- 著者: Hansang Lee, et al.
- Corresponding author: Myung-Ju Ahn (Samsung Medical Center, Seoul, Korea)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26371700
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) による一次治療は、標準的なプラチナ併用化学療法と比較して高い奏効率と無増悪生存期間 (PFS) の延長をもたらすことが複数の臨床試験で示され、一次治療の標準として確立されている (Zhou et al. LancetOncol 2011、Maemondo et al. NEnglJMed 2010、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Rosell et al. LancetOncol 2012、Wu et al. LancetOncol 2014)。しかし、EGFR-TKIに初期反応を示した患者であっても、最終的には腫瘍の増悪を経験することが避けられない。このようなEGFR-TKI一次治療後の増悪時に最適な二次化学療法レジメンについては、当時統一されたコンセンサスが未確立であった。
プラチナ製剤を含む化学療法は、進行NSCLC患者の治療において長らく中心的な役割を担ってきたが、EGFR-TKI一次治療後に増悪した患者に対するプラチナ併用療法の有効性に関するデータは限られていた。特に、これらの患者は一次治療でプラチナ製剤に曝露されていないため、プラチナ併用療法が二次治療として推奨されることが多かったものの、その有効性と安全性プロファイルは十分に確立されていなかった。この領域における臨床的エビデンスは不足していた。
Pemetrexedは、非扁平上皮NSCLCに対して有効性が示されている葉酸代謝拮抗薬であり、特に腺癌において高い感受性を示すことが報告されている (Hanna et al. JClinOncol 2004、Scagliotti et al. JClinOncol 2008)。EGFR変異陽性腺癌では、チミジル酸合成酵素の発現が低い傾向があり、これがpemetrexedへの親和性の高さに寄与する可能性が示唆されていた。しかし、EGFR-TKI一次治療後に増悪した患者において、pemetrexed単剤療法とpemetrexedとプラチナ製剤の併用療法 (pemetrexed+platinum) のどちらがより優れた治療成績をもたらすかについては、前向き比較試験が存在せず、臨床的エビデンスが不足していた。プラチナ製剤の追加が有効性を向上させる一方で、毒性を増大させる可能性も考慮する必要があり、このバランスをEGFR-TKI後の患者集団で検討することは、二次治療レジメン選択に実践的なエビデンスを提供する上で重要な課題であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的として、後方視的解析により両レジメンの比較評価を行った。
目的
本研究の目的は、EGFR変異陽性進行NSCLC患者において、EGFR-TKI一次治療後に増悪し、二次治療としてpemetrexed+platinum併用療法 (PC群) またはpemetrexed単剤療法 (P群) を施行された患者の有効性 (客観的奏効率 [ORR]、疾患制御率 [DCR]、無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS]) および安全性を後方視的に比較検討することである。特に、プラチナ製剤の追加が疾患制御率および生存期間に与える影響を評価し、EGFR-TKI後の最適な二次化学療法レジメン選択に資するエビデンスを提供することを目指した。本研究は、このretrospective cohort研究を通じて、EGFR-TKI一次治療後の二次治療におけるpemetrexedベースのレジメン選択に関する臨床的意義を明らかにすることをprimary endpointとした。
結果
患者背景と両群の比較: PC群 (pemetrexed+platinum;n=34) とP群 (pemetrexed単剤;n=29) の間で、年齢、性別、喫煙歴、EGFR変異タイプ (エクソン19欠失が50.8%、L858Rが36.5%)、先行EGFR-TKIの治療効果、およびEGFR-TKIの治療期間 (中央値7.0ヶ月) など、ベースラインの臨床的特徴は概ね類似していた (Table 1)。全患者の68.3%が女性、71%が非喫煙者であり、全例が腺癌であった。ECOG Performance Status (PS) は、PC群でPS 0-1の患者が97.1%であったのに対し、P群では82.8%であり、P群でPS不良の患者がやや多い傾向が見られたが、統計的有意差はなかった (p=0.086)。先行EGFR-TKIとしては、gefitinibが77.8%と最も多く使用されていた。転移部位については、PC群で骨転移の頻度が有意に高かった (PC群38.2% vs P群10.3%, p=0.011)。EGFR-TKI増悪後の再生検が14例で実施され、6例でEGFR T790M変異が検出された。
奏効率と疾患制御率 (主要評価項目): 治療効果が評価可能であった59名の患者において、PC群のORRは43.8% (14/32例) であったのに対し、P群のORRは25.9% (7/27例) であり、数値上はPC群で高かったが、統計的有意差は認められなかった (p=0.154)。一方、疾患制御率 (DCR) はPC群で75.0% (24/32例) であったのに対し、P群では44.4% (12/27例) であり、PC群がP群と比較して有意に高いDCRを示した (p=0.017)。この結果は、プラチナ製剤の追加がEGFR-TKI一次治療後に増悪した患者の疾患制御を改善する可能性を示唆している (Table 2)。
無増悪生存期間 (PFS): 中央値9.6ヶ月 (範囲0.2-41.1ヶ月) の追跡期間において、PFS中央値はPC群で5.2ヶ月 (95% CI: 3.8-6.7ヶ月) であったのに対し、P群では2.7ヶ月 (95% CI: 1.5-3.9ヶ月) であった。PC群はP群と比較してPFSの延長傾向を示したが、統計学的な有意差は認められなかった (p=0.096) (Fig. 1A)。この結果は、DCRの改善がPFSの有意な延長に直結しなかったことを示しているが、サンプルサイズが比較的小さかったため、統計的検出力が不十分であった可能性も考えられる。
全生存期間 (OS): OS中央値はPC群で15.1ヶ月 (95% CI: 12.8-17.4ヶ月) であったのに対し、P群では10.3ヶ月 (95% CI: 8.9-11.6ヶ月) であった。PC群でOSが長い傾向が見られたが、統計的有意差は認められなかった (p=0.354) (Fig. 1B)。二次治療後のOSは、その後の治療の影響を強く受けるため、二次治療単独の効果を評価することは困難である。両群間で三次治療への移行率は、P群で82.6% (n=19)、PC群で66.7% (n=16) であり、P群でより多くの患者が三次治療を受けていた (p=0.210)。
安全性・毒性: 61名の患者で有害事象が評価された (Table 3)。最も一般的な有害事象は倦怠感 (n=16)、食欲不振 (n=12)、悪心 (n=8)、好中球減少 (n=6) であった。P群では血液毒性は稀であったが、好中球減少はPC群でのみ認められ、全グレードの好中球減少が18.8% (6/32例)、グレード3または4の好中球減少が9.4% (3/32例) であった (p=0.049)。発熱性好中球減少症は認められなかった。その他の非血液毒性 (倦怠感、食欲不振、悪心など) の頻度は両群間で類似していた。PC群では、肺炎、胃潰瘍出血、心筋梗塞の3件の重篤な有害事象が発生し、治療遅延につながった。また、PC群で1例の治療関連死 (感染性心内膜炎) が報告された。全体として、PC群ではプラチナ製剤の追加により骨髄抑制が増加するものの、忍容性は概ね許容範囲内であった。
考察/結論
本研究は、EGFR-TKI一次治療後に増悪したEGFR変異陽性NSCLC患者において、pemetrexed+platinum併用療法がpemetrexed単剤療法と比較して疾患制御率 (DCR) を有意に改善する可能性を後方視的に示した。PC群のDCRは75.0% (n=24/32) であったのに対し、P群では44.4% (n=12/27) であり、この差は統計的に有意であった (p=0.017)。この結果は、EGFR変異陽性腺癌がpemetrexedに対して高い感受性を持つという仮説 (チミジル酸合成酵素の低発現に関連する可能性) を支持しつつも、プラチナ製剤の追加が細胞傷害性を増強し、EGFR-TKI耐性後の腫瘍細胞の増殖をより効果的に抑制することを示唆している。
一方で、無増悪生存期間 (PFS) については、PC群で5.2ヶ月 (95% CI: 3.8-6.7ヶ月)、P群で2.7ヶ月 (95% CI: 1.5-3.9ヶ月) とPC群で延長傾向が見られたものの、統計的有意差は認められなかった (p=0.096)。これは、本研究のサンプルサイズが比較的小さかったため、統計的検出力が不足していた可能性が考えられる。先行研究では、EGFR-TKI後の二次治療としてプラチナ併用化学療法が単剤療法と比較してPFSおよびOSを改善する可能性が報告されており、本研究のPFS延長傾向はこれらの報告と一致する。例えば、Wu et al.の報告では、プラチナ併用療法が単剤療法と比較して有意に高い奏効率 (27.0% vs 6.6%, p<0.001) と長いOS (21.7ヶ月 vs 10.1ヶ月, p=0.011) を示したと報告されている。本研究のORRはPC群で43.8%、P群で25.9%であり、Wu et al.の報告と類似した傾向を示した。
先行研究との違い: 本研究は、EGFR-TKI一次治療後に増悪したEGFR変異陽性NSCLC患者におけるpemetrexedベースの二次化学療法に焦点を当て、pemetrexed単剤とpemetrexed+プラチナ併用療法を直接比較した後方視的解析である点で、これまでの研究とは異なる。特に、pemetrexed単剤療法でも25.9%のORRと44.4%のDCRを達成しており、これは非扁平上皮NSCLCにおける一般的なpemetrexed単剤療法の成績と比較して良好な結果であり、EGFR変異陽性腫瘍のpemetrexedに対する感受性の高さを示唆している。
新規性: 本研究は、EGFR-TKI一次治療後のEGFR変異陽性NSCLC患者において、pemetrexed+platinum併用療法がpemetrexed単剤療法と比較してDCRを有意に改善することを本研究で初めて示した。これは、EGFR-TKI耐性後の治療戦略において、プラチナ製剤の追加が疾患制御の観点から有効である可能性を新規に提示するものである。
臨床応用: 本研究の結果は、EGFR-TKI一次治療後に増悪したEGFR変異陽性NSCLC患者の二次化学療法選択において、pemetrexed+platinum併用療法が疾患制御率の改善をもたらす選択肢となりうることを示唆する。しかし、プラチナ製剤の追加により好中球減少症 (グレード3/4が9.4%) などの毒性が増大するため、患者の全身状態 (ECOG PS)、骨髄機能、腎機能などを考慮した個別化された治療選択が臨床現場では重要となる。特に、P群でPS不良の患者がやや多かったにもかかわらず、DCRがPC群で有意に高かったことは、PS良好な患者においてはPC群がより推奨される可能性を示唆する。
残された課題: 本研究は後方視的単施設研究であり、サンプルサイズが小さい (n=63) というlimitationを持つ。特に、PFSおよびOSで統計的有意差が認められなかったのは、検出力不足による可能性が残された課題である。また、両群間で先行EGFR-TKIの種類や骨転移の有無に偏りがあった可能性も否定できない。さらに、本研究の実施時点ではT790M変異のルーチン検査は行われておらず、T790M変異の有無が治療効果に与える影響を評価できなかった点も今後の検討課題である。これらの限界を克服するためには、より大規模な前向き無作為化比較試験が必要である。現在、EGFR-TKI後のpemetrexed/シスプラチン対pemetrexed単剤の多施設共同第II相試験が進行中であり、その結果が今後の治療ガイドラインに重要な情報を提供すると期待されている。
方法
本研究は、韓国の三星医療センターにおける後方視的単施設解析として実施された。対象患者は、組織学的にEGFR変異陽性 (エクソン19欠失またはエクソン21 L858R変異) の進行NSCLCと診断され、EGFR-TKIによる一次治療後に疾患増悪を認め、2010年3月から2014年12月の期間に二次治療としてpemetrexedベースの化学療法を施行された連続症例である。合計63名の患者が解析に含まれた。本研究は施設内倫理委員会 (Institutional Review Boards of Samsung Medical Center) の承認を得て実施された。
患者は、二次治療としてpemetrexed単剤療法を受けたP群 (n=29) と、pemetrexedとプラチナ製剤 (シスプラチンまたはカルボプラチン) の併用療法を受けたPC群 (n=34) に分類された。Pemetrexedは500 mg/m²、シスプラチンは70 mg/m²、カルボプラチンはAUC 5.5で、いずれも21日サイクルで投与された。PC群では、4サイクル後にpemetrexed単剤による維持療法が医師の裁量で実施される場合があった。
ベースラインの臨床的特徴 (年齢、性別、組織型、EGFR変異タイプ、喫煙歴、転移部位、先行EGFR-TKIの治療効果と治療期間) が両群間で比較された。治療効果の評価は、治療開始後3週間ごとの胸部X線検査および2〜3サイクル (6〜9週間) ごとの胸部CTスキャンにより行われ、固形がんの治療効果判定基準 (RECIST v1.1) に基づいて客観的奏効率 (ORR: 完全奏効 [CR] + 部分奏効 [PR]) および疾患制御率 (DCR: CR + PR + 安定 [SD]) が算出された (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)。
主要評価項目はORRとDCRであり、副次評価項目はPFS、OS、および毒性であった。PFSは二次治療開始日から疾患増悪またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、OSは二次治療開始日から死亡または最終追跡調査日までの期間と定義された。毒性評価は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v3.0に基づいて行われた。
統計解析には、カテゴリー変数の比較にはカイ二乗検定またはFisherの正確検定が、連続変数の比較にはStudentのt検定が用いられた。生存期間の解析にはKaplan-Meier法が用いられ、群間比較にはログランク検定が適用された。p値が0.05未満の場合を統計的に有意と判断した。全ての統計解析はSPSSソフトウェア (バージョン18.0; SPSS Inc. Chicago, IL) を使用して実施された。