- 著者: Rafael Rosell, Urania Dafni, Enriqueta Felip, Alessandra Curioni-Fontecedro, Oliver Gautschi, Solange Peters, Bartomeu Massutí, Ramon Palmero, Santiago Ponce Aix, Enric Carcereny, Martin Früh, Miklos Pless, Sanjay Popat, Athanasios Kotsakis, Sinead Cuffe, Paolo Bidoli, Adolfo Favaretto, Patrizia Froesch, Noemí Reguart, Javier Puente, Linda Coate, Fabrice Barlesi, Daniel Rauch, Michael Thomas, Carlos Camps, Jose Gómez-Codina, Margarita Majem, Rut Porta, Riyaz Shah, Emer Hanrahan, Roswitha Kammler, Barbara Ruepp, Manuela Rabaglio, Marie Kassapian, Niki Karachaliou, Rachel Tam, David S Shames, Miguel A Molina-Vila, Rolf A Stahel
- Corresponding author: Rolf A Stahel (University Hospital Zurich, Clinic of Oncology, Zurich, Switzerland)
- 雑誌: Lancet Respiratory Medicine
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-04-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 28408243
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する一次治療としてのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) は、高い奏効率 (ORR) を示すものの、ほぼ全ての患者で最終的に獲得耐性を生じ、その効果は平均して約1年間に限定されることが知られている。この現象は、EGFR-TKI治療の長期的な有効性を制限する主要な課題である。特に、de novo (前治療) T790M変異は、EGFR変異陽性NSCLC患者の約35〜60%に低頻度で存在することが、高感度な検出法を用いることで明らかになってきた。この前治療T790M変異の存在は、TKI感受性クローンへの選択圧下でT790M陽性クローンが拡大し、EGFR-TKIに対する獲得耐性が早期に顕在化することと関連している可能性が示唆されていた。実際、Maheswaran et al. NEnglJMed 2008は、前治療T790M変異陽性患者におけるerlotinib治療での無増悪生存期間 (PFS) が8ヶ月であったのに対し、T790M変異陰性患者では17ヶ月であったと報告している (p<0.001)。また、Rosell et al. LancetOncol 2012のEURTAC試験では、erlotinib治療を受けたEGFR変異陽性患者において、T790M陽性患者のPFS中央値が9.7ヶ月であったのに対し、T790M陰性患者では15.6ヶ月であった (p=0.018) と報告された。さらに、Su et al. JClinOncol 2012もT790M陽性患者でPFSが短いことを示している (6.7ヶ月 vs 10.2ヶ月; p=0.030)。これらの知見は、前治療T790M変異がEGFR-TKIの効果を減弱させる重要な因子であることを示唆している。
一方、血管内皮増殖因子 (VEGF) シグナル伝達経路は、EGFR-TKI耐性の発生に関与する可能性が指摘されている。前臨床研究では、抗VEGF抗体であるbevacizumabが、EGFR変異陽性 (L858RおよびT790M) 細胞株の異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を示し、erlotinib耐性を克服できる可能性が示唆されていた。特に、H1975細胞株 (L858RおよびT790M変異を有する) はEGFR-TKIに抵抗性を示すが、gefitinibとbevacizumabの併用により腫瘍増殖が抑制されることが報告されている。このメカニズムとして、EGFR活性化変異とT790M変異を併せ持つNSCLC細胞では、リン酸化STAT3 (signal transducer and activator of transcription 3) のレベルが上昇し、これがVEGF発現を上方制御することで血管新生を促進し、EGFRとVEGFR (VEGF受容体) 間の相乗的なクロストークが生じることが考えられている。したがって、EGFR-TKIと抗VEGF抗体の併用療法は、インターロイキン6-STAT3-VEGF経路によって駆動される耐性発生を減弱させる可能性がある。
このような背景から、EGFR-TKIとbevacizumabの併用療法が、EGFR変異陽性NSCLC患者、特に前治療T790M変異陽性患者において有効である可能性が浮上した。日本のJO25567試験 Seto et al. LancetOncol 2014では、erlotinib単剤と比較してerlotinibとbevacizumabの併用療法がPFSを改善すること (HR 0.54, 95% CI 0.36-0.79; p=0.0015) が示されたが、この試験ではT790M変異状態による層別化は行われていなかった。そのため、前治療T790M変異の有無が併用療法の効果にどのように影響するかは未解明な知識のギャップとして残されていた。
BELIEF試験は、この知識のギャップを埋めることを目的とした概念実証試験である。本試験は、前治療T790M変異の有無で患者を層別化し、erlotinibとbevacizumabの併用療法が、特に前治療T790M変異陽性患者において特異的な有効性を示すという仮説を検証するためにデザインされた。これにより、EGFR変異陽性NSCLC患者における最適な一次治療戦略を確立するための重要な情報が不足している現状を打破することが期待された。
目的
BELIEF試験は、EGFR変異陽性 (exon 19欠失またはL858R変異;中央判定) の治療未治療進行NSCLC患者を対象に、erlotinib 150mg/日とbevacizumab 15mg/kgを21日ごとに投与する併用療法を一次治療として評価する国際多施設単アーム第II相試験である。主要評価項目は、前治療T790M変異状態別 (T790M陽性患者群: substudy 1、T790M陰性患者群: substudy 2) の12ヶ月無増悪生存期間 (PFS) 率の評価であった。本研究の主要な目的は、特にT790M陽性患者群において、erlotinibとbevacizumabの併用療法が、erlotinib単剤療法と比較して優れたPFSを示すという生物学的仮説を臨床的に検証することに主眼が置かれた。
副次評価項目として、全生存期間 (OS)、治療中止までの期間 (time-to-treatment failure)、客観的奏効率 (ORR)、疾患制御率 (DCR)、奏効期間 (duration of response)、および安全性プロファイルが設定された。また、T790M変異状態、BRCA1 mRNA発現量、およびAEG1 (astrocyte elevated gene-1) mRNA発現量が、erlotinibとbevacizumabの併用療法を受けた患者のPFSに影響を与えるかどうかを調査することも副次的な目的とされた。これらのバイオマーカーの解析を通じて、治療効果の予測因子を特定し、個別化医療の可能性を探ることも目指された。
結果
患者登録とベースライン特性: 2012年6月11日から2014年10月28日までに、欧州8カ国29施設から109人の患者が登録され、全員が有効性解析の対象となった。PNAプローブベースTaqManアッセイによる中央検査の結果、37人 (34%, 95% CI 26-43%) が前治療T790M変異陽性 (substudy 1) であり、残りの72人 (66%, 95% CI 57-74%) がT790M変異陰性 (substudy 2) であった (Figure 1)。患者のベースライン特性は、女性61%、非喫煙者66%、中央年齢66.1歳 (IQR 57.1-72.4)、ECOG PS 0が49%・PS 1が46%であった。組織型は腺癌が85%、ステージIVが94%を占めた。EGFR変異の内訳は、exon 19欠失が64%、L858R変異が36%であった。脳転移は19%の患者に認められた。T790M陽性群と陰性群間で唯一有意な差が認められたベースライン特性は年齢であった (p=0.023)。最終解析のデータカットオフは2015年12月17日であり、中央追跡期間は21.4ヶ月 (IQR 15.9-30.7) であった。
主要評価項目:無増悪生存期間 (PFS): 全患者 (ITT集団、n=109) のPFS中央値は13.2ヶ月 (95% CI 10.3-15.5) であり、12ヶ月PFS率は55% (95% CI 45-64%) であった。
- T790M陽性患者群 (substudy 1, n=37): PFS中央値は16.0ヶ月 (95% CI 12.7-推定不能) であり、12ヶ月PFS率は68% (95% CI 50-81%) であった。この結果は、Simonの2段階デザインで設定された成功基準 (12ヶ月PFS率 >50%) を達成し、erlotinibとbevacizumabの併用療法がこのサブグループにおいて有望な治療であることを示した。
- T790M陰性患者群 (substudy 2, n=72): PFS中央値は10.5ヶ月 (95% CI 9.4-14.2) であり、12ヶ月PFS率は48% (95% CI 36-59%) であった。
T790M陽性群とT790M陰性群間のPFSを比較すると、T790M陽性群で有意に長いPFSが認められた (ログランク検定 p=0.014)。非調整ハザード比 (HR) は0.52 (95% CI 0.30-0.88, p=0.016) であり、T790M陽性患者群で病勢進行または死亡のリスクが約半分に減少することを示唆している (Figure 2)。
PFSのサブグループ解析: 脳転移の有無によるPFSの比較では、脳転移のない患者のPFS中央値は14.7ヶ月 (95% CI 12.0-18.4) であったのに対し、脳転移のある患者では8.8ヶ月 (95% CI 6.0-10.5) であった (T790M変異で調整したHR 0.48, 95% CI 0.27-0.82; p=0.0078)。EGFR変異型別のPFSでは、exon 19欠失患者群のPFS中央値は15.5ヶ月 (T790M陽性) vs 13.3ヶ月 (T790M陰性) であった (p=0.22)。L858R変異患者群では、PFS中央値は24.6ヶ月 (T790M陽性) vs 9.7ヶ月 (T790M陰性) であった (p=0.022)。多変量Cox比例ハザードモデルでは、T790M変異の存在と脳転移の非存在がPFSに有意に寄与する因子として同定された (Table 2)。T790M変異陽性患者は、T790M変異陰性患者と比較して病勢進行のリスクが低く (HR 0.37, 95% CI 0.20-0.67, p=0.0011)、脳転移のない患者は脳転移のある患者と比較して病勢進行のリスクが低かった (HR 0.45, 95% CI 0.26-0.78, p=0.0047)。
奏効率 (ORR) および疾患制御率 (DCR): 全患者のORRは77% (84/109例) であった。内訳は完全奏効 (CR) が6% (6例)、部分奏効 (PR) が72% (78例) であった (Table 3)。DCRは93% (101/109例) であった。T790M陽性群とT790M陰性群間でORRに大きな差は認められなかった (T790M陽性群: 78% [29/37例]、T790M陰性群: 75% [54/72例])。奏効期間 (duration of response) 中央値は、全体で14.7ヶ月 (95% CI 10.6-32.5) であった。T790M陽性群では未到達 (95% CI 14.7-推定不能)、T790M陰性群では12.0ヶ月 (95% CI 8.2-20.2) であった。最良腫瘍縮小率の中央値は、T790M陽性群で-55%、T790M陰性群で-53%であり、両群間で差はなかった (Figure 4)。
全生存期間 (OS): データカットオフ時点ではOSデータは未成熟であったが、OS中央値は全体で28.2ヶ月 (95% CI 21.4-41.8) と推定された。12ヶ月OS率は84% (95% CI 75-90%) であった。T790M陽性群のOS中央値は36.0ヶ月 (95% CI 26.5-推定不能)、T790M陰性群では30.5ヶ月 (95% CI 22.2-推定不能) であった。
安全性 (有害事象): 安全性解析の対象となった106人の患者のうち、1人を除く全員が少なくとも1つの有害事象 (AE) を経験し、31人 (29%) が重篤な有害事象 (SAE) を経験した。最も頻繁に報告されたグレード3以上のAEは、高血圧 (37%) と斑状丘疹性皮疹 (20%) であった (Table 4)。グレード4のAEは5例 (急性冠症候群1例、胆道感染1例、結腸穿孔2例、他腫瘍1例) 発生した。グレード5のAEは1例 (敗血症による死亡) であった。bevacizumabの毒性による中止は19例 (17%) であり、erlotinib単剤療法に移行した。erlotinibの用量減量は24例 (22%) で行われた。結腸穿孔2例はbevacizumabの既知の重篤な毒性として注目された。
考察/結論
BELIEF試験は、EGFR変異陽性NSCLC患者、特に前治療T790M変異陽性患者に対するerlotinibとbevacizumabの併用療法が、高いPFSを示すことを前向き単独アーム試験で初めて評価した。T790M陽性群におけるPFS中央値16.0ヶ月 (12ヶ月PFS率68%) は、過去のerlotinib単剤療法と比較して顕著な改善であり、このサブグループにおける併用療法の優位性を示唆する。
先行研究との違い: これまでの研究では、前治療T790M変異の存在がEGFR-TKI単剤療法に対するPFSの短縮と関連することが示唆されてきたが、本研究はT790M陽性患者においてerlotinibとbevacizumabの併用が優れたPFSをもたらすことを初めて前向きに示した点で、これまでの知見と対照的である。特に、L858R変異を有する患者群では、T790M陽性患者がT790M陰性患者よりも有意に長いPFSを示しており (24.6ヶ月 vs 9.7ヶ月, p=0.022)、これはT790M変異が必ずしも予後不良因子ではない可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、VEGFシグナルがT790M陽性クローンのEGFR-TKI下での耐性促進に寄与しており、VEGF遮断がこの耐性経路を部分的に遮断するという生物学的仮説を臨床的に裏付けた。この新規な知見は、T790M変異を有する腫瘍細胞がSTAT3経路を介してVEGF発現を亢進させ、血管新生を促進することでEGFR-TKI耐性を獲得するメカニズムを標的とする併用療法の可能性を示唆する。
臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者、特に前治療T790M変異陽性患者に対する一次治療として、erlotinibとbevacizumabの併用療法が有効な選択肢となりうることを示唆する。2016年6月8日には、欧州医薬品庁 (EMA) が、本試験を含む複数の試験結果に基づき、EGFR活性化変異を有する進行性転移性または再発NSCLC患者の一次治療として、bevacizumabとerlotinibの併用療法を承認した。これは、本研究の臨床的意義の高さを示すものである。また、前治療T790M変異の検出とモニタリングの重要性を強調し、de novo T790M陽性例への最適な一次治療戦略を検討する上で重要な情報を提供する。
残された課題: 本試験は単アームの第II相試験であり、対照アームを持たないため、erlotinib単剤療法との直接比較による優越性を統計学的に検証することはできないというlimitationがある。T790M陽性患者における併用療法の優越性を確立するためには、ランダム化比較試験での検証が今後の検討課題として残されている。現在、前治療T790M変異陽性患者に対する一次治療としてのosimertinibの安全性と有効性を評価する第II相試験 (AZENT, NCT02841579) が進行中であり、また、EGFR活性化変異およびT790M変異を有する進行NSCLC患者の二次治療としてosimertinibとbevacizumabの併用を評価する医師主導型ランダム化第II相試験 (BOOSTER, EudraCT number 2016-002029-12) も進行中である。これらの結果が、erlotinibとbevacizumabの併用療法の位置づけをさらに明確にするものと期待される。
方法
BELIEF試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01562028) は、国際多施設単アーム第II相試験として、欧州8カ国 (スペイン、スイス、英国、ギリシャ、イタリア、アイルランド、フランス、ドイツ) の29施設で2012年6月11日から2014年10月28日まで実施された。
患者選択基準: 18歳以上の治療未治療進行性 (ステージIIIBまたはIV) 肺腺癌患者で、中央検査で確認されたEGFR活性化変異 (exon 19欠失またはL858R変異) を有する者が対象とされた。ECOGパフォーマンスステータスは0〜2、十分な血液学的、肝機能、腎機能を有し、登録時の余命が2ヶ月以上である必要があった。症候性脳転移、出血リスクの増加、凝固障害のある患者は除外された。
治療プロトコル: 患者にはerlotinib 150mg/日が経口で毎日、bevacizumab 15mg/kgが21日ごとに静脈内投与された。治療は病勢進行 (RECIST 1.1基準) または許容できない毒性が発現するまで継続された。治療の中断は最大6週間まで許容された。
T790M変異検出: 前治療T790M耐性変異は、PNA (ペプチド核酸) プローブベースの5’-ヌクレアーゼリアルタイムPCR (PNAプローブベースTaqManアッセイ) を用いて中央検査で評価された。この高感度な検出法は、低頻度のT790M変異アレルを検出するために開発されたものである。
主要評価項目と統計解析: 主要評価項目はPFSであり、登録から治験責任医師が記録した病勢進行または死亡までの期間と定義された。病勢進行が記録されずに死亡した患者は、死亡日を病勢進行日とみなした。PFSおよびその他の副次的なイベント発生までの期間は、Kaplan-Meier法を用いて推定された。95%信頼区間 (CI) は相補的ログログ変換を用いて算出された。
本試験は、前治療T790M変異の有無に応じて2つの並行サブスタディとして設計された。
- Substudy 1 (T790M陽性患者群): Simonの2段階デザインが採用された。目標とする12ヶ月PFS率は63% (P1) (中央PFS 18ヶ月に相当) と設定され、40% (P0) (中央PFS 9ヶ月に相当) を不十分と判断した。片側α=0.05、β=0.20で、合計35人のT790M陽性患者が必要とされた。第一段階では8人の患者が登録され、4人以上が12ヶ月時点でPFSイベントなしであれば第二段階に進むこととされた。
- Substudy 2 (T790M陰性患者群): Flemingの単段階デザインが採用された。目標とする12ヶ月PFS率は65% (P1) (中央PFS 19ヶ月に相当) と設定され、50% (P0) と比較して80%の検出力を持つために67人のT790M陰性患者が必要とされた。
全体で102人の患者登録が計画された。有効性解析はintention-to-treat (ITT) 集団で実施され、各サブスタディで個別に主要評価項目が評価された。また、T790M陽性群とT790M陰性群間の有効性の比較は副次的な目的とされた。群間比較にはログランク検定が用いられた。Cox比例ハザードモデルを用いて、T790M変異状態およびその他のベースライン特性やバイオマーカーがPFSに与える影響を評価した。多変量Coxモデルは後方除去法 (p>0.10) により選択された。統計解析にはSAS version 9.3が使用された。