• 著者: Ou SHI, Zhu VW
  • Corresponding author: Sai-Hong Ignatius Ou (University of California Irvine School of Medicine, Orange, CA)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 30885345

背景

ROS1再構成は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約1〜2%に認められる稀なドライバー変異であり、若年・非喫煙者・腺癌に多いという臨床病理学的特徴を有する。2つのメタ解析によると、腺癌中のROS1再構成の頻度は2.4〜2.9%であり、アジア人 (2.6%) と白人 (2.1%) でほぼ同等であると報告されている Zhu et al. Transl Lung Cancer Res 2015。また、女性 (オッズ比 [OR]=1.54) や非喫煙者 (OR=3.27) でより高頻度に認められることが示されている Zhu et al. Transl Lung Cancer Res 2015。ALK陽性NSCLCではEML4-ALKが全体の95%を占めるのに対し、ROS1陽性NSCLCでは22種類以上の多様な融合バリアントが同定されており、最多のCD74-ROS1でも全体の50%未満にとどまることが知られている (Table 1)。

NSCLCにおいて中枢神経系 (CNS) 転移は重大な予後規定因子であり、ALK陽性NSCLC (CNS転移率40〜50%) と同様に、ROS1陽性NSCLCでもCNS転移の頻度が高いと推測されてきた Peters et al. NEnglJMed 2017。しかし、2019年時点でROS1陽性NSCLCのCNS転移に特化した包括的なレビューは存在せず、その疫学、臨床的特徴、および治療戦略に関する知見は未解明な点が多かった。特に、クリゾチニブ (crizotinib) が当時唯一承認されていたROS1チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であったが、その低い血液脳関門 (BBB) 透過性 (脳脊髄液 [CSF]/血漿比:0.0026) が報告されており Costa et al. J Clin Oncol 2011、CNS転移の管理は重大な未充足ニーズとなっていた。ALK陽性NSCLCの治療経験から、CNS転移の発生率が高いことが示されており Soda et al. Nature 2007、ROS1陽性NSCLCにおいても同様の課題が想定された。

本レビューの発表時点では、ROS1陽性NSCLCにおけるCNS転移の診断時および疾患経過中の発生率、各種ROS1 TKIの頭蓋内活性、および非TKI治療オプションのCNS活性に関する体系的な情報が不足しており、これらの情報が臨床現場での最適な治療戦略の確立に不可欠であった。特に、特定のROS1融合バリアントがCNS転移リスクに影響を与える可能性や、ペメトレキセド (pemetrexed) ベースの化学療法のCNS活性に関するデータは皆無であり、これらの知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。

目的

本レビューは、ROS1陽性NSCLCにおけるCNS転移の疫学、臨床特性、および各種TKI (クリゾチニブ、エンレクチニブ [entrectinib]、ロルラチニブ [lorlatinib]、レポトレクチニブ [repotrectinib]、DS-6051b) の頭蓋内活性、さらに非TKI治療オプション (ペメトレキセドベース化学療法) について利用可能なエビデンスを系統的にレビューすることを目的とした。これにより、ROS1陽性NSCLC患者におけるCNS転移の臨床管理の指針を提示し、今後の研究方向性を明確にすることを目指した。特に、ROS1融合パートナーの多様性がCNS転移リスクに与える影響を評価し、各薬剤の頭蓋内奏効データに基づいて、より効果的なCNS治療戦略の必要性を強調する。

結果

ROS1融合パートナーの多様性とCNS転移リスクへの影響: 現時点で22種類のROS1融合バリアントがNSCLCで報告されており、CD74-ROS1 (最多、50%未満)、SLC34A2-ROS1、EZR-ROS1、SDC4-ROS1などが主要なものである (Table 1)。ALK陽性NSCLCではEML4-ALKバリアント間の違いがクリゾチニブに対する無増悪生存期間 (PFS) や耐性変異スペクトルに影響することが知られており、ROS1においても同様のバリアント依存性効果が想定されている。上海胸科病院からの報告では、CD74-ROS1患者19例のうち31.6%にCNS転移が認められたのに対し、非CD74-ROS1患者17例では0% (p=0.02) であり、CD74-ROS1融合がCNS転移への特異的親和性と関連することを初めて示した Li et al. J Thorac Oncol 2018。クリゾチニブ投与時の奏効率 (ORR) もCD74-ROS1 (73.7%) よりも非CD74-ROS1 (94.1%、p=0.18) で数値的に高く、中央値PFS (12.6 vs 17.6ヶ月、p=0.048) および全生存期間 (OS) (24.3 vs 44.5ヶ月、p=0.036) も非CD74-ROS1群で有意に優れていた。多変量解析ではクリゾチニブ前のCNS転移の存在が独立したOS不良因子 (HR=8.973、95% CI: 1.723〜46.720、p=0.010) と同定された。なお、クリゾチニブ治療中の経過でCNS進行の割合は非CD74-ROS1患者 (33.3%) がCD74-ROS1患者 (21.4%) より数値的に高く、初期CNS転移リスクが低くてもクリゾチニブ治療下でのCNS進行は追いつく可能性が示唆された。また、SLC34A2-ROS1とSDC4-ROS1はエンドソームに局在してMAPK経路を最大活性化するのに対し、CD74-ROS1は小胞体に局在してMAPKシグナルが抑制されるという差異的な細胞内局在が同定されており、MAPK経路の最大活性化が腫瘍の攻撃性と関連する可能性が示唆された Neel et al. Cancer Res 2019

CNS転移の疫学:前向き試験データ: 前向き臨床試験からのデータによると、TKI未治療患者のCNS転移率は20〜40%台以上、TKI前治療患者では30〜55%台という高頻度が確認された (Table 2)。最大規模の前向きクリゾチニブ試験 (OO-1201、n=127) では診断時CNS転移率が18.1% (独立評価) であった Wu et al. J Clin Oncol 2018。一方、クリゾチニブ投与中のCNS転移発症については十分な追跡データが限られていた。エンレクチニブの統合解析 (STARTRK-1/2、n=53) ではCNS転移率43.4% (23/53例)、STARTRK-2単独 (n=32) では34.2% (11/32例) であった Drilon et al. CancerDiscov 2017。ロルラチニブフェーズII試験 (n=47) では登録時のCNS転移率が53.2% (25/47例) と高く、クリゾチニブ未治療群 (46%) ・クリゾチニブ前治療群 (56%) に分かれた。レポトレクチニブ (TRIDENT-1フェーズI、n=30) では53.3% (16/30例) が登録時にCNS転移を有し、TKI未治療50%・TKI前治療55%という内訳であった。DS-6051b (日本フェーズI、n=15) では33.3% (5例) がCNS転移を有していた。セリチニブ (ceritinib) (韓国フェーズII、n=32) では25% (8例) がCNS転移を有しており、うちクリゾチニブ前治療例2例・TKI未治療例7例に分類された。

CNS転移の疫学:後ろ向き研究データ: サムスン・延世病院の大規模後ろ向き解析 (n=103、複数ROS1 TKI) では、診断時CNS転移率22.3%がフォローアップ期間中に45.6%に増加した Park et al. J Thorac Oncol 2018。ベースラインCNS転移なし80例のうち24例 (30%) が治療経過中に新規CNS転移を発症した。マサチューセッツ総合病院の解析 (n=39、クリゾチニブ) では、初回転移性診断時のCNS転移率が19.4%であり、ALK陽性 (39.1%、p=0.033) よりも有意に低かった。CNS転移のない患者における累積脳転移発症率もROS1 (22%) はALK (56%、p=0.001) ・RET陽性より低く、ROS1陽性NSCLCはALKと比較してCNS転移リスクが相対的に低い可能性が示唆された。しかしコロラド大学の後ろ向き解析 (n=33) ではROS1 (36%) とALK (34%) でCNS転移率が同等であり、CNS転移がROS1陽性NSCLCにおける単独かつ最多の再発部位であることが示され、結果に矛盾がある Patil et al. J Thorac Oncol 2018。EUROS1後ろ向き研究 (n=31) ではCNS転移率3.2%と極めて低かったが、症例選択バイアスや追跡期間の差異が影響していると考えられる。

クリゾチニブのCNS活性の限界: クリゾチニブのCSF/血漿比は0.0026と極めて低く Costa et al. J Clin Oncol 2011、CNS転移に対する頭蓋内コントロールが本質的に不十分である。OO-1201試験 (n=127) では、CNS転移あり患者 (n=23) の全身ORR (73.9%、95%CI: 51.6〜89.8) はCNS転移なし患者 (71.2%、95%CI: 61.4〜79.6) と同等であったが、中央値PFS はCNS転移あり (10.2ヶ月、95%CI: 5.6〜13.1) でCNS転移なし (18.8ヶ月、95%CI: 13.1〜NR) より有意に短く、CNS転移は独立した予後不良因子であった Wu et al. J Clin Oncol 2018。頭蓋内ORRの系統的な解析は主要試験では行われなかった。PROFILE 1001試験 (n=53) はそもそもCNS転移の登録要件がなく、頭蓋内活性のデータは得られなかった Shaw et al. NEnglJMed 2014。この「低CNS浸透性」こそが、CNS転移を伴うROS1陽性NSCLCにおけるクリゾチニブの最大の弱点である。

エンレクチニブのCNS活性: エンレクチニブはBBB透過性を高めるよう設計されたALK/ROS1/pan-NTRK阻害薬である。STARTRK-1/2の2018年更新データ (n=53、うちCNS転移23例) では、CNS転移あり患者 (n=23) の全身ORR 73.9% (95%CI: 51.6〜89.8) はCNS転移なし患者 (80.0%、95%CI: 61.4〜92.3) と同等であった Drilon et al. CancerDiscov 2017。頭蓋内ORR (測定可能病変n=20) は55% (95%CI: 32〜77%) であり、頭蓋内DoRは12.9ヶ月であった。CNS転移あり患者の中央値PFS (13.6ヶ月) はCNS転移なし (26.3ヶ月) より短く、CNS転移が良好なTKI活性下でも依然として予後不良因子であることを示した。このことは「CNS活性が十分であっても、CNS転移を有する患者ではさらに強力なCNS浸透性を持つTKIが必要」という示唆を与える。

ロルラチニブのCNS活性: ロルラチニブは強力なCNS浸透性を持つ次世代ALK/ROS1阻害薬である。フェーズII EXP6コホート (n=47) において、クリゾチニブ前治療でCNS転移を有する19例 (測定可能または非測定可能) の確認頭蓋内ORRは53% (95%CI: 29〜76%) であり、頭蓋内DoR中央値は未到達 (95%CI: 5ヶ月〜NR) であった。クリゾチニブ未治療でCNS転移を有する6例の頭蓋内ORRは66.7% (95%CI: 22〜96%) であり、DoRも未到達であった。これらのデータはクリゾチニブ治療後のCNS転移に対するロルラチニブの強力な頭蓋内活性を示しており、post-クリゾチニブCNS転移管理の有力な選択肢となる。

レポトレクチニブのCNS活性: レポトレクチニブ (TPX-0005) はROS1のソルベントフロント変異 (G2032R等) を含む多くの耐性変異を克服する次世代TKIであり、強力なCNS活性を持つ。TRIDENT-1フェーズI更新データでは、測定可能なCNS病変を有するTKI未治療患者 (n=3) の確認頭蓋内ORRが100%であった。TKI未治療全例 (CNS転移5例) における頭蓋内ORRは60%であった。一方、TKI前治療患者 (測定可能CNS病変n=4) の頭蓋内ORRは25% (初期段階では9.1%) と限定的であったが、試験はまだ初期段階であった。G2032R変異に対する活性を持つ唯一の次世代TKIとして、クリゾチニブ耐性設定におけるCNS転移管理に大きな期待が寄せられる。

DS-6051b (タレトレクチニブ [taletrectinib]) のCNS活性: DS-6051bはDaiichi Sankyo開発の選択的ROS1/NTRK 1/2/3阻害薬であり、ROS1 (IC50: 0.207 nM) ・NTRK1 (0.622 nM) ・NTRK2 (2.28 nM) ・NTRK3 (0.980 nM) に対して強力な阻害活性を示す。重要なのは、ゲートキーパー変異L2026M (GI50=14 nM) およびソルベントフロント変異G2032R (GI50=64 nM) に対しても活性を示す点であり (クリゾチニブのG2032R GI50は>500 nM)、耐性変異克服能が優れている。日本フェーズI試験 (n=15) では5例がCNS転移を有し、1例の頭蓋内奏効画像が報告されたが、残る4例のデータは未公表であった。フェーズ1プール解析ではTKI未治療評価可能例 (n=11) でORR 66.7%、中央値PFS 29.1ヶ月という優れた有効性が示された。

ペメトレキセドベース化学療法のROS1陽性NSCLCへの有効性: ROS1陽性NSCLCはペメトレキセドへの高い感受性を示し (ORR 29〜57%)、TKI耐性後の選択肢として重要である。サムスン・延世病院の後ろ向き解析 (n=103) ではROS1 TKI (ORR 70.7%、中央値PFS 12.7ヶ月、OS 64.9ヶ月) がペメトレキセドベース療法 (ORR 53.3%、中央値PFS 8.0ヶ月、OS 20.7ヶ月) より数値的に優れていた。特に注目すべきはペメトレキセドのみ受けてTKIを受けなかった患者のOS 20.3ヶ月に対し、両方を受けた患者のOS 60.1ヶ月と大きな差があることであった。EUROS1後ろ向き研究 (n=24) でもORR 57.7%・中央値PFS 7.2ヶ月が報告された。TKIとペメトレキセドをともに受けた場合の相加的な生存延長効果が示唆されるが、CNS転移に対するペメトレキセドの頭蓋内ORRは現時点で文献に報告されておらず、これが重大な情報的空白として残されている。TKI治療下ではextracranial病変が主たる進行部位となるため、TKI前治療患者でCNS転移が優勢な進行パターンとなることが多い。

考察/結論

本レビューはROS1陽性NSCLCのCNS転移が診断時20〜35%、クリゾチニブ治療後にはさらに最大55%に増加する重大かつ頻度の高い臨床問題であることを系統的に示した最初の専門レビューである。クリゾチニブの低CNS浸透性はCNS進行をもたらし、CNS浸透性の高い次世代TKI (エンレクチニブ、ロルラチニブ、レポトレクチニブ、DS-6051b) の必要性を強調する。

先行研究との違い: 先行研究ではROS1陽性NSCLCのCNS転移リスクはALK陽性NSCLCと比較して低いとする報告が多かったが、本レビューでは一部施設からの報告で同等とするデータも存在することを示し、ROS1陽性NSCLCのCNS転移リスクはALKより低いとは言い切れないという、これまでとは異なる見解を提示した。

新規性: 本研究の独自性は、CD74-ROS1融合がCNS転移の強力な独立した予測因子 (HR=8.973、95% CI: 1.723〜46.720、p=0.010) であることを示した点と、融合バリアント別の細胞内局在・シグナル差異とCNS転移傾向の関連という新たな生物学的仮説を提唱した点にある。これは本研究で初めて体系的に示された知見である。

臨床応用: 臨床的意義として、CD74-ROS1融合患者では診断時よりCNS転移スクリーニングを積極的に行うべきであり、CNS転移を有する患者では頭蓋内活性の高い薬剤 (エンレクチニブ、ロルラチニブ) を優先的に選択することが推奨される。G2032R耐性変異はクリゾチニブ後の最多耐性機序 (約40%) であり、G2032Rに活性を有するDS-6051b・レポトレクチニブへのシーケンシング戦略が重要となる。

残された課題: 今後の検討課題として、融合パートナーとCNS転移リスクの相関は症例数が限られており大規模前向きデータによる検証が必要であること、ペメトレキセドの頭蓋内活性データが皆無であること、最適な治療アルゴリズム確立のためにFLATIRONデータベース等のリアルワールドデータ活用が求められることが指摘された。これらの課題を克服することで、ROS1陽性NSCLC患者の予後改善に貢献できると考えられる。

方法

本研究は、ROS1陽性NSCLCのCNS転移に関する公表論文、学会報告、および症例集積データを対象とした文献レビューである。特定の研究デザインは採用せず、ROS1陽性NSCLC患者におけるCNS転移の発生率、臨床的特徴、および治療成績に関する利用可能なエビデンスを統合的に評価した。文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「ROS1」、「NSCLC」、「CNS metastasis」、「brain metastasis」、「leptomeningeal metastasis」、「crizotinib」、「entrectinib」、「lorlatinib」、「repotrectinib」、「DS-6051b」、「pemetrexed」などが含まれた。

対象とした研究は、前向き臨床試験および後ろ向き単施設研究であり、ROS1融合パートナー別のCNS転移リスク、各種ROS1 TKIの頭蓋内奏効データ、および化学療法のCNS活性に関する情報を含むものを優先的に抽出した。特に、クリゾチニブの承認前後のROS1陽性NSCLC患者コホートにおけるCNS転移の発生率と治療経過中のCNS進行のデータを詳細に検討した。各TKIの頭蓋内奏効率 (IC-ORR) や頭蓋内病変に対する奏効期間 (IC-DoR) などの有効性データ、および安全性プロファイルに関する情報も収集・分析した。

統計解析手法については、各原著論文で用いられた統計手法 (例: カプラン・マイヤー法による生存解析、ログランク検定による群間比較、コックス回帰モデルによるハザード比 [HR] の算出など) を記述的に参照した。本レビュー自体はメタ解析ではなく、既存のデータを統合し、ROS1陽性NSCLCにおけるCNS転移の現状と課題を包括的に考察することに主眼を置いた。ペメトレキセドベース化学療法のCNS活性に関するデータが不足している点については、その情報的空白を明確に指摘し、今後の研究の必要性を強調した。