- 著者: Delin Kong, Tingting Yang, Mengyu Zhao, Lin Yang, Ruirui Jing, Youqin Feng, Shaohui Shi, Zhouning Lin, Shi Han, Cong Wei, Rongrong Chen, Qiqi Zhang, Jiazhen Cui, Tianning Gu, Xiujian Wang, Xia Li, Ye Meng, Xiaolin Yuan, Mingming Zhang, Linghui Zhou, Houli Zhao, Ruimin Hong, Simao Huang, Mi Shao, Xiaohui Si, Yingli Han, Shufen Wang, Xiangjun Zeng, Dawei Huo, Meng Zhang, Kejia Hu, Zenan Cen, Haiqiong Zheng, Guoqing Wei, Dongrui Wang, Yongxian Hu, Pengxu Qian, He Huang
- Corresponding author: Dongrui Wang (Bone Marrow Transplantation Center, the First Affiliated Hospital, Zhejiang University School of Medicine, Hangzhou, China), Yongxian Hu, Pengxu Qian, He Huang
- 雑誌: Nature Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-06-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 42270901
背景
がん免疫療法において、キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR)-T細胞療法は血液悪性腫瘍に対して極めて高い完全寛解率をもたらし、臨床現場に革命を起こした (Zhang et al. 2022)。しかし、多くの患者が最終的に再発を経験しており、治療効果を長期にわたり維持するためには、輸注後のCAR-T細胞が体内で長期に持続・生存することが必須条件であるとされている (Cappell et al. 2023)。
これまで、CAR-T細胞の持続性を向上させるために、製造プラットフォームの最適化 (Abou-El-Enein et al. 2021)、メモリー様状態を維持するためのゲノム編集 (Wang et al. 2021)、あるいは小分子化合物の併用 (Dufva et al. 2020) など、多様なアプローチが試みられてきた。しかしながら、輸注後の生体内微小環境がどのようにCAR-T細胞の抗腫瘍活性を制限し、細胞死を誘導するのか、その詳細な分子メカニズムについては未だ多くの部分が「未解明」のまま残されている。
T細胞の減少に関与する制御された細胞死 (regulated cell death: RCD) としては、活性化誘発細胞死 (Sprent et al. 2001) やネクロトーシス (Spetz et al. 2019)、パイロトーシス (Tang et al. 2020) などが知られている。近年、鉄依存性の脂質過酸化を特徴とするフェロトーシス (ferroptosis) が注目を集めており、鉄イオンはT細胞の活性化や分化を支持する一方で、過剰な細胞内鉄はT細胞の機能を著しく障害することが報告されている (Voss et al. 2023, Yao et al. 2021)。しかし、実際の患者体内においてCAR-T細胞がフェロトーシスを起こしているのか、またそれが治療抵抗性とどのように結びついているのかを実証した研究は「不足」しており、生体内でのCAR-T細胞の動態を制御する代謝的脆弱性の解明には大きな「gap」が存在していた。
目的
本研究の目的は、CAR-T細胞療法を受けた多発性骨髄腫 (multiple myeloma: MM) および急性リンパ性白血病 (acute lymphoblastic leukemia: ALL) 患者の臨床検体解析を出発点として、輸注後のCAR-T細胞が減少期に陥るメカニズムを細胞死および代謝の観点から解明することである。特に、生体内の鉄代謝および脂質過酸化経路がCAR-T細胞の生存率、分化段階、エフェクター機能に与える影響を明らかにし、フェロトーシスを標的とした遺伝子改変や薬理学的介入によって、CAR-T細胞の持続性と抗腫瘍効果を向上させる新規治療戦略を確立することを目指す。
結果
臨床検体におけるCAR-T細胞のフェロトーシス特徴の同定: 抗BCMA (B cell maturation antigen) CAR-T療法を受けたMM患者および抗CD19 CAR-T療法を受けたALL患者 (各群 n=15) の末梢血を経時的に解析したところ、CAR-T細胞は輸注後約2週間で急速な拡大期から減少期 (diminution phase) へと移行した (Fig. 1b)。減少期のCAR-T細胞をシングルセルRNAシーケンシング (scRNA-seq) で解析した結果、主要な制御された細胞死 (regulated cell death: RCD) 経路の中でフェロトーシス関連遺伝子セットのみが一貫して上昇傾向を示した (Fig. 1d)。さらに、タンパク質レベルの解析において、脂質過酸化マーカーである 4-hydroxynonenal (4-HNE) の著しい蓄積と、鉄貯蔵タンパク質である ferritin heavy chain 1 (FTH1) の発現上昇が確認された (Fig. 1f, g)。また、治療不応患者 (non-responder: NR, n=5) の治療前血清では、完全寛解に達した応答患者 (complete responder: CR, n=5) と比較して、フェリチン軽鎖 (ferritin light chain: FTL) およびFTH1の存在量が有意に高値であり、宿主の鉄過剰状態が治療成績の低下と相関することが示された (Fig. 1l, m)。
フェロトーシス阻害剤によるCAR-T細胞機能の保護: in vitro において、フェロトーシス阻害剤である Ferrostatin-1 (Fer-1, 4 μM) の添加は、CAR-T細胞の生存率を維持し、分化を抑制して中央メモリー様 (Tcm) フェノタイプ (CD45RO[+] CD62L[+]) を保護すると同時に、PD-1、TIM3、LAG3などの消耗マーカーの発現を低下させた (Extended Data Fig. 2)。Nalm6白血病担がんNSGマウスモデル (n=7 mice per group) において、Fer-1で前処理したCAR-T細胞は腫瘍制御能を劇的に向上させ、生存期間を大幅に延長した (Fig. 2b-d)。さらに、CAR-T細胞輸注後に Fer-1 (0.8 mg kg⁻¹) を2日おきに腹腔内投与した群では、対照群と比較して腫瘍負荷が著しく減少し、生存率が向上した (Fig. 2f-h)。
血清鉄過剰によるCAR-T細胞フェロトーシスの誘発: 患者の血清鉄濃度は、CAR-T細胞の拡大期と比較して減少期に有意に上昇していた (Fig. 3a, b)。培養液中に生理的血清濃度に相当する 20 μM のクエン酸第二鉄 (ferric citrate: FC) を添加すると、CAR-T細胞の脂質過酸化が促進され、細胞死が誘導された (Extended Data Fig. 3)。食事介入により低鉄、標準鉄、高鉄状態に制御したNSGマウス (n=5 mice per group) にCAR-T細胞を輸注した実験では、高鉄食群 (血清鉄平均 44.49 μM) においてCAR-T細胞内の脂質過酸化 (lipid ROS) が著しく上昇し、抗腫瘍効果が減弱して生存期間が短縮した (Fig. 3g-i)。
鉄過剰によるミトコンドリア機能障害の誘発: scRNA-seqおよび代謝解析の結果、20 μM または 50 μM の鉄に曝露されたCAR-T細胞では、ミトコンドリア活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS) (mitoSOX) の蓄積と、ミトコンドリアの超微細構造の萎縮・変形が観察された (Fig. 5d-g)。Seahorse解析において、鉄の長期曝露 (48時間) は酸素消費率 (oxygen consumption rate: OCR) を低下させ、プロトンリークを増加させ、ATP産生量を著しく減少させた (Fig. 5h-k)。これにより、鉄過剰が電子伝達系の破綻を介してミトコンドリアをフェロトーシスストレスの増幅器へと変貌させることが示された。
ACSL4ノックアウトによるフェロトーシス耐性と抗腫瘍効果の向上: 脂質リモデリング酵素である acyl-CoA synthetase long-chain family member 4 (ACSL4) は、CAR-T細胞の培養および減少期において発現が上昇していた (Fig. 6a)。CRISPR-Cas9を用いて作製した ACSL4-knockout (ACSL4-KO) CAR-T細胞は、鉄曝露下においても脂質過酸化 (lipid ROS) の発生を強力に抑制し、4-HNEの蓄積を防いだ (Fig. 6c-e)。脂質メタボロミクス解析により、ACSL4-KO細胞では高度不飽和脂肪酸を含むホスファチジルエタノールアミンなどの酸化感受性脂質種が有意に減少していることが確認された (Fig. 6i, j)。Nalm6白血病モデル (n=5 mice per group) において、ACSL4-KO CAR-T細胞は野生型CAR-T細胞と比較して極めて強力な腫瘍クリアランス能を示し、60日以上の長期生存率を著しく改善した (Fig. 7a-c)。さらに、GD2陽性143B骨肉腫固形がんモデル (n=7 mice per group) においても、ACSL4-KO CAR-T細胞は腫瘍内への浸潤能を維持し、完全寛解率 42.86% を達成した (Fig. 7e-g)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、腫瘍細胞側のフェロトーシス感受性に焦点を当てていた従来の免疫腫瘍学研究とは「異なり」、治療薬であるCAR-T細胞自体が宿主の生体内微小環境、特に血清鉄の上昇によってフェロトーシスを誘発され、機能不全に陥るという全く新しいパラダイムを提示している。
新規性: 本研究で初めて、CAR-T細胞の輸注後に生じる減少期が、血清鉄依存的なフェロトーシス経路の活性化と密接にリンクしていることを臨床検体および動物モデルで「新規」に同定した。さらに、鉄トランスポーターの抑制ではなく、脂質リモデリングの下流に位置するACSL4を遺伝子欠損させることが、T細胞の必須な生理的鉄要求性を損なうことなくフェロトーシス耐性を付与する極めて精密なアプローチであることを実証した。
臨床応用: 本知見は、CAR-T細胞療法の治療抵抗性を克服するための「臨床応用」に直結する。患者の治療前血清鉄およびフェリチン値が治療アウトカムの予測バイオマーカーとなる可能性を示しただけでなく、製造工程におけるFer-1等による一時的なフェロトーシス阻害処理、あるいは遺伝子編集技術を用いたACSL4-KO CAR-T細胞の臨床開発が、持続性と治療効果を劇的に高める革新的プラットフォームとなることを示唆している。
残された課題: 「今後の検討課題」として、リンパ球除去化学療法や全身性炎症 (サイトカイン放出症候群など) が宿主の鉄代謝動態に与える詳細な影響の解明が挙げられる。また、本研究の臨床コホート規模 (CR群 n=5, NR群 n=5) は限定的であるため、より大規模な臨床コホートにおける検証が必要である。さらに、ACSL4欠損が長期的にT細胞の他の代謝経路やメモリー形成に及ぼす影響についても、さらなる「limitation」の検証を含めた継続的な研究が求められる。
方法
臨床検体の収集と解析: 本研究はヘルシンキ宣言に準拠し、浙江大学医学院第一附属医院の倫理委員会の承認を得て実施された。抗BCMA CAR-T療法を受けたMM患者 (ChiCTR1800017404) および抗CD19 CAR-T療法を受けたALL患者 (NCT04532281) から末梢血、骨髄、血清サンプルを収集した。血清鉄濃度は QuantiChrom 鉄測定キットを用いて定量した。
CAR-T細胞の作製および遺伝子編集: 健康なボランティア由来の末梢血単核細胞 (peripheral blood mononuclear cell: PBMC) からT細胞を精製し、anti-CD19 CAR (FMC63由来 scFv、4-1BB/CD28共刺激ドメイン、CD3ζ) をコードするレンチウイルスを感染させた。ACSL4のノックアウトは、Cas9 RNP (ribonucleoprotein) を用いたエレクトロポレーション法 (Lonzaプログラム CM137) により、活性化後72時間のCAR-T細胞に対して実施した。標的crRNA配列は 5’-UGGUAGUGGACUCACUGCAC-3’ を使用した。
in vitro フェロトーシス誘導および機能解析: CAR-T細胞を 20 μM または 50 μM のクエン酸第二鉄 (FC) 存在下で48時間培養し、脂質過酸化検出プローブ Liperfluo (1 μM) および細胞内鉄検出プローブ FerroOrange (1 μM) を用いてフローサイトメトリー解析を行った。細胞生存率はCCK-8アッセイ、ミトコンドリアROSは MitoSOX Red (5 μM) にて評価した。代謝プロファイルは Seahorse XFe96 エクストラセルラーフラックスアナライザーを用いて測定し、酸素消費率 (OCR) を算出した。
動物実験モデル: 動物実験は浙江省実験動物センターの承認を得て実施された。4-6週齢の雌性 NSG マウスに 1 × 10⁶ 個の Fluc-GFP[+] Nalm6 白血病細胞を静脈内投与し、7日後に 1 × 10⁶ 個のCAR-T細胞を輸注した。一部の実験では、AIN-76Aベースの低鉄食、標準鉄食、高鉄食を10週間与えたマウスを用いた。腫瘍負荷は IVIS Lumina III システムを用いた生物発光イメージング (BLI) により週1回測定した。固形がんモデルとして、143B 骨肉腫細胞 (1 × 10⁶ 個) を筋肉内接種したモデルも使用した。
統計解析: データの統計的有意差は、GraphPad Prism (version 9.0) を用いて、t検定、一元配置分散分析 (one-way ANOVA) (Tukeyの多重比較検定)、または二元配置分散分析 (two-way ANOVA) にて算出した。生存曲線はカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法によりプロットし、ログランク (log-rank) 検定を用いて有意差を評価した。p < 0.05 をもって統計的有意と定義した。