目指した。

結果

コホート概要と患者背景: 本研究には、2005年4月から2012年の間に登録された進行性または術後再発のNSCLC患者120例が組み入れられた。患者の平均年齢は56歳(範囲33-81歳)で、男性61例(50.8%)、女性59例(49.2%)であった。組織型は腺癌が111例(92.5%)と大半を占め、非喫煙者が80例(66.7%)であった (Table 1)。2回のEGFR-TKI治療において、同一薬剤で再治療された患者は49例(40.8%)であり、内訳はゲフィチニブ(G)からGが30例(25%)、エルロチニブ(E)からEが19例(15.8%)であった。異なる薬剤に切り替えた患者は71例(59.2%)であり、GからEが55例(45.8%)、EからGが16例(13.4%)であった。初回EGFR-TKI治療前にEGFR変異検査が65例(54.2%)で実施され、そのうち48例(73.8%)が変異陽性であった(エクソン19欠失が40例、エクソン21 L858R変異が8例)。2回目のTKI投与までの期間に、83例(69.2%)が化学療法を受けていた。初回TKIでのベスト応答は、CR 3例(2.5%)、PR 64例(53.3%)、SD 42例(35.0%)、PD 11例(9.2%)であった。2つのEGFR-TKI投与間の中央投与間隔は4ヶ月(範囲0〜44ヶ月)であった。

2回目EGFR-TKI全体成績と安全性: 2回目のEGFR-TKI投与における全体的な客観的奏効率(ORR)は10.0%(12/120)であり、病勢コントロール率(DCR)は52.5%(63/120)であった (Table 3)。無増悪生存期間(PFS)中央値は2.3ヶ月(95% CI 1.5-3.0ヶ月)であり (Figure 1a)、全生存期間(OS)中央値は8.0ヶ月(95% CI 7.0-8.5ヶ月)であった (Figure 1b)。1年生存率は32.5%に達した。初回EGFR-TKIのORRが55.8%であったことと比較すると、2回目のORRは大幅に低下しており、耐性獲得後の再投与効果の限界が示唆された。安全性に関しては、2回目のEGFR-TKI治療における有害事象は、ほとんどがGrade I〜IIであった (Table 2)。最も一般的な副作用は紅斑(45.8%)と下痢(30.0%)であり、その他に皮膚乾燥(18.3%)、皮膚掻痒症(10.8%)、口腔粘膜炎(9.2%)、倦怠感(8.3%)などが認められた。Grade IIIの有害事象はエルロチニブ投与患者3例(紅斑2例、喀血1例)のみで、対症療法により明らかに改善した。Grade IVの有害事象は認められず、重篤な毒性は報告されなかった。

4つの治療順序間の有効性比較: 4つの異なる治療順序(G→G、G→E、E→E、E→G)間で、ORR、DCR、PFS、OSのいずれの臨床的利益においても統計学的に有意な差は認められなかった(全p>0.05) (Table 4)。具体的には、G→G群ではORR 6.7%、DCR 46.7%、PFS中央値2.0ヶ月、OS中央値7.7ヶ月であった。G→E群ではORR 12.7%、DCR 56.4%、PFS中央値2.5ヶ月、OS中央値8.5ヶ月であった。E→E群ではORR 10.5%、DCR 47.4%、PFS中央値2.1ヶ月、OS中央値7.3ヶ月であった。E→G群ではORR 6.3%、DCR 50.0%、PFS中央値2.0ヶ月、OS中央値8.0ヶ月であった。これらの結果は、最も頻繁に用いられるゲフィチニブからエルロチニブへの切り替え戦略(G→E)が、他の治療順序と比較して特別な優位性を示さないことを明確に示している。

2回目EGFR-TKI効果予測因子: 単変量解析および多変量解析により、2回目のEGFR-TKI治療効果に対する独立した予測因子が同定された (Table 4)。初回EGFR-TKIのPFSが6ヶ月以上であること(vs 6ヶ月未満)は、多変量解析において病勢進行のリスクを低減する独立した因子であり、ハザード比(HR)は0.611(95% CI 0.354-0.901, p=0.0076)であった。PFSが6ヶ月以上の患者群では、2回目のTKIのPFS中央値が3.0ヶ月であったのに対し、6ヶ月未満の患者群では1.0ヶ月であった。また、2つのEGFR-TKI投与間の期間が4ヶ月以上であること(中央値)も、多変量解析で病勢進行のリスクを低減する独立した因子であり、HRは0.529(95% CI 0.328-0.852, p=0.0088)であった。投与間隔が4ヶ月以上の患者群では、2回目のTKIのPFS中央値が3.5ヶ月であったのに対し、4ヶ月未満の患者群では1.0ヶ月であった。これらの予測因子は、初回TKIで長期的な利益を得た患者、かつ十分な投与間隔を置いた患者が、2回目のTKI投与の最適な候補であることを示唆している。その他の因子として、初回TKIでの奏効(CR+PR+SD vs PD)、EGFR変異ステータス、2つのTKI投与間の化学療法の有無も単変量解析で有意な予測因子として示されたが、多変量解析では初回PFSと投与間隔が最も強力な独立予測因子として残った。

EGFR変異陽性サブグループ解析(探索的): EGFR変異検査が実施された65例(54.2%)のサブグループ解析では、変異陽性患者における2回目TKIのDCRは、変異非検査患者よりも高い傾向が認められた。具体的には、変異陽性群のDCRは60.42%であったのに対し、変異非検査群のDCRは52.5%であった。また、EGFR変異陽性は、エルロチニブまたはゲフィチニブへの2回目の奏効の予測因子として機能する可能性が示唆された(変異陰性例でのORRは0%に近かった)。しかし、変異検査が未施行の患者が多数(45.8%)含まれていたため、変異別の系統的な解析には限界があった。

考察/結論

本後ろ向き研究は、EGFR-TKIを2回投与されたNSCLC患者において、4種類の治療順序(G→G、G→E、E→E、E→G)が同等の臨床成績をもたらすことを示した。これは、先行研究で最も頻繁に報告されていたゲフィチニブからエルロチニブへの切り替えという特定の順序に、他の順序と比較して特別な優越性がないことを明らかにした点で新規性がある。この結果は、将来的に検証されれば、EGFR-TKI再投与における薬剤選択の合理化に役立つ可能性がある。

2回目のEGFR-TKI治療における全体成績(ORR 10.0%、DCR 52.5%、PFS中央値2.3ヶ月、OS中央値8.0ヶ月)は、限定的ではあるものの、一定の疾患制御を示しており、EGFR-TKI再投与の臨床的意義を再確認するものであった。安全性プロファイルも良好であり、ほとんどの有害事象がGrade I〜IIであったことは、再投与の忍容性が高いことを示唆する。

本研究で同定された重要な予測因子は、初回EGFR-TKIのPFSが6ヶ月以上であること(HR 0.611, 95% CI 0.354-0.901, p=0.0076)と、2つのEGFR-TKI投与間の期間が4ヶ月以上であること(HR 0.529, 95% CI 0.328-0.852, p=0.0088)であった。これらの因子は多変量解析で独立して有意であり、初回TKIで長期的な利益を得た患者、かつ十分な間隔を置いた場合に再投与の意義が高いという患者選択基準を示唆する。この知見は、EGFR-TKI耐性後の治療選択において重要な臨床的有用性を持つ。我々は、腫瘍がEGFR-TKI感受性細胞と非感受性細胞の2種類から構成されると推測し、初回TKIの中止が感受性細胞の再増殖を可能にし、再投与効果に繋がる可能性を考察した。また、2つのTKI投与間に化学療法を挿入することでDCRが改善したという観察は、非感受性細胞の増殖を抑制し、患者の生存利益に寄与する可能性を示唆しており、Wu et al. LancetOncol 2013のFASTACT-2試験の結果とも一致する。

残された課題として、本研究は後ろ向き研究であり、EGFR変異検査が全例で実施されていないという限界がある。特に、2回目のTKI投与前のEGFR変異ステータス(例:T790M変異)が不明であることは、現代の分子標的治療の文脈(EGFR変異の必須確認、T790M耐性機序の把握、オシメルチニブの使用)とは乖離がある。EGFR-TKI耐性のメカニズム(T790M二次変異、MET増幅、小細胞肺がん形質転換など)を特定することは、その後の治療選択に不可欠であるが、耐性獲得時に常に腫瘍組織が入手できるとは限らない。近年、循環腫瘍細胞(CTCs)や循環遊離DNA(cfDNA)を用いたリアルタイム分子解析が注目されており、これらの液体生検は、患者のゲノム進化を系統的に追跡し、個別化された治療計画を立てる上で大きな助けとなる可能性がある。第三世代TKIであるオシメルチニブが標準治療となった現在、ゲフィチニブやエルロチニブの再投与戦略の臨床的意義は限定的となっているが、薬剤間隔と初回奏効期間が再投与効果を予測するという本研究の知見は、耐性後治療選択の参考となる。今後の検討課題として、これらの予測因子を前向き研究で検証し、より詳細な分子学的背景に基づいた再投与戦略を確立することが挙げられる。

方法

本研究は、中国人民解放軍医学アカデミー附属病院で実施された単施設後ろ向きコホート研究である。2005年4月から2012年までの期間に、進行性または術後再発のNSCLC患者で、EGFR-TKI(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)を2回投与された120例が登録された。患者は、EGFR-TKIの投与順序に基づき、以下の4つのグループに分類された:ゲフィチニブからゲフィチニブ(G→G、n=30)、ゲフィチニブからエルロチニブ(G→E、n=55)、エルロチニブからエルロチニブ(E→E、n=19)、エルロチニブからゲフィチニブ(E→G、n=16)。本研究は、倫理委員会および科学委員会の承認を得て実施され、全ての患者はインフォームドコンセントに署名した。

EGFR変異検査は、初回EGFR-TKI治療前に65例(54.2%)で実施された。検査方法としては、直接シークエンス法または増幅抵抗性変異システム(ARMS)法が用いられた。2回目のEGFR-TKI投与前には、検体採取の困難さからEGFR変異検査は実施されなかった。2回目のEGFR-TKI投与までの期間に、83例(69.2%)の患者が単剤またはプラチナベースのデュアル化学療法(中央値4サイクル)を受けた。残りの37例(30.8%)は化学療法を受けなかった。

EGFR-TKIは、初回および2回目ともに製造元の指示に従って投与された。治療は、病勢進行、許容できない毒性、または患者の拒否のいずれかが発生するまで継続された。TKI治療中止後、患者は研究者の裁量で標準的な臨床診療に従って治療された。治療効果の評価は、コンピューター断層撮影(CT)スキャンを4週間ごとに実施し、固形がんの治療効果判定基準(RECIST)1.1に基づいて奏効が定義および分類された。2回目のEGFR-TKI投与における副作用は、米国国立がん研究所の有害事象共通用語規準(NCI-CTC)3.0に従って評価された。

主要評価項目は、客観的奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、2回目のEGFR-TKI投与からの無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間(OS)であった。これらの評価項目について、4つの治療順序間の比較が行われた。統計解析には、ORRおよびDCRの比較にはFisherの正確検定が、PFSおよびOSの生存曲線にはKaplan-Meier法が用いられ、群間の差はログランク検定で比較された。ベースライン特性と治療結果の関係を多変量解析するために、Cox比例ハザード回帰モデルが採用された。p値が0.05未満を統計的に有意と判断した。解析はSASソフトウェアバージョン9.2(SAS Institute, Inc., Cary, NC, USA)を用いて実施された。