- 著者: Sarah B. Goldberg, Mary W. Redman, Rogerio Lilenbaum, et al.
- Corresponding author: Sarah B. Goldberg (Yale University)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 33021871
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は、欧米人患者の肺腺癌の約15%に認められ、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に対する感受性を高めることが知られている Lynch et al. NEnglJMed 2004。これまでの複数の臨床試験により、EGFR変異陽性NSCLC患者に対するEGFR-TKI治療が、化学療法と比較して明確な臨床的利益をもたらすことが示されてきた Mok et al. NEnglJMed 2009、Rosell et al. LancetOncol 2012、Yang et al. LancetOncol 2015。しかし、化学療法と比較して臨床転帰、生活の質 (QOL)、および毒性プロファイルが改善されたにもかかわらず、EGFR-TKIは治癒的ではなく、第一世代および第二世代EGFR-TKIで観察される無増悪生存期間 (PFS) の中央値は10〜12ヶ月にとどまっている。このPFSの限界は、主にT790M二次変異を介した薬剤耐性の獲得に起因しており、この耐性克服が主要な課題として残されている Sequist et al. SciTranslMed 2011。
第二世代の不可逆的ErbBファミリーTKIであるアファチニブは、単剤では獲得耐性を克服できないことが報告されている。しかし、アファチニブとEGFRモノクローナル抗体セツキシマブの併用療法は、EGFR-TKI獲得耐性NSCLC患者を対象とした第Ib相試験において、全奏効率 (ORR) 29%を示し、T790M陽性・陰性腫瘍のいずれにおいても活性を示すことが報告された。この結果は、アファチニブとセツキシマブの併用が、第一世代EGFR-TKIに対する耐性をT790M耐性変異の有無にかかわらず克服する独自の能力を持つ可能性を示唆した。
さらに、前臨床マウスモデルを用いた研究では、未治療のEGFR変異肺癌において、アファチニブとセツキシマブの併用療法が、アファチニブまたはエルロチニブ単剤と比較して、耐性発現を遅延させる効果があることが示された。これらの前臨床および初期臨床データに基づき、本研究では、アファチニブとセツキシマブの併用が、未治療のEGFR変異NSCLC患者に対する一次治療として、アファチニブ単剤と比較して耐性発現を予防または遅延させることにより、PFSを改善するという仮説を立てた。しかし、この一次治療における併用療法の有効性および安全性プロファイルについては、大規模なランダム化比較試験による検証が不足しており、その臨床的意義は未解明であった。特に、毒性の増加が懸念される中で、PFSの改善が認められるかどうかが重要な課題として残されていた。
目的
本研究の目的は、未治療のEGFR変異陽性NSCLC患者 (エクソン19欠失またはL858R変異) を対象に、アファチニブ単剤療法と比較して、アファチニブとセツキシマブの併用療法が無増悪生存期間 (PFS) を改善するかどうかを検証することであった。具体的には、併用療法が耐性発現を予防または遅延させることで、一次治療におけるPFS優越性を示すという仮説を検証するランダム化第II相試験として実施された。副次評価項目として、全奏効率 (ORR)、治療中止までの期間 (TTD)、全生存期間 (OS)、および治療関連毒性の評価も行われた。また、探索的解析として、病勢進行部位 (脳内または全身) のパターンについても検討された。本試験は、未治療のEGFR変異NSCLCに対するアファチニブとセツキシマブの併用療法の有効性および安全性を評価し、その臨床的役割を明確にすることを目的とした。
結果
患者背景と試験中止経緯: 2015年3月26日から2018年4月23日までに、未治療のEGFR変異陽性NSCLC患者174例が登録され、アファチニブ+セツキシマブ群 (n=89) またはアファチニブ単剤群 (n=85) に無作為に割り付けられた (Fig 1)。このうち168例が適格と判断され、アファチニブ+セツキシマブ群に83例、アファチニブ単剤群に85例が組み入れられた。患者背景は両群間でバランスが取れており (Table 1)、中央年齢は66歳、女性が66%、アジア人が12%、非喫煙者が53%であった。PS 0-1の患者が91%を占め、ほとんどの患者 (96%) が腺癌組織型であった。EGFR変異タイプはエクソン19欠失が64%、L858R変異が36%であった。2018年4月23日の中間解析において、独立データ安全性監視委員会は、アファチニブ+セツキシマブ群でのPFS改善が事前に設定された無益性基準を下回ったため、試験の継続登録を支持する十分なエビデンスがないと判断し、試験の早期中止を勧告した。最終データカットオフは2019年10月18日であった。
主要エンドポイント (PFS) の評価: アファチニブ+セツキシマブ併用療法とアファチニブ単剤療法を比較した主要評価項目であるPFSにおいて、併用群での改善は認められなかった (Fig 2A)。ハザード比 (HR) は1.01 (95% CI 0.72-1.43, p=0.94) であり、統計学的に有意な差は認められなかった。PFS中央値は、アファチニブ+セツキシマブ群で11.9ヶ月、アファチニブ単剤群で13.4ヶ月であった。12ヶ月PFS率はそれぞれ45%と56%であった。事前規定されたサブグループ解析 (EGFR変異タイプ、人種、PSなど) においても、併用療法の優越性は示されなかった (Fig 2B)。この結果は、一次治療における併用療法による耐性発現の予防または遅延という当初の仮説を支持しないものであった。
副次エンドポイント (ORR, DoR, TTD, OS) の評価: 全奏効率 (ORR) は、アファチニブ+セツキシマブ群で67%、アファチニブ単剤群で74%であり、有意差は認められなかった (p=0.38)。奏効までの期間 (TTR) は両群で類似しており、中央値はそれぞれ2.0ヶ月と1.94ヶ月であった。奏効期間 (DoR) 中央値は、アファチニブ+セツキシマブ群で9.4ヶ月 (95% CI 6.6-16.6ヶ月)、アファチニブ単剤群で11.3ヶ月 (95% CI 5.7-13.0ヶ月) であり、併用群で短い傾向が見られたが、統計的有意差はなかった。治療中止までの期間 (TTD) も両群間で差はなく、HR 0.90 (95% CI 0.64-1.26, p=0.54) であった。全生存期間 (OS) についても、アファチニブ+セツキシマブ群とアファチニブ単剤群の間で有意差は認められず、HR 0.82 (95% CI 0.50-1.36, p=0.44) であった (Fig 3A)。2年OS率はそれぞれ67%と70%であった。OSデータはまだ成熟しておらず、OS中央値には達していなかったが、併用療法の優越性は確認されなかった。
脳内進行パターンと安全性プロファイル: 事後解析として、病勢進行部位のパターンが検討された (Appendix Fig A1)。1年時点での脳内進行の累積発生率は、アファチニブ+セツキシマブ群で8% (95% CI 3-15%)、アファチニブ単剤群で14% (95% CI 8-23%) であり、併用群で脳内進行がやや少ない傾向が見られたが、統計的有意差はなかった。一方、1年時点での全身進行率は、アファチニブ+セツキシマブ群で46% (95% CI 35-57%)、アファチニブ単剤群で34% (95% CI 24-44%) であり、併用群で全身進行率が高い傾向が示された。
安全性に関しては、Grade ≥3の治療関連有害事象の発生率は、アファチニブ+セツキシマブ群で72%、アファチニブ単剤群で40%と、併用群で有意かつ臨床的に重要な毒性の増加が認められた (p<0.0001) (Table 2)。最も一般的なGrade ≥3の有害事象は、ざ瘡様皮疹 (併用群27% vs 単剤群2%)、斑状丘疹状皮疹 (併用群13% vs 単剤群0%)、および下痢 (併用群15% vs 単剤群20%) であった。アファチニブの用量減量は、併用群で56.7%、単剤群で26.2%と、併用群でより頻繁に必要とされた。また、アファチニブ+セツキシマブ群の30% (n=25) の患者が、毒性によりセツキシマブの投与を中止した。治療関連死は、アファチニブ+セツキシマブ群で1例発生したが、アファチニブ単剤群では発生しなかった。これらの結果は、併用療法が単剤療法と比較して忍容性が低いことを明確に示している。
考察/結論
SWOG S1403試験は、未治療のEGFR変異陽性NSCLC患者に対するアファチニブとセツキシマブの併用療法が、アファチニブ単剤療法と比較して、主要評価項目であるPFS、および副次評価項目であるORR、OSのいずれも改善しないことを示した初のランダム化比較試験である。前臨床データや、EGFR-TKI獲得耐性後の患者を対象とした第Ib相試験で示された活性から期待された一次治療における耐性予防効果は、本試験の実臨床環境では確認されなかった。
先行研究との違い: 以前の第Ib相試験では、獲得耐性後のEGFR変異NSCLC患者においてアファチニブとセツキシマブの併用が奏効を示すことが報告されていたが、本研究の結果は、未治療の一次治療設定ではその有効性が認められないという点で、これまでの知見と対照的である。このことは、治療歴のない疾患と獲得耐性後の疾患とでは、生物学的特性が異なる可能性を示唆している。
新規性: 本研究で初めて、未治療のEGFR変異NSCLCに対するアファチニブとセツキシマブの併用療法が、アファチニブ単剤と比較してPFSを改善しないことをランダム化比較試験で明確に示した。さらに、併用療法はGrade ≥3の有害事象の発生率が72%と、単剤療法の40%と比較して著明に増加しており、忍容性の観点からも一次治療での併用を支持しない新規の知見である。
臨床応用: 本試験の結果は、未治療のEGFR変異NSCLC患者に対するアファチニブとセツキシマブの併用療法に現在のところ臨床的役割がないことを示唆している。本試験の実施中に、第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブが一次治療においてPFS中央値18.9ヶ月 (FLAURA試験) という優れた成績を達成しており Soria et al. NEnglJMed 2018、Ramalingam et al. NEnglJMed 2020、アファチニブ単剤またはアファチニブとセツキシマブの併用という治療戦略の臨床的地位は、オシメルチニブの登場によってさらに限定的となった。
残された課題: 今後の検討課題として、EGFR-TKIとEGFR抗体の併用療法において、適切な用量と投与スケジュールを最適化し、忍容性を改善することで、十分な治療効果が得られる可能性を探る必要がある。また、特定の患者サブセット、例えばEGFRエクソン20挿入変異など、既存のEGFR-TKIに抵抗性を示す変異を有する患者において、この併用療法が有効であるかどうかのさらなる研究が残されている。さらに、EGFR-TKIと抗体併用療法における耐性メカニズムが、TKI単剤療法の場合と異なるのか、そしてT790M以外の新たな耐性メカニズムが出現するのかについても、今後の研究で解明すべき重要な課題である。本研究のlimitationとして、試験が早期中止されたため、OSの最終的なデータ成熟度が不十分であった点が挙げられる。
方法
本研究は、SWOG (Southwest Oncology Group) が主導し、AllianceおよびECOG-ACRIN (Eastern Cooperative Oncology Group - American College of Radiology Imaging Network) が支援する多施設共同ランダム化第II相試験 (SWOG S1403, ClinicalTrials.gov識別子: NCT02438722) として実施された。
参加者と試験デザイン: 2015年3月25日から2018年4月23日の期間に、未治療の進行性または転移性NSCLC患者が登録された。適格基準は、共通のEGFR感受性変異 (エクソン19欠失またはL858R点変異) を有すること、Zubrodスケールによるパフォーマンスステータス (PS) が0〜2であること、および先行する全身抗癌治療歴がないことであった。無症候性脳転移は、ステロイド治療を必要とせず、髄膜癌腫症の証拠がない場合に限り許容された。非典型的なEGFR変異は除外された。当初は第II/III相試験としてデザインされたが、登録の遅延とEGFR変異NSCLCの治療環境の変化により、主要評価項目をPFSとするランダム化第II相試験に変更された。PFSは、無作為化日から最初の病勢進行、症状悪化、またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。
治療プロトコル: 患者は1:1の比率で、アファチニブ40 mg経口1日1回単剤群、またはアファチニブ40 mg経口1日1回に加えてセツキシマブ500 mg/m²を2週間ごとに静脈内投与する併用群に無作為に割り付けられた。無作為化は、PS (0-1 vs 2) およびEGFR変異タイプ (エクソン19欠失 vs L858R変異) で層別化された。セツキシマブ初回投与前には、過敏症反応予防のためジフェンヒドラミン50 mgが静脈内投与された。治療は病勢進行、症状悪化、許容できない毒性、妊娠、28日以上の治療遅延、または患者の意思による中止まで継続された。RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) v1.1に基づき病勢評価が行われた Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。
評価項目: 主要評価項目はPFSであり、無作為化日から最初の病勢進行、症状悪化、またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目には、全奏効率 (ORR)、治療中止までの期間 (TTD)、全生存期間 (OS)、およびNCI-CTCAE v4.0に基づく毒性が含まれた。ORRは、ベースラインで測定可能病変を有する患者における確定および未確定の完全奏効または部分奏効と定義された。病勢進行部位 (脳内または全身) の事後解析も実施された。
統計解析: PFS、OS、およびTTDのイベントまでの期間の分布は、Kaplan-Meier法を用いて推定され、層別ログランク検定により比較された。ハザード比 (HR) は、Cox比例ハザード回帰を用いて推定された。二値アウトカム (奏効率、毒性) は、95%信頼区間 (CI) を伴う割合として要約され、フィッシャーの正確検定を用いて群間比較が行われた。中間解析は、少なくとも64件のPFSイベントが発生した時点で実施され、無益性基準 (PFSのHRが事前に設定された閾値を下回る場合) に基づいて早期中止の勧告が行われた。解析は、適格な無作為化患者すべてを含む修正intention-to-treat原則に基づいて実施された。