- 著者: Ryan D. Guest, Natalia Kirillova, Sam Mowbray, Hannah Gornall, Dominic G. Rothwell, Eleanor J. Cheadle, Eric Austin, Keith Smith, Suzanne M. Watt, Klaus Kühlcke, Nigel Westwood, Fiona Thistlethwaite, Robert E. Hawkins, David E. Gilham
- Corresponding author: David E. Gilham (University of Manchester, Manchester, UK); Robert E. Hawkins (University of Manchester, Manchester, UK)
- 雑誌: Cancer Immunology, Immunotherapy
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-11-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 24190544
背景
CD19標的キメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法は、急性リンパ性白血病 (ALL)、慢性リンパ性白血病 (CLL)、非ホジキンリンパ腫 (NHL) などの血液悪性腫瘍において著明な臨床的奏効を示しており、この成功を受けて固形腫瘍への応用が期待されている。例えば、Brentjens et al. SciTranslMed 2013 はCD19 CAR-T細胞が化学療法抵抗性ALL患者で分子学的寛解を誘導することを報告し、Porter et al. NEnglJMed 2011 や Kalos et al. SciTranslMed 2011 もCLLや進行白血病患者におけるCAR-T細胞の強力な抗腫瘍効果と記憶T細胞の確立を示している。癌胎児性抗原 (CEA) は、結腸直腸癌や胃癌などの消化器癌を含む広範囲の腫瘍で高発現する腫瘍関連抗原 (TAA) である。MFE23 scFv (single-chain variable fragment) はファージディスプレイライブラリーから単離されたCEA特異的抗体断片であり、これを用いた第1世代CAR (MFEζ: MFE23 scFv-CD3ζ融合) が正常ドナーおよび患者由来T細胞において機能することが前臨床研究で確認されていた。MFE23 scFvは、他のCEA特異的scFvや他のTAA特異的scFvとは異なり、細胞外スペーサー領域なしで最適に機能することが示されている。
しかし、固形腫瘍を標的としたCAR療法は、T細胞の体内での持続性の低さや、正常組織での標的抗原発現によるon-target/off-tumor毒性(例えば、炭酸脱水酵素IX (CAIX) を標的としたCAR-T細胞療法における腎癌患者でのCAIX毒性や、HER2を標的としたCAR-T細胞療法における致死的毒性 (Morgan et al. MolTher 2010))といった課題に直面しており、血液悪性腫瘍で得られたほどの成果はまだ得られていない。これらの課題を克服し、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の臨床応用を進めるためには、安全かつ効果的なCAR-T細胞の製造プロセスの確立が不可欠であるが、その詳細な報告は不足している。
本研究で対象としたCEA標的CAR-T細胞療法の第I/II相臨床試験 (NCT01212887、EUDRACT-2005-004085-16) を実施するにあたり、EU規制 (2004年EU臨床試験指令、ATMP (Advanced Therapy Medicinal Product) 規制) に準拠したGMP (Good Manufacturing Practice) 製造プロセスの確立が法規制上必須であった。特に、先進治療医薬品 (ATMP) の製造に関する厳格な規制要件を満たす必要があった。これまでの研究では、G250抗原特異的CAR-T細胞のGMP製造プロセスが腎細胞癌を対象に報告されており、本研究のプロトコル開発の基礎となった。しかし、CEA特異的CAR-T細胞のEU規制準拠GMP製造に関する詳細な報告は不足しており、その製造特性や品質管理基準の確立が喫緊の課題であった。特に、患者由来T細胞の特性が製造プロセスに与える影響については未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、進行CEA陽性悪性腫瘍患者を対象とした第I/II相臨床試験 (NCT01212887) のために、EU規制に準拠したGMPプロセスを用いて第1世代MFEζ CAR-T細胞を製造し、その製造特性を系統的に記述・評価することである。具体的には、製造プロセスにおける形質導入効率、細胞増殖能、最終製品の細胞数、T細胞の表現型、およびin vitroでの抗原特異的機能(CD25発現上昇とIFN-γ産生能)を詳細に解析し、GMP製造の実現可能性と製品の品質を検証することを目的とした。また、製造過程で発生した課題とその対処法についても報告し、将来のCAR-T細胞製造プロセスの最適化に資する知見を提供することも目的とした。特に、患者由来の出発材料の変動が製造結果に与える影響を評価し、その対処法を確立することを目指した。
結果
GMPプロセスでの製造成功率と失敗への対処: 16回のアフェレシス産物から17個のT細胞培養が開始された(一部は同一患者の2回目採取分)。このうち3培養(患者36001、36006、36016)がDay 7の中間評価基準(形質導入効率<20%または増殖<2.5倍)を満たさず、製造失敗と判断され培養が中止された (Table 1)。しかし、2つの製造失敗は同一患者の2回目のアフェレシス採取(患者36003、36017)によって解決され、残る1例(患者36006)は凍結保存されていたアフェレシス産物を用いた代替培養(36006-C)で対応することで、最終的に14例全患者に対してCAR-T細胞製品の製造と投与に成功した。凍結アフェレシス産物から製造されたT細胞は、フレッシュ産物と比較してDay 7の形質導入効率が有意に高かった (p=0.0174、Mann-Whitney U検定) (Figure 2b)。これは、凍結産物を用いた培養において細胞あたりのウイルス使用量が多くなったことに起因すると考えられる (Figure 2c)。
製造定量データ:全14製品で投与目標量 (≥1×10⁹細胞) を達成: Day 7における形質導入効率の平均は27.7% ± 5.9% (中央値26.9%;範囲20.1%〜37.3%) であった (Table 2)。Day 7での細胞増殖は、初期投入細胞数の平均4.4倍 ± 0.9倍 (中央値4.15倍;範囲2.8倍〜6.4倍) であった。最終製品のCAR-T細胞数は、平均8.8×10⁹個 ± 4.5×10⁹個 (範囲1.69×10⁹個〜15.50×10⁹個) であり、培養日数は13〜15日であった (Table 1)。全ての14製品において、臨床試験で設定された最低投与量である1×10⁹個の細胞数を達成しており、EU規制に準拠したGMP製造が実現可能であることが実証された。新鮮アフェレシス由来と凍結アフェレシス由来の細胞間で、培養中の細胞増殖に有意差は認められなかった (Figure 2d, e)。
Day 7機能確認 (CD25活性化アッセイ) :全14製品で機能確認: Day 7に採取されたMFEζ CAR-T細胞のアリコートをCEAコートプレート上で48〜72時間刺激した後、CD25発現の上昇が全14製品で確認された (平均増加64.0% ± 14.3%;範囲30.6%〜89.2%) (Table 2)。この結果は、MFEζ CARが機能的に活性であることを示しており、CD25アップレギュレーションアッセイがCAR機能のリリース試験として有効であることが示された。
最終製品の表現型:患者T細胞はCD4+優位・エフェクターメモリー型: 12例分のクライオ保存された最終製品アリコートを用いたフローサイトメトリー解析では、CD4+/CD8+比において、12例中7例 (58%) でCD4+T細胞がCD8+T細胞を上回る結果となった。特に患者36011では、増殖したT細胞の90%がCD4+であった (Figure 3a)。これは健常ドナー由来T細胞培養で一般的にCD8+T細胞が優位に増殖する傾向とは対照的であり、癌患者T細胞の特性を反映している可能性が示唆された。最終製品のCAR発現率は21.8%〜67.4% (中央値42.9%) の範囲であった (Figure 3b)。表現型解析では、CD45RAhi、CD27、CCR7の発現頻度が低く、ナイーブT細胞やセントラルメモリーT細胞が少ないことが示された (Figure 3e, f)。CD8+T細胞集団は主にエフェクター表現型を示し、CD4+T細胞集団はセントラルメモリーとエフェクターメモリーの混合型であった。CD4+T細胞集団ではCD28+T細胞の頻度がCD8+T細胞集団よりも有意に高かった (64.3% ± 23.1% vs 18% ± 11.4%; p=0.002、Mann-Whitney U検定)。
in vitro機能 (IFN-γ産生) と形質導入率の非相関: CEA抗原刺激24時間後のIFN-γ産生は、解析された全12例で陽性であり (範囲2.0 ng/mL〜30.9 ng/mL;中央値9.5 ng/mL)、抗原特異的なエフェクター機能が確認された (Figure 3c)。しかし、IFN-γ産生量とCAR形質導入率、またはCD4/CD8比との間に明確な相関は認められなかった (線形回帰分析) (Figure 3d)。この結果は、製造指標である形質導入率が必ずしも最終製品のin vitro機能の予測因子とはならない可能性を示唆している。また、CD4+T細胞がCAR機能に抑制的な影響を及ぼしていないことから、これらの細胞が制御性T細胞である可能性は低いと考えられた。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、EU規制に準拠したGMPプロセスでCEA特異的CAR-T細胞を製造し、14例全患者で最低投与量 (1×10⁹細胞) を達成したことを示した初の完全なGMP製造プロセス記述論文である。3件の製造失敗 (約19%の失敗率) が生じたが、代替アフェレシスまたは凍結アフェレシスを用いることで全例に製品を提供できたことは、製造プロセスの堅牢性を示す。製造失敗の原因は不明であるが、出発材料である患者T細胞の組成変動が、T細胞の活性化や増殖に影響を与えた可能性が考えられる。健常ドナー由来T細胞では一般的にCD8+T細胞が優位に増殖する傾向があるのに対し、本研究で製造された患者由来CAR-T細胞製品の過半数 (58%) でCD4+T細胞が優位な細胞組成を示した点は、これまでの健常ドナーを用いた研究結果と対照的である。これは、癌患者のT細胞特性や、長期にわたる癌環境でのT細胞疲弊が影響している可能性を示唆する。最終製品がエフェクターメモリー優位の表現型を示したことは、当時の製造プロトコル (OKT-3とIL-2による活性化) が高分化型T細胞を生成しやすいことを反映している。
新規性: 本研究は、EUの厳格なATMP規制枠組みのもとで、固形腫瘍を標的とした第1世代CAR-T細胞の臨床試験用製造プロセスを確立し、その詳細な製造特性と品質管理基準を包括的に記述した点で新規性がある。特に、製造失敗への対処法や、凍結アフェレシス産物からの製造がフレッシュ産物よりも高い形質導入効率を示す可能性など、実用的な知見を提供した。また、患者由来T細胞の表現型が健常ドナーと異なる傾向を示すことを明らかにした点も新規性である。
臨床応用: 本研究で確立されたGMP製造プロセスは、進行CEA陽性悪性腫瘍患者に対するCAR-T細胞療法の臨床応用を可能にする基盤を提供する。全患者で目標細胞数を達成したことは、この技術が臨床現場での実用性を持つことを示している。しかし、本プロセスはGrade A/Grade Bクリーンルーム環境でのオープンプロセスを4回 (Day 0、2、3、4) 必要とし、一製品あたり14〜16日間のクリーンルーム占有が患者スループットを制限するという課題がある。将来的な臨床応用拡大のためには、WAVEバイオリアクター、G-Rex培養ウェア、Miltenyi Prodigyなどの自動化・閉鎖系技術の導入が不可欠であり、これらは大規模製造への適用可能性を向上させる。
残された課題: 今後の検討課題として、養子細胞療法には幹細胞様メモリーT細胞 (Tscm) を含む未分化なT細胞が最適であるというGattinoni et al. Nat Rev Cancer 2012 の知見を踏まえ、IL-7とIL-15を用いた培養プロトコルの改変により、より若い表現型のT細胞を生成する可能性 (Cieri et al. Blood 2013) が示唆される。また、CAR-T細胞の表現型や形質導入率が臨床転帰に与える影響については、本論文には含まれていない臨床転帰データ (Thistlethwaiteら、論文準備中として言及) の解析が待たれる。さらに、製造プロセスの自動化と閉鎖系化を進め、コスト効率とスループットを向上させる技術開発が残された課題である。
方法
施設と対象患者: CAR-T細胞の製造は、マンチェスター大学のCellular Therapeutics社およびNHSBT (NHS Blood and Transplant) Plymouth Grove施設で行われた。対象は、進行CEA陽性悪性腫瘍患者14例であり、第I/II相臨床試験 (NCT01212887) に参加した。
レトロウイルスベクター: 第1世代MFEζ CAR (MFE23 scFv-CD3ζ融合) はpMP71レトロウイルスベクターにクローニングされた。GALV偽型化MFEζレトロウイルスは、Eufets GmbH (ドイツ) でGMP準拠のPG13産生細胞クローンを用いて製造された。ウイルス力価はHT1080細胞を用いた形質導入により2×10⁶感染単位/mLと決定された。
細胞製造プロセス: 全プロセスは14〜15日間を要した。
- Day 0: 患者白血球アフェレシス: 16回のアフェレシス産物が採取された(3例は失敗後に再採取)。アフェレシス産物は、新鮮な状態で直ちに処理されるか、または20% DMSOを含む凍結保存液で凍結保存された。凍結保存された白血球アフェレシス産物は、使用前に解凍され、T細胞混合培地で洗浄された。一部の産物はFicoll密度勾配遠心分離により単核球を分離した。
- Day 0〜2: T細胞活性化: 約1×10⁹個のCD45+細胞を3L培養バッグに播種し、OKT-3 (10 ng/mL) とIL-2 (100 IU/mL) およびAB型血清を含むT細胞混合培地で48時間培養し、活性化させた。
- Day 2〜4: レトロウイルス形質導入: RetroNectin™ (Takara Bio, Japan) を3 µg/cm²でコートした500 mLのDC分化バッグに、MFEζレトロウイルス液 (24〜40 mL) と約2.6×10⁸個のCD45+/7-AAD-活性化T細胞を投入した。6時間のインキュベーション後、追加の培地とIL-2を加え、一晩培養した。翌日、細胞を回収し、新鮮なウイルス液を用いて同じRetroNectin™コートバッグで2回目の形質導入を行った。
- Day 4〜15: T細胞増殖: 形質導入後、細胞を3L培養バッグに移し、IL-2 (360 IU/mL) を補充したT細胞混合培地で増殖させた。Day 7には培養液を再調整し、Day 9以降は2〜3日ごとに培地とIL-2を補充し、最大16Lの培養容量で細胞数を約1×10⁶細胞/mLに維持した。必要に応じて、培養は複数の3L LCBバッグに分割された。
品質管理 (QC) 基準と最終製品:
- Day 7中間評価: 形質導入効率が20%以上、かつ細胞増殖が初期細胞数の2.5倍以上であること、およびCD25活性化マーカーの発現を確認した。これらの基準を満たさない場合は製造失敗と判断された。
- 最終製品: フレッシュ製品として患者に輸注された (4.5% HSA/PBSに懸濁)。最終製品のリリース基準には、Day 7の機能性評価、形質導入効率、増殖率、および無菌性試験が含まれた。グラム染色とマイコプラズマ検査は最終加工前日に実施された。完全な微生物学的解析は輸注時には利用できなかったが、事後的に全ての製品で無菌性が確認された。
評価項目:
- フローサイトメトリー: CD3、CD4、CD8、CD25、CD45RA、CD27、CD28、CD62L、CCR7などの表面マーカーの発現を解析した。MFEζ CARの発現は、ビオチン化CEAとストレプトアビジン-PEを用いた二段染色で評価した。死細胞は7-AAD染色で除外された。
- 機能アッセイ: IFN-γ ELISAを用いて、CEAコートプレート上での24時間刺激後のCAR-T細胞による抗原特異的IFN-γ産生能を測定した。CD25アップレギュレーションアッセイもDay 7の機能確認として実施された。
- 統計解析: データはKruskal-Wallis検定、Mann-Whitney U検定、線形回帰分析を用いて解析された。