- 著者: Yuxiang Ma, Jinhui Xue, Fangfang Gao, Yunpeng Yang, Yuanyuan Zhao, Linlin Wang, Zhangzhou Huang, Chunjiao Wu, Yongzhong Luo, Juan Li, Jian Fang, Zhengbo Song, Yongsheng Li, Huiwen Ma, Qinxiang Guo, Tienan Yi, Xiting Liu, Zhihua Liu, Jianya Zhou, Xiaorong Dong, Qitao Yu, Jianbo He, Liuzhong Yang, Wenfeng Fang, Yuping Sun, Yaling Qi, Jing Lv, Zhen Ge, Binyan Xia, Lei Li, Wei Wang, Yan Huang, Li Zhang, Hongyun Zhao
- Corresponding author: Hongyun Zhao (Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, China); Li Zhang (Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, China); Yan Huang (Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, China)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Preclinical and First-in-human Phase 1 trial)
- PMID: 42030931
背景
ROS1融合遺伝子は非小細胞肺がん (NSCLC) の約1-2%に認められ、CD74-ROS1が最も頻繁な融合パートナーである (Giustini and Bazhenova 2020)。ROS1融合陽性NSCLCに対する標的療法は、患者の転帰を大幅に改善してきた (Desilets et al. 2024)。しかし、第1世代ROS1チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブは、客観的奏効率 (ORR) が60-70%と短期的な利益をもたらすものの、G2032R、D2033N、S1986F/Y、G2101A、L2026Mなどの耐性変異の出現や、中枢神経系 (CNS) への浸透不良により、長期的な利益は限定的である。これにより、早期の病勢進行やCNS再発が頻繁に発生することが課題であった (Zhao et al. 2024)。
第2世代ROS1 TKI(ロルラチニブ、エントレクチニブ、レポトレクチニブ、タレトレクチニブなど)は、CNS活性の改善とクリゾチニブ耐性の一部克服を示す。しかし、これらの薬剤はL2086Fなどの新たな二次変異の獲得により、奏効の持続性が制限されることが報告されている (Desilets et al. 2025)。さらに、複数の第2世代ROS1 TKIは、トロポミオシン受容体キナーゼ (TRK) A/B/Cのオフターゲット阻害に起因するCNS関連有害事象(めまい、味覚異常など)が30-50%という高頻度で発生し、患者の生活の質 (QOL) を著しく損なうことが問題視されている (Drilon et al. 2020)。これらの既存のTKIでは、広範なROS1二次耐性変異を同時にカバーしつつ、TRKを介したオフターゲット神経毒性を回避する能力が不足している。
特に、G2032R変異はROS1陽性腫瘍における重要な薬剤耐性変異であり、クリゾチニブ、エントレクチニブ、ロルラチニブはG2032R変異に対して有意な阻害活性を欠くことが知られている (Davare et al. 2015)。このため、G2032R耐性変異を克服し、TRK阻害を回避できる次世代のCNS活性型ROS1選択的阻害薬の開発が、NSCLC患者におけるアンメットメディカルニーズとして強く認識されている。既存の治療選択肢では、G2032R変異を有する患者や脳転移を有する患者に対する効果的な治療法が未確立であり、このギャップを埋める新たな薬剤の開発が強く求められている。
目的
本研究の目的は、G2032R耐性変異を克服し、TRK阻害を回避するように合理的に設計された次世代マクロ環状ROS1阻害薬JYP0322の前臨床薬理学的特性を詳細に検証することである。JYP0322は、コンパクトなマクロ環状骨格によりG2032R変異による立体障害を回避し、ピラゾールコアのシアノ (-CN) 基によりTRKAのTyr591との立体衝突を誘導することで、TRKを温存しつつROS1を選択的に阻害するように設計された。
さらに、ROS1融合陽性NSCLC患者を対象としたfirst-in-human第1相試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT06128148) を実施し、JYP0322の安全性、薬物動態 (PK)、CNS浸透性、および抗腫瘍活性を評価する。特に、G2032R変異を有する患者およびCNS転移を有する患者におけるJYP0322の有効性を詳細に解析し、その臨床的有用性を明らかにすることを目指す。本試験は、既存のROS1 TKIの限界を克服し、より良好な治療選択肢を提供するための基盤を確立することを意図している。
結果
JYP0322の構造的最適化と選択性: JYP0322は、ピラゾロピリミジン部位を介してROS1のヒンジ残基Glu2027およびMet2029と2つの水素結合を形成するマクロ環状阻害薬である (Figure 1A)。ROS1 G2032R変異は、嵩高いアルギニン残基を導入し、クリゾチニブの側鎖と立体的に衝突することで耐性を付与するが、JYP0322はコンパクトなマクロ環状骨格によりこの立体障害を回避する (Figure 1B)。TRKオフターゲット阻害を軽減するため、JYP0322はピラゾールコアにシアノ (-CN) 基を導入し、TRKAのTyr591と立体的に衝突するように設計された (Figure 1B)。これにより、ROS1のLeu2028とは衝突せず、TRKを温存しつつROS1を選択的に阻害できる。377種類の野生型キナーゼに対する選択性スクリーニングにおいて、JYP0322は高い選択性を示した (Figure 1C)。ROS1に対するIC50は0.37 nM、ROS1 G2032Rに対するIC50は0.3 nMであり、ALKに対して82倍、TRKAに対して130倍の選択性を示した (Figure 1D, E)。クリゾチニブ、エントレクチニブ、ロルラチニブがG2032R変異に対して活性を失うのに対し、JYP0322はレポトレクチニブやタレトレクチニブと同等の高活性を示した。
in vivo抗腫瘍活性とCNS浸透性: Ba/F3 CD74-ROS1 WT皮下異種移植モデルにおいて、JYP0322は5 mg/kg 1日2回 (BID) 投与で101.4%の腫瘍増殖抑制率 (TGI) を達成し、クリゾチニブ30 mg/kg 1日1回 (QD) と同等の強力な抗腫瘍活性を示した (Figure 2A)。SDC4-ROS1融合遺伝子を有するLU-01-0414 PDXモデルでは、3 mg/kg BIDで87.3%のTGIを達成した (Figure 2B)。Ba/F3 CD74-ROS1 G2032R駆動皮下異種移植モデルでは、JYP0322は5 mg/kgおよび15 mg/kgで腫瘍退縮を誘導し、それぞれ81.7%および100.3%のTGIを示し、タレトレクチニブおよびレポトレクチニブを凌駕する有効性を示した (Figure 2C)。頭蓋内Ba/F3 GOPC-ROS1 WTモデルおよびBa/F3 CD74-ROS1 G2032Rモデルにおいて、JYP0322は用量依存的に生存期間を延長した (Figure 2D, E)。ビーグル犬におけるPK研究では、JYP0322の非結合CSF/血漿AUC0-last比が0.893と良好な脳移行性を示した (Figure S2H)。
臨床第1相試験の患者特性と安全性: 89例のROS1融合陽性NSCLC患者が登録された (用量漸増20例、用量拡大69例) (Figure 3)。患者の年齢中央値は53歳、女性が58.4%、ECOG PS 1が74.2%であった。ベースラインで脳転移を有する患者は36.0% (n=32) であった。ROS1 TKI前治療歴のある患者は73.0% (n=65) であり、そのうち24例は2種類以上のTKI(ロルラチニブ、タレトレクチニブ、レポトレクチニブを含む)による前治療歴があった (Table 1)。 治療関連有害事象 (TRAE) は94.4% (84/89) の患者で発現し、グレード3以上のTRAEは24.7% (22/89) であった (Table 2)。TRAEによる治療中止は5.6% (5/89)、用量減量は3.4% (3/89) であった。治療関連死は2.2% (2/89) で報告された(肝不全1例、原因不明1例)。最も頻繁に認められたTRAEは体重増加 (58.4%)、高トリグリセリド血症 (40.4%)、高コレステロール血症 (32.6%)、AST上昇 (27.0%)、ALT上昇 (23.6%) であり、ほとんどがグレード1-2であった。CNS関連TRAEは低頻度であり、めまい6.7% (n=6)、頭痛3.4% (n=3)、感覚鈍麻3.4% (n=3)、記憶障害3.4% (n=3) であり、すべてグレード1-2であった。グレード3の運動失調が1例報告されたが、神経栄養療法後に回復した。これは、既存の第2世代TKIで報告されている30-50%のCNS毒性プロファイルと比較して著しく低い。
全集団における抗腫瘍活性: 有効性評価可能患者80例において、ROS1 TKI未治療患者 (n=23) のORRは95.7% (95% CI: 78.1-99.9)、DCRは100% (95% CI: 85.2-100) であり、奏効期間中央値 (mDOR) は未到達であった (Figure 4A, B)。ROS1 TKI前治療患者 (n=57) のORRは52.6% (95% CI: 39.0-66.0)、DCRは77.2% (95% CI: 64.2-87.3) であり、mDORは14.6か月 (95% CI: 7.4-NE)、無増悪生存期間中央値 (mPFS) は8.3か月 (95% CI: 4.6-15.4) であった (Figure 4C, D)。2種類以上のTKIによる前治療歴のある患者 (n=21) では、ORRは57.1% (95% CI: 34.0-78.2)、DCRは71.4%、mPFSは8.3か月 (95% CI: 2.9-NE) であった (Figure 4E, F)。
G2032R変異患者における活性: TKI前治療患者53例で分子プロファイルが評価され、9例にROS1 G2032R変異が同定された(うちG2032R/L2086F共変異1例、G2032R/L1951R共変異1例)。G2032Rサブグループ (n=9) のORRは77.8% (95% CI: 40.0-97.2) であり、mPFSは未到達 (95% CI: 2.9-NE) であった。非G2032Rサブグループ (n=48) では、ORRは47.9% (95% CI: 33.3-62.8)、mPFSは8.1か月 (95% CI: 4.5-15.4) であった。G2032R/L1951R共変異を有する患者も、クリゾチニブ後に部分奏効 (PR) を達成した (Figure 5A)。
CNS活性: ベースラインで脳転移を有する28例の評価可能患者において、脳転移を有するTKI未治療患者のORRは83.3% (95% CI: 35.9-99.6)、TKI前治療患者のORRは36.4% (95% CI: 17.2-59.3) であった。頭蓋内ORR評価可能患者9例における頭蓋内ORRは55.6% (95% CI: 21.2-86.3) であり、TKI未治療患者では100%、TKI前治療患者では33.3%であった。頭蓋内DCRは88.9% (95% CI: 51.8-99.7) であった (Figure 5C)。
PKとCNS浸透、推奨第2相用量 (RP2D): JYP0322は急速に吸収され、血漿中濃度はQD、BID、TID投与後約2時間または4時間でピークに達した (Figure 6)。100 mg QD以上の用量で、定常状態曝露はROS1 WT IC90 (19.3 nmol/L) およびROS1 G2032R IC90 (128.4 nmol/L) を上回った。CSF/非結合血漿比 (Kp,uu,CSF) は1.20 (SD 0.24) であった。用量制限毒性 (DLT) は観察されず、最大耐用量 (MTD) は未到達であった。安全性、有効性、PKデータを総合的に評価した結果、150 mg BIDと150 mg TIDの両レジメンがRP2Dの基準を満たし、拡大コホートでさらに評価される予定である。耐性機構解析では、進行前後の26例のサンプルでROS1非依存性または特性不明の機構が優勢であり、L2086Fゲートキーパー変異がTP53変異と共に2例で確認された。
考察/結論
本研究は、JYP0322がROS1 G2032Rを含む広範な耐性変異を克服しつつ、TRKオフターゲット神経毒性を回避できる初の次世代ROS1 TKIであることを示している。その設計は、コンパクトなマクロ環構造と-CN基によるTRKAのTyr591との立体障害回避という合理的な薬剤設計に基づいている。
先行研究との違い: 既存の第2世代TKI(例えば、レポトレクチニブやタレトレクチニブ)がG2032R変異に対して59-61.5%のORRを示すのに対し、JYP0322はG2032R変異患者で77.8% (95% CI: 40.0-97.2) という高いORRを達成した。これは、重度前治療集団におけるアンメットニーズを直接満たすものである。また、ロルラチニブが30%以上のめまいを報告するのに対し、JYP0322のCNS関連TRAEはめまい6.7%、頭痛3.4%と顕著に低頻度であり、既存のTKIと比較してQOLの点で優位性を持つ。これは、JYP0322がTRKを温存するように設計されていることと対照的である。
新規性: JYP0322は、ROS1 G2032R耐性変異を克服し、良好なCNS浸透性を持ちながら、TRKオフターゲット阻害による神経毒性を最小限に抑えるという、これまでのROS1 TKIには見られなかった特性を併せ持つ新規薬剤である。特に、TKI未治療患者でのORR 95.7% (95% CI: 78.1-99.9) は、既存の第2世代TKI(レポトレクチニブの79%、タレトレクチニブの88.8%など)の報告値を上回るものであり、本研究で初めて示された。さらに、JYP0322はROS1 G2032R変異を有する患者において77.8%のORRを達成し、これは他のTKIと比較して高い新規の有効性を示している。
臨床応用: 本剤は、ROS1融合陽性NSCLC患者、特にG2032R変異を有する患者や脳転移を有する患者において、高い奏効率と良好な安全性プロファイルを示すことから、新たな治療選択肢として臨床応用に大きく貢献する可能性を秘めている。Kp,uu,CSFが1.20と良好なCNS浸透性を示し、頭蓋内ORRが55.6%であったことは、脳転移を有する患者にとって特に重要な臨床的意義を持つ。JYP0322は、現在の治療法では効果が限定的であった患者群に対し、優れた治療選択肢を提供する可能性があり、bench-to-bedsideの観点からも大きな期待が寄せられる。
残された課題: 本試験は単アームの第1相試験であり、長期的な全生存期間 (OS) や成熟したPFSデータは未確定である。比較対照群を含む第3相試験(特にレポトレクチニブまたはタレトレクチニブとの直接比較)が必要である。また、耐性機構解析においてROS1非依存性機構が優勢であったことは、L2086Fゲートキーパー変異を含む耐性後の戦略(後続のROS1阻害薬や併用療法)の重要性を示唆しており、今後の検討課題である。非強制的なバイオマーカー解析や不均一な遺伝子パネルの使用により、包括的なバイオマーマー評価が制限された点も今後の課題として挙げられる。これらのlimitationは、進行中の第3相試験で系統的に評価される予定である。
方法
前臨床試験: JYP0322の選択性は、377種類の野生型キナーゼに対する選択性アッセイを用いて評価された。ROS1およびROS1 G2032Rに対する生化学的キナーゼアッセイを実施し、IC50値を決定した。CD74-ROS1野生型 (WT) およびG2032R、S1986F/Y、G2033N、G2101Aなどの変異体、ならびにLMNA-NTRK1を発現するBa/F3細胞株の細胞生存率アッセイにより、JYP0322の増殖阻害活性を評価した。in vivoでの抗腫瘍活性は、Ba/F3 CD74-ROS1 WT、Ba/F3 CD74-ROS1 G2032R、Ba/F3 CD74-ROS1 D2033Nの皮下異種移植モデルおよびLU-01-0414 SDC4-ROS1患者由来異種移植 (PDX) モデルを用いて評価された。CNS浸透性は、Ba/F3 GOPC-ROS1 WTおよびBa/F3 CD74-ROS1 G2032R頭蓋内異種移植モデルでの生存解析により評価され、さらにビーグル犬を用いた脳脊髄液 (CSF)/血漿PK評価により、非結合CSF/血漿AUC比を算出した。ドッキングプロセスにはSchrödinger 2024-4 Maestroソフトウェアが使用され、ROS1 (PDBコード: 3ZBF) およびTRKA (PDBコード: 7VKO) の結晶構造が用いられた。
臨床第1相試験: 本試験は、多施設共同、非盲検、first-in-humanの第1相試験として実施された (ClinicalTrials.gov識別子: NCT06128148)。用量漸増パート (50 mg 1日1回 [QD] から150 mg 1日3回 [TID] まで、n=20) と用量拡大パート (n=69) の2部構成で実施された。組み入れ基準は、ECOGパフォーマンスステータス0-1、ROS1融合陽性NSCLC患者であった。主要評価項目は安全性、PK、および最大耐用量 (MTD) であった。副次評価項目は、客観的奏効率 (ORR、RECIST 1.1基準)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、奏効期間 (DOR)、およびCNS活性であった。データカットオフは2025年4月30日であった。有効性評価可能集団は80例であった。PK解析はPhoenix WinNonlinソフトウェアバージョン8.2を用いて非コンパートメントモデル法により実施された。統計解析はSAS 9.4を用いて実施され、PFSおよびDORの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられた。ROS1融合遺伝子および耐性変異の同定には、ハイブリダイゼーションキャプチャーベースの次世代シーケンシング (NGS) が用いられた。組織サンプルには437遺伝子パネル、血漿サンプルには139遺伝子パネルが使用された (Table S11)。