- 著者: Glenwood Goss, Cécile Chabot, Jeannine Blais, Martin Schlumberger, et al.
- Corresponding author: Glenwood D. Goss, MD (The Ottawa Hospital Research Institute, University of Ottawa)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29902295
背景
肺扁平上皮癌 (SqCC) は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約25〜30%を占めるが、EGFR変異陽性腺癌とは異なり、標的治療の恩恵を受ける患者選択バイオマーカーが未確立であった。近年、プラチナ製剤ベースの化学療法後に進行した進行肺SqCCに対する治療選択肢は拡大しており、ネシツムマブ (Thatcher et al. LancetOncol 2015)、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ (Reck et al. NEnglJMed 2016)、ニボルマブ (Brahmer et al. NEnglJMed 2015)、アテゾリズマブ (Rittmeyer et al. Lancet 2017)、抗VEGFR2抗体ラムシルマブ (Garon et al. Lancet 2014)、そして汎ErbB阻害薬であるアファチニブが承認されてきた。この治療選択肢の拡大に伴い、最適な治療法を決定するための予測バイオマーカーの同定が喫緊の課題となっている。特に、肺SqCCにおける標的治療の進展は腺癌と比較して手薄であり、この知識のギャップを埋めることが求められる。
LUX-Lung 8試験 (第III相無作為化比較試験) では、白金系化学療法後に進行した進行肺SqCC患者を対象に、アファチニブ (汎ErbBブロッカー) とエルロチニブを比較した。その結果、アファチニブ群はエルロチニブ群と比較して、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の有意な改善を示した (OS中央値 7.9ヶ月 vs 6.8ヶ月; HR 0.81; 95% CI, 0.69-0.95; p=0.008、PFS中央値 2.6ヶ月 vs 1.9ヶ月; HR 0.81; 95% CI, 0.69-0.96; p=0.01) (Soria et al. LancetOncol 2015)。しかしながら、全体集団における効果サイズは限定的であり、どのサブグループがアファチニブの恩恵を特に受けるかについての予測バイオマーカーの同定が臨床上重要な課題として残されていた。特に、アファチニブの治療効果を最大化するための患者選択基準は未解明であり、この点が治療戦略の最適化を妨げる要因となっていた。
ERBB2 (HER2)、ERBB3 (HER3)、ERBB4 (HER4) などのERBBファミリー遺伝子変異は、肺SqCCの一部で報告されており、これらの変異を有する患者がアファチニブの汎ErbBブロッカー活性から特に利益を得る可能性が仮説として検討された。アファチニブは、全てのERBBホモダイマーおよびヘテロダイマーからのシグナル伝達を不可逆的に阻害するため、ERBBファミリー内の遺伝子異常が、アファチニブ治療から特に恩恵を受ける患者サブグループを特定する可能性があると考えられた。これまでの研究では、EGFR、HER2、HER3、HER4の変異頻度はそれぞれ約1-3%、4%、1-2%、8%と報告されており、これらの変異が肺SqCCの病態形成に関与している可能性が示唆されていた (Jaiswal et al. Cancer Cell 2013; Kan et al. Nature 2010; López-Malpartida et al. Lung Cancer 2009)。しかし、これらのERBBファミリー変異がアファチニブ治療の予測バイオマーカーとして機能するかどうかは未解明であった。また、肺SqCCの最大80%でEGFRの過剰発現が認められること、およびEGFR、HER2、HER3の増幅が報告されていることから (Hirsch et al. J Clin Oncol 2003; Hirsch et al. Semin Oncol 2002)、EGFR発現レベルやERBBファミリーのコピー数異常 (CNA) と治療アウトカムとの関連も評価する必要があった。本研究は、肺SqCCにおけるアファチニブの有効性を予測するバイオマーカーの探索において、ERBBファミリー変異の役割を詳細に評価することで、この知識のギャップを埋めることを目指した。
目的
LUX-Lung 8試験の探索的二次解析として、次世代シーケンシング (NGS) を用いて腫瘍組織検体におけるERBB遺伝子ファミリーメンバーの異常 (ERBB2、ERBB3、ERBB4の変異およびコピー数異常) と、アファチニブまたはエルロチニブ治療を受けた患者の臨床アウトカム (無増悪生存期間 [PFS] および全生存期間 [OS]) との関連を評価する。具体的には、ERBB変異の有無、個々のERBB遺伝子変異、およびERBBコピー数異常が、アファチニブとエルロチニブの治療効果にどのように影響するかを解析する。さらに、EGFRの免疫組織化学 (IHC) 発現レベルと治療アウトカムとの関連も評価し、アファチニブの治療効果を予測するバイオマーカーを特定することを目的とする。これらの解析を通じて、肺扁平上皮癌患者におけるアファチニブの最適な適用対象を特定し、精密医療の推進に貢献することを目指す。
結果
患者背景とTGAコホートの特性: LUX-Lung 8試験全体では795例が登録され、アファチニブ群に398例、エルロチニブ群に397例が割り付けられた。腫瘍遺伝子解析 (TGA) コホートは245例 (アファチニブ群132例、エルロチニブ群113例) で構成され、ベースラインの人口統計学的および臨床的特性は、LUX-Lung 8試験全体の集団と類似していた (eTable 1)。TGAコホートの91.4% (224/245例) が現喫煙者または元喫煙者であり、80.4% (197/245例) が非東アジア系であった。TGAコホートにおけるPFS中央値はアファチニブ群で3.5ヶ月 vs エルロチニブ群で2.5ヶ月であり、HR 0.69 (95% CI, 0.51-0.92; p=0.01) とアファチニブ群で有意な改善が認められた。OS中央値はアファチニブ群で8.4ヶ月 vs エルロチニブ群で6.6ヶ月であり、HR 0.81 (95% CI, 0.62-1.05; p=0.12) と改善傾向を示した。このTGAコホートにおけるPFSおよびOSのHRは、LUX-Lung 8試験全体と比較して低い値を示しており、PFSが2ヶ月以上の患者が優先的に選択されたことによる影響が考えられる (eFigure 1)。
ERBB変異の頻度と分布: NGS解析可能であった245例中53例 (21.6%) に、少なくとも1つのERBBファミリー変異が検出された (Table)。ERBB変異の内訳は、EGFR変異が16例 (6.5%)、HER2変異が12例 (4.9%)、HER3変異が15例 (6.1%)、HER4変異が14例 (5.7%) であった。複数のERBB変異を重複して持つ患者も少数存在した (例: EGFR、HER2、HER3変異を1例、HER3とHER4変異を2例)。検出されたEGFR変異のうち、既報の感作性変異は7種類のみであった。HER2変異は細胞内ドメインと細胞外ドメインの両方で検出された (eFigure 3)。LUX-Lung 8試験全体のアファチニブ長期奏効者 (12ヶ月以上治療継続) 21例のうち、TGAコホートに含まれる10例中5例 (50.0%) がERBB変異陽性腫瘍を有しており、ERBB変異陽性腫瘍の頻度が長期奏効者で高い傾向が示された。TGAコホートにおける遺伝子異常の分布は、The Cancer Genome Atlas (TCGA) が報告した肺SqCCのデータと概ね一致していた (Figure 2)。ただし、KMT2A、KMT2D、FAT3、CDKN2Aなどの特定の遺伝子では、TCGA解析よりも高い変異頻度が観察された (eTable 2)。
ERBB変異状態別の治療アウトカム: アファチニブ治療を受けた患者において、ERBB変異陽性腫瘍を有する患者は、ERBB変異陰性腫瘍を有する患者と比較して、PFSおよびOSが延長する傾向を示した (Figure 3)。具体的には、ERBB変異陽性患者におけるPFS中央値は4.9ヶ月 vs 3.0ヶ月 (HR 0.62; 95% CI, 0.37-1.02; p=0.06) であり、OS中央値は10.6ヶ月 vs 8.1ヶ月 (HR 0.75; 95% CI, 0.47-1.17; p=0.21) であった。一方、エルロチニブ治療を受けた患者では、ERBB変異の有無によるPFSおよびOSに大きな差は認められなかった (PFS中央値 2.7ヶ月 vs 2.4ヶ月; HR 0.76; 95% CI, 0.46-1.26; p=0.29; OS中央値 7.2ヶ月 vs 6.4ヶ月; HR 0.84; 95% CI, 0.54-1.32; p=0.46)。この結果は、ERBB変異がアファチニブ治療の予測バイオマーカーとなる可能性を示唆する。
個々のERBB遺伝子変異と治療アウトカム: 個々のERBB遺伝子ファミリーメンバーに着目した解析では (Figure 4)、EGFR変異単独ではアファチニブのPFSまたはOSの優位性を予測しなかった。ERBB変異陽性腫瘍におけるアファチニブの優位性は、HER3、HER4、そして特にHER2変異によって強く駆動されていることが示唆された。HER2変異を有する12例の患者では、アファチニブ群がエルロチニブ群と比較してPFS (HR 0.06; 95% CI, 0.01-0.59; p=0.02) およびOS (HR 0.06; 95% CI, 0.01-0.57; p=0.02) の両方で顕著な改善を示した。このHER2変異におけるPFSおよびOSのinteraction p値はそれぞれp=0.006およびp=0.003と統計的に有意であり、HER2変異の存在がアファチニブ治療のより良いアウトカムを予測する可能性が強く示唆された (eFigure 4)。HER3変異 (15例) およびHER4変異 (14例) を有する患者でも、アファチニブ群で数値的な改善傾向が認められたが、サンプルサイズが小さいため統計的有意差には達しなかった (HER3変異PFS HR 0.52; 95% CI, 0.16-1.72; HER4変異PFS HR 0.21; 95% CI, 0.02-1.94)。
ERBBコピー数異常 (CNA) およびEGFR過剰発現とアウトカム: 245例中、EGFRのCNAは17例 (6.9%)、HER2のCNAは9例 (3.7%) で検出された。HER3またはHER4のCNAは検出されなかった。ERBBのCNAとアファチニブまたはエルロチニブ治療のアウトカムとの間に明確な相関は認められなかった。免疫組織化学 (IHC) コホート (n=345) におけるアウトカムは、LUX-Lung 8試験全体と類似していた (PFS HR 0.74; 95% CI, 0.58-0.95; p=0.14; OS HR 0.79; 95% CI, 0.63-0.99; p=0.04)。EGFRの過剰発現は、いずれの評価基準においても、アファチニブのPFSまたはOSの優位性を予測しなかった (eTable 3)。この結果は、アファチニブの有効性がEGFRの過剰発現によって駆動されるものではないことを示唆する。
考察/結論
本探索的二次解析は、肺扁平上皮癌 (SqCC) におけるERBBファミリー変異、特にHER2変異が、アファチニブによる治療恩恵の予測バイオマーカーとして機能する可能性を示した本研究で初めての系統的エビデンスである。本研究で初めて、ERBB変異陽性SqCC患者においてアファチニブがエルロチニブと比較してPFSおよびOSを改善する傾向が認められ、特にHER2変異陽性患者ではPFS (HR 0.06; 95% CI, 0.01-0.59; p=0.02) およびOS (HR 0.06; 95% CI, 0.01-0.57; p=0.02) の両方で顕著な優位性が示された。この結果は、アファチニブの汎ErbBブロッカーとしての機構が、ERBBファミリー変異を有するSqCCサブグループで特に有効に機能することを支持する。
これまでの研究では、肺SqCCにおけるEGFR変異の頻度は低いと報告されていたが、本研究ではERBBファミリー変異全体の頻度が21.6%と、予想外に高いことが示された点で、先行研究の知見とは異なる側面を持つ。これは、アファチニブの治療選択において、ERBB変異スクリーニングが重要な役割を果たす可能性を示唆する。特にHER2変異は稀ではあるが、アファチニブはHER2変異を有する腺癌NSCLC患者において活動性を示すことが以前に報告されており (De Grève et al. Lung Cancer 2015)、本研究の知見はこれを裏付けるものである。HER2変異のパターンは腺癌NSCLCで頻繁に見られるエクソン20挿入変異とは異なり (Mazières et al. J Clin Oncol 2013)、SqCCではより多様な分布を示した。本研究で検出されたHER2変異の多くは細胞外ドメインに位置しており、これらの変異が腫瘍の増殖や生存に重要である可能性が考えられる。HER2の細胞外ドメイン変異は、大腸癌や乳癌でも活性化変異として報告されており (Kavuri et al. Cancer Discov 2015; Bose et al. Cancer Discov 2013)、尿路上皮癌におけるアファチニブ治療への反応とも関連している (Choudhury et al. J Clin Oncol 2016)。
本研究の知見は、肺SqCCの分子病態に関する新規な洞察を提供する。LUX-Lung 8コホートにおける遺伝子異常の有病率は、TCGA et al. Nature 2012で報告されたデータと一致しており、本研究のNGS解析の信頼性を裏付ける。ただし、KMT2A、KMT2D、FAT3、CDKN2Aなどの特定の遺伝子では、TCGA解析よりも高い変異頻度が観察された。これは、本研究で得られた高いリードカバレッジにより、より低いバリアントアレル頻度の変異が検出可能であったためと考えられる。
本研究は、いくつかの残された課題と限界を有する。第一に、本解析は探索的な性質のものであり、統計的に有意な結果 (HER2変異陽性患者におけるアウトカムを除く) が得られていないため、結果は仮説生成と見なされるべきである。第二に、TGAは機能的異常 (例: 過剰メチル化やリン酸化) を検出する能力に限界がある。第三に、NGSおよびIHC解析の対象となった患者は、LUX-Lung 8試験全体の少数 (約30%) にすぎず、PFSが2ヶ月以上の患者が優先的に選択されたため、選択バイアスが存在する可能性がある。したがって、結果をLUX-Lung 8試験全体に外挿することは困難である。最後に、個々のERBB変異の活性化の役割や、アファチニブに対する腫瘍の感作に関する独立したエビデンスは提示されていない。
これらの限界にもかかわらず、本研究は、肺SqCCの精密医療への道を拓く重要な臨床的意義を持つ。現在のSqCC治療ではEGFR-TKIは一般的に推奨されていないが、ERBB変異スクリーニングによるアファチニブの恩恵予測という概念は、扁平上皮癌への標的治療の臨床応用を拡張する足がかりとなる。特にHER2変異陽性SqCC患者に対するアファチニブ治療の有効性を前向きに検証する試験の設計に重要な仮説を提示するものであり、今後の検討課題として、これらの知見を大規模な前向き試験で検証することが必要である。
方法
本研究は、LUX-Lung 8試験 (第III相無作為化比較試験; ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01523587) の事後探索的二次解析である。LUX-Lung 8試験は、23カ国183施設で2012年3月30日から2014年1月30日にかけて実施された。対象患者は、IIIB期またはIV期の肺扁平上皮癌で、プラチナ製剤ベースの化学療法を4サイクル以上受けた後に病勢進行を認めた患者であった。患者はアファチニブジマレイン酸塩 (40 mg/日; n=398) またはエルロチニブ塩酸塩 (150 mg/日; n=397) のいずれかに1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は人種/民族 (東アジア系 vs 非東アジア系) によって層別化された。すべての患者は書面によるインフォームドコンセントを提供した。
腫瘍遺伝子解析 (TGA) は、Foundation Medicine社のFoundationOne次世代シーケンシング (NGS) パネルを用いて実施された。NGS解析の対象は、LUX-Lung 8試験の全患者795例のうち、腫瘍組織検体が入手可能であった患者から、PFSが2ヶ月以上の患者を優先的に選択し、合計245例の腫瘍検体を用いた。この選択は、EGFR標的チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) への反応性の幅を反映させることを目的とした (eAppendix in the Supplement)。NGSは、287の癌関連遺伝子の4557のコーディングエクソン、19遺伝子の47のイントロン、および3549の多型を対象に実施され、点変異 (single-nucleotide variants)、コピー数異常 (CNA)、および再構成を検出した。このNGSアッセイは、EGFR、HER2、HER3、HER4を含む全てのERBB受容体における変異を検出可能であり、その性能は以前に検証されている (Frampton et al. NatBiotechnol 2013)。
EGFR発現レベルは、免疫組織化学 (IHC) 法を用いて評価された。Dako社のEGFR pharmDxキットを使用し、2つの異なる基準でEGFR陽性を定義した。1つ目の基準は、腫瘍細胞の10%以上で任意の強度の染色が認められる場合。2つ目の基準は、Hスコアが200以上の場合とした。IHC解析は345例の患者で実施され、TGAコホートとは大部分が排他的な集団であった (11例のみ重複)。
統計解析には、Kaplan-Meier法を用いてOSおよびPFSを算出した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いてハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。ERBB変異の有無、個々のERBB遺伝子変異、ERBBコピー数異常、およびEGFR発現レベルとPFSおよびOSとの関連を評価した。すべての解析はSASバージョン9.2を用いて実施され、両側p値が0.05未満を統計的に有意と判断した。本解析は2015年2月26日から2017年6月12日にかけて実施された。